ザワザワザワ。。。

仕事帰り、夜11時。

暗い空が、青く光った。
ドーンと響く低い音。
稲妻が見えないので、最初は花火かと思った（ワイキキは花火が多い）が、遠くでカミナリが鳴っているようだ。


こんな中、車で帰らなければいけないのか、と、不安な気持ちになる。


雨はまだ降っていない。


車がカピオラニに差し掛かると、突然、バチバチと音を立てるほどの激しい雨が降ってきた。
車のワイパーをハイスピードにするが、前が見えない。どこを走っているのかすらわからない。
レーンの区切りのデコボコに、タイヤが乗り上げて音を立て、それで何とかレーンからはみ出さずに走る。

身を乗り出して、前だけを見て、必死にドライブする。
車を停めようにも、すでにハイウェイに入ってしまった。
ハイウェイでは停められない。


雨に煙った反対車線に、ライトを点滅させた救急車が、音を立ててすれ違う。


不安感が募る。
ドキドキというより、ザワザワと、胸が騒ぐ。











ニュージーランドで地震が起こった。

建物が崩壊して、いまだ救出されていない人がたくさんいる。
クライストチャーチの大聖堂も崩れた。




ニュージーランドはハネムーンで訪れた場所だ。

もう四半世紀近く昔のことなので、よく覚えていない。
物忘れがひどいわたしは、食べ物に関連した出来事は覚えているが、それ以外のことはあっさりと忘れてしまう。

教会の近くのレストランで、ラムのステーキを食べた。
グレービーソースがおいしかったのを覚えている。
アルファルファの入ったサンドウィッチを初めて食べたのも、ここだった。
「草、食べるの？」とびっくりしたものだった。

街を散策中、偶然出くわしたクラフトショーで買った、カエルのぬいぐるみと、街並みをデザインしたタペストリーは、長い間、日本の我が家を飾ってくれた。
それもハワイに移住する時に、処分した。


ニュージーランドの思い出といえば、それくらいだった。

それくらい、昔のことだ。



それでも、
テレビニュースで、被災した現地の様子が映し出されると、忘れていた記憶がよみがえってきた。


タクシーに乗って、行き先がうまく伝わらず、全然違う場所に連れて行かれたっけ。

その場で焼いてくれるクレープ屋さんを初めて見て、生地を上手に伸ばすその鮮やかな手つきに、出来上がるのをずーっと見つめていた。

シダーウッドのブロック（防虫効果があるのでたんすなどに入れる）というものがあるのを知ったのも、この街。



大聖堂の前を歩いたことを思い出した。
静かな朝だった。


あの時見上げた大聖堂の一部は、今、瓦礫となっている。

あの時すれ違った人の中には、地震の被害で亡くなったり怪我をしている人もいるかもしれない。

あの時の、静かで穏やかな街は、今はない。






豪雨の中、必死に目の前を見つめ運転しながら、頭は、遠いニュージーランドのことを思った。




近年立て続けに起こる災害を、
「地球が浄化している。」と言う人もいる。

浄化は受け入れます。でも、未来のある人々を巻き込むのはやめて欲しい。
こんな理不尽な人生の終わり方があっていいのか？
何が起こったかもわからず、突然人生を終わらされてしまった人たちを思うと、胸が苦しい。



わたしの気持ちを代弁するかのような、激しい雨と、青く光るカミナリ。



ザワザワザワザワ。。。。。。




心のざわつきは、しばらく収まりそうもない。









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