昭和５５年／下半期／直木賞

（中村正軌作／元首の謀叛／一行目は）

―マンホールの内側についているタラップを昇り切り、タイル貼りの床の上に這い上がった中尉は、背中のエアタンクをおろす前に、帰路に要した時間を確かめるために腕時計のガラスに付着している水滴を拭った。―

陽気に笑うミッキーのイラストに、思わず顔がほころんだ。

平成１年／上半期／直木賞

（ねじめ正一作／高円寺純情商店街／一行目は）

―江州屋乾物店の一日は、かつを節削りから始まる。―

そして、ビーチバレーボール大会を経て、かつを節削りで終わる。

平成１５年／下半期／芥川賞

（金原ひとみ作／蛇にピアス／一行目は）

―「スプリットタンって知ってる？」―

「酢こんぶのドイツ語でしょう？」

平成４年／上半期／直木賞

（伊集院静作／受け月／一行目は）

―「この歳になりまして、あなたの朝帰りの理由がようやくわかりました」―

太陽、だったのですね？

昭和６０年／下半期／直木賞

（林真理子作／最終便に間に合えば／一行目は）

―その疑いは、男がサラダに手をつけ始めた時からすでに生じていた。―

こいつ、白のソックスしか身に付けていない、と。

平成５年／上半期／直木賞

（北原亞以子作／恋忘れ草／一行目は）

―雪もよいの空のせいで人手が少ないのだろう。―

エレクトリカルパレードはミッキー、ミニー、ドナルドの３人だけだった。

昭和６１年／下半期／直木賞

（逢坂剛作／カディスの赤い星／一行目は）

―その朝、わたしは社長室のデスクにすわり、ディクタホンのマイクに向かっていた。―

これで口ひげさえあれば、まるで社長だ。

昭和２７年／下半期／直木賞

（立野信之作／叛乱／一行目は）

―はげしい演習だつた・・・臭かつた。―

気づいたら涙が出ていて、俺は泣いているのか、とおもつた。

昭和５８年／上半期／直木賞

（胡桃沢耕史作／黒パン袢虜記／一行目は）

―ぼくの二十歳の誕生日は、当人が思い出しもしない間に過ぎてしまった。―

ですからみなさん、ぼくの財布には若干の余裕があります。

昭和５８年／下半期／芥川賞

（加藤幸子作／夢の壁／一行目は）

―夏になってから、雨は一度も降っていない。―

だから身体が洗えないんだ、と保くんは訴える。

昭和３３年／上半期／直木賞

（樣葉英治作／赤い雪／一行目は）

―終戦の年（一九四五年）―の十一月初めのことである。―

狼少年、始動。

平成１年／下半期／芥川賞

（瀧澤美恵子作／ネコババのいる町で／一行目は）

―今度はとうとう叔母が死んだ。―

そして明日朝にはまた生えてくる。

昭和６２年／上半期／直木賞

（山田詠美作／ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー／一行目は）

―アイダたちにとって化粧室に行くということには重大な意味がある。―

そこには「運」がある。

昭和４５年／下半期／芥川賞

（古井由吉作／杳子／一行目は）

―杳子は深い谷底に一人で坐っていた。―

これが放置プレイというやつか、とつぶやいた。

平成１５年／上半期／芥川賞

（町田康作／きれぎれ／一行目は）

―無数の大黒天吉祥天女が舞い踊っている。―

無数の大黒天吉祥天男はその輪に加わりたくてうずうずしている。