ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

活動報告書(3/11~12)

2012-05-27 10:28:24 | 能楽の心と癒しプロジェクト
遅くなりました~。何事も後手にまわってしまって。。
3月の活動の報告書でございます~
関係各位に厚く御礼申し上げます! m(__)m

能楽の心と癒しプロジェクト
宮城県訪問活動(2012年3月11日~12日)
亀戸フェスティバル公演(3月25日)


 〔活動報告書〕

【趣旨】
 東日本大震災被災地支援を目指す在京能楽師有志「能楽の心と癒しプロジェクト」の4名(※注1)は、能楽の持つ邪気退散、寿福招来の精神を被災地に伝えるべく、すでに2011年8月15日、9月26日~30日、12月24日~2012年1月1日、2月10日~13日の4度に渡り岩手県釜石市、宮城県石巻市、気仙沼市および大崎市にて能楽を披露する活動を行って参りましたが、このたびメンバーの八田・寺井とゲスト出演の太鼓方・小寺真佐人氏は、記録写真撮影のための写真家1名(※注2)とともに去る3月11日と翌12日の2日間に渡り宮城県・石巻市および東松島市の計3カ所にて能楽の上演を行いました(※注3)。とくに今回は3月11日の東日本大震災から1年目のその日に石巻市で行われた追悼集会(民間の集会)にて上演を挙行できたこと、はじめて東松島市で公演し、しかもそれが市民との共催の形で実現したこと、初めて市民の協力によって全行程個人宅に泊めて頂いたこと、仮設住宅2カ所の集会所に児童用の玩具など支援物資を届けたことなど、かつてない成果を数々挙げることができました。

※注1 プロジェクトメンバーは八田達弥(シテ方・観世流)、寺井宏明(笛方・森田流)、大蔵千太郎(狂言方・大蔵流)、小梶直人(同)の4名。ただしスケジュールの都合により狂言方2名は今回は欠席。
※注2 写真家Y氏(匿名を希望しております)はほぼ毎回プロジェクトの活動に同行してくださり、活動の記録をしてくださっております。
※注3 今回の上演場所は①石巻市・湊小学校体育館で執り行われた追悼集会②東松島市・根古公民館(根古仮設住宅の集会所として機能)③東松島市・矢本運動公園仮設住宅・東集会所。

【活動記録】
 3月9日(金)
 移動日。八田のみ先発して石巻に入る。宿泊は石巻商工会の佐藤洋一氏宅。佐藤氏は2月に活動を行った石巻の仮設商店街「立町復興ふれあい商店街」での公演に尽力して頂いたが、奥様は観光協会に奉職され、昨年9月の活動からお世話になっており、我々とはすでに旧知の間柄。今回の活動では3.11の追悼集会への参加が大きな目標となっていたが、市内各地でボランティア団体等により追悼集会が開かれ、全国からこの日にボランティア経験者が集合するのは必至。それに伴って宿泊施設は現地常駐のボランティア団体の事務所を含めて混雑を極めるのは自明で、当プロジェクトにとっても宿泊の場所を確保するのが事前の最大の問題だった。
そのため旧知の佐藤氏に相談したところ快諾を頂いたのは幸運だった。この場を借りて謝辞を申し上げる。

 3月10日(土)
公演準備日。まずは静岡県・伊豆の国市で八田が長年指導を続けている「子ども創作能」に出演している児童の保護者より寄せられた支援物資を東松島市の仮設住宅集会所に搬入。

 昨年末頃より活動を続けている仮設住宅であるが、集会所のソフト面の設備の貧弱さにはずっと危惧を抱いていた。とくに隣家に音が響く仮設住宅であってみれば集会所は幼児・低学年の児童が母親などと過ごす重要な生活スペースであるにも関わらず玩具・絵本さえ備え付けられていない現状は憂慮された。そこで伊豆の国市の母親たちに呼び掛けて支援物資を募ったところ、ワゴン車に満載されるほどの絵本・玩具類が寄せられた。予想を超える物資を支援することは当プロジェクトにとっても初の経験であり、その善意に心より御礼を申し上げたい。物資の受け入れについては、石巻に比べて支援が薄いと言われ、今回初めて公演を行う東松島市が適当と考え、東松島生活復興支援センターに相談したところ、鷹木の森・根古のふたつの仮設住宅をご紹介頂き、この日無事に搬入を終えることができた。東松島での活動はこの生活復興支援センターの尽力により実現したところが非常に大きく、こちらにも御礼を申し上げたい。

午後より湊小学校体育館に赴き、昨年6月以来ずっと活動に協力頂いているボランティア団体「チーム神戸」指揮のもと、翌日に開催される「石巻3.11市民追悼の会」のための会場設営のお手伝い。

 3月11日(日)
早朝、前夜に東京を夜行バスで出発した寺井・小寺氏を石巻駅前でピックアップ。佐藤氏宅で朝食をご馳走になり、石巻市の被災地域の視察をしてから湊小学校へ。「石巻3.11市民追悼の会」は市民主催の民間運営の追悼集会である。かつて湊小学校に集った住民さんの同窓会という側面もあり、また各家庭で法事なども行われるだろう、との配慮から、朝10時~夕方17時にわたる長時間の追悼集会が計画された。朝のミーティングでこの1年湊小学校でそれぞれの活動を続けてきたボランティア団体が一堂に顔を合わせた。「チーム中津川」「大恩寺」「曹洞宗庄内青年会」「在日フランス人協会」。。名前を聞くけれども初めて顔を見るボランティア団体も多く、それぞれがこの日の追悼集会の運営に携わる活動。。駐車場誘導・炊き出し・写真展示など作業を行った。

当プロジェクトに対しては能楽の上演が使命として与えられた。演目の選曲は自由で、また上演時刻も住民さんの集まり具合を見て適宜上演して良いとのこと。この日は法要、2:46の黙祷などの行事の合間を縫って能「葛城」「獅子」「羽衣」の3番を演じた。

集会終了後、佐藤氏宅に宿泊。八田のみは東松島の木村健人氏宅に投宿。

 3月12日(月) 
午前、東松島市の根古地区センターにて「能楽の心と癒やしをあなたに」として能「羽衣」の一部や囃子・装束の着付け体験。また東松島市在住の能面作家・木村健人氏の展示会と初めてのコラボ公演。プロジェクトとしても初めて市民と共催の催し。対象は隣接する根古運動場応急仮設住宅の住民さんであったが、近隣の在宅避難者も多数ご来場頂き大変盛り上がった催しとなった。

午後、同じく東松島市の矢本運動公園応急仮設住宅・東集会所にて「能楽の心と癒やしをあなたに」として能「菊慈童」の一部を上演。ここ矢本は木村健人氏の自宅に近いため、木村氏に「葵上」の装束を着付け、氏が打った「般若」面を本人に掛けてみる。将来、上達した暁には氏の打った面を八田が掛けて、東松島市で「葵上」を上演したい、という希望を持っている。

終演後、夕方に東松島市を出発して帰京。

【収入・支出】
  プロジェクトの活動はすべて募金によって行われております。募金にはプロジェクトのボランティア活動資金として使わせて頂くもの(以下「ボラ」)と、被災地への直接支援を目的にプロジェクトに寄せられた義援金(以下「ギエ」)に分けられます。これらのうち「ギエ」につきましては、震災から1年を経て、地元で活動するボランティア団体が撤退、あるいは活動の形態が変わってくることが予測され、2月の訪問の時点で「ギエ」の全額を「チーム神戸」「明友館」の2団体に寄付することで精算することで一旦解消することとしました。今後も「ギエ」と目的を限定しての寄付は受け付けますが、これはプロジェクトとして支援するのに然るべき団体。。被災地に拠点を置き、直接被災者の支援活動に従事することを目的とした、非営利で公明正大な活動が長期に渡って期待できる、信頼すべき団体を見つけるまで保留させて頂くことと致します。

  これにより今回の活動資金は前回活動繰越金(109,770円=全額ボラ)および銀行口座への新規の募金となります。銀行口座への募金はボラ扱いとみなされる(10,000円)でありましたので、これらの総額 119,770円となりました。

  頂いた募金の使途につきましては別紙「決算報告書」にて改めてその内訳を明示致しますが、今回の活動終了時で残額 89,660円(内訳:ボラ 89,660円 ギエ 0円)となっております。これらは今回の活動繰越金として次回活動の資金として有効に使わせて頂きます。関係者各位に対し、厚く御礼申し上げます。

  これに対してプロジェクトの訪問公演の支出につきましては節約を旨としております。交通費につきましては今回の活動は石巻市災害ボランティアセンターから発給される「災害派遣等従事車両証明書」の認定を受けることで高速道路料金も免除されましたが、3月末日をもってこの制度は瓦礫の第一次撤去作業(被災現場からの瓦礫清掃作業)のみを対象とすることに限定され、我々のプロジェクトの活動はその要件を満たさないこととなりました。今後の活動には困難が予想されております。

  宿泊につきましても今回は関係者のご厚意により石巻市および東松島市の個人宅に無料で寄宿させて頂きました。また参加者のすべての食費はそれぞれ個人的に支出する方針を堅持しております。

  これにより今回も支出の内訳は公演プログラムの印刷費、記録用ビデオテープ、などの事務雑費のほかはもっぱら交通費(高速バス代+ガソリン代)に限られることとなり、今回の活動費の支出合計は30,110円となりました。

  これらの結果、収支差額として89,660円の残金(全額「ボラ」扱い)が出ました。これは次回の訪問の活動資金として活用させて頂きます。今後の活動予定としてはゴールデンウィーク中に気仙沼および大島での活動、6月に石巻を中心に活動を続ける予定ですが、今後はボランティアセンターの認定による「災害派遣等従事車両証明書」によって免除されていた高速道路通行料金も支出しなければならず、また宿泊についてもボランティア団体の撤退により有料の施設を利用せざるを得ない状況が見込まれ、今後の活動には資金的に困難な状況が予測されます。引き続きまして活動支援をお願い申し上げる次第です。

【成果と感想・今後の展望】
  プロジェクトとして5回目となる今回の支援活動では、まずもって3.11の追悼集会に出席。。のみならず出演することができたのが望外の幸でした。能楽師の被災地支援の活動として、避難所や仮設住宅への訪問という、直接被災者に接し、傾聴する活動を続けてきたために関係者の信頼を得られた、ひとつの成果と考えております。我々の活動に深い理解を頂いた関係者各位。。わけても「チーム神戸」の金田真須美さん、石巻商工会の佐藤洋一さん、「明友館」の千葉恵弘さんには言葉で言い表せないほど感謝の念を持っております。

  また今回は、はじめて東松島市の仮設住宅で活動を行うことができました。2月の石巻・立町復興ふれあい商店街での公演にお出で頂いた能面作家・木村健人氏の言葉をキッカケに、東松島市生活復興支援センターの協力を頂き、わずか1ヶ月で公演の実現に漕ぎつけたことは驚異的です。現地の活動では大変盛り上がりも見せ、また木村氏の能面展との共催という活動形態は、初めて市民との合同の活動として、我々の活動のひとつの一里塚的な意味合いを持ちます。上演をご覧頂くだけではなく、住民さんに本当に語りかける事が出来る市民の方との協力は今後も重視していきたいと考えております。

  また今回は、静岡県・伊豆の国市で長年八田が指導を続けている「子ども創作能」の参加児童の保護者から大量の支援物資をお預かりし、東松島市の仮設住宅2カ所の集会所にお届けすることができました。昨年末以来、仮設住宅の集会所のソフト面の備品の不備。。わけても子どもが遊ぶ玩具や絵本などの物資の欠乏に心を痛めておりましたが、これを伊豆の国市の児童の保護者さんに相談したところ、思わずも大量のご支援を頂きました。東松島市生活復興支援センターのご尽力もあって2カ所の仮設住宅より受け入れを頂き、大変喜んで頂けました。被災地に行けなくても善意が見事に伝えられたと思います。関係各位に厚く御礼申し上げます。

  しかしながら、当地の現状は必ずしも楽観を許さないのは前回と同じ感想で、むしろ状況はより悪くなっているように思う実感もいまだ好転していません。3月11日を過ぎて我々の活動も変化を余儀なくされる状況の中、息の長い支援を続けていけるよう努力を重ねてゆく所存です。どうぞ今後も変わらぬお力添えを賜りますよう伏してお願い申し上げます。

【亀戸の夜能について】
3月の石巻・東松島訪問活動のあと、3月25日(日)に東京・亀戸でチャリティ公演を行いました。

これは当地で開催されている「亀戸フェスティバル」の中のイベントのひとつとしてプロジェクト同人の寺井宏明氏を通じてまとめられた催しです。町のお祭り、という意味が強いフェスティバルではありますが、本年は亀戸地域から復興に向けて何ができるのかを問う講演会「東日本大震災から1年 亀戸からのメッセージ」や展示「東日本大震災を振り返って」などの企画も行われ、全体として震災に対する視点を持つイベントでした。

当プロジェクトとしては「亀戸の夜能」と題して亀戸香取神社の神楽殿にて狂言『棒縛り』(シテ:小梶直人)、能『羽衣・和合之舞』を上演しました。主催者より多少の予算も頂いたため、プロジェクト同人のほか、梅若紀長(仕舞:『融』を上演)、中村裕、古室知也(以上シテ方)、野口能弘(ワキ方)、幸正昭(小鼓方)、安福光雄(大鼓方)、吉谷潔(太鼓方)、吉田信海(狂言方)(敬称略)の来演を頂きました(プロジェクト同人は無給、ゲストの能楽師はプロジェクトの主旨にご賛同頂きお車代程度の出演料でご出演頂きました)。能の地謡の人数やワキツレを削減したりと、必ずしも完全な形の上演ではありませんでしたが、常に少人数で仮設住宅などを廻っている我々にとって、プロジェクトとして三役のすべてを揃えて被災地支援のために能を上演したのはこれが初めてのことであり、感慨深い催しとなりました。

当日はプロジェクトの活動に毎度ボランティア参加で同行してくださる能楽写真家Y氏や、プロジェクト同人が撮影した被災地の状況やプロジェクトの活動を示す写真を展示しましたが、開演前からお客さまからには関心を持ってご覧頂き、盛んにご質問等も寄せられました。プロジェクトの活動をご理解頂ける貴重な機会となったと思います。

なおこの催しは主催者のご厚意によりチャリティ公演とさせて頂き、募金箱を設置させて頂きました。我々の活動にご賛同頂いたお客さまより、総額65,000円にのぼるご寄付を寄せて頂きました。大変ありがたいこととプロジェクト一同、大変感謝しておりますこの募金は「ボラ」「ギエ」のふたつの使途に半分づつに分けて(それぞれ32,500円)有効に活用させて頂きます。

この結果、プロジェクトの活動資金は上記3月の活動の残金と合わせて154,660円(内訳:ボラ=122,126円、ギエ32,500円)となりました事を併せてご報告申し上げます。

平成24年5月25日



                      「能楽の心と癒しプロジェクト」
                       代表   八田 達弥
                      (住所)
                      (電話)