私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
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モーツァルトの交響曲第38番と第39番をオリジナル編成で聴く
古典派、ロマン派の音楽
/
2013-06-22 12:09:57
Wolfgang Amadeus Mozart: Symphony No. 38 “Prague”, Symphony No. 39
L’Oiseau-Lyre 410 233-2
演奏:The Academy of Ancient Music directed by Jaap Schröder, Concert Master, Christopher Hogwood, Continuo
モーツァルトの交響曲第38番ニ長調(KV 504)は、モーツァルトの作品目録の記載によれば、1786年12月6日に完成した。しかし、その最終楽章は、すでにその年の初めに作曲を始めていたことが分かっている。その後他の曲の注文をさばくためであろう、作曲は中断され、他の楽章の作曲をきっかけに再度取りかかり、その年の終わりに完成したのである。モーツァルトは、この交響曲をどのようなきっかけで作曲したかは明がではない。おそらくはヴィーンのアカデミーの音楽会か何かの機会のために作曲に取り掛かったと思われるが、プラーハでの演奏会のためではなかったのは確かなようだ。と言うのはプラーハの学識および音楽愛好家協会のからの招待は、この曲が完成した後であったからである。しかし初演は、1787年1月19日、アカデミーの演奏会の一環として、「フィガロの結婚」上演の翌日にプラーハで行われた。
この交響曲で特異な点は、メヌエットが欠けていることである。モーツァルトの後期の交響曲は、すべてメヌエットを含む4楽章の構成であるが、この交響曲にはメヌエットがない。その理由については、①モーツァルトはイタリアのシンフォーニアの前例に倣って、意識的にメヌエットを省いた、②作曲の過程でメヌエットは様式にかなっていないと感じたため省略した、あるいは③モーツァルトは計画していたロンドンへの訪問を意識してメヌエットを省いた、④単に時間がなかったなどの理由が挙げられたが、いずれも説得力に欠けている。編成は、フルート、オーボエ、ファゴット、ホルン、トランペット各2,ティンパニと第1、第2ヴァイオリン、ヴィオラ2部にチェロとコントラバスである。第1楽章はアダージョの序奏の後、アレグロの主部は、AABBとそれぞれ繰り返される。第2楽章のアンダンテは、提示部は繰り返されるが、展開部および再現部は繰り返されない。第3楽章プレストは、提示部と展開部、再現部がそれぞれ繰り返される。
交響曲第39番変ホ長調(KV 543)は、モーツァルト晩年のいわゆる「3大交響曲」の最初の1曲で、この3曲は1788年の夏に短期間の内に作曲された。モーツァルト自身が作製した作品目録のよれば、第39番は6月26日に、第40番は7月25日に、第41番は8月10日に完成したと記されている。この3曲の交響曲は、第40番については演奏された可能性があるが、 他の2曲はモーツァルトの存命中に演奏されたという明確な記録がない。しかし、19世紀に、ロマン主義的な天才芸術家についての感情移入に基づく観点から、モーツァルトは作曲する時点で、演奏の見込みは考えず、未来に作品を残す意図で取り掛かったという考え方があったが、今日では否定されている。モーツァルトは当時貧困と鬱病に悩まされていた。これら3曲の交響曲についても、1788年8月に演奏の機会を望んでいたが、実際には実現しなかったというのが真相のようだ。
これら3つの交響曲の楽器編成は、管楽器でそれぞれ少しずつ異なっている。第39番は、フルート1、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニであり、第40番はフルート1、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、B管のホルン1、G管のホルン1、第41番はフルート1、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニという編成である。第39番は、3曲の内でも最も古典的は交響曲の形式に忠実な構成である。第1楽章はアダージョの序奏に続いてアレグロの主部は、提示部のみ繰り返される。第2楽章のアンダンテ・コン・モトは、AA-BA’BA’の主題提示部に続き、いったん短調に転調して劇的な展開を見せるが、やがて主題が回帰し、主としてこの主題の素材にもとづいて展開する。第3楽章は、トリオを伴うメヌエットである。第4楽章アレグロは、疾駆するようなめまぐるしい展開を見せる。提示部と、展開部、再現部はそれぞれ繰り返される。そして主題の渦巻くような動機を繰り返し、突然終わる。
今回紹介するモーツァルトの交響曲第38番と第39番の演奏は、アカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージックによるもので、CDの表記によれば、コンサートマスターがヤープ・シュレーダー、通奏低音がクリストファー・ホグウッドとなっている。これは、1977年から1980年代初めにかけてのモーツァルトの交響曲の録音に於いて共通に見られる表記で、バッハの作品の演奏や、1980年代後半のモーツァルトの協奏曲や、ベートーフェンの交響曲の録音以降は見られない。推察するところ、ホグウッドは、古典派の交響曲の演奏を手がけるに際して、規模の大きな管弦楽の統率にヤープ・シュレーダーの協力を仰いでいたようだ。この2曲の交響曲は、1982年2月と3月にロンドンで録音された。添付の小冊子には、オーケストラの編成は掲載されていない。なお、このアカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージックの演奏では、交響曲第38番の第1楽章の後半の繰り返しが省略されているが、その理由は説明されていない。現在オアゾ・リール・レーベルのホグウッドとアカデミー・オヴ・エインシェント・ミュージックの演奏によるモーツァルトの交響曲は、19枚組の全集のみが販売されている。
発売元:
Decca Classics
0289 452 4962 9 oc 19 19 CDs
注)交響曲第38番と第39番の成立過程等については、主としてウィキペディアドイツ語版の各項目を参考にした。
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