私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Vivaldi: 6 Concerti for Flauto traverso
DENON COCQ-85201
演奏:Arita Masahiro (Flauto traverso), Bach-Mozart Ensemble Tokyo

1728年頃に、アムステルダムの出版社シャルル・ル・セーヌから、ヴィヴァルディの6曲のフラウト・トラヴェルソのための協奏曲が作品10として出版された。フラウト・トラヴェルソがヨーロッパの国々で本格的に演奏されだしたのは、1720年頃であった。横吹の笛自体は古くからあり、中世、ルネサンスにもあった。17世紀の終わりになって、基音の半音上、disキーを備えたフラウト・トラヴェルソがフランスで作られるようになって、次第にヨーロッパ各国に広がっていった。特にオランダでは、アマチュアを含めて普及し、その需要に応えるために、ル・セーヌはヴィヴァルディにフルート協奏曲の出版を持ちかけたのであろう。フラウト・トラヴェルソの協奏曲としては、初めての出版譜であったようだ。
 しかし、この出版譜に収められた6曲の内、第4番ト長調(RV 435)以外には、そのもとになった手稿が存在し、それらはより技巧的な独奏フルート・パート、出版譜には無いエピソード、より長いリトルネッロを有しており、出版に際して対象となるアマチュアの水準に合わせて簡略化を行ったようだ。それらのどれだけがヴィヴァルディ自身によるものか、あるいは出版社が手を加えたものかは必ずしも明らかではない。
 作品10に収められた第4番以外の5曲の出版譜とそのもとになった異稿を比較してみると、伴奏のオーケストラは6曲とも、ヴァイオリン2,ヴィオラ、チェロ及びオルガンという編成であるが、第1番ホ長調「海の嵐」(RV 433)には2種の異稿(RV 98とRV 570)があり、前者ではオーボエ、ヴァイオリン、ファゴット、バスという編成、後者では独奏がフラウト・トラヴェルソかヴァイオリン、それにオーボエかヴァイオリン、ヴァイオリン、ヴィオレット、ファゴット、バスという編成になっている。そして手稿の2作では、第1楽章が67小節と出版譜の75小節より短いが、第2楽章は27小節、第3楽章は146小節で、出版譜のそれぞれ23小節、142小節より長い。第2番ト短調「夜」(RV 439)にも2種の異稿(RV 104とRV 501)があり、前者は独奏がフラウト・トラヴェルソかヴァイオリン、ヴァイオリン2,ファゴット、バスの伴奏、後者は独奏がファゴット、それにヴァイオリン2,ヴィオラ、通奏低音の伴奏が付けられていたらしい。調性も後者は変ロ長調である。この曲に於いても3作品の各楽章の小節数は異なっている。第3番ニ長調「ごしきひわ」(RV 428)の異稿(RV 90)の編成は、総譜とパート譜で異なっていて、総譜では伴奏はオーボエまたはヴァイオリン、ヴァイオリン、ファゴット、バス、パート譜では、独奏がフラウト・トラヴェルソかヴァイオリン、伴奏はオーボエかヴァイオリン、ヴァイオリン、チェロかファゴット、通奏低音となっている。第1楽章の長さはRV 90では117小節に対してRV 428では100小節、第2楽章は同じだが、第3楽章ではRV 90が151小節であるのに対してRV 428では117小節とかなり短くなっている。第5番へ長調(RV 434)の異稿(RV 442)はリコーダーを独奏楽器とし、伴奏はヴァイオリン2とバスである。この2作には、ほんの僅かな相違しか無く、小節数は3楽章とも同じである。第6盤ト長調(RV 437)の異稿(RV 101)の伴奏は、オーボエまたはヴァイオリン、ヴァイオリン、ファゴット、バスの編成である。小節数は、第1楽章が129小節、第2楽章は同じで、第3楽章は112小節と、出版譜の108小節、96小節より長い。
 今回紹介するCDは、こうした個々の協奏曲の原典の成立過程を遡って、作品10としてではなく、より技巧的な手稿をもとに演奏しているものである。フラウト・トラヴェルソ独奏は有田正広、演奏している楽器は、トーマス・ステインスビー・ジュニアーの1730年頃作のもので、 ピッチはa’ = 416 Hzである。伴奏は東京バッハ・モーツァルト・アンサンブルで、各パート1人の編成、鍵盤楽器はチェンバロを使用している。録音は1990年8月に、宮城県中新田バッハホールで行われた。
 ヴィヴァルディには、ほかにもフルート協奏曲があり、オリジナル楽器編成による演奏のCDもいろいろある。作品10についても、出版譜のまま演奏したものやリコーダーで演奏したものなど、様々なものがある。このデノンのCDは、これら6曲の作品の元の形を紹介したところに特徴がある。このCDは、現在デノンのクレスト1000シリーズの1枚、COCO-70725として入手可能である。

発売元:コロンビア・ミュージック・エンターテインメント

* ヴィヴァルディのフルート協奏曲に関しては、Antonio Vivaldi, Six Flute Concertos, Op. 10 in Full Score. With Related Concertos for Other Wind Instruments. edited and with an Introduction by Elenor Selfridge-Field, Dover Publications, Inc. 2002の序文及び校訂報告を参考にした。

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