誓い
幼い頃 僕は心に誓った
母さんを守ろうと
いろんな人たちから
とくに父さんから
小さなぼくは 父さんに向かっていった
その攻撃の矛先を ぼくに向けたくて
けれども どうすることもできず
殴られる母さんの体の下 ぼくは泣いた
何もできない自分が悔しくて
母さんは 殴られても殴られても じっと耐え
涙も見せずやさしい声でぼくに言った
「だいじょうぶ すぐにこわくなくなるからね」
いつか強くなって僕がかあさんを守るんだ
って思ってたのに ごめん 遅すぎたね
母さんは天国へ逝ってしまった
やっと強くなれたよ
だからこの力で守っていくよ
これからは ぼくの大切な人たちを
奈良少年刑務所詩集 「空が青いから白を選んだのです」
詩 受刑者 編 寮美千子 長崎出版
会報に載せようと、母の詩を探していました。その中で見つけたのがこの詩です。
あの子、この子を思い出して、思わず涙がでました。
DVに苦しめられるのは、妻だけでなく、子どもたちにも大きな被害を及ぼしています。多くの子どもたちは、自分の前で母が暴力を受けることを目のあたりにして大きく傷ついています。それでも母を守ろうと必死です。立ち向かう相手が同じ家に住む父親であることは、さらに彼らを傷つけています。そして、残念なことは、これだけの思いを持つ少年なのに、罪を犯して少年刑務所に入らなければならない状況になってしまった、ということです。この詩の1行1行から、そんな苦しみが伝わります。
しかし、希望が持てるのは、その中で、この詩を書いて、ぼくの大切な人を守るという誓いが述べられて、希望が見えます。
社会涵養プログラムという、童話や詩を使った教育プログラムから、生まれた詩だそうです。
未来のある子どもたちに、どうか希望が持てる場を用意したい。現場で日々格闘している人たちの切なる願いです。