ぬえの能楽通信blog

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『朝長』について(その29=舞台の実際その11)

2006-05-31 23:26:29 | 能楽
申合の前日の今日はずっと師家におりました。どうしても ぬえの普段の稽古場=自宅の近所の地区集会施設=では様子がつかめない場面があって、師家のお舞台を拝借して稽古するためと、もしもお装束の準備が始まったならば、そのお手伝いをするためです。

師家のお舞台で自分の型のチェックをして、それから後輩が装束の着付けの稽古をしていたので助言してあげているとやはり師匠は装束の準備を始められました。『朝長』の装束については ぬえも希望を出し、師匠もお考えがあって、結局今日中に装束の取り合わせはすべて決定することができました。

あまり全部をお話してもネタバレになってしまいますので一部だけご紹介すると、前シテは段の無紅唐織になりました。ぬえは『朝長』の前の唐織の地色は段ではなく一色、という印象がありましたが、今回の唐織の選択は師匠のお考えに従うことにしました。面は当初 ぬえから、以前『隅田川』で拝借した出目栄満の作の「曲見」を拝借するつもりで希望を出し、師匠もそれを出してくださいました。ところが ぬえが再び舞台で稽古を始めたところ師匠に呼ばれて。。 師匠は「これを使っても良いぞ。ゆっくり考えて自分で決めなさい」とおっしゃってまた一面を出して下さいました。これを拝見したところ、無銘ながらとても深い陰影を持った「深井」で。。

なるほど、どちらかと言えば「曲見」は若くて美人系の面で、「深井」はもうすこし年齢を重ねて陰鬱な表情を持った面が多いと一般的には言えると思いますが、たしかにこの栄満の「曲見」は『隅田川』には良かったけれど、『朝長』の前シテにはより複雑な表情を持った「深井」が似合うでしょう。二面を並べて比べてみて、すぐに師匠のお見立てに従う事にしました。その旨を申し上げ、お礼を申し上げると、師匠も「やはりそうか。それは河内と言われているんだよ」とのこと。。伝・河内作! またまた分不相応のナマイキ度があがりました。。なんだか当日の鏡の間でこの面から「朝長はいいんだけど。。お前、できるの?」と言われそう。(T.T)

後シテは ぬえの希望がほぼ通って、金春縞の厚板に白地模様大口、そして紺地に鎧蝶の単法被です。全体的にはちょっと派手すぎる取り合わせかなあ、とも思いますが、今回の「橘香会」ではこの後シテだけが明るい色づかいをするシテの役ですので、少々行き過ぎるぐらいが丁度よいかも。。さてこの紺地の鎧蝶の文様の単法被は『朝長』のお役をつけて頂いた時から念頭に置いて考えていました。『朝長』には紺地の法被が似つかわしい。蝶々は「平家」の文様なのですが、今回はそれにはこだわりません。女性的でもあり、また夜の闇に飛ぶ蛾のような怪しさも秘めたこの法被は、朝長の決意に通じるものが感じられます。そして源氏である事は白地腰帯に源氏を表す「笹竜胆」のものを選ぶことで表現します。蝶の法被と笹竜胆の腰帯。。ケンカしなきゃいいですが。。(^◇^;)

→前の記事 『朝長』について(その28=舞台の実際その10)

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