風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

『炎(ほむら)立つ』の功罪

2016-07-17 05:05:43 | 岩手・東北






藤原経清(渡辺謙)




1993年7月から、翌94年3月まで放送されたNHK大河ドラマ『炎(ほむら)立つ』。


前九年合戦、後三年合戦、奥州平泉の攻防と、およそ100年以上に亘る奥州の歴史を描いたドラマです。ドラマは3部構成で、第一部は奥州藤原氏の開祖といっていい藤原経清(渡辺謙)が主人公。第二部は奥州藤原氏初代・藤原清衡(村上弘明)、第三部は三代・秀衡(渡瀬恒彦)と四代・泰衡(渡辺謙、二役)を中心とした物語が展開していきます。


同年1月から6月までは沖縄を舞台にした『琉球の風』を放送し、 東北と沖縄という日本の両端を舞台にしたドラマを制作したNHK側の意図はなんだのか……という話は、私がすることではありません。興味がおありの方は、そっちを調べればよろしい。

いつもの大河ドラマとは放送時期がズレているのも、大河ドラマを改革しようとする動きの一環だったようです。94年4月から12月までは、日野富子(三田佳子)を主人公とした『花の乱』を放送、その後は結局元通り、1年一作の放送に戻ってしまった。

まっ、それもまた今回の話題とは関係ありません。その辺の事情に興味がおありの方は、どうぞお調べください。





さて、


ドラマを企画するにあたり、盛岡市在住の作家、高橋克彦氏に原作を依頼、この高橋氏の視点が、ドラマの基調となっていきます。


物語の基調は実にわかりやすい。とにかく蝦夷は善で、朝廷は悪。朝廷側はどこまでも蝦夷側の権益を犯し、利を簒奪しようとする。

それに対する蝦夷はどこまでも純粋で真っすぐで、雄々しくカッコイイ。


高橋克彦氏は知る人ぞ知るストーリーテラー。物語の作り方には天才的なものがあります。ですから読者は見事にその物語世界にハマってしまう。

安倍貞任(村田雄浩)率いる蝦夷軍が、冬の栗駒山を雪中行軍して、反対側の鬼切部(現在の鬼首)に駐留している朝廷軍に奇襲攻撃をかけるシーンなどは、まさに血沸き肉躍るといった描写で、ここを読んだ人はみんな、蝦夷が好きになってしまう。東北人ならば特に、

ハマらずにはいられないでしょう。

我が先達はなんとかっこよかったのかと、誇りに思わずにはいられなくなります。

もちろんこのシーンは、高橋克彦氏の完全な創作です。わかってはいる。わかっちゃいるんだけどねえ。

でもやっぱり、


ハマっちゃうんだよねえ。




安倍貞任(村田雄浩)と藤原経清(渡辺謙)





大河ドラマの放送と同時進行するかたちで、原作も出版されるはずでした、が、高橋氏の筆が思いのほか進まず、ドラマはどんどん原作から離れていき、脚本の中島丈博氏の世界観へと移行していかざるを得なくなる。

それとともに、中島氏には申し訳ないですが、ドラマは回を重ねるごとにつまらなくなっていきました。

後半の泰衡編など酷いもので(中島さん、重ね重ね申し訳ない)。泰衡は子供がそのまま大人になったような、純粋だが少し弱弱しい男として描かれ、源義経(野村宏伸)に至っては、人は好いがいかにも頭が悪そうに描かれ、こんなんでいいわきゃねーだろ!の世界。もう、途中で観なくなりましたもん、最終回だけは頑張って観ましたけどね。


それはともかく、ラストの展開は、奥州の民を戦争の惨禍に巻き込まないために、平泉はあえて滅びの道を選ぶというものでした。

仏教を基礎とした此土浄土を奥州に築こうとした平泉の、究極の平和思想がこれだ!というわけです。

そのため平泉軍は、源頼朝(長塚京三)の軍勢にわざと負ける。そうして泰衡はわざと「情けなく」討たれて死ぬ。これで奥州の民の平和は保たれた、とするラストでした。この点はのちに書かれた原作小説も同じでしたね。


このラスト、私は当時から、なんとなく腑に落ちないものがあった。

一見素晴らしい平和主義のようにみえる。みえるけれども

なんか違う。どこかおかしい。



この私の感覚、今にしてみれば、やはり正しかったのではないかと、思いますねえ。





藤原清衡(村上弘明)






『炎(ほむら)立つ』という作品、ドラマと原作と合わせて、この作品によって、東北人が地元の歴史に関心をもつ契機となったであろうことは確かで、それは本当に良いことだと思う。

自分の故郷がどのような歴史を辿ってきたのか、先人たちがどのようにして、命を繋いできたのか、これは一人ひとりが絶対に知るべきことだと思う。

ただ、長い歴史の一部分をことさら誇大に取り上げて、それだけが「すべて」であるかのようなイメージを植え付けたという意味では、罪なことをしてしまったのかもしれないとは、思いますねえ。

まっ、私も人のことは言えませんがね。


悲しみとか怒りとか、そういう激しい感情って、人の心の琴線に触れやすいんです。だから物語を作る人たちは、ことさらにそういう点を誇張したがる。


これが高橋氏ほどのストーリーテラーにかかったら、心震えずにはいかないでしょう。


その功罪は、かなり大きい。


やれやれ……。






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2 コメント

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Unknown (玲玲)
2016-07-21 09:03:23
誰かの犠牲の上に平和があるって、ちょっと前から戦国時代に足軽っていたし、百姓も武士だったんだよね。
で、1万の軍で、4千の兵を失う、とかさ、その一百姓でもその人間1人1人には大事な人生のドラマがあったんだよね。
犠牲になっていない人っていないんだよね。

今って本当に平和だよね。だからこそ、想いを寄せたい、分かることは出来ないけど。
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Unknown (薫風亭奥大道)
2016-07-22 01:23:41
玲さん、うん、せめて想いは寄せてあげたいよね。先人たちが繋げてきた命を大切にするためにも。
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