おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「小森生活向上クラブ」 室積光

2011年02月22日 | ま行の作家
「小森生活向上クラブ」 室積光著 双葉文庫 2011/02/20読了  

 救いもなく、とりとめもない―なんか、そんな感じのストーリーでした。

以前、読んだ同じ作者の「ドスコイ警備保障」はユーモアがあって、元気が出てくる物語でした。文庫の表紙にはちょっと疲れたサラリーマン風の古田新太(事後的に知りましたが、この物語は古田新太を主演に映画化されています)が茫洋と立っている写真が載っていて、勝手に、ほんわか系又は脱力系をイメージして読んでいたら、とんでもない展開が待っていました。

疲れた中年サラリーマン小森課長は、ある日、電車の中で痴漢扱いされる。もちろん、触ったわけではなく、混雑した電車が揺れた拍子にちょっとぶつかった程度で、すぐにカラダをズラしたものの、「やだわ、そんなに若い女を触りたいのかしら」「信じられない」とネチネチと言われ、なぜか、反論できないまま逃げるように電車を降りてしまった。ちなみに、小森課長曰く、間違っても痴漢などしたくないほどに不細工で、つけたあだ名は「ロバ女」。

その後、ロバ女が痴漢でっちあげをしている場面を何度も目撃し、小森課長は「こいつは「毎日、少しずつみんなを不幸にしているこんな女は絶対に許せない」と考えるようになる。そして、ある日、ついに駅のホームでロバ女の膝の裏を蹴って電車入線間際のホームから突き落として殺してしまう。「俺はロバ女のせいでイヤな思いをするであろう人を救った」と自分の中で殺人を正当化すると、妙に、清清とした気分になり、退屈だった毎日が刺激的で、つかみどころの無かった部下との関係が好転し、家族関係も良好になる。

そこから、小森課長のとめどない暴走が始まる。

もちろん、人間誰だって、生きていく中では、「殺してやりたい」とまでは思わないにしても、「こいつ、いなくなりゃいいのに」ぐらいの気持ちになることは一度や二度、もしかしたら、十度ぐらいはあるかもしれない。でも、99.9%の人はそういう気持ちを上手く処理して、ちゃんと思いとどまって全うな人生を歩むわけです。

で、この小説は、もしかしたら99.9%の内なる願望を代行するつもりだったのかもしれない。でも、私には残念ながら、そういうブラック・ユーモアを解する心がありませんでした。人を殺すこと自体をエンタメにしちゃった結果、ただただ後味の悪さだけが残ったという感じ。できれば、最後に「な~んちゃって。以上、全て、小森課長の妄想でした」ぐらいの陳腐に終わり方のほうが、まだ救いがあったような気がします。