うるま市具志川の中心街。
この道路で拾得された財布とお金、そして携帯電話。
仕事でよく通った道だ。
今から8年前の3月。そろそろ早いところでは海開きが始まる頃だった。
具志川の安慶名交差点という交通量の最も多い地区でのこと。
打合せを終り、訪問した会社の事務所を出るところで携帯電話のないことに気付いた。
事務所の中、車の中、果てはシートの下まで探したがない。
会社の事務員の人にも迷惑をかける大騒ぎとなった。
事務員の携帯を借りて自分の携帯電話に数度呼び出しをかけた。
しかし、事務所の中も私の車のどこからも呼び出し音は聞こえて来ない。
携帯電話には、電話番号はもちろん、住所録、スケジュール、重要メモが入っている。
途方に暮れているとき、ふとズボンの後ろポケットに手をやると、いつもあるはずの財布がない。
気が動転したとはまさにこのことだろう。「狐につままれた」ようで何が何だかわからなくなり、パニックになった。
そのときだった。
突然、呼び続けていた携帯電話に無愛想な男の声で返答があった。
2km程戻ったところの安慶名交差点近くで客待ちで停まっているタクシー運転手だと云う。
事務所で5,000円余りを借用して、事務所を飛び出し、タクシーを拾って指定された安慶名交差点に向けかった。
指定された場所に到着すると数台のタクシーが客待ちで停まっていた。
一台のタクシーをつかまえてタクシー名を告げると、
「そのタクシーは客を乗せて行った。すぐ帰るのでしばらく待っておくように」
と、客待ちをしている後続のタクシーに伝言していた。
どうやら、客待ちタクシーの列の先頭にいたらしい。
10分ほどで件のタクシーが戻って来た。
タクシー運転手によると、2時間近く前に交差点を過ぎた辺りの路上に携帯電話が転がっていたので拾ったと言う。
側溝と歩道の境目にあったと場所を指差した。
訪ねた会社へのコース上になる。
丁寧にお礼を云って、先ほどの会社で拝借してきたお金で、タクシー運賃がわりにと心ばかりのお礼をした。
運転手は気持ちよく受け取ってくれた。
それでも無愛想は変わらなかったが、人の良さが伝わってきた。
携帯電話にはたくさんの不在電話が入っていた。
先ほど、事務員の携帯から電話したときの番号の後に、無登録の電話番号が10回ほど入っている。
18時をまわっていたけれど、最初の電話番号に掛けた。
「具志川商工会です」と女性の声。
取引もなく、知人もいない何の電話だろうと思いつつ、同じ番号を飛び越して次の番号にダイヤルする。
「具志川商工会です」と、件の女性の声。
「携帯電話を落としていて、その間にこの番号が入っていたものですからーーー」
と伝えると、
「殆どの職員が退社してしまっているので、残っている者に訊ねたが心当たりはないといいます。明朝、出社した職員に確認してみます、その者に明朝電話させます」
応対に出た親切な女子職員の名前を聞いて帰路に着いた。
なぜ、携帯電話があんな所に転がっていたのだろう。
あらゆる場面を想定をしてみたが、思い当たる節はない。
携帯電話が落ちていたという現場交差点から左折した500mほど離れた会社から車に乗り、2kmほど先の会社に行くまで、一度も車から降りていない。
なくなった財布も心配だった。
財布には現金だけでなく、免許証、各種カードを入れている。
帰宅して車の中、会社、自宅と探し回ったがない。
翌日は足跡を辿って、一軒一軒確認してみようとあきらめてはみたものの、まんじりとも出来ず朝を迎えた。
朝8時半、突然携帯電話が鳴った。
「具志川商工会です」という。
財布を拾ったので、財布の中の名刺に記載された携帯電話に何度も電話したという。
わが耳を疑った。
まぎれもなく特徴は私の財布だ。
「直ぐに伺います」
云いざま、家を飛び出した。
自宅近くの洋菓子屋で看板の菓子を買った。
小一時間かかる時間ももどかしく、「具志川商工会」に着いた。
昨夕の電話を受けた者だという若い女性と、財布を拾って電話したという若い男性が現われた。
二人とも明るいさわやかな感じだった。
「昨日、歩道を歩いていたら、一万円札や千円札が何枚も風に吹かれて車道を飛びまわっていた。慌てて拾い上げた。しばらくいくと財布が落ちていた。その中に免許証と名刺が入っていたので何度も電話しましたが取られなかった。退社時間になったので帰りましたが、今朝、彼女から聞いて電話しました」
心ばかりのお礼と言って洋菓子を渡した。
これだけでは心苦しかったけれども、それ意外の感謝の表し方もできず、何度も何度もお礼をいい、心から感謝して辞した。
私はよく名刺入れを忘れて、初対面の方と名刺交換するときに困ることがある。
そのために、名刺入れを忘れた時の用心に財布やポシェット、免許証入れ。メモ帳にと名刺を入れて持ち歩いている。
これが意外なところで役立った。
数日後、分かったことだが、携帯電話や財布を落とす前の会社で見本品をもらった。
その際、車のトランクを開けるとき、手にしていた財布と携帯電話を車の屋根の上に置き、見本品をトランクに入れた。
その後、しばらく社長と立ち話をして別れた。
車の屋根の上に携帯電話と財布を乗せたことを忘れ、そのまま発車させてしまったのだ。
昨今、荒んだ事件がここ沖縄にも起こっている。
「まだ、いい沖縄は残っている」と感じた忘れ得ぬ思い出。
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