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Ⅲ 設計・施工・手入れと育成管理
(3)育成管理の方向性
❷ マント・ソデ群落
雑木林の外縁部分にある林縁の植物群落である。
光、温湿度ともに開放地と樹林下の中間的な環
境条件にある。オツツジやガマズミ、ヤマザク
ラなどの野生花木、タラノキ、サンショウ、ワ
ラビ、ゼンマイ、ウド、クズなどの山業、ヤマ
ボウシ、ウスノキなどの野生果樹、リンドウ、
オカトラノオ、オトコエンなど野生草花を選択
的に刈り残し育成することができる。自生野生
草花や山業などの個体は、低木や高茎草本に被
圧されて開花せず小さな個体になっていること
が多い。未開花個体を見分ける必要がある。刈
屑は搬出処分。地面にある既存の落下種子が発
芽し、新たな種類が出現する可能性があるとい
う。
ガマズミ
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植生とは、ある地域における植物体の集まりの
総称。植生を研究する学問には、植物社会学、
植物生態学などがあるが、一般的には植生学と
呼ばれる。植生の成立は、地形や気候などの環
境要因や、伐採や農耕などの人為的要因の影響
を受ける。一方、成立した植生はこれらの環境
要因を変化させる。現存する植生は、このよう
な植物と環境要因の相互作用の結果である。
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マント群落とソデ群落
森林とオープンランドとの境界部分には、特有
な森林の構造が発達する。森林の端の部分では
ツル植物が繁茂し、森林内への風の吹き込みを
防いでおり、このような状態の群落をマント群
落という。森林がマントをまとっているという
意味である。また、まるでカーテンを掛けたよ
うであるという意味で、カーテン群落という呼
び方もある。マント群落は、側方からの光を植
物が有効に利用する結果であり、ツル植物や低
木性の樹種などで構成されていることが多く、
ノイバラなどの有刺植物が多いのもの特徴の1
つである。これらの植物により構成される植生
は、森林中の樹木が台風などで倒れた場所(ギ
ャップ)などでも形成される。マント群落は、
結果として森林の傷付いた部分をいち早く覆っ
て林内への日照の到達・風の吹き込みを減少さ
せ、林内の湿度を保つ働きがある。ソデ群落は
マント群落の更に外側に位置する草本を中心と
する群落である。ソデ群落は林内から栄養分が
供給されるために栄養分的には良好な立地であ
る。
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❸ 草地・土手
対象地が草地の場合には、草刈りの頻度を違え
ることによって、いくつかのタイプの草地を育
成管理することができる。ススキ草地は、年1
~2回刈取りを維続することにより形成され、
ノアザミ、オミナエシ、キキョウ、オトギリソ
ウなど育成される。チガヤ・ヨモギ優占草地や
メカルガヤ ヨモギ草地は、年2~3回刈取り
を継続することにより形成される。在来タンポ
ポ、ウツボグサ、ネジバナ、キランソウなどの
野生車花、 ドクダミ、ゲンノショウヨなど和
薬を育成できる。育成対象とする自生個体は、
低木や高茎草本に被圧され、開花せず小さな個
体になっていることが多い。未開花個体を見分
ける必要がある。地面にある既存の落下粒子が
発芽し、新たな種類が出現する可能性がある。
区画を決め、刈り跡での再生が進んでから別区
画を刈取る。刈屑は搬出処分する。
❹ 湿地
里地里山にある放棄水田、湧水地には湿地が形
成されていることが多い。現地の植生や生物調
査の結果をもとに育成管理の方向性を検討する。
すでに水田放棄後年数が経過し木本類が定着し
ている場合には、 ミドリシジミやコムラサキ
などの繁殖地として、ハンノキ、ヤナギ林を育
成することができる。
樹林化する前で、ヨシなどの高撃1直物群落に
なっている場合には、これを維持し、オオヨシ
キリやカヤネズミなどの生迫、地などを育成で
きる。ミゾソバやイなどが群生化し、常時過湿
で滞水しているところでは、ビオトープネット
ワークで連続しているところでサラサヤンマや
ヒメタイコウチなどの水生生物の生息地が育成
できる。
水田放棄後、年数が短い場合には、コナギやオ
モダカなどによる湿地性植物群落を形成するこ
とができる。カエル類、 ミズカマキリ類、ゲ
ンゴコウ類、ヘイケボタル、ギンヤンマ、ショ
ウジョウトンボなどの生息地になる。土壌が貧
栄養で、常時、湧水があるな開放地では、サギ
ソウやトキソウなどの生育地を育成、再生する
ことができる。
❺ 水田
イネの無農薬無化学肥料栽培を行う。無肥料で
100㎡当たり10~15kg、堆肥の施用により100㎡
当たり30~ 50kgの玄米を収穫できる。現地で
形成される食物連鎖により「害虫」を抑えイネ
を栽培する。生物多様性と生物の密度を向にさ
せる効果は絶大である。肥料には主に牛糞堆肥
と刈敷使用する。イチョウウキゴケ、サンショ
ウモ、オオアカウキクサなど絶戒危惧種が発生
する可能性もある。留意事項として、休耕して
年数を経ていない水田を、農家から借り受ける
必要がある(詳細は、『田んぼピオトープ入門』
農文協刊参照)。また、農葉を使う慣行水田よ
り上方の沢水を導本する谷戸最上流部の水田が
効果的である。アカガエル類などの注卵には冬
季湛水する必要がある。イネを栽培する際は、
水苗代を作って育苗することが望まれる。この
時期の湛水と苗群がカエル類の産卵に有効であ
る。魚類の遡上を計顧iする場合は、段差少なく
小川と連続している必要がある。また、ウシガ
エルやアメリカザリガニ、スクミリンゴガイな
ど帰化生物が繁殖している場所では、徹底して
駆除する必要がある。溜池の場合も同様。
❻ 溜池
マコモやガマなど高基植物群落塊在型、ヨシや
ガマなど高室植物群落疎生型、ヒツジグサやジ
ュンサイなど浮葉植物群生型、浮葉植物 高茎
植物混在型の水域を形成する。留意事項として、
溜池と後述の小川に関与する際は、必ず水利権
を持つ団体(水利組合など)に了解を得る必要が
ある。また、生物多様性を高めるためにはエコ
トーンの延史と幅をできるだけ大きく取る。
❼ 小川
現地の植生状況によって、いくつかの選択肢が
ある。植生によって閉鎖した小川の1ケ復、素
掘り水路の小川化。流速が早い場合や夏期に瀬
切れしやすい湯合には、魚類の遡上を阻害しな
い低い段差を土壌などにより形成し、水域を形
成する。自然河床が消失した小川の修復では、
コンクリート3面成りの河床に上妻などを並べ、
瀬と淵、砂州が形成されるよう骨組みを入れる。
カワニナ
ゲンジボタルが生息する小川を修復することも
可能である。すでに発生している場合は、水面
に太陽光線を入れ、ホタル幼虫の餌であるカワ
ニナの餌、藻類の発生を促進させる。流速が早
い場合や夏期に瀬切れしやすい場合は、上記に
同じ。他の河川からカワニナを移植する場合は、
移植もとのゲンジボタルなどに影響が出るので
最小限に抑える。新たにゲンジボタルを発生さ
せるには、水質や周辺の環境を充分に調査し、
事前に年数をかけて餌のカワニナを増殖する。
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(4)雑木林の設計・施工と育成管理
斜面での作業では、踏圧による表土の硬化と野
草類の損傷を防止し、搬出の手間を軽減する必
要がある。作業は、谷部に対し最も先に手を付
け、斜面上下間の歩行による表土の損傷、体力
の消耗を避けるため、付面の下部から上部に向
け順に実施する。ヘルメット、安全靴、軍手着
用を持用する。
❶ 共通事項
(1)歩行ルート決定
● なぜ歩行ルートが必要か?
土壌の表層には、 ミミズなどの土壊生物のほ
か、植物の根系があり、発芽を控えた埋土種子
存在する。オサムシやアリ類などの見虫、アカ
ガエルや小型サンシヨウウオなど両生 爬虫類
の歩行面でもある。対象地を歩き回ると直接損
傷を加え、表土を踏み固め生物が歩行に使う土
の湿度や落葉落枝の被複など、詳細な環境構造
が失われる。
ここまでの考察で反問などは生じなかったが、
この続きは次回に。
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