リッスン・トゥ・ハー

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梅食い地蔵2

2006-12-31 | リッスン・トゥ・ハー
呼び鈴はピンポンピンポンピーーーーーンポンと規則的に鳴る。押しかたに癖がある。これが地蔵のやり方、なので、私は迷うことなく玄関に向かい、しもたファンデーションを塗りたくらなくちゃ、マスカラや口紅や、爪の手入れだってしてないやん、ちょっとまってください地蔵さん。ピンポンピンポンピーーーーーンポン。それにこんな、スケルトンネグリジェ姿やわあ、あかんわあ。ほれられちゃうわあ。すいません嘘つきましたジャージです。学校指定ジャージです。アディダスラインをパクった感じの学校指定ジャージです。楽なんで使い続けてます。ピンポンピンポンピーーーーーンポン。はいはい。今いきますよ。今いきますよ。速攻で取り繕う。そして、蛍を見に。おトイレットですね。をすませまして、そら、マナーですから。ピンポンピンポンピーーーーーンポンピンポンピンポンピーーーーーンポン。間隔が狭まっている。まずい、そろそろ地蔵の我慢の限界か、ああ。地蔵が怒ったら怖い。ピンポンピンポンピーーーーーンポンピンポンピンポンピーーーーーンポン。地蔵は小動物とかを平気で鬼に指定する。そんで逃げ去って、夕暮れまで捕まらずにそのまま家に帰ったりして、小動物は探し続けてて、かれこれ20年ですか。まあ、そういう悪質なのです。ピーーーーーンポン。

全部後回しにちゃいな勇気なんていらないぜ2

2006-12-30 | 東京半熟日記
(沖縄編28)

名前は忘れました。

立派な看板や、案内図なんてどこにもなくて、でもるるぶにはちゃんと書いてあったからきっとあるはずだから、とか誰もがそう思ってて、正直わたしはどっちでもいいと思っていたけど、みんなが妙に真剣だから言い出せなくて、でもそういう感じがわたしは好きだから、あえて言い出さなかったのです。

詰まれた岩が織り成すハート型。ここも城跡。なんとなく、そんな気がする入り口っぽいよここ、とたどり着いた。ワンボックス軽が停まっている。中に人が乗っている。おじいちゃんとおばあちゃん、わたしは草むらをずんずん進む、城に登ろうとする。と何か声をかけられる。「ハブがでるからくさむらあるいたらあかんよ」という意味のことを沖縄の言葉で。「あ、ありがとう」と先へ進む。雨が降ってくる。ずいぶん険しい道だった。城の本丸の入り口がハート型。ほんまや。
中に先ほどのおじいちゃんとおばあちゃんの連れでしょうか、おじいちゃんおばあちゃんらが3人、ござを引いて座っている。お供え物を供えて手を合わしている。地元の人なんだ。ここは、わたしみたいに興味本位で来る場所じゃないのかもしれない。本当に神聖な場所だから。祈りを捧げるために、定期的に登っているという感じ。「こんにちは」と声をかけて見る。本来わたしはそんな気軽に知らない人に声をかけるような陽気な奴じゃないし、でもそういう勇気がでたのはさっき力をもらったから?おじいちゃんが微笑んで、「観光かい?ここは城跡なんだお祈りする場所」と何か説明してくれたけど、風の強いのと、訛りの強いので、半分以上分からなかった。でも、その微笑みが全てを物語っていたような気がする。ここに来てよかったと思った。あなたに、来るな、って言われても。

梅食い地蔵1

2006-12-29 | リッスン・トゥ・ハー
夏。寝苦しいのは暑すぎるからじゃないし、エアーコンディショナーをガンガンに効かせた室内にいると、季節もわからなくなってしまうそれが怖くて、寝苦しいのであって、決して暑すぎるからじゃないし。つうこた暑すぎるから寝苦しい方がいいのかしらん。いいわけなかろうもん。扇風機でかき回しながらエアーコンディショナーは部屋を冷やして、替わりに地球の温度を少し上げる。ああ、今、私、地球に、なんてことしてるんでしょう。オゾン層の濃度をどんどんどんどん薄くして、てオゾン層は関係ないか、温暖化だ、温暖化のほうだ。とにかく地球にとってよろしくないことをしているので、それが回りまわって私に降りかかってくるのです。だから眠れないのです。コンパクトディスクは鳴り止む、再生、リピートで。ランダムリピートで再生。ちきしょ、耳鳴りが止まぬ。コンパクトディスクはロックンロールを叫ぶ、その音が聞こえないほど耳鳴りが止まぬ。耳鳴りと共鳴して脳を壊す。アンドロメダのCPUをジャムセッションに注入し、まだだと思う。私はまだなのだと思う。振動が、コンパクトディスクの音の振動?いや、違う、地蔵の歩いてくる地響きが、床を揺らし、上にあるベッドを揺らし、上にあるシーツを揺らし、上にある尻を揺らし、上にある内臓を、脳を、小指を、意識を揺らしている。地蔵はその頭に傘をかけてやったので、そのお礼にと、色んなもんをかついで歩いてくるわけだ。だんだんだんだん近くなる振動が大きくなる。私は確実に揺れている。跳ね上がる。地を揺らす地蔵の歩行が止む。桂木マンション308号室の私の部屋の前でぴたりと止む。そろえたように立ち止まり、呼び鈴を鳴る。はっ?

全部後回しにちゃいな勇気なんていらないぜ1

2006-12-28 | 東京半熟日記
(沖縄編27)

神が置き忘れていった石が寄り添うように重なり合って均等を保つ。

沖縄で最も神聖な場所ともいわれている。沖縄第一の霊場、斎場御嶽(せーふぁうたき)。やはり世界遺産。歩いて山道を行く。やがて突然現れる、剥き出しになった岩が圧倒的な存在感でわたしに向かってくる。わたしの内臓に呼びかけてくる。このちいさな島の裸を見た。岩から垂れ下がるつたが曲がりくねって絡みつく。尖ったつらら、から落ちる水を壺にため、王が飲んだのだという。白装束の女性が裸足で手を合わせては祈る、映像が見えた。

やはり風が強く、葉が揺れる。さやさやがさがさと乱暴に揺らす。突然の静寂。何も聞こえなくなる、どうしてなの。やがて静かに鼓動が鳴る。誰だろう。これは誰の鼓動の音なんだろう。波の音、遠くここまで響いてくる波の音が鼓動のように聞こえる。岩の這う太いつた、地面にめり込んで長く、長く水を吸い上げている。わたしは耳を当てて、つたがそののどを潤す音を聞いてみる。ごおおおおおと唸っている、呆れるぐらい貪欲に彼だって必死なんだから。

寄り添う岩の三角の間を通り抜けるわたしはいつの間にか岩の一部になってしまいそう。岩の一部になってしまった。通り抜けて開いた、海が見えた。潮の匂い。

ここは聖なる場所で、その力をもらったわたしは、いくぶん強くなった気がする。そうだ今なら、強くなった今なら、曙にだって勝てそうだった。さあかかってきな。

音が止む。

朝食のロックンロール

2006-12-28 | 若者的詩作
朝食のロックンロール
朝がくれば紅しゃけをむしゃぶり食えば良い
婆が恨めしそうに梅干を舐めている
もずくを押し込んでやろうか?

屋上のロックンロール
ぶどうパンの中の干しぶどうをひとつ残らずばら撒いて
偉大なる失笑を買えば良い
学級委員は唸るだろう
もずくを押し込んでやろうか?

僕たちのロックンロールのためには
もずくがカスピ海一杯ほど必要さ

やさしさも甘いキスもあとから全部ついてくる2

2006-12-25 | 東京半熟日記
(沖縄編26)

久しぶりの日差しを浴びるような目元の、墓の上に座る猫を見る。
赤いハイビスカスの花が咲き乱れている。

生まれた場所はゴミ置き場で、父親には結局死ぬまでに出会うことがなかった。母親はいつも不機嫌にし、自分が産んだ子猫に対する興味もほとんどないように街をうろついていた。自分以外に興味がないということは野良猫の中では珍しいことではない。まず、何を置いても生きることに精一杯だからだ。それでも、まったく何もできない赤ん坊の頃には餌を与えられたこともあった。与えられる餌はどれもちいさくて腹を満たすことは、例え子猫であろうと、できなかったし、またほとんどが腐りかけていたため、食べることによって身体に与える害は計り知れないものがあった。しかし、幸運というべきか子猫はすくすくと育った。子猫は愛情というものを知らない。半ば自然に、生きるためにすべてを蹴落とす、そういう考え方を持つようになる。子猫が生まれてから5週間が経つ。当然子猫は、時間の感覚が薄く、ようやく5週間経ったか、ということなど考えるはずがないが、もし仮にその感覚が備わっているとすればこういうに違いない、何とか5週間持たせることができた。それほどに過酷な5週間だった。猫は母親にすら敵とみなされ、攻撃された。

つまりそういう、世の中にあるものなら誰にでもあるような筋が、当然猫にもあって、その一瞬をわたしには見えたというだけ。だって、ここ旧海軍司令部壕。小高い丘の上。

(里に下りたお猿の籠は、

2006-12-25 | リッスン・トゥ・ハー
どちらかというとよく揺れる。猿の腕枕で眠ると、強い獣臭やこそばゆい豊かな体毛がいつも近くにあって、でも慣れるとそれほど苦にならない。どころかそれがないと鼻がなにか物足りない。と思ってしまう中毒性を持っている。最初はわたしもどうしても吐き気をもよおして、悪いとは思うけど布団を飛び出して、外でいったん新鮮な空気を吸い、それでも再び布団へ戻ってくる。それの繰り返しで、疲れ果ててようやく眠れるという状態だったけど今は、むしろこの匂いに体毛に包まれないと眠れないまでになった。生き物の慣れとは偉大だと思う。猿は、例えわたしが布団を飛び出しても特に気にする風でもなく、キキ、キキッ、キーと優しく吠えて、そして、わたしがどんなに長い間離れていても必ず起きて待っていてくれた。笑っているように見える。焦らなくてもいい、ゆっくり慣れればいい。今では、わたしのほうから腕枕を要求するようになった、だから、なんとなく嬉しそうだ。猿が寝息を立てる。それを聞いているとわたしはずっと安心できる。これ完全なる未完作で、でもこんな感じで実験的にしてみたら新しい何かが、僕たちの未来に待っているのかもしれないし、諦めたくないから、それだけだから。)

やさしさも甘いキスもあとから全部ついてくる1

2006-12-21 | 東京半熟日記
(沖縄編25)

知っていたんだ、兵隊さんは。全部。

旧海軍資料館から旧海軍司令部壕へ。
背の高い、青い目の異国から来た人々、なぜだか、外国人観光客らしき人たちが多い。気のせいではなく。確実に多い。
狭い狭い壕の中、天井につかえそうな頭。日本人が読む説明文の前を、背を丸めて通り過ぎるとき「エクスキューズミー」がいつまで反響する。
立って眠ったという狭い休憩スペースにも、手榴弾で自決した破片が刺さる部屋の壁にも、つるはしで削った跡にも、汗の匂い黴の匂い火薬の匂い血の匂いそういうものが入り混じった複雑な匂いが漂っている。穴という穴から湧き出てくる。

ここ壕の中。

風。その吹いてくるほうへ駆け出して出口、飛び出す兵隊さんは戻ることなく、海へ降りてく。

進撃を10日止めたものども。たつた10日?いや10日も。
肉弾戦。圧倒的な数の違い。武器の違い。鉄の暴風が吹く。迫ってくる壁のように銃弾が吹く。
首里城に星条旗が掲げられた、という知らせを聞いたミノルは壕の中で米兵の笑顔や陽気な笑い声を想像した。それは自分とそれほど違いのないように思えて、首を振る。いいや違う、根本的に違う、俺とあいつらは違う。少し肌寒くなった。こんなにも汗が噴出しているのに。
カタカタと鳴る、信号は外へ、走る。どこに届いているのか、実は知らなかった。自分が何のためにこの業務を行っているのか分からなかった。

兵隊さんが生きて感じて絶望して爆発した印が刻まれている。

破壊(ふりふりとうずうず)

2006-12-21 | 若者的詩作
ヌンチャックをふりふり
サンオイルをぬりぬり
ただの灰に戻る
夕暮の速度で

ヌンチャックをふりふり
尻をふりふり
ふりふりと灰に戻る
夕暮れの速度で
速度でふりふり
ふっては戻り
戻ってはふり
お尻ふりふり
ふりふりヌンチャックと尻

「あたしがふりふりだから、あなたもふりふりですよね?」
「いいえ、ちがいますわたしはふりふりではありません」
「でもふりふりしてますよね?」
「これはふりふりではありません、うずうずです」
「うずうずとふりふりの違いを10文字以内で述べよ」
「尻痒いうずうず」
「アハン」

ふりふりとうずうず
ふたりは仲良し