先週の日曜日の事。
牧港ロクト整形外科でリハビリを終えての帰り道のことである。
バス停は病院から100メートル足らずの小さな小さな公園の傍にある。
公園には大きな羊蹄木や想思樹などが3,4本植えてある小さな緑地帯と云った方がいいかもしれない。
これらの木々の外れにクワディサーと地元の人が呼ぶ大きな木がある。
涼しげに木陰をつくっている下に、この木を取り囲むようにあつらえた木製ベンチがある。
ベンチから5,6メートル離れたところにバス停のポールがポツンと置かれている。
バスを待つ間、みなこの木の下で時間待ちをするのだ。
「バサッ」大きな音がした。
バス停に向って、小さな小さな公園の縁を歩いている時である。
驚いて木立をみた。何も動く気配がない。
錯覚かと合点しつつ、バス停まで辿り着き、時刻表をみると5分後にバスが来る。
きょうはついているな、と得をした気分になった。
いつもの事ながら、バスは5,6分は遅れるなと思いつつ一服しようとベンチに近づいたら、ビニール袋に入った荷物がふたつ、目に飛び込んできた
そのひとつから黒い札入れが覗いている。
周囲を見廻したが人影はない。
忘れ物かと重いつつ煙草に火をつけた瞬間、「バサッ」と音がした。
音のした方を振り返ると白い人影が生垣の合間に見える。
『何をしているのだろう?あの人の荷物かな?』
そっと近づいてみると、背を丸めて、タオルで頬被りして顔を包み、頭につば広の帽子を載せた女性と思しき後ろ姿がみえた。
「あのう、あれはあなたのじゃないですか?」
こんな声の掛け方をしたものだから、女性はびっくりしたように振り返った。
「何っ!!」と言葉鋭く、ゆっくりと腰を上げた。
丸い目をまん丸にして、責めるような、攻撃的な視線を私に向けた。
わたしは思わず怯んで、大きな声で言った。
「あれ、あなたのじゃないの?財布がみえてるよ!」
件のビニール袋を指差した。
「財布なんか置いてない!!」
ひとりぶつぶつ言いながらベンチの荷物の傍に座った。
落ち着いてみると、80歳にはなるだろうと思われる「おばあ」である。
「これねっ!」と黒の札入れを掴んでみせた。
「うん」と小さく応える。
オバアは「ああ」とひと言だけ云う。
と、今まで気がつかなかったが、荷物の傍にあった飲み残しの茶色の液体の紙コップを掴みながら、
「金じゃない」
と云った声には険はなかった。
「氷はないかね」、氷があればいいのに」
言いながら、その液体を口に少し注いだ。
「それは・・・」と云いかけると、
「ビール!」という。
突然、、
「◇※%#$●●☆§※????・・・・・・・・・・」としゃべり始めた。
オバアがひと息入れたところで、
「おれ、ウチナンチュウじゃないから、ウチナーグチはわからない」
とゆっくりした口調で詫びた。。
「ああ、そうねえ?」と、色の黒い私をまじまじとみつめた。
「わん(=わたし)、汚いのは嫌い。放っておけない。だから、ここを掃除しとる」
「1銭ももらってないよ。ボランティア。綺麗好きじゃから汚いの見るときれいにするの。
でも、きれいにして、終ったらワジワジするの、なんでかねえ」
しゃべりながら、黒い札入れから煙草を取り出して私に見せる。
何も云わないで見せるだけ。
「誰に文句言ったらいいのかね?警察、市長?市長は○×だったねえ」
間髪を入れずに2度ほど繰り返した。
「ううん・・・?市長は名前が違うよ」
と云ったところでバスが来た。
「バスが来たから帰るね。熱中症に気をつけてくださいよ!」
返事も聞かずにバスに飛び乗った。
久し振りに「おきなわ」に出会った。
いつも見る車窓の景色が変って見えた。
朴訥な喋りが耳に残った。
オバアが仕事をしていた所に、新しい竹箒があったな、と思い出した。
オバアが「ボランティア」と云ったハイカラな言葉が妙に可笑しく愛しかった。
3日後の水曜日。
同じバス停に降りた。
驚いた。
想思樹や羊蹄木などが丸裸になっていた。
オバアが背を丸めて作業をしていた場所も強烈な太陽の光が眩しく射し込んでいた。
オバアがみたらなんというだろう。
訳もなく、わたしもワジワジしてきた。
よろしかったら左の絵をクリックしてください。
牧港ロクト整形外科でリハビリを終えての帰り道のことである。
バス停は病院から100メートル足らずの小さな小さな公園の傍にある。
公園には大きな羊蹄木や想思樹などが3,4本植えてある小さな緑地帯と云った方がいいかもしれない。
これらの木々の外れにクワディサーと地元の人が呼ぶ大きな木がある。
涼しげに木陰をつくっている下に、この木を取り囲むようにあつらえた木製ベンチがある。
ベンチから5,6メートル離れたところにバス停のポールがポツンと置かれている。
バスを待つ間、みなこの木の下で時間待ちをするのだ。
「バサッ」大きな音がした。
バス停に向って、小さな小さな公園の縁を歩いている時である。
驚いて木立をみた。何も動く気配がない。
錯覚かと合点しつつ、バス停まで辿り着き、時刻表をみると5分後にバスが来る。
きょうはついているな、と得をした気分になった。
いつもの事ながら、バスは5,6分は遅れるなと思いつつ一服しようとベンチに近づいたら、ビニール袋に入った荷物がふたつ、目に飛び込んできた
そのひとつから黒い札入れが覗いている。
周囲を見廻したが人影はない。
忘れ物かと重いつつ煙草に火をつけた瞬間、「バサッ」と音がした。
音のした方を振り返ると白い人影が生垣の合間に見える。
『何をしているのだろう?あの人の荷物かな?』
そっと近づいてみると、背を丸めて、タオルで頬被りして顔を包み、頭につば広の帽子を載せた女性と思しき後ろ姿がみえた。
「あのう、あれはあなたのじゃないですか?」
こんな声の掛け方をしたものだから、女性はびっくりしたように振り返った。
「何っ!!」と言葉鋭く、ゆっくりと腰を上げた。
丸い目をまん丸にして、責めるような、攻撃的な視線を私に向けた。
わたしは思わず怯んで、大きな声で言った。
「あれ、あなたのじゃないの?財布がみえてるよ!」
件のビニール袋を指差した。
「財布なんか置いてない!!」
ひとりぶつぶつ言いながらベンチの荷物の傍に座った。
落ち着いてみると、80歳にはなるだろうと思われる「おばあ」である。
「これねっ!」と黒の札入れを掴んでみせた。
「うん」と小さく応える。
オバアは「ああ」とひと言だけ云う。
と、今まで気がつかなかったが、荷物の傍にあった飲み残しの茶色の液体の紙コップを掴みながら、
「金じゃない」
と云った声には険はなかった。
「氷はないかね」、氷があればいいのに」
言いながら、その液体を口に少し注いだ。
「それは・・・」と云いかけると、
「ビール!」という。
突然、、
「◇※%#$●●☆§※????・・・・・・・・・・」としゃべり始めた。
オバアがひと息入れたところで、
「おれ、ウチナンチュウじゃないから、ウチナーグチはわからない」
とゆっくりした口調で詫びた。。
「ああ、そうねえ?」と、色の黒い私をまじまじとみつめた。
「わん(=わたし)、汚いのは嫌い。放っておけない。だから、ここを掃除しとる」
「1銭ももらってないよ。ボランティア。綺麗好きじゃから汚いの見るときれいにするの。
でも、きれいにして、終ったらワジワジするの、なんでかねえ」
しゃべりながら、黒い札入れから煙草を取り出して私に見せる。
何も云わないで見せるだけ。
「誰に文句言ったらいいのかね?警察、市長?市長は○×だったねえ」
間髪を入れずに2度ほど繰り返した。
「ううん・・・?市長は名前が違うよ」
と云ったところでバスが来た。
「バスが来たから帰るね。熱中症に気をつけてくださいよ!」
返事も聞かずにバスに飛び乗った。
久し振りに「おきなわ」に出会った。
いつも見る車窓の景色が変って見えた。
朴訥な喋りが耳に残った。
オバアが仕事をしていた所に、新しい竹箒があったな、と思い出した。
オバアが「ボランティア」と云ったハイカラな言葉が妙に可笑しく愛しかった。
3日後の水曜日。
同じバス停に降りた。
驚いた。
想思樹や羊蹄木などが丸裸になっていた。
オバアが背を丸めて作業をしていた場所も強烈な太陽の光が眩しく射し込んでいた。
オバアがみたらなんというだろう。
訳もなく、わたしもワジワジしてきた。
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