内容(「BOOK」データベースより)なぜ「あの男」を自らの手で殺めることになったのか―。老齢の光圀は、水戸・西山荘の書斎で、誰にも語ることのなかったその経緯を書き綴ることを決意する。父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。血気盛んな“傾奇者”として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩主となった若き“虎”は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す―。生き切る、とはこういうことだ。誰も見たこともない「水戸黄門」伝、開幕。
テレビの「水戸黄門」の真の姿と言われれば興味も湧くでしょ、分厚い本だったが貪るように読んでしまった。歴史好きなら読むべき1冊!
著者前作の『天地明察』では安井算哲が暦を作る話でそこに光圀もちょこっと出てきて、ちょこっとなのにものすごい存在感を示していた。
そして本作では主役となって安井算哲が脇役になる不思議な世界観。
表紙絵の虎の居住まいが光圀のイメージそのままで、つまり算哲とは真逆なキャラで押し出しの強い魅力がある。
今迄テレビドラマ「水戸黄門」だけのイメージだったのが、本来の徳川御三家の破天荒な殿様として世間に広く深く知らしめる意味ではとても有意義な本だと思う。
ただ、文治政治が始まるあたりの平和な世の中で、これといった事件も少なくてビジュアル的にはかなり地味かも。「由井正雪の乱」や「明暦の大火」、「生類憐みの令」など重要なトピックスあるんだけど、どれも扱いが軽いしね。
なので映画化・アニメ化は難しいんじゃないかなあ。キャラとしては「北斗の拳」みたいなマッチョな感じで絵になるのだけど、基本は政治物語だから大立ち回りも少なくて。
どこまで史実なのかわからんが、宮本武蔵や山鹿素行・林羅山なども出てきて歴史オタクには面白いのだけど、筋立てとしては案外のっぺりしてるかな。
時の将軍(綱吉や家綱)に対しいささかも諂うこと無く世の大義を重んじ治世を尊んだ。文化推奨に尽力し日本の史記を後世に残すべく尽力した。
また優れた文才と庶民への分け隔てない対応から広く愛された。
これはフィクションだけど、「水戸黄門」のようなドラマが出来る背景にはそれなりの市井での高い人気が実在したのだと思う。
ちなみに『逆説の日本史』にあったけど、黄門様を「天下の副将軍」と呼んでたのは史実らしくて、でも正式な役職ではないと。水戸徳川はいざって時の将軍のスペアとして存在してたらしいとか、それを庶民レベルでも認知していた証拠だとか。