びわます賛歌 P.8

2011年10月24日 | びわます賛歌

 

【淡水と海水】

魚にとって川から海へ、あるいは海から川へ移動することは、
何の障害もないように思われるが、海なら海、川や湖なら川
や湖で一生を過ごす魚の種類の方が圧倒的に多い。金魚(コ
イ科フナ属)が海で大きく育たない、タイが琵琶湖で育つこ
ともない。それでは水魚と海水魚の差異とはなんだろうか?
海水には、塩分の塩化ナトリウムや塩化カリウム、塩化カル
シウムなどイオンと呼ばれる水に溶ける物質があり、その量
は、海水1リットルあたり33~37gほど。逆に、川や湖など
の淡水には、塩類がほとんど溶けず、琵琶湖であれば1リッ
トルの水に塩分はわずか 0.02gという量だ。ところで魚の
体内にもナトリウムやカルシウムなどさまざまな塩分が含ま
れているが、これらの濃度は、厳密に一定の範囲に調節され
保たれている。この濃度は、生命が生まれた古代の海の塩分
濃度か反映されている。この濃度が何らかの原因で一定範囲
を超えれば魚は死んでしまうが、魚の血液中には淡水魚も海
水魚もナトリウムが約150~160g という濃度で保たれている。



1リットル当たりの塩化ナトリウムにすると約9gほどにな
り、ピワマスが生活する琵琶湖の1リットルには、塩化ナト
リウムがわずか約0.02gしか含まれていないので、塩分濃度
は体内が濃く体外は薄い。体表(主に鯉)を境に塩分の濃度
差が生じ、体外から体内に水が侵入しようとするカ(浸透圧)
が生じる。この浸透圧の関係で水が体内に入ってくる。ビワ
マスは体内のナトリウム濃度を一定に保つため、尿として水
を体外に出しながら、水に含まれているわずかなナトリウム
を鰹から絶えず取り込む。海水1リットルにはナトリウムが
28g ほど含まれるが、魚の体内よりずっと高濃度。このため
海に棲む魚では、淡水中とは逆に塩分濃度は体内か薄く体外
(海水)か高くなり、体内から体外へ水か出ていこうとする
力(浸透圧)が生じ、内の水はどんどん奪われて脱水状態
になっていく
。これを防ぐため、海水魚は海水を飲んで腸な
どの消化管から水を吸収し、余分なナトリウムなどを鯉から

絶えず排出する。

魚の体内はナトリウムや塩素などの濃度が海水の約3分の1
で、淡水魚と海水魚ではまったく逆の調節をする。金魚など
の淡水魚やタイなどの海水魚ではそれぞれ淡水と海水で生活
する調節機能しか備わっていない。このため、例えば金魚が
海で過ごすこともタイが琵琶湖で育つこともできないが、川
から海に下るサケの稚魚や、産卵のために生まれた川に戻っ
てくる親ザケには、淡水から海水、あるいは海水から淡水に
適応するための機能を変化させる能力が備わっている。また、
海水と淡水の混じる汽水と呼ばれる水域に棲むボラやスズキ
などは、短い期間であれば淡水と海水の両方の環境で生活
できる能力をもっていて、サケの稚魚は、淡水の川から海へ
難なく降下しているが、淡水と海水という環境の間には、塩
分濃度の大きな違いによって想像以上の壁が存在するのだ。




【エピソード】
 



ビワマスは淡水魚の王者。しかし、遊漁ルールは守ろうと自
問する。

 

【脚注及びリンク】
 -----------------------------------------------
1.「
淡水魚辞典 サケ科
2.「
WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科
3.「
イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程
4.「
日本魚類学会
5.「魚類学(Ichthyology」Mojie
6.「成
長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
 資源管理を考える
」清水宗敬
7.「
田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
 梨県西湖での発見
」2011年2月22日
8.「
醒ヶ井養鱒場
9.「
ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7
10.「
ビワマス-湖に生けるサケ-」藤岡康弘
11.「
ビワマス」国立環境研究所
12.「
北湖深底部における底生動物の変化
13.「
琵琶湖の固有種

----------------------------------------------- 

  

 




びわます賛歌 P.7

2011年10月22日 | びわます賛歌

 


 


ビワマス


【びわますの謎】

アマゴは大きくなるがビワマスが大きくならない
理由はよくわからないのだという。強いて言えば、
摂餌量を環境に合わせ夏場以降自律的(自動的)
に減らすのだというのだが、なんらかのスイッチ
ングが働きそうなるのならそのスイッチを不活化
すれば、大きくなるはずなのだがそこがわからな
い。



日長時間と呼んでいる昼の時間の長さが最も長くな
り、その日以降は日長が短く回遊を始める夏至まで
に体長約6~7mまでの大きさになっていないと、
雄は早熟雄になれないという。早熟雄になった個体
が河川にとどまり成熟し、秋には産卵に参加するが
その後どうなるかはわかっていないとも。

魚類が回遊わけ

回遊魚にはサケのように産卵は川で行うが成長は海
に依存している魚(遡河回遊魚という)とウナギの
ように産卵は海で行うが成長は川でする魚(降河回
遊魚という)が存在する。この中間型も存在するが、
この遡河回遊魚と降河回遊魚の種類数の世界的な分
布は、高緯度では遡河回遊魚の種類が多く、逆に低
緯度では降河回遊魚の種類数が増加する。いっぽう、
海と川の餌の量はその基になる
植物プランクトンの
生産量
から見ると高緯度では海が、低緯度では川の
生産量が優っている。このため魚類は大きく成長し
て子孫を多く残すために高緯度地方では海へ、低緯
度地方では川へ回遊しているのではないかという。

そこで、ビワマスの回遊はどうかというと、95%の
個体は回遊して琵琶湖へ下り、ほぼ同じ緯度に生息
する岐阜県産のアマゴでは多くても回遊型の「スモ
ルト」が30%を超えることはなく値が大きくかけ
離れる。琵琶湖では餌となる生物が豊富であるが、
規模の小さい琵琶湖の流人河川では相対的に琵琶湖
より生産量が低いために、ビワマスは一部の雄を除
き大部分の個体が湖へ下るように生態を進化させた
ものと考えるという。雄では体を大きく成長させな
くても精子を多く生産でき、産卵に参加して子孫を
残せる可能性があるが、雌では卵1個あたりの大き
さが大きく、体を大きく成長させないと卵を多く産
めず子孫を残せない。雌は琵琶湖へ下る性質が強く
進化したのではないか、雄は河川では夏をやり過ご
すことができる場所が河川上流部か冷たい湧き水が
ある場所などに限られているため、少数の雄だけが
残留するようになったのではないか、とも考えられ
る。上流にはすでにイワナが陣取っていてビワマス
は太刀打ちできず、ビワマスの早熟雄の存在に積極
的な意義を見出せず、ビワマスの祖先にはいろいろ
な回遊型があり、餌となる生物が豊富に存在し好適
な水域の広がる琵琶湖へ適応する過程で河川型を失
う方向で進化していった結果として、ビワマスの現
在の姿があるように思われという(『川と湖の回遊
魚ビワマスの謎を探る』PP.119-201)。

【エピソード】 

 

 



さけ科学館

  

【脚注及びリンク】

 -----------------------------------------------
1.「
淡水魚辞典 サケ科
2.「
WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科
3.「
イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程
4.「
日本魚類学会
5.「魚類学(Ichthyology」Mojie
6.「成
長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
 資源管理を考える
」清水宗敬
7.「
田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
 梨県西湖での発見
」2011年2月22日
8.「
醒ヶ井養鱒場
9.「
ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7
10.「
ビワマス-湖に生けるサケ-」藤岡康弘
11.「
ビワマス」国立環境研究所
12.「
北湖深底部における底生動物の変化
13.「
琵琶湖の固有種

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びわます賛歌 P.6

2011年10月19日 | びわます賛歌



【ビワマスの餌生物】 

4月上旬の餌を食べ始めて間もない体長3cmの稚魚
では、9割が陸上の昆虫で占める。主なな生物はユ
スリカで、その他にトビムシという水際に榎む微小
な昆虫が見出された。5月に体長5~6cmになると
餌の約半分が水中の生物となり、6月ではそれが7
割程度に増加。おもに食べられていた生物は、やは
りユスリカの幼虫で、カゲロウやトビケラ、カワゲ
ラといった水生昆虫やそれらの成虫も増加。

Haft.jpg

河川生活期のビワマスの食性は、体長4、5cmまで
の稚魚期では、まだ遊泳力が弱く流れの緩やかな岸
近くや淵に生息し、水面を漂うユスリカの成虫など
をおもな餌としている。体長4、5~7mの幼魚前
期では、川の流心に出て水面ではなく水中を流下し
てくる昆虫を活発に捕食しているという。

 

ところが、琵琶湖へ下ったビワマスの食性は、川の
ものとはまったく異なる。7月から9月の体長8~
11cmの幼魚後期では、ヨコエビ類と呼ばれる甲殻類
のみを食べる。琵琶湖にはアナンデールヨコエビ、
ナリタョコエビおよびビワカマカという3種のヨコ
エビ類が生息し、いずれも琵琶湖にしか分布してい
ない琵琶湖固有種であるが、ビワマスはこの中のア
ナンデールョコエビのみを食べる。琵琶湖にはこの
他にスジエビという甲殻類がたくさん生息している
が、これはほとんど食べられないという。10月から
翌年1月までの体長11~15mの幼魚後期から未成魚
では、やはりアナンデールヨコエビが9割で、その
他に魚のアユが食べられていた。35~40cmという成
魚では逆に9割がアユで占め、アユがおもな食べ物
になっている。



このように、湖中のビワマスは体長11cmまではほと
んどアナンデールヨコエビばかりを食べているが、
体長11cm超えるとしだいにアユなどの魚類を食べる
ようになり、おそらく20m以上ではアユなどの魚類
が中心の食性になるものと考えられている。これら
のビワマスの餌となっている生物はいずれもビワマ
スが生息する琵琶湖沖合に豊富に存在する。アユは
遊泳速度も遠く幼魚期のビワマスでは逃げられてし
まい捕食することができないが、体長11cmを超える
頃からアユを捕食できる遊泳力が徐々に備わってく
るのではないかと考えられている。また、同じヨコ
エビ類でも、ナリタヨコエビとビワカマカがまった
く食べられていなかったのは、この2種のヨコエビ
類の生息場所が沖合ではなく、琵琶湖沿岸部である
ためと考えられる。ただ、冬季には沖合の深層誠に
多数生息するスジエビをビワマスがなぜ食べていな
いのか、その理由についてはもう少し調査してみる
ことが必要である藤岡は指摘する。



【エピソード】 

 

ところで、ビワマスが大変美味しい魚であることは
あまり一般的には知られていない。近年の漁獲量が
年間20~40t程度と限られているからで、せいぜい
地場で消費される量だかだ。特に、5月から8月の
まだ生殖腺が発達していない時期のビワマスは、脂
が全身にのって極め付きの味と言わなければならな
い。これはビワマスの成魚がおもに淡水魚の王様で
あるアユを餌としていることに理由があると思われ
る。その身の色は薄いオレンジ色から濃い紅色まで
年によって大きく変わるが、これは、餌となるアユ
などの生息量と関係しているようである。すなわち、
アユの少ない年には身の色が赤く、多い年には色が
薄い傾向にあり、餌となるアユが少ないとビワマス
は大型の個体でも胃の中からはアナンデールヨコエ
ビが多く見出されるからである。身の赤い色はアス
タキサンチンと呼ばれる色素で、甲殼類におもに含
まれている。おそらく、ビワマス成魚はアユの少な
い年には幼魚期の 餌である小さなアナンデールヨ
コエピを食べている推測されている。



鰻の幼魚の成長に食餌性の解明は絶対的条件でそれ
はまた生態環境の「写植・反転」のDNAの履歴その
ものだ。この解明に成功できれば、1メートル近い
ビワマスが無駄な燃料を使わず、この湖国で、淡水
魚の大トロとして地場産業の1つになる日が近いと
考えられる。

【脚注及びリンク】

 -----------------------------------------------
1.「
淡水魚辞典 サケ科
2.「
WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科
3.「
イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程
4.「
日本魚類学会
5.「魚類学(Ichthyology」Mojie
6.「成
長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
 資源管理を考える
」清水宗敬
7.「
田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
 梨県西湖での発見
」2011年2月22日
8.「
醒ヶ井養鱒場
9.「
ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7
10.「
ビワマス-湖に生けるサケ-」藤岡康弘
11.「
ビワマス」国立環境研究所
12.「北湖深底部における底生動物の変化
13.「琵琶湖の固有種

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エリとビワマス

2011年10月17日 | びわます賛歌

 

サケ科魚類が川を下る時期やサイズは、種ごとにおお
よそ決まって降河サイズ いる。例えば、サケなら浮
上後間もない体長3~4cmであるが、サクラマスでは
9~14『サツキマスでは12~15m、イワナでは約15cm
であることがわかっている。これらの値と比較して、
ビワマスでは平均して5~7cmというのはかなり小さい
サイズで川下りする
。さて、このサケ科魚類が川下り
する時期(年齢)つまり、より進化した種類ほど早い
時期に小型で川を下り、海で成長するように進化して
いるというのだ
。ビワマスは、海ではなく湖に下るも
のの、もしそうであれば、ビワマスはサクラマスのグ
ループで最も進化した種類であるということになる。 

琵琶湖周辺の河川の水温が夏には20℃以上に上昇し、
サケ科魚類としてのビワマスには生理的に耐えられな
くなることがあげられる。そうであれば、イワナやア
マゴの棲む河川の上流域まで遡上し、そこで暑い夏を
やり過ごすことも一つの方法である。もう1つ琵琶湖
にある。琵琶湖は表層部を除いて、水深15m以下には
一年を通して水温15℃以下の水域が大きく広がってお
り、冬から春には、湖の長雨が冷やされ重くなった表
層水が深層水と混じりあうとともに、冷たい雪解け水
が琵琶湖にどっと流入して沖合の深層誠に流れ込み、
溶存酸素を大量に送り込んでくれる。深い水域でも十
分に酸素が存在するのである。これが琵琶湖より南に
位置する湖では、冬になっても十分な水の混合が起こ
らず、溶存酸素が供給されないために深層誠では酸素
がほとんどないか不足状態だが、琵琶湖では沖合の水
温の低い深層誠に餌となる甲殻類や魚類が多く生息し
ているから、大きく成長できることがビワマスの行動
を決定した理由と考えられている。 

稚魚期=体長2.5~4.5cmで、鱗や朱点がまだ見られな
 い。体側にはパーマークが鮮明に見られる。おもに
 流れの緩やかな川の岸付近や淵に生息する。
幼魚前期=体長4.5~7cmで鰓耙数(さいはすう)が成
 魚と同数(17本以上)に達するとともに体表が鱗で
 覆われ朱点が増加する。体側が少し銀白色になり始
 める。遊泳力が増して川の瀬に分布した後、降雨な
 どをきっかけに湖への活発な降下行動を示す。
幼魚後期=体長7~12cmで、外部形態が完成するととも
 に、体表がグアニンの沈着により銀白化してパーマ
 ークが見えなくなる。多くは湖に降下して沖合の深
 層域で生活を始める。一部の個体は河川に残り成熟
 する。 
未成魚=体長19~20cmで、湖の沖合を中心に生活し、
 河川に残留した早熟雄を除き、まだ成熟はしない。
 朱点が消失する。
成魚=体長20cm以上で、成熟した個体はおもに9月か
 ら一月に河川に遡上して産卵する。一部の個体は、
 6月から7月の河川が増水した時期に遡上し、淵な
 どで夏を過ごし、秋には産卵する。産卵後は、雌雄
 とも死亡する。

ビワマスの河川生活期から湖へ降下する時期を中心に
産卵までを大まか5段階に藤岡康弘は区分している。

    川からの降下時のサイズ

【エピソード】 

 

琵琶湖には河や湖沼・内湾で、よしずや竹垣を魚道に
迷路のように張り立てて、魚を自然に誘導して捕らえ
る定置漁具の魞(エリ)が、湖岸から沖に向けて張ら
れたカラ傘のように見える左右対称型のエリのたたず
まいは、琵琶湖畔を訪ねる人びとに風情を感じさせる。
湖岸に優美な姿を見せる沖出し型のこうした「うみエ
リ」と呼ばれるが、河口内のよどみや内湖に張られる
「川エリ」も古くからあるという。


3世紀に高句麗の農耕移民によっても稲作技術がもた
らされた。この高句麗から渡来した水稲農耕移民は、
米と膾をセットとした食物体系を身につけ、フナなど
を獲るエリ技術と稲作技術をあわせて移人することに
なったといわれ、膾は手頃な大きさの魚を姿のまま塩
と蒸し米=御飯で漬物とし、発酵させたもので、中国
の北支で2世紀頃、すなわち後漢(AD25~220年)の中
頃までに作り方ができあがったもの。気温の低い黄河
以北の水稲農耕文化の中で生まれた貯蔵用発酵魚で、
黄河以南、特に揚子江周辺あるいはそれ以南では気温
が高いために同様の作り方をしても「シオカラ」ない
し魚醤油状になり、膾のような魚体形のままの発酵魚
にはなりえない。

 【脚注及びリンク】

 -----------------------------------------------
1.「
淡水魚辞典 サケ科
2.「
WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科
3.「
イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程
4.「
日本魚類学会
5.「魚類学(Ichthyology」Mojie
6.「成
長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
 資源管理を考える
」清水宗敬
7.「
田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
 梨県西湖での発見
」2011年2月22日
8.「
醒ヶ井養鱒場
9.「
ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7
10.「
ビワマス-湖に生けるサケ-」藤岡康弘
11.「
ビワマス」国立環境研究所

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びわます賛歌 P.5

2011年10月15日 | びわます賛歌




【海を忘れないスモルト化】

さて、ビワマスの体色が銀白色になる現象は6月から
7月に急速に進み、8割を ビワマスの 超える個体
で体色が銀白色になるという。このことがサクラマス
やギンザケなど降海型のサケ科魚類のスモルト(銀毛)
化と呼ばれる現象と同一なのかどうかはまだわからな
というが、とりあえず体色が銀白色となってパーマー
クの見えにくくなった個体をビワマスのスモルト化と
呼んでいる。

 

いっぽうアマゴは、7月でも体側にはパーマークが鮮
やかに見えていて、銀白化の兆候は認められなかった。
しかし、それ以後も続けて観察していくと、9月の終
わり頃から変化が現われ始め、12月にかけて’スモル
トと呼べる個体が出現する。このアマゴとのスモルト
の違いは、ビワマスのそれと比較すると体色は両種と
も鮮やかな銀白色になることは同様であったが、背鰭
や尾鰭の縁がアマゴでは墨を塗ったように鮮明な黒色
なのに対し、ビワマスではそれほど濃くならないとい
う違いが認められた。体の肥り具合を示す指標の「肥
満度」と呼ばれる数値は、ピワマスとアマゴともパー
に比べスモルトは低下しサクラマスのスモルトと同じ
変化を示しすという。
 

 

スモルト化の時期や背鰭の黒色化に少し違いが認めら
れるものの、多くの点で両種のスモルトはよく似てい
て、この時点ではビワマスの。スモルト化はアマゴや
サクラマスのスモルト化と同じ現象と考えて可笑しく
ないという。サクラマスでは、パーからスモルトヘの
変化が孵化後1年ないし2年経過した3月頃から見ら
れ、スモルトは4月から6月にかけて川を下り海での
生活を開始する。これに対して、ビワマスのスモルト
が孵化後半年ほどの6月から7月に出現し、アマゴの
スモルトが9月から12月に現われるという差異が観察
されている。

 Life Cycle of Salmon

 

成熟と死の関係は、サケ科魚類の中にもいろいろなタ
イがあり、
川の最上渡部にいるイワナでは、サケとは
異なり雄も雌も産卵後に死ぬことはない。ニジマスも
このタイプ。いっぽう、河川型のアマゴやヤマメでは
2回あるいは3回目の産卵の後に死ぬものが多い。同
種でありながら、これが降海型のサツキマスやサクラ
マスになると1回の産卵で死ぬ。ビワマスの雌は一度
成熟するとすべて死ぬが、雄の中の孵化後1年で成熟
する早熟雄は死なないが、翌年に再度成然したときに
死ぬ。また、孵化後2年以上たって大きく成長した雄
は、成熟すると死んでしまうという。こう見てみると
環境の変化が深く関わっているように見えるが、その
生理的なメカニズムはよくわかっていないのだ。

【エピソード】



水産とか生物生態などとはもともと無縁だったのだが
琵琶湖・淀川水系汚染問題に関わると同時にいやおう
なしに水産生態知識が必要になる。また、前の職場で
も鮎の養殖経営している息子がわたしの上司であった
り、工場長の専門大学が北海道大学の水産学部(出身
地は大阪)であったりといくらでも切り口が広がるも
ので、田中豊一氏(故人)と二人で埼玉水産試験場に
でかけ、ナマズの養殖など調査などもしたもので、皇
太子がナマズ博士であることを知ったりもした。でも
このグループで釣りを趣味とする会員はひとりいない
ように、フィールドワークには疎い。疎いが琵琶湖に
面する河口に行くと、それはそれで、一旦、透明で澄
み切った水中を魚たちが遊泳する情景に見入ってしま
うと離れなくなる。因みに、50年前は瀬田シジミが
この松原、磯でもたくさん水揚げされていたと久保祐
夫氏(故人)が話していたことをいまも懐かしく思い
出される。話は飛躍するが、この問題にかかわる頃は
当然、クジラが古代牛の海進態などはまったく知らな
かったほど素人だった。

【脚注及びリンク】

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1.「淡水魚辞典 サケ科
2.「
WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科

3.「
イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程
4.「
日本魚類学会
5.「魚類学(Ichthyology」Mojie
6.「成長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
 資源管理を考える
」清水宗敬
7.「
田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
 梨県西湖での発見
」2011年2月22日
8.「
醒ヶ井養鱒場
9.「
ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7
10.「ビワマス-湖に生けるサケ-」藤岡康弘
11.「ビワマス」国立環境研究所

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