リッスン・トゥ・ハー

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身透視型スキャナーDE成田

2010-03-30 | リッスン・トゥ・ハー
見えるよ見えるよ全部全部うひょうひょと嬉々として徳永さんのボディラインを直視。彼女はそんなに性能の良い機械を使っているとは思っていない。だから恥じらいなど全くなくて、何でもないような顔して立っているだけ。それがまたそそられるんじゃに、とさらなる直視、直視に次ぐ直視のために目の奥がぞくぞくと痛み、頭の奥がぼんやりと痛む。徳永さんは何か変だと感づいて、声を荒げる、何か変だ、わたしの身体に良からぬことがおこっているのではないかと訝しがる。ちょっと、係の人のあの顔、まるで犯罪者のそれですよ、ちょっと調べ上げてみてください、きっとよからぬことが発覚するでしょう。わたしはそれを司法に全力で訴えかけ、徹底的にやり合うでしょう。結果的に何も得られなくても、何を失うというのでしょう。その間にも片時も目を離さないように瞬きさえせずに直視ですわ。もったいないお化けは頭の奥でもったいないもったいないとつぶやいている。だから直視から逃れることなんてできないし。こぼれ落ちるエロスを丁寧に拾い集めて、手のひらにほんわりと乗せて、ふうと息を吐き出して飛ばすよ。ほのかなキンモクセイの香りが広がり、なんだかいい気分になる。そのいい気分が気に入らない徳永は、それならいっそと、服を脱ぎだすよ。どんどん脱いで下着姿になってしまった。これを直視しなさいよ係の人よ、といわんばかり胸を張ってみる。だが、係の人は機械を通してみることに情熱を注ぐ性癖であるので、実際に下着姿だろうが全裸だろうが関係ないもんね。いわんばかりに依然モニターを直視。滴り落ちる徳永さんの汗。

Smuggling 'ring leader' held

2010-03-27 | リッスン・トゥ・ハー
花を飾ります。部屋が華やいできます。待っているとあの人はやってくるのでしょう。わたしは次に料理を作ります。ちょっといつも作らないような凝った料理を。とんとんとたまねぎを細かく切っていますと、目がしみてきて、痛くなる。痛くなるのですがそれで怖じ気づいて切ることをやめてしまえば凝った料理を作ることなどできません。ひるんでいるひまなどわたしにはあろうものか、叫びます。叫んで、マンションのわたしの部屋の隣の住民にどん、と壁を殴られてひいっとちいさく悲鳴を上げます。少し静かにして落ち着いてからもういちどちいさく、やるぞ、いいます。そしてたまねぎを再び刻みはじめます。しゃくしゃくと微塵にしていきます。できるだけ細かい方がいいとわたしは思います。そのほうがたまねぎ感がなくなるし、何か手間ひまかけているような気がするしたまねぎを微塵にすることはなんと気持ちのよいことでしょうか。このたまねぎに対する圧倒的な支配感。病み付きになりそう。そこに調味料を加える、とレシピに書いてあるのでその通りにしてみます。しゃくしゃくと混ぜます。混ぜて混ぜて混ぜているとぐるぐるの渦がひとりでに動き出して、竜巻がおこります。竜巻は次第に強くなり勢力を増し、部屋中のあらゆるものを飲み込んでいきます。わたしの勝負下着や食器類、本やDVDや服や、家電一式、空気、全部全部のみこんで一大勢力となったわたしの部屋の竜巻は部屋を破り捨てて、マンションを飲み込み、まとめて天へ。

キャ♥バ♥クラ

2010-03-27 | リッスン・トゥ・ハー
ユニオンは立ち上がった。キャバクラ嬢の境遇を改善するためによいっしょと立ち上がって大きく息を吸い込んだ。これから大変になりそうだから、まず王将で腹ごしらえでもしようと立ち上がった。ユニオンは家臣の橘に声をかけ、ともに王将に向かう途中、老女とすれ違った。老女はシワに覆われていたがそのシワのはてから見る素顔にはきりりとした線が感じられ、おそらく若い頃はぶいぶいいわせたであろう片鱗がかいま見れた。ユニオンはとっさに声をかけようと、振り向いた。なんでもいい、どこかでお会いしたことがありませんでしたか、ぐらいでいい、とにかく何か老女と話してみたかった。自分が立ち上がり今から交渉する何か良い材料がつかめるかもしれない。ダカラ振り向いて声をかけようとしたら、いなかった。老女はいなかったんだよ。ユニオンは震え上がり、王将にいくきもうせて、座り込んだ。橘がいくらはやく王将に行きましょうと引っぱっても頑として動かず、いやだよいやだよ、とだだをこねはじめて、ママの元に駆けてった。

爆弾発言

2010-03-27 | リッスン・トゥ・ハー
これは爆弾発言である。
紛れもなく爆弾発言であり、さらに言うならば実際上の意味からも爆弾である。
彼が発言した直後に半径2km範囲内生存率は2%という数値として現れている。
なにが起こったのか、それを説明するには随分さかのぼらなければならない。
そして正確に記するためにあえて、関係のないことも記述する。一件関係のないように思えても後で考えてみればつながっているということは往々にしてあることである。
まず、そうだね、あらためて考えるとふと何も記述することはないような気がする。ゆっくりと思い出す。コーヒーを飲もう。落ち着いて考えなければ何も思い出せないし、何も出てこない。あせらずにコーヒーを飲もう。
湯を沸かし、豆を挽いて香ばしい匂いは部屋に広がる。
いや、コーヒーはここには存在しない。
ここは爆発で吹き飛んだ半径2km内である。
では誰が存在するのか。誰も存在しない。幽霊のようなものか、と思ってもらいたい。幽霊はこの世に存在する、意識のようなものはゆらゆらゆれて具現化する。それをみなは幽霊と呼んでいるだけで、不思議でもなんでもない。怖がる必要もない。
幽霊のような存在は普段、人間の目に見えない。
ふとした瞬間に現れるから驚き時に心肺停止に追い込んでしまうが、いつもいるのだ。
やってきたという印象を与えてしまう原因は見えないことだ。
こちらからは見えている。もちろん、ぜんぜん見えている。
見えたところでなんということはない。はっきり言えば、人間が想像する透明人間のような存在にはなりえない。あれは人間が想像するから楽しそうなのであって、実際、最初から見えないでいるものはたくさんあるが、その誰一人として楽しいということはない。あくまでも想像上の産物であるから楽しそうな気がするだけである。
彼のことから話そう。
彼の名前は知らない。語り手として都合上、三毛と名づける。が、猫とは全く関係がない。ただ三毛猫が通り過ぎたので、そう名づけただけである。
名前を与えたほうが、物語が具体的になって親しみやすくなるはずだ。
そうでもないかなら、適当に好きな呼び方に変えればいい。どちらにせよ、三毛はもう少しで大人になるころ、思春期を向かえて、異性に興味を持ち始める時期にいた。
三毛は孤独であった。
人のぬくもりなど要らぬ、と突っ張っていた。それが自分を築き上げる要素であると信じていた。そうして三毛は寄ってくる三毛猫の首を折っては日々を暮らした。
三毛猫と表現したが、実際に寄ってきたのは、猫ではなく、若い女であったが、やはり名前も知らないし、都合上若く魅力的な女はここでは三毛猫と表現させてもらう。
三毛猫はどこまでも三毛猫であった。
何度首を折られようが関係ないとばかり三毛の気を引こうとした。
三毛は異性にもてた。それはそれはもてた。間違いなく東洋一の美男子で、いや、東洋と西洋を合わせても一をもぎ取る荒々しさをかねていた。
だから三毛猫は絶えず彼のもとを訪れては首を折られ、よだれをたらして、燃えた。
首を折ると音が鳴った。音は響いて、空の向こうまで届いた。向こうにあるものはなんだったろうか。と三毛はその音を聞きながら思った。
答えはない。何もでない。しかし探し続けた三毛はやがて、自分も音を出すことができると気づいた。が、それはつまり首を折るということで、折ってしまった三毛猫を見ても、あまり格好の良いものでないし、たとえいい音が鳴ってもその時には既に自分、よだれたらたらなのだから、意味もない、と気づいてやめた。
止めてしまうと、意味は消えた。すべての意味が消えた見事に。三毛は自分がなんのためにいるのか、思い出せなくなった。だんだんと迫り来る三毛猫の数が減ってきた。確実に減っていた。それを三毛は見ようとしなかった。見てしまえば立ち直れそうにない。だからあえて見なかった。それでも、確実に見えていたちらちらと目の端のほうに写った。
三毛はああ、とひとつ鳴いて、ぶらぶらと歩き出した。
そろそろいらいらしてくるのではないだろうか。一体なにを言いたいのか分からないままだらだらと文章を続け、どういうつもりかね、と声を荒げる方もでてくるのではないか。そう思うがしかし、もう少しお付き合い願いたい。さすれば、道は開けてくるであろう。確実に。

北緯60度27分 東経22度00分(365日空の旅)

2010-03-26 | 若者的字引
(トゥルク群島 生成過程の浮氷)

フィンランドの空を飛んでいる。1月8日。白く時に青い氷は鋭いとげを持っているばらである。青いバラはその辺一体に私の身体を突き刺そうととげを突き立ててみる。こちらとてみすみすさされて愛の血を垂らし、徐々に生き絶えることは避けなければならない。私にも家族がいる。世界のどこかで私の帰りを今もまだ待っているであろう家族が。よって、私はその青いバラに戦いを挑みにかかるのだ。さあ威勢良く雄叫びをあげて鎌を振り上げ、バラのとげをそぎ落としてしまおうか。それとも強靭なそのとげは私の鎌をつかみ取り、逆に私の柔らかい部分へ食い込ませてしまうのか。そうすれば私は絶叫し、血を流し、息絶えてしまうであろう。なんということか、私の命はすでに時間の問題であり、いずれにせよ、息絶えてしまう。しかし、それもまた人生、と割り切るだけの度量を持つ私に今日も乾杯。

ボディペイントをする女アザラシ

2010-03-25 | リッスン・トゥ・ハー
くうくうないている、声は天を貫き世界をわける。わけたらでてきた黄身はじゃぼんと地面に落ちてきて一面を黄色に変えた。アザラシは乙女で、人間にしてちょうど20歳、ほてった頬が愛くるしい年頃。ひげをぴんと伸ばせば文明開化の音がする。彼女は落ちてきた黄身を身体に塗りたくり、モンシロチョウの絵を描く。東京ドームにして8個分ほどの大きさの黄身だったから、すでに彼女も黄身色に染まっていたわけであるが、それでも何かを探しているように自分の身体にモンシロチョウを描いている。一心不乱。生物はすでに窒息してしまった大半、息をするのは彼女と空の太陽と、吹いて北風さ。彼女はやがて綺麗な(と思われる)モンシロチョウを一羽描くことに成功し、満足感から睡魔が鈍器で殴り掛かり突っ伏して寝る。眠ってしまったアザラシの彼女のちょうど右の脇腹の部分とまったモンシロチョウ、羽を広げて、彼女が眠っている好きにはたはたはばたいて、少し強い北風がぴゆうと吹いてきたその瞬間に飛び立つ。青い空に黄色のモンシロチョウははたはたはばたいて、わたしはそれを虫網でおいかけたのです。

南緯22度03分、東経17度02分(365日空の旅)

2010-03-24 | 若者的字引
(ダマラランド地方 日没後のスピッツコッペ山)

ナミビアの空を飛んでいる。1月7日。山は赤く、私は日没後の青白く暗闇がむこうから押し寄せる空にいて、山の頂上、その先、尖ったところに目をやる。大きな岩のようなその山は、うねっていて所々崩れている。ぼろぼろと落ちていく岩のかけらはやがて転がり角が取れて丸くなる。丸くなればつみ上がることなく、柔らかい土のようにほろほろとそこにある。ああ、赤いその土の毛布に滑り込み、朝が来るまで眠り続けることの幸福はいつ訪れるのであろうか、私は嘆いてみせるが、実際損なことは全く思っていなくて、時間さえあれば空を舞い、世界の各地の姿を見ていた方がいくらか有意義で私に合っている。だから私は幸福のため息をそっと、尖ったその山の先端にむけて吐いたのだ。

女より仕事に打ち込め。だが、本は読み続けなさい

2010-03-24 | リッスン・トゥ・ハー
それはちょうど5月の連休が終わり、みんな仕方なく仕事にでてきて熱いお茶を煎れてずずずずと惜しむようにすすっていたとき、西田くんは言い出したのだ。西田くんはまだ20代の半ばこの仕事をはじめて4年、普段はおとなしく滅多に口を開かない、無駄口も叩かずじっと仕事に集中して、しかし相づちは打ってくれる。目立たないけれど妙に存在感がある私の部下である。何の脈絡もなく、女がどうこう言った話を誰かがしていたわけでもないし、本の話をしていたわけでもない。だから一瞬、西田くんが何を言っているのか理解できずに、誰も何も言わずぽかんとして、お茶をさらに一口飲む音がオフィス中に響いたのだ。不況を受けて新人の採用をひかえている我が社で、西田くんは最も経験の浅い、みなの後輩ということだったから、敬語を使わない西田くんを見るのも初めてで、戸惑ったのだ。次に口を開いたのは西田くんにいちばん近い新婚ほやほや木本さんだった。「え、何?どういうこと?」「女より仕事に打ち込め、と言ったのだよ」「言ったのだよ、ってあんたその口のきき方なんなのよ?」「女なんて淡い幻みたいなものだから、幻を追い求めるよりは現実の仕事に打ち込んだ方が自分のためだよってこと」「いや女は幻でもないし、その口のきき方、あたしに言ってるの?」「いや木本さんだけじゃなく、この場にいるものすべてに、本はよみ続けなさい」「ちょっと、冗談にしてはタイミングやワード選択で誤ってるから、今のうちに気づいてよかったじゃない」「黙ってくれますか木本さん、そしてその糞尿のような香水の匂いを今すぐ消してください」糞尿あつかいされた木本さんは顔を赤くして叫んだ。「あんた、それが冗談でないならでるとこでるわよ、覚悟しときなさい」みんなあぜんとなったよもちろん。西田くんはそんなに勇気を持っている人だったなんて、みんな心の中で拍手をしたよ。だって実際木本さんの香水は糞尿の匂いがしていたから。その後木本さんはオフィスから出て行ったよ。西田くんはまだしゃべっているよ。訳の分からないことを。結果オーライってこういうことじゃない?