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Ⅰ ビオトープとは
❶ ビオトープという考え方
「Bio」は生物、「Top」は空間や場所を指し、ビ
オトープは、地域の野生の動植物が生息する空間
を意味する。雑木林や草原、池沼、河川、溜池、
土手畦、田畑、果樹園、庭園、菜園、公園緑地、
屋上やベランダ、屋根、壁の緑化地など動植物が
生息可能な、または生息することを可能にしか空
間をビオトープという。いわゆる「トンボ池」の
ような小さな池だけを指す用語ではない。
メダカ:環境省絶滅危惧II類
「約50%は里地里山に依存!」
❷ ビオトープが話題となる理由は
近年、各地の学校や公共施設、個人の庭にもビオ
トープを整備する方々が増えている。これには、
都市の拡大による自然環境の減少、化石燃料の大
量使用に伴う大気中CO2 濃度と気温上昇、これに
伴う気象変動など、環境問題が日常的になり、昨
今は地球レベルにまで達し将来の生活環境を危ぶ
む声が高まったことが大きく影響している。さら
に食品偽装や残留農薬問題などを背景に食の安全
安心を願う市民の気持ちに加え、農薬や化成肥料
を伴うガーデニングや菜園づくりに抗する市民の
気概、自然志向が大きな支えとなっている。ビオ
トープづくりはまさに自然再生を意味する。環境
省によると、わが国で絶滅、または野生絶滅した
ほ乳類 | 42種 |
鳥類 | 92種 |
両生・は虫類 | 52種 |
汽水・淡水魚類 | 144種 |
昆虫類 | 239種 |
貝類 | 377種 |
無脊椎動物 | 56種 |
維管束植物 | 1,690種 |
維管束植物以外 | 463種 |
※環境省「第三次生物多様性国家戦略」から引用
動植物の種数は既に百種を越え、適切に保全しな
いと将来、絶滅の危機に陥るとされる「絶滅危惧
種」「準絶滅危惧種」の種数は3200種を越えた。
この背景には里地里山利用の変化、大規模な造成
工事などが影響した。国土交通省によると、わが
国では昭和46年から平成11年までのわずか約30年
間に丘陵地や農地を造成し計約37万ha、毎年約12,
750haの宅地などを建設した。農林水産省によると、
花粉症で名高いスギ、ヒノキ人工林の面積は、天
然林の伐採や農地転用によって、昭和41年から平
成11年までのわずか33年間に約200万ha、毎年平均
約6万haずつ増えた。これによって農地面積は昭
和36年の約620万haに対し、平成6年には約508万
haになり、33年間で約110万ha、毎年約3.3万haず
つ減少した。
トノサマガエル:和歌山県準絶滅危惧
近年、「里地里山」が日常の話題に上がるほど人
気ある環境になってきた。里地里山は「水と空気
土、カヤ場や雑木林から屋敷、納屋、牛馬小屋、
畑、果樹園、竹林、植林、溜池、小川、水田、土
手、畦など、一連の環境要素が一つながりになっ
た暮らしの場」と定義される。この暮らしの場は、
ヒトだけではなく多様な動植物の暮らしの場であ
り、食物連鎖を基軸とする生態系を育んできた。
植物の生産活動を基盤に、これを摂食する生物、
さらにこれらの生物を捕食する生物、さらにこれ
らを餌とする肉食の大型鳥獣が生活できた。まさ
に生物同士の食う・食われるという関係によって
成り立っていた。
キキョウ:環境省絶滅危惧II類
昭和30年代まで目本の自然環境は、農・林・魚の
生業の営みとうまく共存して生きづいてきた。し
かし、ヒトの生活活動によって育成されてきた里
地里山は、燃料や肥料の石油原料への転換、農業
生産の基盤や従事者の減少、化学農薬や肥料の導
入、都市への人口の集中などによって著しく貧化
してしまった。メダカやタガメ、ギフチョウなど
が絶滅危惧種に指定され、コウノトリやトキなど
の鳥獣が野生絶滅するなど、各地で生物多様性が
急激に減少した。いずれの種も国外から親鳥を譲
り受け野生復帰に向けた取り組みが真最中である。
サギソウ:環境省絶滅危惧II類
絶滅した生物を野生で繁殖できる状態まで育成す
るには、個体の増殖だけではなく餌場や隠れ家、
営巣地などを再生する必要がある。これには長い
年月と予想も付かないほど多額の費用と知恵、労
ノJを変する。次代を担う子どもたちの自然感や生
活感、価値観、人間観が大きく変化している。①
あいさつに加え、仲間づくりができない。②遊び
や物をすべてお金で入手する。③自然を知らない。
こわがる。④農や林、漁の生業を知らない。⑤命
の大切さを認知できないなどなど……。いわゆる
ヒトの「人工化」が進んでいる。持続的に生きて
いくための技をいかに次代に伝承していくのか!
学校ビオトープづくりや市民による里地里山保
全の活動は、この現実に向かっての行動でもある。
生態系の掟を遵守しない場合は、経済社会も持続
しないといわれる。生態系の掟を守り、持続可能
な環境社会を実現するためには、生物多様性を維
持し、植物連鎖を基礎とする生態系を守る必要が
ある。平成5年に「種の保存法」、平成14年に「
新・生物多様性国家戦略」が効力を発し、平成15
年には多様な主体の共同参画によって自然再生を
進めていく「自然再生推進法」が施行された。ま
さに自然再生の世紀に入った(養父志乃夫著『ビ
オトープづくり実践帳』、誠文堂新光社)。
【注釈】
放っておいていいこと、人間が手を入れなければ
ならないことを判断するのは本当に難しい。しか
し、琵琶湖の水質変化の推移を見る限り間違いな
く手をかけて良かったと思う(そうして、もっと
レベルの高い目標を立て環境保全をした方が良い
のではと思いつつあるが)。程度のものだが、科
学的裏付け(根拠)が不全であったり、過剰な思
い込みであったりする。科学がすべてでもなく科
学もまた宗教ということもある。後に残るものは
<実存>という高村光太郎の『道程』の詩のだけだ。
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【生物保護】
生態系の保護は昨今の時代の流れであるといって
も過言ではない。その活動は政府レベルから市民
運動のレベルまで様々である。先述の通りビオト
ープはこれらの活動と平行する形で普及してきた
概念であり、密接な関係にある。
しかし、前述のような誤解や、ビオトープの概念
の難しさなどと相まって本来のビオトープ概念に
は該当しない、あるいは矛盾する活動も見られる。
ホタルやトンボ、ツバメ、メダカ、アユなど象徴
種を守ろう、という「ビオトープ保護活動」とい
うものがある。象徴種はその名の通り「一般の人
にとっての自然を代表する生物種」であり、それ
らを保護する意義は少なくない。しかし、ビオト
ープの考え方では「その種のみ」を保護する事は
不可能であり、その種が生息する環境・生息空間
全てを保護する必要があるとする。前述のツバメ
の例を言えば、『ツバメは保護したい。しかし蛾
などの虫は駆除したい』という事例を考える。し
かし、ツバメのビオトープにはその餌となる蛾が
必要であり、蛾のビオトープのためには蛾が生き
るための環境が必要になってくる。よって、この
ような事例は現実には不可能であるというのが、
ビオトープの考え方である。
さらに、例えば生態系としては完結したビオトー
プを目指していても、外来種を導入する場合は注
意が必要である。すなわちビオトープで育ててい
る外国産の魚類や植物を外部に流出させれば当然
生態系のバランスは崩れる。また国産の動植物で
あっても、何らかの理由でビオトープが維持でき
なくなった場合に周囲の自然環境に戻すような事
は望ましくない。例えば国産の野生種メダカであ
っても、その遺伝子系統は地域によって多様であ
り異なる地域のメダカを放流すれば当然地域固有
の遺伝子は汚染され悪影響を及ぼす危険がある。
これは公共施設の大規模なビオトープに限らず、
個人所有の睡蓮鉢や水槽といった小さなビオトー
プから流出させた場合でも同様である。何故なら、
流出量は微量でも環境条件が整っていれば増殖し
被害が拡大する可能性があるからである(「 フリ
ー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)。
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