風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

映画『幕が上がる』における「銀河鉄道の夜」

2015-03-03 14:42:39 | ももクロ





                      



【私たちは舞台の上でなら、どこまででも行ける】



映画『幕が上がる』は、10代の少年少女達なら誰でも持っているであろう、言い知れぬ焦燥感や、自分が何者なのか、何者になっていくのかわからない不安感だとか、拭いきれぬ孤独感だとか、そうしたものを抱えながらも、それでも部活という「目の前のこと」に、その時出来る限りの精一杯のことをぶつけることで光輝いていく少女達の姿を描いた映画です。

ネタバレになっちゃいますが、彼女たちが全国大会に行けたのかどうか、わからないまま映画は終わります。映画の主眼は勝ち負けではないんですね。もちろん本人達は勝ちたいと思ってる。勝つことを目標としてる。それはそれで良いんです。

でも映画の主眼はそこにはない。

成るか成らぬかわからないけれども、それでもあきらめずに挑戦し続ける姿の美しさをこそ描きたかったのであって、だからこそ、ももクロが主演として「選ばれた」とも言えましょう。




♪勝つか負けるかそれはわからない それでもとにかく闘いの 出場通知を抱きしめて あいつは海になりました♪
(作詞 作曲 歌 中島みゆき「ファイト!」より一部抜粋しました)



ですから映画では、彼女達が宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」を基に創作した舞台劇の内容について、あまり触れられていないんですね。この映画にあえて苦言を呈するとしたら、私はその点を挙げたい。

この舞台劇「銀河鉄道の夜」の持っている主題と、『幕が上がる』の物語が持つ主題とは見事にシンクロしている。この両者を映画の中でうまく並立させることが出来たなら、もっとその主題が明確になり、映画全体もかなり面白く仕上がったのではないだろうか。なんてことを、素人のクセして生意気にも考えております。

そこがどうにも、もったいない、惜しい気がして仕様がないんですね。

舞台劇のシーンはほぼ全編撮影しているはずなのに、映画ではほとんど使われていない。あるいはDVD発売時に初回限定盤の特典として、その舞台のシーンを付けるつもりか?なんてことを勘ぐってしまっておる今日この頃、ではあります(笑)

 


それはともかく、主人公ジョバンニが親友(死者)カンパネルラとの、銀河鉄道の旅を通して得たもの。それは、今まさに青春を駆け抜けんとすろ少女達の想いと、見事にシンクロしています。


********************

カンパネルラ「ねえ、ジョバンニ、宇宙はどんどん膨らんでいるって知ってた?」

ジョバンニ「なに?」

カンパネルラ「宇宙はどんどん、生まれたときから、どんどん膨らんでいるんだ」

ジョバンニ「どういうこと?」

カンパネルラ「だから、僕たちはどこにも行けない。どこまででも行ける切符を持っていても、宇宙の端にはたどり着けない」

ジョバンニ「カンパネルラ」

カンパネルラ「僕たちはいつも一緒だけど、でも僕たちは離ればなれだ」

ジョバンニ「どうして?」

カンパネルラ「宇宙が膨らんでいくように、僕たちの間も広がっているんだ」

ジョバンニ「そんなことないよ、だって、」

カンパネルラ「本当だよ」

ジョバンニ「そんなことない、だって、ほら、(ジョバンニ、カンパネルラの手を握る)ほら、僕たちはこうやってつながっている」

カンパネルラ「……うん……うん、そうだった」

ジョバンニ「僕たちは、いつもつながっている」

(平田オリザ作、小説『幕が上がる』講談社文庫刊より一部抜粋しました)

********************

宵闇迫る無人駅で、百田夏菜子演じる高橋さおりと、有安杏果演じる中西悦子が語り合う場面。中西が「人は一人だよ。宇宙でたった一人だよ」空を見上げながらぽつりとつぶやく。その隣へ並んださおりが「でもここにいるのは二人だよ」と笑顔で語りかける珠玉のシーンと、上記のシナリオは見事にシンクロしているんです。ここを上手く並立させて描けたらなあ、と、難しいことはわかっていますが、ついつい思ってしまいますねえ。無い物ねだり、ではありますが。



拭いきれぬ孤独感。何者になっていくのかわからぬ不安感。なにをすべきかわからぬ焦燥感。そんな感情に苛まれながらも、それでも人は、この宇宙の「どこまででも行ける」切符を渡されて、この世に生まれてきている。

永久に宇宙の果てへはたどり着けない。それでも、いやだからこそ、

人は「どこまででも」行ける。


【私たちは舞台の上でなら、どこまででも行ける】


【永久の未完成これ完成である】
宮澤賢治



カンパネルラはすでに死んでいます。だからジョバンニは、本当にカンパネルラと別れなくてはいけない。最初はそれを受け入れられなかったジョバンニですが、やがて受け入れられるようになっていく。

大人になっていく。


【大人になるということは、人生の不条理を、どうにかして受け入れる覚悟をすることです】
(小説『幕が上がる』より)



********************

ジョバンニ「カンパネルラ、僕は今日の学校での最後の時間、本当は眠っていませんでした。いや、眠っていたのだけれど、君の声に起こされた。
君は僕をかばってくれたけど、でも君は、君と僕は一つではないと言った。僕は、とても悲しかった。悲しかったけど、本当にそうだと思った。
どこまでも。どこまでも一緒に行きたかった。でも、一緒に行けないことは、僕も知っていたよ。
カンパネルラ、僕には、まだ、本当の幸せが何か分からない。
宇宙はどんどん広がっていく。だから、人はいつも一人だ。
つながっていても、いつも一人だ。
人間は、生まれたときから、いつも一人だ。
でも、一人でも、宇宙から見れば、みんな、一緒だ。
みんな一緒でも……みんな一人だ」

遠くの高く積み重ねたキューブの上に、カンパネルラが立って手を振っている。

ジョバンニ「カンパネルラ!」

カンパネルラ「…………(クルミを叩く)」

ジョバンニ「クルミだ!(ジョバンニも、ポケットの中からクルミをさがし出す)このクルミは、確かに僕の手の中にある。カンパネルラ、僕もずっと持っているからね」

カンパネルラ、手を振る。

ジョバンニ「カンパネルラ!
また、いつか、どこかで!」

大きく手を振る二人
(同)

********************


人は一人だ。でも、一人じゃない。

何者になるのかわからない、どうなって行くのかわからない不安、何をするべきかわからない焦燥、拭いきれぬ孤独。

それでも人は、どこまででも行ける切符を持って生まれてきた。

だから進め。永久に辿り着けない果てに向かって。


それが「生きる」ということ。

それが「青春」


少女達よ、今しかない「青春」の真っただ中で

光り輝け!






映画『幕が上がる』絶賛公開中。

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4 コメント

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銀河鉄道の夜 (美樹枝)
2015-03-03 15:44:57
主役のももクロちゃんと角度ちがうのですが…す、すみません~(^◇^;)  「銀河鉄道の夜」を題材に素晴らしい作品があります。KAGAYAさんというア-ティストです。4、5年前に関空で拝見、便乗しました。3年かけて創り込まれた精妙なバーチャルなCGア-トの幻想世界、映像にあわせて動く座席。本物のSLからコピーしたリアルな各車内の振動。 KAGAYA氏の賢治さんに対するオマージュに満ちています~。体感型アトラクション「銀河鉄道の夜」誠に素晴らしく感動の涙と、あぁ私なら暗黒の星海も怖くない、これに一緒に乗って果てまで行きたい…て望んだ感じでした。 撮影には岩手軽便鉄道が走っていた場所も使われたそうです。花巻のイギリス海岸も。ほんとうに銀河鉄道に乗っているかのような夢の時間でした~ 薫にいさんにも乗って頂きたいや~
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Unknown (薫風亭奥大道)
2015-03-03 17:33:27
美樹枝さん、関空は遠いなあ(笑)実は今年の1月ももクロは宮澤賢治ゆかりの地、岩手県花巻市を訪れているんです。『幕が上がる』関連の取材のため、御忍びで岩手にきていたんです。宮沢賢治記念館とかを見て回ったようです。当時はももかが体調不良でまだ復帰していなかったので、4人で行動していたのですが、取材の方が小さな雪だるまを作って、それをももかに見立てて写真をとっていました。
宮澤賢治記念館は私のところから車で1時間半くらいかな。春になったらいってみようかな~。
素敵な情報ありがとうございます。様々な方が宮澤賢治をリスペクトしてくださいます。
岩手県人として大変誇らしく、有難いです。
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Unknown (玲玲)
2015-03-04 00:25:46
あぁ、そうだ、少し違うけど高校演劇で原作があるもので舞台化するとしたら、難しそうって思って観てました。分かりやすく演劇甲子園として勝ち負けをつけるとしたら、ドタバタ創作喜劇を大人数で連帯感ある演劇部の方が点が入りそうで、銀河鉄道の夜みたいに原作あるものをやるとしたら、脚本を上手にまとめ、尚且つ創作テイストも少し入れて、演技も惹きつける演技をしなきゃ全国にはいけないんじゃないか?
ハードル高そうだと。
高橋さんが書いた脚本はどう力作だったのか、それはよく分からなかったなぁと。

でも、この幕が上がるの少女達に必要な言葉は連係して情景と重なって流れていく、それはとても素敵な演出でした。

思い出すたびに、明美ちゃんはすごいなぁ、とかあーりんは天才だとか、どんどん違う感想出てきます。
5人誘って観にいけない人は5回観て下さいって、ももクロメッセージだけど5回以上みたい映画かもね~。
でも、私の時代って田舎だったし演劇部が活躍しているイメージが無くって、大学から演劇部を真剣にって世代なので、ゆとり世代って言われるけど、自分で考えて部活してたりするから本当は凄いよね、今の子達。
私、部活で自分の考えを取り入れてするなんてしなかったよ。
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Unknown (薫風亭奥大道)
2015-03-04 07:22:11
玲さん、私が高校時代に属していた部活は、めっちゃユルイ部でして、文科系だったんですけど、毎日のように部室に籠っては、トランプばっかやってた(笑)ヒドイもんです(笑)。
でも楽しかったですけどね。あれはあれで、「熱い」部活だったかもしれない。大貧民で勝つことにこだわってた…レベル低いなあ!(笑)
いまでもつきあってる友達は、あの当時一緒に大貧民で戦った連中ばかりです。熱い「青春」を共有した仲間との絆は深い…って、なんのこっちゃ!(笑)

あーりんも良かったし、みんな良かったですよ、好きなシーンはいっぱいあります。吉岡先生の手紙を聴くシーンで、がるるがさおりの手をぎゅっと握るところとか、がるるの優しさがでてるよね。あとあれ、さおりが吉岡先生に「なんで演劇やってるの?」と訊かれて困ったような、泣きそうな表情になるでしょ?あれ、たまんないよね。そんな顔するなよーって、こっちが困ってしまう。なんかね、一瞬夏菜子推しになりそうでしたよ(笑)。
いやいや、私はももか推しですけどね。変わんねーよ!(笑)
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