リッスン・トゥ・ハー

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椎名林檎のCDは何故売れなくなったのか?

2009-12-31 | リッスン・トゥ・ハー
林檎は娘である梨にご飯を食べさせなければならないから、CDを売らなければならない。売るためには何をすべきか考える。東京事変のメンバーが揃ってガストに集まる。いかにしてCDを売るか考える。例えば、ドラマのテーマソングにしてはどうだろう。CMにつかってみてはどうだろう。どれもいままでさんざんやってきたことだ。その一歩先が思いつかない。ジャケットを印象的にするなんてどう、という方法もある。肌の露出を増やして、男性ファンを喜ばす。それもやってきた。ふんぬ、歌詞と工夫してはどうだろう。歌詞、いややはりいままでに奇抜な風でやってきた。手売りはどうでしょう、まだ林檎であれば目を引くし、ずらずらと行列が300mぐらいできるかもしれない。それをマスコミが取り上げたら、さらに行列は長くなり、500m、1000m。そのうち並べばご利益がある、という域まで達する。あの行列は何だい?ん、知らねえ、でも並んどいて損はないんじゃないの。団子屋、宿屋もできる。先に到達するのに5日かかるからね、ずらずらと行列に並ぶだけの人生を送る子ができる。とうとう先に達することができないまま人生を終えるじいさん。はい、並んでかれこれ5代目です。そのころ先にいるのは仏。

龍馬居酒屋

2009-12-31 | リッスン・トゥ・ハー
ラッシャイ、とは言わず、よくきたな、と店員は出迎える。さあ、こちらへ、と席へ案内する姿は維新の士。まあ、飲め、と有無を言わさず酒をつぐ、冷や酒である。ぐいっと飲み干すと彼は話しはじめる。たいていは昨日の出来事とか、仕事中におこた他愛のないことだけれど、その話し方はまるで明日の日本を思って夢と希望に溢れている。時々、じゃけんのう、と挟むのも忘れず、さつま揚げも勝手に持ってきてつまみながら。客は最初の冷や酒以外口にすることはできない。口にしようものなら彼は、まだ人の話がおわっちょらんのに、なんね、と不機嫌になる。腹が減っとるのか?と聞いてきたらラッキー、うんうんとうなづけばその食べているさつま揚げをちぎり、ふん、と渡してくる。それを食べればいい。長い話が終わり、わしは小便にいってくるでのう、をきっかけにして、自由に注文すればいい。そのあと彼が来ることはない。もし来るとすれば、それが文明開化じゃ。

女優・桜井幸子

2009-12-30 | リッスン・トゥ・ハー
幸子は服を脱ぐ。するするするとあっという間に着ている服を脱ぎ、下着姿になる。下着はあらかじめスタイリストによって渡されていた黒のレース、大人っぽい下着である。幸子の白い肌によく映えている。では、いきます、という声がなければ誰もがその姿に見とれていたことだろう。女も例外でない、それほどまでに彼女は美しかった。かけ声がきっかけになって、現場が動き出す。カメラは回り、照明はごく自然に映るように調整される。幸子はしゃべりだす。「いい?あたしがもしもいまここで全部脱ぎ捨てたとしたらどう思う?何も言わないとわからないでしょう、何か言いなさいよ。いいわ、黙ってなさい。意気地なし。あんたなんか知らないわ」幸子は吐き捨てるように言う。相手の俳優は何も言わない、それもそのはずである、相手はぬいぐるみである。ぬいぐるみのプーさん相手に幸子は演技を続ける。「でも、あんたがただのシャイだってことは知ってる。いいわ、シャイボーイのあなたにあたしが教えてあげる、たっぷりとね」幸子は下着に手をかける。するするするとあっという間に脱いで、凛と背筋を伸ばす。つばを飲む音。ぬいぐるみは何も言わない。何もうごかない。「さあ、いらっしゃい、甘い世界を教えてあげるわ」その時である、ぬいぐるみはぐぐぐと揺れて上体を起こした。ゾクリとなる現場、ぬいぐるみはゆっくりと幸子に近づく。幸子は何が起こっているのかわからない。誰も止めず、ぬいぐるみは毛布を幸子にかけて、その頭を撫でる。ゆっくりとゆっくりと。幸子はいつしか泣いている。彼女が女優をやめたのはその3日後だ。

軽やかに脳、空へ

2009-12-29 | リッスン・トゥ・ハー
すごいスピードで計算をしている、計算博士と呼ばれている、目にも留まらぬスピードである、1+1が26万ぐらいになってる、だけど誰も指摘できない、すごいスピードで計算してるから、計算博士に遠慮してる、博士自身も気づいてる、自分が適当に鉛筆をうごかしていることを、計算をしているわけではないことを、どっちかというとダンスをしていることを、リズムは極限まで早くなる、だから計算するどころでない、だけどやめることはできない、だって計算博士だから、背中を押す人々がいる、人々は計算博士を尊敬している、痛いほどの期待がのしかかっている、博士はつぶれそうになる、なにくそわしは博士だぞいとつぶやく、そうするとなんでか少し勇気が出る、ただの錯覚、それでも納得、錯覚で何が悪いか、錯覚で誰が困るか、博士は計算をする、1+1は「強い気持ち、強い愛」になってる、だけど誰も指摘できない、すごいスピードで計算してるから、博士の脳、すごい回転して、くるくる浮かび上がる、空へ。

寝仏さんもすっきり

2009-12-28 | リッスン・トゥ・ハー
寝仏さんはあくびをかみ殺して手を伸ばし、転がっていたまんじゅうをつかむ、そそくさと口に持ってきて食う。くちゃくちゃ音を立てていかにもきたならしい、しかし仏だから誰も何も言わない、注意などしようものなら自分に不幸がもたらされるかもしれない。現にたまりかねて去年、それはどうかと思いますよ、などと指摘した男は今年の夏にたちの悪い風邪をひき、未だ鼻づまりのずるずる状態で、医者お手上げ。まるでお手上げ。それが怖いから黙って見ている。くちゃくちゃいわせながら寝仏は、もうひとつまんじゅうをつかむ、強く掴みすぎて餡でてるし。その餡へアリンコは群がる。寝仏はおう、咀嚼も面倒くさいといった風で、瞳を閉じる。閉じてゆっくり息を吐き、自分が起きていた頃のことを思いはせる。自分は端正な顔立ちだからけっこう女子仏にもてたし、それなりにぶいぶいいわしてきた。あの頃はよかったなあ、とつぶやいてみる。そんなことはないですよ、とすかさず人々の代表、長老みたいな人が言う。いまの姿、シアワセそのものですよ、うらやましいまったく。そう?そうだよね、と仏、すっきり、アリンコに餡を全部やって、眠りに落ちる。

TEENAGER/フジファブリック

2009-12-27 | 若者的図鑑
ボーカル/ギターの志村さんが突然亡くなりました。

大好きなバンドではありませんが、妙に気になるアイツみたいなバンドです。
音楽シーンでここだ、という誰もいない場所にすとんと収まっていて、これからも数々の名曲を残していくはずだったのでしょう。

若者のすべて、がいい曲で、こんな曲も書けるがあえてそのつぼは外して突き進むぜ、という感じが全面に溢れててかっこいい。
才能でしょう、ひねくれたこと信じて突き進むのよ。
なんででしょうね、運命って皮肉や。そんなそぶり全く見せてなかったのに、ずっと続きそうで、やれやれまったくしょうがないんだから、とため息をつくはずだったのに。

ご冥福などお祈りしない。お祈りしてどうなるものでもなし、その音楽を大音量で流しましょう。
大丈夫iPodでイヤフォンをつけてればどんなに大きくしてもご近所迷惑なることはないし、

いつか、岸田さんや曽我部さんが亡くなったときにやはりご冥福など祈らない、ひっそりしとしととわたしは泣くのでしょう。

昭和42年/下半期/直木賞

2009-12-26 | 二行目選考委員会
(野坂昭如作/アメリカひじき/一行目は)

―炎天に、一点の白がわきいで、あれよと見守るうち、それは円となり、円のまんなか、振子のようにかすかに揺れうごく核がみえ、一直線にわが頭上をめざし、まごう方なきあれは落下傘、にしてもそのわきいでた空に、飛行機の姿も音もなく、はて面妖なと疑うより先きに、落下傘は優雅な物腰で、琵琶、白樺、柿、椎、百日紅、紫陽花、と気まぐれな取りあわせの、びっしり植えこまれた庭先へ、枝にかからず葉も散らさず、ふわりと降り立ち、「ハロー・ハウアーユー」痩せた外人、そうパーシバル将軍に似た毛唐が、にこやかにいった。―


橋田先生もう限界です。


ワルツ・フォー・FFXIII

2009-12-26 | リッスン・トゥ・ハー
彼女は踊っているような動きで鎖がま振りかざして、歌声はこの喧噪の中でも確かに響き渡る荒野。その歌声を聴いて敵はしばし安らぐ、朽ち果てる前の休息を彼女はくれてやるのだ。彼女が近づき、我に返る頃にはもう遅い。その鎖がまが肩から腹にかけてぐさりと食い込み、内蔵を引き裂く。一瞬、何が起こったのかわからない。鋭い痛みは遅れてすぐにやってくる。敵の叫び声がこだまする荒野。彼女は返り血を受けて、艶かしい。露出度の高いその衣装は赤く染まる。頬に付いた血を拭って舐める。固唾をのむ他の敵、あるいは彼女に殺されるのならばまだシアワセかもしれないと考える。と、その瞬間に、屈強な男が、やはり露出度の高い衣装で、ふんふん鼻息を荒くしながら迫ってくる。嫌だ嫌だ、あんなおっさんにやられるのは嫌だ、と引く。が時すでに遅し、おっさんは敵を掴むとその凄まじい力でもいでいく、どんどんどんどんもいでいく。もがれた敵は悲しみとともに絶命。その最後の瞬間に、彼女は歌いだし、魂を浄化する。あるいはシアワセかもしれない。