人物画展を見に行った折、唐突に会の担当者から「モデルはどうか」と声がかかった。一瞬耳を疑った。「2月度のモデルを探しているのですが」と続く言葉が聞こえた。USAでモデルを前に多くの絵を描いてきたので了承するのに抵抗はなかった。が、なぜ自分が選ばれたのか不思議だった。「あなたは顔だけで存在観がある」と責任者は言ったが、容姿がユニークだったのだろう、ぐらいに筆者は思っている。
当日がきた。素人画家がモデルとして描かれるのは複雑だった。要求された姿勢で一点を見つめ、不動の物体に変身するのだから。最初の休憩までの20分間は緊張し、頭はあらゆることを考え続けた。加えて160度の視界に入る絵描きたちの顔の上げ下げや絵筆の動きなどが雑念と重なって脳裡を混乱させた。最初の20分は大変長い時間だった。5分間休憩の合図で我に返った。休憩後の時間は流れの中で過ごした感じだった。慣れてきたのか20分間隔での2時間は無我の境地だったが、微動だにしなかったことで終わってから褒められた。USAでは描く立場だったが、多くの凝視に晒されるモデルの立場を初体験し、人さまが喜んでくれるなら今後も新しいことにトライしたいと思ったことだった。(自悠人)