おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「茗荷谷の猫」 木内昇

2011年02月09日 | か行の作家
「茗荷谷の猫」 木内昇  平凡社 11/02/08読了 

 つい先日「漂砂のうたう」で直木賞を受賞した木内昇の連作短編。 

遙か昔のことではありますが…大学生の頃、よくミニシアターで単館ものの映画を見ていました。ハリウッド映画なんてほとんどみなかったけれど、古いフランス映画のリバイバル上映なんかにもよく行きました。周りに映画好きの友人が多かった影響もあるのかもしれませんが、なんか、そういうのが、ちょっと、おしゃれでカッコよかったんですよね。

 で「茗荷谷の猫」は、まさに、単館上映ものの良質でツウ好みな映画―って感じの作品です。大学生の私は無理して背伸びしていましたが、でも、すっかりオバサンになった今では開き直って言えます。「私、別にツウじゃないし。私には、ちょっと、難しすぎてスカッとしませんでした」という感じです。

 表題作の「茗荷谷の猫」を含む連作短編9篇。幕末に武士の身分を捨て新種の桜を生むことに人生を賭けた男を描いた「染井の桜」を皮切りに、少しずつ、時代をずらしながら、最後の「スペインタイルの家」で昭和の高度経済成長期の胎動が聞こえるところにたどり着く。茗荷谷、品川、池袋など東京の町をめぐりつつ、江戸から昭和までの時空の旅をするような構成となっています。

 連作短編と言っても、一つ一つの物語は独立したものです。登場人物も違えば、時代もズレているのですが、ところどころで、緩やかにストーリーが繋がっていて、3つぐらい先の物語になって「ああ、そういうことだったのか」と、さっき読んで全く意味がわかずに胸のうちでもやもやしていたものが落ち着いてくるというような仕掛けになっています。

 といわけで、とってもツウっぽいの作りの本なのですが、一篇一篇の物語をとってみると、フィナーレらしい盛り上がりのないまま、唐突にプツリとストーリーが途切れてしまったり、登場人物の謎めいたところが謎めいたまま「おっしまい!」となっていて、「えっ!どういうこと!?」「それで、その後、この人はどうなったの???」と激しく突っ込みをいれたくなるようなものが多くて、スッキリしません。

 私は、連続ドラマで「続きは来週!」と1週間待たされることも苦手(だから、基本的に連続ドラマは見ません)。なので「おあずけ!系」の作品はあんまり好きになれないのかもしれません。
 
ちなみに、木内さん、直木賞受賞直後の朝日新聞のインタビューで「読者に自由に遊び、楽しんでもらえるような余白を残すことを常に意識している」と答えていました。その余白を楽しめなかった、ツウじゃない私です。

 でも、まだ、好きか・好きじゃないか結論を出すのはやめておきます。直木賞の「漂砂はうたう」はダメ男を描いた作品らしいので、いずれ読んでみたいと思います。