私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Sweelinck - Der Organistenmacher
Raumklang RK 2205
演奏:Léon Berben (Orgel)

ヤン・ペーテルスゾーン・スウェーリンク(Jan Pieterszoon Sweelinck, 1562 - 1621)は、オランダのデフェンターの生まれで、父親のペーター・スゥイッバースゾーン・スウェーリンクおよびその父親と兄弟もオルガニストであった。ヤン・ペーテルスゾーン(以下スウェーリンクと記す)が生まれて間もなく、一家はアムステルダムに移り、父親は旧教会(Oude Kerk)のオルガニストに任命された。最初の音楽教育は父親から受けたと思われるが、父親は1573年に死亡し、その後誰から音楽教育を受けたかは分かっていない。スウェーリンクは1577年から1580年の間に、旧教会のオルガン奏者に任命され、一生涯その地位にあった。
 旧教会はもともとカトリックの教会であったが、1578年に宗教改革によってカルヴァン派の教会になった。カルヴァン派は、聖書に規定されていない方法で、神を礼拝することは認められないと言う立場を取っており、そのため、礼拝に於いてルター派の教会のようなオルガンの奏楽やモテット、カンタータなどの演奏は認められておらず、単純な詩編歌のみが許されていた。しかしスウェーリンクは、アムステルダム市に雇用されていたので、旧教会の任務に限られることなく活動していた。また、1598年にはドルドレヒトのカルヴァン派評議会が、カルヴァン派の詩編歌による変奏を、礼拝の前後にオルガンで演奏することを認めた。
 スウェーリンクは、オルガンの鑑定などで時折オランダ国内の町を訪問する他は、 生涯アムステルダムで過ごしたようである。記録に残っているところでは、1604年に市の依頼で、チェンバロを購入するためにアントワープを訪問したのが、最も遠方に出かけた事になる。マッテゾンが記している、ヴェネツィア訪問や、イギリス訪問については、それを証明する記録がない。
 スウェーリンクのアムステルダムでの活動は、もっぱらオルガニストとしてのもので、オランダやフランドルで広く行われていたカリヨンの演奏やチェンバロの演奏、決まった作曲の義務などはなかった。そのため、スウェーリンクには、教えを受けるためにやってくる多くのオルガニストを教育するための十分な時間を持っており、多くの曲がそのために書かれた。スウェーリンクの教えを受けたオルガニスト達は、オランダや北ドイツの多くの町で活動することとなり、後に「北ドイツオルガン楽派」と言われる多数の音楽家を生み出した。今日でも名を知られているオルガニストの中には、ハインリヒ・シャイデマン、メルヒオール・シルト、パウル・ジーフェルト、ザームエルおよびゴットフリート・シャイト、アンドレアス・デューベン、ヤーコプ・プレートリウス、ペーター・ハッセ等がいる。オランダ人のオルガニストの多くも、スウェーリンクの教えを受けたと思われるが、今日まで名前が残っているものはいない。また、イギリス人のピーター・フィリップスも、おそらく1593年にスウェーリンクに会ったと思われる。また、スウェーリンクの作品は、イギリスにも伝えられ、「フィッツウィリアムス・ヴァージナル・ブック」にも含まれている。
 スウェーリンクは、単に鍵盤楽器のための曲ばかりでなく、シャンソン、マドリガル、モテット、詩編歌などの声楽曲を250曲あまり作曲している。オルガン奏者としてのスウェーリンクは、即興演奏で知られており、「アムステルダムのオルフェウス」と呼ばれていた。今日70曲を超える鍵盤楽器(オルガン、チェンバロなど)のための作品が残っている。それらはファンタージア、リチェルカーレ、トッカータなどの自由曲、コラール前奏曲やコラール変奏曲、世俗歌謡による変奏曲や、舞曲の主題による変奏曲などがある。スウェーリンクの鍵盤楽器のための作品は、その緻密な対位法、単一主題に始まり、次第に複雑に対声部が編み込まれ、高揚した終結部へ展開するフーガ、フーガにおける対主題、ストレット、オルゲルプンクトなどの採用によって、バロック時代の終わりに位置するバッハを予見していると見られている。コラール曲を見ると、定旋律に装飾、変奏を加えながら進行して行く曲想は、宗教改革によってカトリックとは異なった教会音楽を発展させた北ヨーロッパにおいて生まれたもので、スウェーリンクは、すでにブクステフーデ、ラインケン、そしてバッハを予見させる様式に達していることが分かる。
 スウェーリンクの鍵盤楽器のための作品はすでに一度「オリジナル鍵盤楽器で聴く北ドイツオルガン音楽の始祖、スヴェーリンクの作品」で紹介したので、今回は、「オルガニスト育ての親」と題された、スウェーリンクの作品だけでなく、その直接の弟子達の作品も収録した、ドイツのラウムクラング・レーベルのCDを紹介する。スウェーリンクの作品は、ファンタージア、トッカータ、詩編、コラール変奏曲の4曲で、ハインリヒ・シャイデマン(Heinrich Scheidemann, c. 1595 – 1663)の作品が4曲、メルヒオール・シルト(Melchior Schildt ,1592/1593 – 1667)の作品が2曲、パウル・ジーフェルト(Paul Siefert (Syfert, Sivert or Sibert), 1586 – 1666)の作品が1曲、その他にスウェーリンクの息子、ディルク・ヤンスゾーン・スウェーリンク(Dirk Janszoon Sweelinck, 1591 – 1652)の作品と思われる1曲と作者不詳の作品1曲が収録されている。
 演奏をしているのは、1970年オランダ、ハールレム生まれのレオン・ベルベンである。ベルベンはアムステルダムとデン・ハーグでレオンハルト、コープマン等にオルガンとチェンバロを学び、2000年からムジカ・アンティクァ・ケルンのチェンバロ奏者をつとめ、その後独奏者として活動している。
 演奏しているオルガンは、ベルギーのフランス語圏にあるリュッティッヒ(Lüttich、1949年まではリージュと呼ばれた)のサン・ジャック教会のオルガンである。このオルガンは、1600年代に作られた美しいケースに、新しく作られたものである。この教会のオルガンは最初リュッティッヒのニーホフあるいはホッケによって建造され、その後17世紀、18世紀、19世紀に大幅に改造されてきた。現在のオルガンは、ニーホフの様式とアムステルダムの旧教会の大オルガンを参考に製作された、典型的なバロック・オルガンといって良い。三段鍵盤の主鍵盤と上部鍵盤はC, D, E, F, G, A, B, H - d”’の音域で、リュックポジティフは、F, G, A - d”’、ペダルはC, D - d”の音域を有し、35のレギスターを備えている。ピッチはa’ = 440 Hz、中全音音律に調律されている。録音は2002年5月に行われた。
 このCDを発売しているラウムクラングは、1993年に創設されたドイツのレーベルである。主として1個のステレオ・マイクによって、何ら加工を加えることなく、自然な演奏空間の響きを捉える録音を行っている。レパートリーは、いわゆる「古楽」をオリジナル楽器によって演奏したものに限り、現在約140のタイトルを有している。

発売元:Raumklang

スウェーリンクについては、主としてウィキペディア英語版の”Jan Pieterszoon Sweelinck“を参考にした。

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