城郭都市設計史31

2016年03月03日 | 湖と城郭都市

【事例研究:これからの都市づくり Ⅱ】

● 彦根市中心市街地活性化基本計――何か艮いこと
  
りそうな予感のする街を求めて!

6)彦根市本町街なか再生土地区画整理事業の概要

・名称 彦根市本町土地区画整理事業
・事業主体 彦根市本町土地区画整理組合
・面積 1.33ヘクタール

・権利者数 77 名
・減歩率 23.05%(公共減歩20.87%、保留地減
 歩2.18%)
・施行期間 平成11年度~平成16年度
・総事業費 2,764,000 千円

彦根市では、このような住民活動の機運を盛り上げなが
事業を進めるため、組合施行の土地区画整理事業とし
て、国の都市再生(街なか再生型)土地区画整理事業補
を受け、技術援助や資金援助を行っている。

 


7)本町街なか再生事業の特徴とまちづくりの工夫

特徴としては、

・街なか観光と交流人口の拡大
・生活者(高齢者)の視点
・区画整理と上物(うわもの)の同時進行 ― テナント・
 オーナー会、ファサード整備との連携
・共同整備事業組合で高質空間づくり
・業種構成重点の換地計画-ほぼ全員が飛び換地
・まちづくり会社(集客施設の経営)


まちづくりの工夫(住民が進めるまちづくり)としては、

・住民の自主協定で街並み統一 ― 街並み協定の締結(
 任意)、本町まちづくり協定委員会(話し合いの場)

・デザイン・ルールブック策定
・福祉のあるまちづくり基準策定
・マスターアーキテクトによる指導助言
・ファサードの統一設計者
・はいから倶楽部(女性の会)人づくり
・四番町タイムス(情報の共有)

と、以上のようにまとめ「この後の課題」を提案する。

8)今後の課題

①集客施設構想の実現

土地活用の意志のない地権者の有効土地活用と小売商業
支援、来街者誘致のため
の魅力的な文化施設を建設する
計画で、四番町スクエアが中心市街地の魅力の核と
して
永続的に繁栄するような施設の建設計画を進めている。

②町の管理組織の創設

集客施設の管理・運営やテナントミックスなどの商店街
管理、道路、公園、ファニチャー類、公衆トイレなどの
維持管理のため、まちづくり会社の創設を予定し、安定
した自主経営のための方策を研究中である。

6.個性あるまち創りと都市計画-城下町に今に活きる
  個性あるまち創りの問題点のいくつかについて―

(1)今日の都市計画の問題点

今日の都市計画の枠組みが大量生産・大量消費という時
代背景の中で、都市の効率や安全性の観点でのまちづく
りが優先され、個性ある都市経営の視点が不足してきた
のではないかと思う。最近では、マスコミなどでとりあ
げられるようになったが、土地利用や道路・建築物など
都市における構築物を規制・誘導する都市計画の仕組み
全国一律の画一的なまちを作ってきた結果、ある意味
で歴史のある街並みや個性をなくし、地方独特の都市経
営の可能性を閉ざしてきたように思う。

彦根市においても同様で、夢京橋キャッスル・ロードや
四番町スクエアなどの彦根ならではの文化を生み出して
いる一方で、歴史資産の多い我が街では、江戸時代から
残る町家や足軽屋敷などの街並みがしだいに消えてゆき、
都市観光の可能性を閉ざした結果、観光産業を経営基盤
としてきた都市経営の根幹に係る重大な影響を招いてい
るのである。地方独自の持つ良さを生かすためには、都
市計画の枠組み全体が見直されるべきではないかと思っ
ており、住民主導の時代に相応しい都市づくりが必要と
考えている。

※ ここでは、「画一性と多様性」のバランスと合意形
  成議論プロセスが問われている?

(2)構造改革特区

また、個性のある都市を創造するため、都市景観形成を
重点施策としており、彦根城郭と周辺の町屋等が残る区
域150ヘクタールについては、彦根らしい街並み
存整備するため独自の規制・誘導を行う傍ら、政府の構
造改革推進本部で公募された構造改革特区について、
域経済活性化のための特区に指定するよう提案を行った
ところであるが、残念ながら採択されなかった。都市計
画の枠組みを一定の区域に限って緩和することによって
活力を生み出そうとの狙いで、これが特区ではなくて、
全国どこでも独自のまちづくりが行えるシステム作りが
必要と考える。

(3)都市計画法の改善方策

そこで、都市計画法とその改善方策について、具体的に
8点あげておきたい。

1)従来の都市計画政策は、次の3項目に集約される。

・土地利用(線引き、地域地区指定)
・都市施設(道路、駅前広場、公園緑地、都市下水道、
 ごみ処理施設、河川、学校、保育園、病院、図書館、
 砂防施設等)
・市街地整備(土地区画整理、再開発等)

しかし、この中で、人づくりや景観の個性の熟成などの
政策に欠けていた。市街地整備の一部を除いて、全てを
公共施行と考えていたことに課題があるように思われる。
そこに住む人、訪れる人たちが、自らまちづくりを考え
推進するシステムが求められているのではないだろうか。

2)人づくり(社会教育、生涯教育での地域コミュニテ
ィ支援と組織化)、事業を立ち上げるまでの粘り強い住
民活動の支援、リーダー育成(行政のリーダー、地域の
リーダー)、後継者の継続的育成、経済産業界における
地域コミュニティ支援対策、大学における地域コミュニ
ティ支援対策

3)住民自治による事業推進手法の開発、NPO法人や
地域づくり会社などの独立法人による公共事業施行

※ ここでは、緩和対象の中身 「規定性と可塑性」が問われ
   ている?

4)景観基本法の早期制定。これまでの法制で位置づけ
の弱かった景観、緑、看板
等について、早急な法整備を
期待する。これが、個性が活かせるまちづくりの基本

とも考えてもいる。

5)負の遺産の改善。大量生産、大量消費という時代背
景の中で、多くの貴重な財
産が失われ、街の様子が一変
してしまった。一定の改善を加えて、風土や個性のあ

まちづくりが必要ではないかと考える。

6)建築基準法。伝統建築物群の保存や美観地区等保存
の現行法では困難な、近代
建築物などの多く残る地域な
ど、美しい日本を守り育てる方向への転換が必要と考

る。

7)国の考えと地方の考え(伝達の方法)。国→都道府
県→市町村。国の考えが地
方に伝わらない。地方の悩み
が国に分からない。


8)小さな街に小さなプラン。国の事業には最低規模等
の定めのあるものが多く、
事業規模についていけないも
のがある。まちづくり交付金等に柔軟性を持たせるよ

であるが、地方に必要なものが可能な法制度が求められ
る。なかでも、

・相続税で町屋や武家屋敷が消える(相続税の猶予)。
・町屋などの住み替え、持ち替えのシステム(届け出・
 買取り制度の創設)

・建築基準法が街並みを消していく(建築基準法の緩和)

 - 道路中心線後退2~1.35メートル
の緩和
   防火地域・準防火地域の構造基準緩和
    防火等に対して法の定める基準を全て満足する必要
  があるのか?

※ ・道路位置指定基準解説図
   ・防火のための地域区分と構造制限
  
7.おわりに

地方のことは、地方で。ナンバー・ワンよりオンリー・
ワンの都市を目指し、地
域の特色創りに地方は活きる道
を模索している。
地方分権の中で、地方自治は市民との
協働の時代に突入している現在、以上縷々
述べたことは、
このままでは城下町-武家屋敷、町屋は消え去ってしま
うのではな
いか、先人から引き継ぎ、時代に継承すべき
地域文化の消滅を危惧するものである。
諸問題を適切に
解決するため、早急に法整備等を願うものである。




以上のようにまとめ市長会で報告されているが、さて、
歴史的資産をどのようにリニュアール、リストラクチュ
アリング、あるいはリコンストラクションし、観光資源
として価値を付加していくのか、市民の合意形成のもと
に計画するのか? しかしながら、その対象は旧市街区
であり、計画から外れる地区――東南北の市街内外地区
区は外れる。また、旧市街区においてもこの計画により
生活が疎外される事例例――車の渋滞・通常生活の紊乱
など――も当然配慮されて行われるべきものである。ま
た、この街づくりをさらに積極的に、例えば市民憲章の
ごとく、地区全体に共通住宅デザイン(=エシカル・コ
ード)や生活文化全般の共通デザイン(=パブリック・
コード:例、飛び出し坊や、挨拶ロード)などに拡張・
相互浸潤させても良い。また、計画区域でも交通道路・
ゴミ処理・空家などの諸問題を同時解決していかなけれ
ばならいないだろうが、市民が知恵を絞り議論を重ね解
決いく以外に目標達成はないと考える。

                    この項了




 【エピソード】      

       

【脚注及びリンク】
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  1. 「地域資源・交通拠点等のネットワーク化による
    国際観光振興方策に関する研究」国土技術政策総
    合研究所 プロジェクト研究報告 2008.05.21
  2. 「歴史まちづくりのてびき(案)」ISSN 1346-73
    28 2013.11.13
  3. 歴史まちづくりの特性の見方・読み方 国土技術
    政策総合研究所 2013.04.11
  4. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主導
    のまち創る-近世城下町 彦根市本町地区の2例の
    場合-(これからの都市づくりと都市計画制度 全
    国市長会) 中島一 2005.05.09
  5. 「城と湖のまち彦根」中島一 サンライズ印刷出版
  6. 「続・城と湖のまち彦根」中島一 サンライズ印刷
    出版部 
  7. 中島一・水野金一・田中治是『建築空間における
    都市計画額』コロナ社
  8. 中島一元彦根市長 Wikipedia
  9. 内藤昌編著『城の日本史』角川書店
  10. ドイツ:ニュルティンゲン市「市民による自治体
    コンテスト1位のまち(1)」 池田憲昭
     内閣
    府経済社会総合研究所
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  12. ラウフェン・アム・ネッカー Wipipedia
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  14. コモ湖 Wikipedia
  15. ネッカー川 Wikipedia
  16. 『ヘルダーリン詩集』 川村次郎 訳 岩波文庫
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  18. 三島由紀夫 著『絹と明察』
  19. 三島由紀夫の十代の詩を読み解く21:詩論とし
    ての『絹と明察』(4):ヘルダーリンの『帰郷
    』詩文楽
  20. 三島由紀夫の十代の詩を読み解く18:詩論とし
    ての『絹と明察』(1)~(7)詩文楽-Shibun-
    raku
  21. フリードリヒ・ヘルダーリン  Wikipedia 
  22. フリードリッヒ・ヘルダーリン - 松岡正剛の千
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  23. ヘルダーリンにおける詩と哲学あるいは詩作と思
    索頌歌『わびごと』を手がかりに 高橋輝暁 2010.
    09.06
  24. 『ヘルダーリンの詩作の解明』、ハイデッガー著
    イーリス・ブフハイム,濱田恂子訳
  25. 南ドイツの観光|ドイツ観光ガイド|阪急交通社
  26. バーデンヴェルテンベルク州&バイエルン州観光
    局公式日本語
  27. リンダウ - Wikipedia
  28. ハイデルベルグ Wikipedia
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  30. 城郭都市 Wikipedia
  31. List of cities with defensive walls Wikipedia
  32. ヨーロッパ100名城 Wikipedia 
  33. 中国の城郭都市 : 殷周から明清まで 愛宕元著
  34. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  35. 万里の長城 世界史の窓  
  36. 中国厦門の城郭都市研究における外邦図の利用
    山近久美子(防衛大学校)2005.08.25
  37. ヨーロッパ100名城 Wikipedia
  38. 近江佐和山城・彦根城 城郭談話会編 サンライズ
    出版
  39. 淡海文庫 44 「近江が生んだ知将 石田三成」太
    田浩司 サンライズ出版
  40. 佐和山城 [5/5] 大手口跡は荒れ放題。現存する移
    築大手門は必見 | 城めぐりチャンネル
  41. 中井均 『近江佐和山城・彦根城』サンライズ出
    版2007
  42. 彦根御山絵図 彦根三根往古絵図など古絵図デジタ
    ル・アーカイブ化に、彦根市立図書館  2012.05.
    27 
  43. 彦根市指定文化財 「山崎山城跡
  44. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  45. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  46. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  47. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  48. 都市計画-1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一   
  49. 都市計画-2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  50. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  51. 「協働的プランニング」の都市計画理論 Patsy He-
    aley ,“Collaborative Planning
    2010.02.13
       
     
  52. 第4回 リスク社会論 ベック・ギデンズ・ルーマ
    ンの「リスク」論(現代都市文化論演習 2009)筑
    和 正格 2010.05.25
     
  53. ビフォア・セオリ 現代思想の<争点> モダンと
    ポストモダン 慶應義塾大学出版会|人文書

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