女装の目覚め

夜中に雨が降ってたようだ

カーテンは閉めていたが窓は開けていたので

ポツポツと雨音らしき調べが聞こえていた


いつもの月曜日と同じ様に１０時過ぎに起きた

カーテンの向こうが薄暗いのでお天気は悪そうだ

大急ぎでお洗濯を始める

玄関の横の小窓から下を見ると道路が濡れている

さっき点けたテレビが天気予報を伝えている

「はっきりしないお天気で時おり激しく降る事も…」

お天気お姉さんの声は

洗濯機の音と微妙に絡み合って

「早く洗濯済ませなさい」と言ってる様だった

今週辺りから関東地方も入梅なのだろうか

雨が続くとホントに憂鬱だ


こないだムックに行った時

６月９日は“ムックの日”でキャスト全員コスプレだと聞いた

余分にコスチュ－ムを仕入れるので

ゲストの分もあるとの事

オカマバーに来るお客様は自分も女装したくなるらしい

これまで私が働いて来たお店には

必ず余分にカツラやドレスが用意してあって

お客様を変身させる事が多々あるのだ

また、お客様の方も目の前のオカマを見て

「オレが化粧した方がずっと良い女になる」と

妙な自信を持って女装に挑むのだ


ある日のこと

団体でお見えになったガテン系のグループ

みんなガッチリ型、色黒でひげも生やしていて

見るからに男臭い

その中で一番若い１９歳の彼が

周りの先輩たちから「オマエも化粧してもらえ」と冷やかされている

彼は男っぽいタイプだが他に比べやや細身で

顔立ちも古いタイプのアイドル顔だった

「アンタ、フォーリーブスのおりも政夫に似てるわ～」

とサナエさんが叫ぶ

「誰それ？」

ガテン君たちは３０代前半が殆どなので

おりも政夫を知らないのだ


早速メイク道具を用意して

嫌がるおりも政夫の顔にファンデーションを塗りたくる

若いので肌がプルプルだ

大きな瞳に長い睫毛

メイクをしながら若い子ってホントにキレイねえと羨ましくなる

ピンクの口紅にグロスを重ねて終了

ロングのヅラを被せたら早見優みたいな感じに仕上がった

「あら良いじゃないの！このままウチで働きなさいよ」

ヒデミさんも絶賛している

楽屋の奥からフリフリのドレスを引っ張り出して来て

おりも政夫に着させる

細身だが脱ぐと筋肉が発達していて

袖の付いたものは無理だった

仕方なく肩ひものイブニングドレスに変更

顔は早見優なのに格好は青江三奈だ


先輩たちは写メを撮りまくっている

羽根のストールも巻きつけて

一段とオカマっぽく演出した

「オレくせになっちゃうかも…」

フラッシュを浴びながらおりも政夫はポツリと本音

「そうよ、クビになったらウチに来るのよ！」

サナエさんがワルノリする


ムックの日は果たして何人の男性が

華麗に変身して女装に目覚めてしまうのだろう