リッスン・トゥ・ハー

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偽造ハチミツ

2009-05-29 | リッスン・トゥ・ハー
蜂蜜というのにそれは全く甘くなかったそもそも。だから新製品として小売店は受け入れた、というか味見なんてしないしね。当たり前のこととして蜂蜜としてそれを店頭に並べたわけだ。そこに何の罪もない、第三者だから逆に問いつめても仕方ないし、それは守られなければならない善意の第三者として。だから気づいたのは最初に食べることになる消費者であった。消費者はバターたっぷりぬったトーストにたらし、さてさてあたしがたべてやろうかねえこのこをぬふふ、とばかりかぶりついて仰天、甘くない蜂蜜やぞ、なんで甘ないんや、と激怒した。その時のエピソードは別の話として、甘くないということに慣れればそれはそれ、日本人争い好まない、といわんばかりにセレブは使い始めた。セレブはおとなりさんが使えば、後れをとってはならぬと小売店に走り購入、その連鎖が大ヒットを読んだ。ネオ蜂蜜、いつからかそう呼ばれるようになった。偽造だとわかっても、だから何?とノ反応であった。なんてことないよねっ、みんなも気をつけてねー☆

sounan

2009-05-28 | リッスン・トゥ・ハー
いいか、動けないんじゃない、動かないんだ。俺がこの雪山の中腹あたりでうずくまっているのは、体力の低下やてい体温から動けなくなったわけではなく、動けるけれどあえて動かない大人の余裕をみせているだけだ。そこんとこちゃんと押さえてて、でないとただの迷惑さんに成り下がる。俺はまだ迷惑さんじゃないから。いや、きたのなら連れて帰ってほしい。そんな目をしないで、受け止めて、もっとどん欲に受け止めてほしいし。ほらそんな目をしては行けません。遭難者がっかり。強がりという意地じゃないか、ただの意地でいってみただけなのにそんなに真剣に怒ることないじゃない。幻覚、これもあれもみんな厳格ここでは何でも起こりうる。だから気にしないできっとわかる時が来るはずこの気持ち。待って!ほら待って希望さん、僕の希望が逃げていく。どうもすいませんでした許してください!

スパイダー/スナイパー

2009-05-24 | リッスン・トゥ・ハー
不思議な力を信じますかといわれたので信じますと即答した。
と同時に酷く後悔した。スパイダーマンの覆面を被せられたからだここはデパートの屋上で、幼い子どもの遊戯やら無人のポップコーン売り機が並んでいる一角。やれやれと私は腰をおろし、うつらうつらいつの間にか眠りに落ちていたところ、妙な夢を見て、それが良く思い出せないが、とにかく妙な夢で、半信半疑のまま、その声に起こされたのだ。にもかかわらず、即答してしまったのはその妙な夢でそのような力を見たような気がしていて、それでこれはまだ夢なのだと自分に言い聞かせていたためだ。
被せられたスパイダーマスクは熱く、燃えていた。何か成し遂げても良さそうな気分であった。声の主、顔は見ていない、目を開ける前にマスクを被せられ、そのマスクは一般のものでなくスパイダーマンのものであったから、目の部分が開いているのではなく、ぴっちりと押さえ込んでくる力をこの眼球に感じるのだ。
実際には見えていないわけであるがしかし、そこにあるものはわかった。なんというかあらゆるものに熱を感じた。その熱により、把握できる。不思議な力といって良さそうだった。こういうものか、と私は自分を納得させた。そうすると今度は非常にレアな体験をいましているわけだ、と小躍りになりがち。
とかいうてると指示をされた、「君はすでにスパイダーマンなのだから不思議な力をもっているわけで、その力を我々に貸してほしいのだつまり、壁伝いに降りて、窓から侵入し、現金を持てるだけ持ってくるという簡単な仕事だ」
その声に従ってうっひょーい。スパイダーマンだうっひょーい。

俺、水族館生まれ、水族館育ち

2009-05-23 | リッスン・トゥ・ハー
ひゆうどすん、と産み落とす、たたきつけられた赤ん坊は脳を揺らされ、それで産声を上げるるどあああ、るどあああ。シャチは二足歩行の体勢から、ようやく座る。そこにはやり遂げたものの満足そうな表情があった。赤ん坊は相変わらず産声をあげたままであるが、早くも目を開けて、この現実を把握しようと努めている。情報処理能力が高い。自分を守ってくれるもの、自分にとって害になるもの、瞬時に判断し、自分が今とるべき行動を探している。それは産声をやめるタイミングを計るということであった、何かきっかけを探している。飼育員が近づいてきた、いまだとばかり突然赤ん坊は泣き止む、シャチは昔を思い出す、自分も、この場所で産み落とされ、同じように泣き止んだ。だから目の前にいる赤ん坊が自分の子であると改めて思った。飼育員は赤ん坊をたわしでこすりはじめる。そうだ、そうやって血を洗い流して、はやく客の前にださせたいから、待っている多くの客の前に出したいから、たわしは使い古しでいくぶん柔かくはあったが、癖がついており、それが妙に痛い、赤ん坊はごしごしやる飼育員が憎たらしくて仕方がない。

解放のトラ

2009-05-20 | リッスン・トゥ・ハー
放った。交差点にはちょうどそれが昼過ぎで、片田舎で、急速な過疎化の進む土地であったため、悲鳴やら、驚く人はいなかった。かろうじて、交差点沿いにある定食屋のアルバイトが、肝を冷やしたあと、いやこれは現実なんかではないからと自分を納得させ店の奥に引っ込んでいった。虎は吠える。店主に説明した所で決して信じないだろうことが予想できた。アルバイトはうわごとのように虎虎虎とつぶやいた。と、その音を店の有線放送のアンテナがキャッチした、そして光りの速度で広がるトラとラトら、張り巡らせたスパイ網、受信した米兵は、立ち上がった「作戦だ」虎は吠える。交差点は静か。

縮小する脳

2009-05-19 | リッスン・トゥ・ハー
縮小の一途を辿る脳はすでに、ミミズほどの太さ、長さで頭部にぐるぐる渦巻いている。長く細く、生きるためにありとあらゆる手段を探し続けた半世紀、脳だってそのように変化しても不思議でない。脳はうごめいて、頭蓋骨にぶつかる、ふるふるとぶつかり、また新たな渦を織り成す、ために、突き進むのだ。一方で確実に縮小している。体積から言えば、すでに全盛期の3分の1ほどになってしまった。それは、思考能力から言えば、致命的な欠陥を与えている。ミミズほどの知能であり、やはり蠢いている。蠢いているうちに自分はミミズなのではないかとの結論に達し、そうではないのにもかかわらず自分を納得させ、ミミズとなる。ミミズは土を吸収し、その中にある微生物を養分として生きる。穴を掘り進み、太陽の光を嫌うようになる。それは巨大なミミズであったが、だんだんと、吸収できる土の量は決まっているのだから、だんだんと小さくなる。やせ細っていくミミズは通常サイズのミミズとなり、ミミズとして生き、たまたま地上にでていた際に、鳥につかまり、咀嚼され腹に収まる。

倍々梅梅

2009-05-17 | リッスン・トゥ・ハー
海は凪いでいた。はたはたと朽ち果てかすかに残る看板はゆれる。梅梅は息をひとつ吐いた。もう言葉を発する事もできそうにない。弱々しく唸るようにぬあん、と息を吐いた。その内臓の匂いを含む吐息は昇っていった。待ちくたびれた子どもはすでにパンダに対して興味を失い、砂浜で駆け回っている。どうしてこの場所を選んだのかといえば、梅梅はこう答える。「足の裏を砂が押してくる感覚、それ最高!」梅梅は最高な状態での死を望んだ。どうせ死ぬのだったら、自暴自棄になる必要もなかった。なぜなら梅梅が望むものはたいてい手に入った。手に入れてくれた、勝手にこちらの気持ちを考え梅梅専用バーなども作られたぐらいだ。様々な国の笹が食えるバーだった。サラダバーにすれば600円お得だった。人気があればいい。それをどう判断するか苦しんだ。まあいい。梅梅はほんのすこし真上を見上げて、自分を溶かす雨の降るのを待っている。

kakurann no oni

2009-05-16 | リッスン・トゥ・ハー
ぼくが悪い子だと言うのかいベイべー。
と裸の女に聞く鬼。牙が埃でくすんでいて、目玉もどろんとよどんでいておくにある奈落からのぞきこむ気配。
女は一瞬、この状況が理解できない。ぽかーん、と口を開け、驚いているような、恐れているような、のほほんとしたような、言いようのない表情をしている。
言葉を喋る鬼、その声は紛れもなく低く男のものだったことを思い出して女とっさに、はだけている乳房を手でおおい、奇声を上げる。くるり振り返って逃げる。
鬼は両手をあげ、布の皮膚をふるふるさせて女に近づく。鬼は酒をたらふく飲んで自我を失っている心神喪失状態である。したがって犯罪として軽いものに分類される。場合によっては厳重注意されるだけかもしれない。ましてや鬼である。法律に適合するというのか。
あくまでも強気なその姿勢は、普段押さえつけている欲望を解放させているのか、本来の姿であるということか。欲望の化身。
女、鬼の中身がただの人間であり、この状況を把握し、とにかくここは逃げておいて損はない。確信して逃げ惑う。
まるで戯事のように繰り返される鬼ごっこをしているうちに、鬼は、複数いる女の内、乳房の大きな女の方に向う傾向があることに気付く。
貧乳の自分はちらりと見る程度その気なし。
となるとなんとなく虫の好かんのにやね、と腹が立ってくる。
よく見ればのろのろ橋って鈍い動き酒が鬼の足に絡み付いて、完全に泥酔状態。乳の大きさは見分けられるが、状況や法律や女の種類年齢などは見分けられないようだ。現に、動きの遅いがヴォリュームのある乳房を持つ初老の女性を追う。ただ特異な性癖のためともいえるが、追いついていざ抱きつくぞという段になって、ひ、と短い悲鳴をあげて方向を変える。
そんなことを繰り返しているうちに、鬼は動いて動いてふらふらになった。ちょっと押せばずでーんと転びそうである。
やってみると見事にずでーん。

係の人呼んだ。

英女子高生が宝くじで13億円

2009-05-11 | リッスン・トゥ・ハー
使い道は何にしよう、とつぶやいてみる。そうすると実感が高まってくるんだ。あたしが当てた13億はすでに換金し現金にして内の中にわんさか。札束わんさか。寝ても覚めても札束、転がり込んで札束、そう、あたしは札束の姫様、頭が高いひかえよろう、姫様であるぞ、ほうら札束で頬を打ってやろう、こそばゆいようにゆっくりと打ってやろう。さやさや、なっている。札束を放る、放物線を描いて札束であることに変わりはなく、落ちる。確認する、やはり札束である。あたしは全く不安にならない。この札束があれば、きっと当分の間遊んで暮らせるし、何よりもてもて、男わいてくる、女わいてくる。よりどりみどり、札束さえあれば救えた命がある。この札束でできるだけ多くの命、助けたい。よし、とあたし、気合を入れて、どれぐらいの札束で助けるのかを考える。2、3束で良いかと思う、十分すぎるぐらいである。そもそも姫やぞ。のほほんと縁側に座って昆布茶でも飲んでいればいいじゃないか。札束の国は業務多し。困ったが、それはそれとして、なせばなる。

バナナ難民

2009-05-11 | リッスン・トゥ・ハー
バナナを求めて西へ東へ、俺たちゃバナナ難民でい。バナナのあるとこ、俺たちがいる。俺たちといったが、実際には俺と、俺のナップサックについているキーホルダーの蛙と、同じくキーホルダーの熊、の1人と2つだが、俺たちであることに誇りを持っているわけであるし、その辺はしっかり考えているわけだからまあ大目に見てもらいたい。バナナ難民とはまた大きく出たものだ、と宮根は言うであろう。確かにバナナごときで騒ぎ立てるほどのものでない、とつい先週の水曜日までは俺も、蛙も熊も思っていたのだ。それがあの瞬間、劇的に変化し、くすんでくすんで背景としてあったあれこれが突然光り輝きだしたかと思えばもう俺の体内に溶け込んでしまい、もうそれはすでに俺の一部である。俺の身体バナナでできている。バナナで構成される身体をもつ俺、に背負われるナップサックについている蛙、そして熊。バナナ難民はとりあえずバナナを頬張りながらそう歌う。

宮城の無人島 ラッコ住みつく

2009-05-11 | リッスン・トゥ・ハー
ラッコは歯を磨く。当たり前の事だ、常識の事だ。食べ物を食べたら、歯を磨く何でこんなに当たり前のことをして、気味悪がられるのだろう、そうラッコは憤慨した。郵便配達員は何度かその光景を目にしているため、もうそれほど驚かない。話し掛けさえする。まだラッコから返事はないが、きっとこのラッコならいつか返事するにちがいないと思っている。郵便配達員は孤独であった、無人島にひとり、自ら落ち葉に書いたはがきをラッコに届けることが日課であった。ラッコはそのはがきを受け取り、ふんと鼻を鳴らして、空家に戻る。この無人島はかつて、人がすんでいたことがあり、ひととおり民家がある。そこで、ラッコは住んでいた。朝布団から出て、歯を磨き、飼っている鶏の産みたての卵で卵焼きなどを作り、海に出かける。海で漁をするのだ。ラッコは上手く魚を捕まえる事ができない。だから、缶詰などが主食なのだ。缶詰ももう少しで底をつく。底をつく前にすでに飽きてきている。そこにやってきた郵便配達員は本の少しシャイで、いい奴だと思う。だからいつかラッコは気分のいい日に、返事をしようと思っている。

昭和11年/下半期/芥川賞

2009-05-06 | 二行目選考委員会
(石川淳作/普賢/一行目は)

―盤上に散った水滴が変り玉のようにきらきらするのを手に取り上げて見ればつい消えうせてしまうごとく、かりに物語にでも書くとして垂井茂市を見直す段になるとこれはもう異様の人物にあらず、どうしてこんなものにこころ惹かれたのかとだまされたような気がするのは、元来物語の世界の風は娑婆の嵐とはまた格別なもので、地を払って七天の高きに舞い上がるいきおいに紛紛たる浮世の塵人情の滓など吹き落とされてしまうためであろうか、それにしてもこれはちょっと鼻をつまめばすぐ息がとまるであろうほどたわいのなさすぎる男なのだ。―


そう、橋田脚本である。