私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Mozart: Eine kleine Nachtmusik; Ein musikalischer Spaß: Haydn: Symphony No. 45
Teldec 0630-18585-2
演奏:Concentus musicus Wien, Nikolaus Harnoncourt

ハイドンは多産な作曲家で、交響曲第45番嬰ヘ短調(Hob. I:45)が作曲された1772年には、交響曲だけでも第43番から第47番までの5曲を作曲したと考えられている。その中でこの第45番に特徴的なのは、まず嬰ホ短調という、交響曲で唯一の調性であること、トレモロやシンコペーションのようなオペラによく用いられる技法を採用していること等があるが、特にその独特な最終楽章で、そこから「告別交響曲」と呼ばれるようになった。最終楽章の第4楽章は嬰ヘ短調の150小節あるプレストが終わると、イ長調のアダージョに移行する。このアダージョはソナタ形式で、第1主題、経過部、第2主題、集結部からなる提示部は第181小節で終わり、そこで第1オーボエと第2ホルンパートが独奏楽句を奏したのち役割を終える。それに続いて、第197小節でファゴット、第204小節で第2オーボエと第1ホルン、第217小節で第1部が終了すると同時にコントラバスのパートがいずれも独奏楽句を奏したのち終了する。嬰ヘ長調の第2部に入り、第227小節でチェロ、第235小節で第4楽章で4部編成になっていたヴァイオリンの第3部と第4部、第243小節でヴィオラのパートが終了し、残りの14小節は弱音器を付けた第1と第2ヴァイオリンで奏され、ピアニッシモで終わる。
 このようなアダージョの第4楽章第2部から、細部が多少異なる挿話が生み出された。エステルハージ候が夏の離宮であるエステルハーザにいる間、宮廷楽団のほとんどの団員は、家族の同道を認められていなかった。1772年の夏は例年よりもエステルハーザの滞在が長引き、楽団員は家族に会うこともできず、早く家に帰りたいと思っていた。このことを知ったハイドンは、音楽で候に楽団員の気持ちを伝えるためにこの曲を作曲した、というのである。実際の演奏では、演奏を終えた奏者たちが、譜面を照らすろうそくを消して退席し、最後に残った2人のヴァイオリン奏者も、演奏を終えると同じように退席した。これを見ていた候は、楽団員たちの気持、ハイドンの意図を理解し、翌日アイゼンシュタットの宮殿に戻ったという。しかしこの挿話は、同時代のものではなく、むしろ曲想をもとに作られた創作と思われる。「告別交響曲(Abschiedssymfonie)」という名称も、ハイドンに由来するものではない。また、この交響曲は、18世紀後半ドイツの文学的潮流であった「シュトゥルム・ウント・ドランク(Sturm und Drang)」の流れを汲むハイドンの中期の様式に属するとも考えられている。
 モーツァルトの6重奏曲「音楽の冗談(Ein musikalischer Spaß)」(KV 522)は1787年に作曲された作品で、稚拙で発想力に欠けた作曲家や下手な演奏家達を風刺した曲である。そのぎくしゃくとした曲の進行、流麗さに欠ける楽想、唐突な転調、思いがけない不協和音の登場など、聴いているとつい笑ってしまう作品である。ロマン派や現代音楽を経験した我々にはわからない和声や旋律の皮肉も込められていると思われる。おそらく同時代の凡庸な作曲家たちの作品に登場する要素を当時の聴衆は、よりよく理解していたのだろう。この曲は、モーツアルトの父の死後最初に作品目録に記入された作品だが、構想はすでに1785年頃にあった。この作品目録には自筆で、”den 14ten Juny. [1787] / Ein Musikalischer Spass; bestehend in einem Allegro, Menuett und Trio, / Adagio, und Finale. - 2 Violini, Viola, 2 Corni, e Basso.”と記されている。
 この「音楽の冗談」と同じ1787年の8月に完成したのが、セレナーデト長調「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(KV 525)である。その明るく平明な楽想から、モーツアルトの作品の中でも、もっとも愛好されている曲といって良いだろう。このモーツァルトによる表題は、セレナーデのドイツ語訳として付けられたもののようである。ヴァイオリン2,ヴィオラ、チェロ、コントラバス各1の5人で演奏する曲として作曲されたものであるが、現在でも各パートに複数の奏者を擁する弦楽合奏で演奏されることも多い。
 今回紹介するCDは、ニコラウス・ハルノンクール指揮、コンツェントゥス・ムジクス・ヴィーンの演奏によるテルデック版である。ニコラウス・ハルノンクールについては、これまでもテルデックのバッハ教会カンタータ全集など、バッハの作品の指揮者として何度も紹介してきたが、1929年ベルリン生まれ、オーストリアの、グラーツで育った、ハプスブルク家の血を引く伯爵の家系(正式な名前はJohannes Nicolaus Graf de la Fontaine und d'Harnoncourt-Unverzagtという)に属するヴィオラ・ダ・ガムバ奏者、指揮者で、オリジナル楽器によるバロック、古典派の作品の演奏の開拓者の1人である。上にあげたグスタフ・レオンハルトとともに録音したバッハの教会カンタータ全集は、2曲を除いてはすべて当時の演奏に忠実に、男声によって歌われている唯一の演奏である。ハルノンクールは、この全集と、それと並行して録音した受難曲やオラトーリオ以降は、女声を起用したり、モダンオーケストラを指揮したり、その活動の幅を拡大していったが、依然として1953年に自身が創設したコンツェントゥス・ムジクス・ヴィーンとの活動も続けているようである。ハルノンクールは、創設当初からその編成を変えておらず、ジョシュア・リフキンが始めた各パート1人の編成、いわゆるOVPP(One Voice Per Part)とは一線を画している。このモーツァルトとハイドンの作品の演奏においても、少人数の合奏という編成を維持しており、それは「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」に於いても変わらない。
 テルデック・レーベルには、現在もハルノンクール指揮、コンツェントゥス・ムジクス・ヴィーンによるハイドンやモーツアルトの作品がかなり販売されているが、今回紹介するCDは、現在は廃盤になっている。 録音は1985年4月にベルリンで行われたと記されているが、発売は1997年である。オリジナル編成によるハイドンの「告別」の録音は、ブリュッヒェンやピノック、ハルノンクールなどの指揮で録音されているが、モーツァルトの「音楽の冗談」は意外に少ない。特にこのCDのような組み合わせのものは他になく、是非再版してほしいものである。

発売元:Teldec, Warner Classics and Jazz


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