私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Johann Gottfried Walther: Organ Works Volume 1 & 2
NAXOS The Organ Encyclopedia 8.554316 & 8.554317
演奏:Craig Cramer ([1] Organ of St Bonifacius, Tröchtelborn, [2] Organ of Marienkirche, Mechterstädt)

ヨハン・ゴットフリート・ヴァルター(Johann Gottfied Walther, 1864 – 1748)の母は、バッハの母と同じく、レムマーヒルト家の出で、ゼバスティアン・バッハとヴァルターは、母方の親戚に当たる。ヴァルターはエールフルトで生まれ、後にアイゼナハの聖ゲオルク教会のオルガニストとなったヨハン・ベルンハルト・バッハに教えを受けた。1702年にエールフルトの聖トーマス教会のオルガニストとなり、1707年には、バッハの前にミュールハウゼンの聖ブラジウス教会のオルガニストに応募しているが、途中で辞退し、同年にヴァイマールの町の教会、聖ペテロ及び聖パウロ教会のオルガニストに採用された。オルガニスト就任後間もなく、ヴァイマール宮廷のヨハン・エルンスト王子の作曲の教師に任命され、同時期にヴァイマール宮廷のオルガニスト、宮廷楽士であったバッハとは親しい関係にあった。バッハの作品を多く含む手稿を残しており、さらにブクステフーデなど北ドイツのオルガニスト、パッヒェルベルなど中部ドイツのオルガニストの作品の伝承に非常に重要な手稿を残している。さらに、1732年には最初のドイツ語の音楽事典を出版したことでも知られている。
 この二人がともにイタリア風協奏曲の鍵盤楽器のための編曲を行っている。これらの編曲を行ったのがほぼ同時期で、しかも両者の編曲に重複がないことから、それぞれが独自に行ったと言うより、ヴァイマール宮廷、おそらくはヨハン・エルンスト王子の依頼によるものではないかと考えられる。
 ヴァルターの編曲はすべてオルガンのためのもので、ブライトコプ・ウント・ヘルテル社のヴァルターのオルガン作品全集の第I巻には、14曲が収録されている。ジウゼッペ・トレッリが3曲、トマソ・アルビノーニとゲオルク・フィリップ・テレマンがそれぞれ2曲、アントニオ・ヴィヴァルディを含む7人の作品が各1曲である。ヴィヴァルディの協奏曲は、ヴァルターの手稿ではヨーゼフ・メックの作とされているが、実際には当時から広く写譜で伝えられていたヴァイオリンと弦楽合奏のための協奏曲ホ短調(RV 275)が原曲であることが分かっている。バッハの場合は、チェンバロ用16曲、オルガン用5曲と後に4台のチェンバロと弦楽合奏のための協奏曲があり、これら22曲の内9曲がヴィヴァルディの協奏曲を原曲としている。中でも「調和の幻想、作品3」から採られたものが6曲もある。そしてヨハン・エルンスト王子の作品を原曲とするものが3曲ある。調和の幻想、作品3」は1712年にアムステルダムのE. ローハ-社から出版されており、1713年にヨハン・エルンスト王子がオランダ遊学から戻る際に持ち帰った楽譜に含まれていたと考えられている。この曲集の作品の編曲は、この時以降であるが、王子は翌年フランクフルト・アム・マインに行き、1715年に同地で死亡しているの、王子の依頼によって編曲したとすれば、1713年から1年ほどの短い間に行われたものと思われる。ヴァルターの編曲の元になった作品については、それに比べるともう少し前、1700年代初めから1710年頃までに出版されたものが原曲となっているものが多いが、ヴァルターがヴァイマールに来たのが1707年なので、それ以降であることは、ほぼ確実である。
 ここで紹介する2枚のCDは、ヴァルターのオルガンのための編曲14曲の内、「テレマン氏の教会コンツェルト(ト長調)」を除く13曲が収められている。演奏をしているのは、アメリカのオルガニスト、クレイグ・クレーマーである。オルガンは何れもドイツのチューリンゲン地方にある18世紀後半に建造された楽器である。第1巻のオルガンは、1767年にエールフルトのフランツ・フォルクラントにより建造された、ゴータ近郊トレヒテルボルンの聖ボニファチウス教会の2段鍵盤とペダル、24のレギスターを持つ楽器である。第2巻で使用されているオルガンは、1770年にゴータのカール・クリスティアン・ホフマンによって建造されたメヒターシュテットのマリア教会の2段鍵盤とペダル、25のレギスターを持つ楽器である。何れもフルート系のパイプを主体とするやや小規模のオルガンである。前者は1996年、後者は1995年に修復され、良い状態に保たれている。何れの楽器についても、ピッチや調律についての情報はない。第1巻には協奏曲の他にコラール作品やフーガ、前奏曲とフーガなど6曲、第2巻にはコラール作品4曲も収録されている。
 廉価版CDの雄ナクソスからのこの2枚は、両方買っても他の多くのレーベルのCD1枚より安く、協奏曲の編曲だけでなく、コラール作品や前奏曲とフーガも聴けて、ヴァルターの作品を知るために最適である。

発売元:NAXOS NAXOS Japan

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コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
Unknown (くらんべりぃ)
2008-06-25 08:24:01
おはようございます。
引用ありがとうございます。

ナクソスは、音楽史の中でも滅多に録音されない作曲家にも目を向けてくれるので助かりますね。
メジャーな作曲家に焦点を当てるのは結構なことですが、売れる売れないに関わらず、どの作曲家の作品も人間の大きな財産ですので、こうして廉価で入手できる環境があることは喜ばしいと思います。

このCDは持っていないので、早速注文をしました
 
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