私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Georges Bizet: Carmen, l’Arlésienne
Naïve V 5130
演奏:Les Musiciens du Louvre - Grenoble, Chœur de l’Opéra National de Lyon, Marc Minkowski

ジョルジュ・ビゼ(Georges Bizet, 1838 - 1875)は、パリのコンセルヴァトアールの優秀な学生で、1857年にローマ賞を受賞し、3年近くイタリアに滞在した後パリに戻り、オペラを中心に作曲活動を始めた。ピアノの名手としての評価が高かったが、聴衆の前で演奏する事はほとんど無かった。ビゼと言えばオペラ「カルメン」がまず挙げられるほど、このオペラは現在に至るまで、最も人気のある、頻繁に演奏される作品である。
 「カルメン」は、ビゼ晩年の作で、1872年に作曲に取り掛かり、様々な障害を乗り越えて、1875年3月3日にパリのオペラ・コミックで初演された。しかし、ビゼは同年6月3日に急死した。「カルメン」は当初パリではあまり評判が良くなく、むしろ外国に於いて先に評価され、パリでは1883年に再演されてから急速に人気を獲得した。今回紹介するCDの最初には、この「カルメン」の前奏曲と3曲の間奏曲が収録されている。これは、管弦楽曲としてしばしば演奏される、フリッツ・ホフマンによる2つの組曲ではなく、オペラの前奏曲と第2幕、第3幕、第4幕への間奏曲である。
 「アルルの女」は、アルフォンス・ドーデ(Alphonse Daudet, 1840 - 1897)の同名の小説を、パリのヴォードヴィル(寄席)の支配人アルトゥール・レオン・カルヴァロ(Arthur Léon Carvalho, 1825 - 1897)の依頼でドーデ自身が脚本を書き、同じくカルヴァロの依頼でビゼが劇付随音楽を作曲して、1872年10月1日に初演された。しかしこの劇は成功することなく、音楽もあまりに込み入っているという批判を受けた。ビゼはオペラ作曲家のエルネスト・レイエ(Ernest Reyer, 1823 - 1909)やジュール・エミール・フレデリク・マスネ(Jules Émile Frédéric Massenet, 1842 - 1912)の勧めで4楽章からなる組曲を作曲した。これが第1組曲で、1872年11月10日に初演され大好評を受けた。今日第2組曲として知られる作品は、ビゼによるのではなく、ビゼの死の4年後の1789年に、友人の作曲家エルネスト・ギロー(Ernest Guiraud, 1837 - 1892)が編成したもので、パストラール、間奏曲、メヌエット、ファランドールの4曲からなっている。しかしメヌエットは「アルルの女」の劇付随音楽ではなく、ビゼが1866年に作曲したオペラ「パースの娘(La jolie fille de Perth)」から取った曲である。ギローは第2組曲編成にあたり、原曲はビゼのものではあるが、かなり手を加えている。その手法はビゼによる第1組曲を参考にしてはいるが、2曲目の「間奏曲」や第4曲の「ファランドール」は、原曲の素材を用いているが、大幅にその構成を変更している。
 今回紹介するCDで演奏しているのは、マルク・ミンコフスキー指揮のル・ミュジシエンヌ・ドゥ・ルーヴル・グルノーブルで、劇付随音楽の抜粋では、リヨン国立歌劇場合唱団が加わっている。指揮者のマルク・ミンコフスキー(Marc Minkowski)は1962年フランス生まれの指揮者で、ルネ・クレマンシックのコンソートやフィリップ・ピエロのリチェルカール・コンソートのファゴット奏者として音楽活動を始め、1982年にル・ミュジシエンヌ・ドゥ・ルーヴルを組織し、フランス・バロック音楽の演奏を主として活動を始めた。1996年に拠点をグルノーブルに移し、当初のバロック音楽中心の活動をオペラに拡げ、モーツァルトのオペラの演奏、その後さらに古典派、ロマン派の管弦楽作品の演奏にも拡大している。
 このCDには、「アルルの女」の第1、第2組曲に加え、劇付随音楽の抜粋も収録されている。元々の劇付随音楽は27曲あるが、CDに添付の小冊子に掲載されているミンコフスキーの解説によると、全曲を劇から分離して演奏することは、聴衆にとっては理解の難しいものであるという。ミンコフスキーは、2つの組曲だけでは、ビゼが本来この劇付随音楽に表現したもの全てを紹介することが出来ないと考え、8曲を抜粋して演奏している。この中には、第2組曲の原曲となっているものが含まれている。最初の第2幕第2場のパストラール・間奏・合唱は、第2組曲の第1曲パストラールの原曲である。劇付随音楽の6曲目、第3幕第4場のファランドールは、第2組曲のファランドールの原曲である。これらを聴くと、ギローが行った編曲がよく分かる。
 ル・ミュジシエンヌ・ドゥ・ルーヴルの編成は、第1ヴァイオリン10、第2ヴァイオリン8、ヴィオラ6、チェロ6、コントラバス3、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット各2、ホルン4、コルネット2、トランペット2、トロンボーン3、ハープ2、ティンパニと打楽器各1の54名で、ピッコロはフルート、コール・アングレはオーボエ、サクソフォンはクラリネット奏者が持ち替えて演奏している。リヨン国立歌劇場合唱団はソプラノ5、コントラルト、テノール、バス各3名の14名である。演奏に際しては、第2組曲は、1879年のオリジナルの編成に従って、トランペット4ではなく、コルネット2とトランペット2の編成を採用し、サクソフォンは人の声を思わせる当時の楽器、木製のフルート、エラールのハープ、そして当然のごとくヴァイオリンに羊腸弦を用いるなど、オリジナルの楽器編成によって、当時の本来の響きの再現に努めている。録音は2007年10月にグルノーブルで行われた。演奏のピッチは記されていない。

発売元:Naïve

注)ビゼの生涯のデータ、「カルメン」、「アルルの女」とその組曲については、主にウィキペディア英語版の”Georges Bizet”を主に参考にした。

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