石匠風間ブログ!

読書、音楽、雑学

『船に乗れ!』藤谷治

2015-07-19 | 読書

内容(「BOOK」データベースより)
音楽一家に生まれた僕・津島サトルは、チェロを学び芸高を受験したものの、あえなく失敗。不本意ながらも新生学園大学附属高校音楽科に進むが、そこで、フルート専攻の伊藤慧と友情を育み、ヴァイオリン専攻の南枝里子に恋をする。夏休みのオーケストラ合宿、市民オケのエキストラとしての初舞台、南とピアノの北島先生とのトリオ結成、文化祭、オーケストラ発表会と、一年は慌しく過ぎていく。青春音楽小説。



くっ!悔しいほど面白い、面白すぎる・・・

クラシックやオーケストラに関わっていると特に面白さ倍増でしょう。

全3巻の青春小説、と言ってしまうと青臭く若者向けと思われるかもしれないがさにあらず。これは酸いも甘いも経験したオッサンこそ読むべきだ!と断言する。

実際40半ばのおっさんが高校時代を回想する体で一人称で書かれているから物事の捉え方がとてもアダルト。諦観が溢れているというか変に悟っちゃったような物言い。

実際、この津島サトルくんに自分を重ねてしまう人多いのじゃないかな。周りがみんなバカに見えて自分は才人だと根拠なく思い込み、チェロを弾いてオケに関わる。ってこれぼくのこと書いたの?とか未だにガキっぽい自意識過剰なぼくは思ってしまうw

1巻目は高校生らしく目まぐるしく奔走するキャラ達の活躍をストレートに書き綴る。
読了時点で大学でオケに入っている娘にすぐメール
「オケに関わってたら絶対読むべき!」

ところが2巻を読んでこれは早まったと後悔、どんでん返しが待っていた。高校生には重すぎる事態、ひどすぎる展開。

3巻は淡々と挫折を乗り越えてはいないが、それでも重い荷を背負って進むが如く暗闇の中でもがきながらも徐々に己を回復していく。

チェロやオケや音楽知識のかなり高度なものが散りばめられてそれが興味を引く部分もあるが、音楽だけじゃない、友情恋愛はもちろんだが哲学の解説としても秀逸。
一般課程の授業=倫理社会の先生がニーチェやデカルトをわかりやすく生徒に語る、それがとても面白いのだ。

ニーチェは重要な要素として物語全体の鍵になっている。こんなに理解しやすいニーチェは初めて読んだ。著者は只者じゃない!

なにせ読了後すぐ1巻から再読し始めちゃったくらい。
いやあ、これはすごいって。ホント。