おかまのよろめき

現役おかまのお店日記&趣味のはなし

泣き上戸

2009-06-21 19:35:18 | Weblog
昨日の続き…

池袋の店で働いてた時のこと

その日はとても暇な日で

ママもカリカリ来ているようだった

閉店が近付いた頃、ドアが開く音がした

「いらっしゃいませェ~」

近所のホモバーのマスターだ

「あらお母さんいらっしゃ~い!」

マスターだがウチではお母さんと呼ばれている

子泣きジジイそっくりの風貌と

目玉オヤジの様な甲高い声が特徴だ

「どうせ暇こいてたんでしょっ!

 あらエドナあんた相変わらずブスね~」

いつもの毒舌がこんな日は耳に心地良い

「お母さんヒドイワ~ッ!」


マスターのボトルは半分くらい残ったローヤルだ

ママを入れて4人も居るんだから、あっと言う間に空くだろう

東北出身のヒロミちゃんがモタモタと酒を作る

「アンタ相変わらず汚いわねェ~

 化粧の仕方知らないのかしら?」

「そったらこど言わねでけろ~」

ヤニで茶ばんだ歯を見せて身をくねらせるヒロミ

ホモバーのマスターだから口は達者だ

意地悪言われても切り返すぐらいでないとオカマはつとまらない

「ねェお母さん、今度お店に遊びに行ってもいいかしら?」

先輩のレイコさんが甘えた声を出す

「ダメよウチは女装禁止なの!

 それにアンタは顔がデカ過ぎてドアにつっかえちゃうわよ!!」

「まァ悔しいわァ」


ママがソワソワし始めた

ショータイムをしたくてウズウズしているのだ

客が来ると会話もそこそこですぐショーをしたがるのだ

「エドナ、あんたは踊り下手だから見てらんないわ

 こないだアタシが教えてあげたでしょ

 色っぽさがないとダメよ!」

「お母さん、プレッシャーだわァ」

私は昔からショータイムは苦手

踊りのセンスがまるでないのだ

それよりもボトルがなかなか空かない事の方が気になっていた

ヒロミちゃんに目で合図するが分ってないようだ


入り口のドアが開き、新たなお客様が来店

レイコさん目当ての男性客だ

ママは相変わらずショーの音楽の頭出しに夢中だ

ショーが終わったらマスターも帰ってしまうだろう

始まる前にニューボトルを入れてもらわなければ…

私とヒロミの2人で飲めばあっと言う間だろう

私はグラスにドバドバ~と酒を注いだ

この際仕方がない

ヒロミは相変わらず涼しい顔をしている

腹が立ったので「アンタも飲みなさいよ」と言うと

「おめに言われだがね」(アンタに言われたくない)と来た

「飲まない、喋らない、動かない

 まるでアンタはオブジェね」と吐き捨て

ほとんどストレートに近いウイスキーを

立て続けに流し込んだのだ

見かねてマスターが口を開いた

「アンタ、無理しなくても入れてあげたのに…」


「エドナそろそろ始めましょ」

ママが私にショーの前歌を命じる

私はさっきの一気飲みが効いた様だ

いつもなら「さそり座の女」を選ぶのに

何故かその時は中島みゆきの「化粧」を入れてしまった

そんな暗い曲をショーの前に歌うなんて

きっとママに注意されるだろうが

もうイントロが始まっている


♪化粧なんてどうでも良いと思っていたけれど…

歌いだして気付いたのだが涙が出ている

サビに来るともう駄目だ

泣けて泣けて、とても歌えないのだ

マスターや他のお客さん(と言っても一人だが)も

何で私が泣いてるのか不思議そうに眺めている

その日のショーは酔っ払って泣きじゃくる私のせいで

滅茶苦茶だった


何が哀しいのだろうか

ヒロミちゃんがこんな暇な時にも

マイペースだった事か?

それとも無理してボトルを空けようとした自分が

はしたなくて惨めに思えて来たのか

そのどちらでもない

私は酔うと泣き上戸になると言う事を

その時、初めて知ったのだった























コメント
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