1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
3.日本型田園都市構想
4.和歌山市都市計画と学園城郭都市
5.近代ニュータウンの系譜
-理想都市像の変遷-
6.世界遺産登録に向けた取り組み
7.街道と湖上交通と都市形成
6-1 世界遺産登録制度
6-2 世界遺産登録と国内事例
6-3 「白川郷」の場合
6-3-2 「白川郷」における景観保全の現場
6-3-3 世界遺産登録の影響―
規制強化の考察を中心に
6-4 おわりに
6-4-1 景観保全の「仕切り直し」
6-4-2 景観保全のゆくえ
一生活者視点の回復に向けて一
「白川郷」の人々は,強められていく規制と自らの生活上
の利便性などとの間で折り合いをつけながら,世界遺産保
全に努めている。そして、規制の目をかいくぐりながら、
実践の中で一つ一つ判断して「現状変更行為」を行ってい
る。ただし、そんな中でも,荻町地区の人々の裁量に残さ
れている部分はある。
「現状変更行為許可申請」の審議の実質的な決定権は、未
だに住民組織である「守る会」委員会にあるからだ。もち
ろん、本稿で見てきたような、世界遺産登録後の規制強化
の流れから、荻町地区の人々がその「主体性」を発揮する
度合いは狭まっている。約30年前に自ら「合掌造り」を
保存して「食べていくために」活用しようと決めた際に彼
らが有していたであろう「主体性」と,現在のそれには格
段の差があることは誰の目にも明らかだと思われる。
ただ、それはまだ残されているのである。それに、荻町地
区では,近隣組織である組がいまもって十分に機能してい
る。「守る会」が現在のような形で存続しているのも、組
が攴えているからだといえる。そして、この組の存在によ
って、組の上部組織である荻町地区というまとまりも、強
固なものとなっている。ちなみに、荻町地区では、毎年12
月末に大寄合という地区内の全世帯が参加しなければなら
ない話し合いが行われるのだが、02年の大寄合では、次
のような話が出たそうである。
現「守る会」会長が「荻町地区はもう世界遺産を守ら
なければならないように決まっている」と発言したと
ころ、ある人がこう反論したという。「みんなが幸せ
に生きていけるなら、「合掌造り」なんてなくなって
もええと思っとるんや、観光客もこんでもええ。」
この言葉は字義通りに受け止めるべきものではないだろう。
「合掌造り」も観光客も、今の荻町地区にとって必要不可
決なことは、荻町地区の誰もがわかっていることだからで
ある。よって、この発言は、現状への異議申し立てだと考
えた方がいいと思われる。そして、私はこの発言に一筋の
光明のようなものを見た思いがした。この異議申し立ては,
「伝建地区」であろうと,世界遺産であろうと,それを守
るか守らないか、あるいはどう守っていくのかを決めるの
は、他でもない、荻町地区に暮らす自分たち自身なのだと
いうことの再確認としても受け取ることができるからであ
る。
また、このような発百があったことを私に教えてくれた方
は、荻町地区の多くの人が、世界遺産登録後、住民間の軋
轢が広がっていることに懸念を抱いているという文脈の中
でこれを話していた。つまり、この発言が示しているのは、
地域社会には「自浄作用」のようなものがあるということ
ではないだろうか。すなわち、行き過ぎた「文化遺産」保
全にも、観光地化にも,またそれらによって崩壊しそうな
人間関係にも、自らブレーキをかけることができるという
ことを示していると思われるのである。
ただ、現段階では、このような発言はたまたま表出したも
のにすぎず、この自浄作用が何らかの具体的な動きを見せ
ているわけではない。よって、このような動きへの萌芽を
見逃さないよう注意しつつ今後も調査を続けていきたい。
生活を犠牲にした.上での「文化遺産」の保全と「文化遺
産」の保全をないがしろにした上での観光地化の二つの極
を白と黒に例えるとしたら、荻町地区の人々は、 みんなグ
レーゾーンに立っているといえる。おそらく誰もがどちら
かの極に振れすぎることをよしとはしていない。
しかし、「世界遣産」という大きな波は,その振れ幅を増
大させ、これまでの均衡を危うくさせている。世界遺産登
録後の変化で最も深刻なのは、実はこの「均衡の崩壊の危
機」ではないだろうか。生活者の視点を欠いた方策では、
おそらくそれを乗り切ることはできないだろう。と、著者
は結ぶ。
さて、「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約
」(Dec. 17, 1972 )は「顕著な普遍的価値を有する文化遺
産及び自然遺産の保護」を目的とした国際条約に基づき、
「白川郷・五箇山の合掌造り集落」(Dec.19,1995)に登録
され今年で22年経過、登録運動から登録維持運動に移行し、
「保全」と「観光」との狭間で「衡の崩壊の危機」起きて
いると問題提起される、言い換えれば、「住民」と「国内
外の行政官」間の運動体の矛盾として、または、生活上で
の「多様と集中の選択」のストレス態様と言える。これは、
超高齢・少子社会を迎えた日本での「財政と労働負担」と
「多様と自由の担保」といった問題解決への試金石でもあ
る。わかっていることは、「生産性向上=自由の担保」が
なければ、「世界遺産」に「住民の自由」が抑圧され、過
疎化は不可抗となる。
次回から。「湖上から視た都市形成」(第7章 街道と湖
上交通と都市形成)の考察に移る。
【脚注及びリンク】
-----------------------------------------------------
- 田園都市 Wikipedia
- 世界遺産の保全と住民生活-「白川郷」を事例とし
て-」才津祐美子、福岡工業大学、環境社会学研究
(12)、 23-40、2006-10-31) - NPO法人 彦根景観フォーラム 第4回世界遺産を目
指す彦根の課題 2008.02.29 - 世界遺産所在自治体の保全と観光活用に関する取組
事例集 国交省観光庁 2014.10.24 - 世界遺産登録による経済波及効果の分析 えひめ地
域政策研究センタ 2007.01.11 - 世界遺産登録と持続可能な観光地づくりに関する一
考察『地域政策研究』(高崎経済大学地域政策学会)
新井直樹 第11巻,第2号,2008年9月 - 世界遺産を活用した観光振興のあり方に関する研究
運輸政策研究所 第35回 研究報告会 小室充弘
2015.08.05 - 世界遺産登録に向けた取り組み(2014年度)彦根市
- 世界遺産に登録されるまで|世界遺産検定 NPO法
人 世界遺産アカデミー - 高句麗平壌城の都市形態と設計 閔徳植、 国際日本
文化研究センター学術リポジトリ - 松本市の都市計画 松本市
- ひこにゃんがいてもダメ? 彦根城はなぜ世界遺産
になれないのか 週刊朝日 2013年6月28日号 - 利用者が“便利”だと思えるパーク&ライド ECO
JAPAN インタビュー前編 2007.03.02 - 利用者が“便利”だと思えるパーク&ライド ECO
JAPAN インタビュー後編 2007.03.09 - 第1回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
木啓明 2011.10.05 - 第2回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
木啓明 2011.10.07 - 第3回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
木啓明 2011.10.19 - 第4回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
木啓明 2011.10.26 - 第8次彦根市交通安全計画 2012,03.22
- Core Strategy (2013) - Milton Keynes Council
- "The New Towns: There Problems and the Future”
Department for Communities and Local Government,
2002.11.21 - 日本エシカル推進協議会(Japan Ethical Initiative) -
エシカル日本 - 明治期廃絶城郭の公園化について ―史跡の保存
活用の前史として― 佐々木孝文 2015.06.26 - 都市とは何か 都市計画なぜ必要か - 東北大学
奥村誠 2015.10.15 - 和歌山市都市計画マスタープラン 和歌山市
2017.01.12 - 和歌山市立地適正化計画 2016.12.22
- 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也 - 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
- 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
45、2003.7.8 - 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
- 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
宮﨑洋司市 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.06 28 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.07 26 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.07 26 - 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
佐藤健正、2016.07 03 - 平成 28年度 主要事業 彦根市
- 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市 橋梁長寿
命化修繕計画による対策橋梁について
滋賀県 - 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
- 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主導
のまち創る-近世城下町彦根市本町地区の2例の
場合-(これからの都市づくりと都市計画制度全
国市長会) 中島一 2005.05.09 - 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
- 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
- ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
- 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
- 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
- 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
- 「道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
波新書 - 日本の道路史 武部健一 中公新書
- 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
- 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
- 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
- 彦根市都市計画道路網見直し指針
- 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
- 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31
- 彦根市立図書館|簡易検索
- 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
- 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と展望
2014.11.26 - アウガ Wikipedia
- 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
- 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
- コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
青森から見る居住の自由 2016.11.08, Yahoo!ニュース - <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河北
新聞 2016.01.28
-------------------------;--------------------------
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます