私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Guinevere yseut melusine: The Heritage of Celtic Womanhood in the Middle Ages
Musica Antiqua GS 201007
演奏:Ensemble La Reverdie

ケルト文化は、ヨーロッパのラテン地域からのキリスト教の伝搬に伴って排除されたが、今日のイギリス、アイルランド、それにフランスのブルターニュ地方には、根強く生き残ってきた。今回紹介するCDは、「中世におけるケルトの女性の文化遺産」と題して、ケルト文化の特徴を成す女性崇拝や女王の存在などにもとづくという音楽を取り上げている。演奏をしているアンサンブル・ラ・レヴェルディーの一員であるエラ・デ・ミルコヴィッチによる解説は、ケルト文化における女性の役割、ヨーロッパ文化への影響などを論じる難解なもので、具体的に取り上げた楽曲を詳しく解説したものではない。
 収録作品は、① 騎士道、貴婦人崇拝、② 冒険、③ 処女、女王、母の崇拝、④ 女王の特別な役割の4部に分けられている。第1部で取り上げられている「トリスタンの嘆き(Lament di Tristano)」は、中世の音楽として非常に多く取り上げられる曲で、原典は14世紀のイタリアのものだが、ミルコヴィッチの解釈では、その起源はブルターニュ地方にあるという。この第1部の他の曲も、イタリアやフランスの原典にもとづいている。
 第2部の「冒険」とは、歴史的・伝奇的、神話的・季節的な冒険、そしてケルト文化の起源に迫るいわゆる「クウェスト(中世騎士の冒険の旅)」を意味している。重要な意味を持つ人物や対象の探求、彼岸からあるいは彼岸への訪問、例えばこの世のものではない女性、しばしば処女の訪問、再生の力を持つ春が沈む力を有する冬に打ち勝つと言う季節の闘争等である。実際に取り上げられている曲は、ここでも12世紀から15世紀のイタリアあるいはフランスの原典にもとづいている。
 第3部の処女、女王、母の崇拝は、宮廷の精神の達成に伴って著しく栄えたものだそうだ。キリスト教における聖母崇拝やマリア教会の建設には、ケルトの女神崇拝が下地となっているという。ここで取り上げられている曲は、「サルヴェ・レギーナ」や「アヴェ・マリス・ステッラ」をはじめとした、聖母マリア崇拝の聖歌やマグダラのマリアを歌う歌謡などで、12世紀から14世紀のイタリア、フランスとともに、イギリスの原典も加えられている。
 第4部は、王権あるいは超自然的な女性の神話的姿に関するもので、その女性の接吻あるいは助力によって王の権威が高められるという内容のもの。ここでは、スコットランド北部のオークニー諸島やイギリス、プロヴァンス起源の作者不詳の曲が取り上げられている。
 演奏をしているアンサンブル・ラ・レヴェルディーは、1986年にカッファーニとミルコヴィッチという二組の姉妹によって組織されたイタリアのアンサンブルである。中世の秘儀あるいは典礼劇など、あまり取り上げられなかった作品を主としたレパートリーとしており、その録音は、いずれも今回紹介するCDのように、特定の主題が設定されている。ラ・レヴェルディーの構成員は、個々に教職や他の演奏団体の一員としても活動をしている。メンバーはいずれも歌唱と楽器演奏を兼ねている。この録音に於いては、ゴシックや中世のハープ、レベック、フィドル、各種のリコーダー、リュート、それに様々な打楽器が用いられている。いくつかの曲では、コルネット奏者として知られるドロン・デーヴィッド・シャーウィンが打楽器奏者として加わっている。シャーウィンは、1989年以来準構成員である。
 中世の音楽の演奏は、数少ない楽譜や、演奏法に関する資料に基づいて再現されたもので、奏者、演奏団体によって非常に異なっている。それは、どれが正しく、どれが間違っていると言えるものではなく、現在から見た中世の音楽と考えるべきだろう。数多くの演奏を聴いて、その中に共通するものを見いだして、中世の音楽の姿を思い描く事が必要なのだろう。
 なお、ラ・レヴェルディーの演奏によるCDは、イタリアのアルカナ・レーベルから多く発売されているが、今回紹介するCDは、ジューリアというイタリアのレーベルから発売されたもので、現在はその存在は確認できるが、レーベルも含めて存在しないようである。なお、アルカナのウェブサイトのアンサンブル・ラ・レヴェルディーに関するページによると、現在廃盤となっているアルカナ他のレーベルの録音が、カントゥス・レーベルから再版される予定があるとのことだが、現在そのウェブサイトは改装中で、まだ内部には入れない。

発売元:Musica antiqua GIULIA

注)このCDの内容に関しては、上述のラ・レヴェルディーの一員であるエラ・デ・ミルコヴィッチによる解説をもとにした。

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