リッスン・トゥ・ハー

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ばらの花/チームロック

2008-11-30 | 若者的図鑑


完結する勇気、をもって正真正銘の名曲。
ワンダーフォーゲルと合わせて、発表され程なくしてくるりの代表作と呼ばれ、いまだその座を揺るがすことない。感情を排除して淡々と叙景を綴る詩、抑揚のないメロディ、いわば、これがサビでここがAメロで、というような分類は無用、であるにもかかわらず、それぞれの胸にぐっとくるポイントが多数用意されていて、「安心な僕らは旅に出ようぜ/思いっきり泣いたり笑ったりしようぜ」このフレーズは永遠として語り継ぐべきフレーズです。
ここで完全に参っちゃった人は多いのではないでしょうか。これを超える作品が世に出るのでしょうか。それを待つことが、若者的青春のキャッチフレーズに偽りなし。この頃のくるりは、ひたすらとそぎ落としていってすっからかんになり、そこから新たな道を見つけた祝福の声に包まれています。僕は生まれ変わった。何もかも一からはじめる、そうすればいいんだ、ごく簡単なことだ。その新たなはじまりに少しも気を負うことなく、さらりとやってのける。ワンダーフォーゲルあたりから、異様な勢いでお洒落になっていったような気がします。素朴な大学生から、東京に染まったアーチストへと。それを、拒絶するファンがほとんどいなくて、受け入れた、受け入れられたというのがなんとも「すごいぞ、くるり」(東京~さよならストレンジャーまでの間に使われていたこのキャッチフレーズもすごいし)。
もう、勝てっこない。と褒めちぎっておいて損なし。

まぐろ その16(夏祭り編)

2008-11-29 | リッスン・トゥ・ハー
「まぐろ その16(夏祭り編)」


焼きトウモロコシのこうばしい匂い。しゃんしゃんと祭囃子が遠くから。
浴衣姿の人々は、ゆっくりとした速度で右へ左へ、りんご飴片手によそ見する女の子の瞳がとらえたのはマグロであった。
金魚すくいの露店をマグロは出していた。何人かマグロの金魚すくい屋にて金魚をすくっていたが、子どもも大人も、金魚などまるで頭に入ってはいなかった。
無理もない時価にして300万はするであろう立派な黒マグロである。
金魚をすくいながらマグロを見てはよだれを流した。金魚は若干粘り気が増した水の中でほんの少し泳ぎにくそうに泳いでいた。
りんご飴の女の子がマグロの金魚すくい屋で金魚をすくうことにした。あからさまにマグロを直視しながら金魚をすくった。
女の子しかし次第に金魚すくい自体にのめりこみ始めた。幼い頃というのはそういった、移り気を持っている。それを余すことなく使い切ってりんご飴の女の子は金魚すくいにのめりこんだ。
マグロは自分から関心がそれたことが気に入らなかったのか、女の子が追いかけていた金魚を手でつかみ、そのまま口に放り込んだ。祭りの喧騒が一瞬途絶えた。遠くでまだ祭囃子は鳴っている。マグロはかまわずもう一匹掴み取って口に、放り込みむしゃむしゃと咀嚼した。
花火が夜空に咲いてどーんと地響き逞しく。

近未来/キセル

2008-11-28 | 若者的図鑑


お墓でランチを食べながら/関係ないけど途方にくれる

「ピクニック」の絶対あんまり意味考えてないだろうと想像してしまうような詩で、しかし、このふわーっとした声質に包み込まれて、それがあんまり感じない、ただうたの一部として溶け込んでしまっています。

キセルは数年前に京都駅ビルでライブをしたのを観たんですが、ちょうど春先で肌寒いような、あったかいような、風が吹いていて、音が広がっていくのを感じました。ぐんぐん、あの駅ビルの階段をのぼって、舞い上がる声、砂漠に咲いた花なんかも聞けたので、嬉しかったのですが、ベストは「春」でした。アコースティックギター、ベースなどで奏でられるそれは、いったん舞い上がって、ゆっくりと降ってくる綿毛みたいに頭の上に触れてこそばゆくって大変でした。

京都の兄弟ユニット・キセル、いい、コンビです。

京都の大学生/さよならリグレット

2008-11-23 | 若者的図鑑


らららぁーらららぁーらららぁーと3連のリズム、ほの悲しげな旋律に乗り、学生さんは京都の街を踊る。低い空に浮かんでいる雲はたよりなげな速度で西から東へ。

パリと京都、遠く離れた二つの街を舞台にしゃんしゃん踊ります。

まず、ぼんやりと詩の内容など関係なく聞けばいい。
ワルツの調べに身を任せて陽気に舞えばいい。
大勢の人々が同じように踊っている自分の意思とは離れたところで、お祭りの空気を満喫する人々、その顔に笑顔はなくて誰も彼も悲しそう。光があれば影ができる。私たちはその影の部分を知らなくてはいけない。無視できない悲しさが漂っています。

だけど、

あンまり知らないパリの街ならば、私を受け入れてくれるのではないか、などという甘っちょろい夢物語が繰り広げられるのです。

yanokami/yanokami

2008-11-22 | 若者的図鑑


浮遊感の二乗です。

もともとふわふわとしたどっちつかずな音を並べて組み合わせて表現したハラカミさんと、またまたふらふらしてて気まぐれな歌声であがったり下がったり泣いたり笑ったりに忙しい矢野さんの、誰もが予想していたユニットですから。

ちなみにアルバムのよさもさることながら、特別サイトのクオリティも見逃せません。すべてのジャンルの頂点にある才能をかき集めてできた総合格闘技のような奥行き!良くて当たり前、という既成概念のさらに上を超える良さ。時代を超えた良質の音楽であることの意味をかみしめなければなりません。我々は噛み締めなければなりません。
何十年経っても、特異なアルバムであることに違いなく、その違和感は、聞くものを選びますが、これがスタンダードになったとき、音楽はいったんリセットされて、新しい形を追及する素地になるンじゃないでしょうか。期待をこめて。

さらにちなみに帯にくるり岸田さんのコメントがついていまして、「これは反則です」そっくりそのまま返しましょう「シンガーソンガーなんて反則です。」

まぐろ その15(家政婦は見た編)

2008-11-21 | リッスン・トゥ・ハー
「その15(家政婦は見た編)」


奥様には絶対に入ってはいけないといわれた。
私だっていわばプロフェッショナル、禁止されたことを厳守することが何よりも大切だって知っている。だから今回も守ろうとした。しかしこれは不可抗力、どうしようもなかった。入ることはおろか近づいてもいけない、奥様はふんふん鼻を膨らませてそう言った。あの顔で迫ってこられたらたまったものではない。それは分かっている。だから守り通すつもりだった。それがなぜ。
すべては、偶然の産物だ。偶然が偶然を呼び。必然さえも呼び、そこに意図が生じ、つまり私はあんなにも禁止された部屋への進入をほんの数秒で判断し、やり遂げたのだ。障子を開いた。いやむしろ開けたかった。これは限界への56歳うお座東村憲子の挑戦である。
私はしかし、扉を開けてしまった。後戻りはできない。
中にいたマグロがこっちをむいた。時価にして300万はするであろう立派な黒マグロであった。
私は「家政婦だけど、旅に出ます」という置手紙を残し家を飛び出した。未だ見ぬ土地で蕎麦でも打ちながらのんびりと暮らそう。そう思った。後ろから、けーん、と鳴き声のようなものが聞こえた。

まぐろ その14(執刀医編)

2008-11-20 | リッスン・トゥ・ハー
「まぐろ その13(執刀医編)」


手術中というランプが消える。
自動扉が開き中から白衣を着たマグロが疲れきった面持ちで出てくる。
駆けつけていた重態患者の妻はあっけにとられた。妻は一瞬状況を忘れてよだれを垂れ流した。
当然である、時価にして300万はするであろう立派な黒マグロであった。
立ち会った別の医師、手術助手などもマスクはよだれのためにぬるぬるしていた。
われに返った妻が恐る恐るマグロに詰め寄る。
「先生、おとうさんは、無事なんですか」
マグロは、目をそらし、ゆっくりと首をふった。
「それはつまり」
マグロはもうそれ以上は何もいえないという風にうつむく。
代わりに答えた医師は、
「先生は大変有能な方です。その先生が全力を尽くして執刀されました。しかし、病気の進行は思ったよりも深く、戦った挙句、勝つことはできませんでした。これは我々の敗北です。しかし、それは仕方のないことだった、と理解してください。なぜなら先生は大変有能な方なのです。我々では手の施しようがなかった。それがすべてであります。とにかく先生は大変有能な外科医ですから。」
と、よだれを流しながら説明した。それをよそにマグロはてくてくと音を殺して歩き、向こうを向いて立っていた若い女の看護士に両手で、だーれだ、とやり、看護士は、うーん、誰ですかあ、と媚びるように振り向いたのが見えた。妻は、それらの件をにじんだ背景として認識した。

あくび

2008-11-15 | 掌編~短編
 あなたはあくびを殺しながら私の右腕に腕輪をつけた。ふたりおそろい、しろつめくさで作ったの。
 「ではいきますか」あなたの声がやけにのんびりと聞こえる。
 「うん」「寒くない?」「大丈夫」「では」「はい」あなたは私の手を握った。ほんわりと優しいぬくもりが伝わってきた。冷たいなあ、とあなたは夜空にむかって笑いかけ、暗い穴に入る。手を引かれた私は振り返る。しんしんと雪の降ってくる空を見て、少しのあいださよならね、ってつぶやいた。
 穴の中には乾いた枯葉がたくさん置いてあって、お日様の香ばしい匂いがした。
 枯葉の中にせーのって沈み込む。
 かさかさと音が鳴って、なんだか少しこそばゆい。

 初めての冬、私は少し興奮していた。だって、春までの間ずっとあなたの匂いが、体温が、寝息がいつでも右隣にあるのだから。はっきり言えば私はちょっとエッチな気分になっていた。そんなことをあなたに絶対言わないけれど、実は濡れていた。
 なんとなく落ち着かずに、寝る体勢を微調整し、その度に鳴るかさかさが妙に気になった。
 もしもあなたがすぐに眠ってしまって、かさかさが気になる私は、そういう変な興奮をしているせいで眠れなくて、ずっと起きている事になったら・・・。
 考えれば考えるほどもっと気になって、怖くなってくる。思わずあなたの手をぎゅうと握る。
 「どうしたの?」とやさしいあなたは聞いてくれる。
 「ちょっと足の先が冷たくなっちゃった」と私がごまかす。何を隠そう、私はつよがりなのだ。
 「じゃああたためたげるよ」
 あなたは足でゆっくりさすってくれた。かさかさ、がさっきまでとは全然違って聞こえた。「だいじょうぶだよ」と言われてる気がする。なんかふわふわして、思わずあくびがでた。少し遅れてあなたもあくびをする。私のがうつったんだ、と思うとなんだかうれしくて、可笑しくって、うふふ、と笑ったら、あなたも、うふふ、と笑った。
 
 あなたは穴にたんと蓄えてあるどんぐりをひとつつまんでかじった。こりこり、って美味しそうな音がして、私も急に食べたくなる。できるだけまん丸で美味しそうなのを選んで、口に放り込んだ。思った通りこりこりでとても美味しかった。私はどんぐりをもうひとつつまんでそれをかじりながらつぶやく。
 「ねえねえ、春になったら、野原で寝転がろうね」
 あなたはもう眠たくて眠たくて仕方がないというふうにゆっくり答える。
 「また、ねむるの?ハル、ねむるの、好きだねえ」
 やわらかい陽だまりの中で隣にいるあなたとその陽だまりを感じたいんじゃないのもう鈍感。って言いたいけど悔しいから口には出さず、かわりにあなたの左腕にあるしろつめくさの腕輪を触って、解けていない事を確かめた。
 あなたは大きなあくびをして、おやすみ、とささやいた。もう寝息を立てている。息を吸って吐いて、あなたのお腹が動くたびにちいさくかさかさと鳴る。おやすみ、と答えて私もあくびをする。あなたのがうつったんだ。やっぱりうれしくなって、手をまたぎゅうと握った。こうしてたらぐっすり眠れるかな、と心の中でそっとつぶやいた。「だいじょうぶ」ってあなたが応えた気がした。「春まで、ちゃんとつないでて、はなしちゃいやよ」「だいじょうぶ」
 なんだかあなたの夢を見れるような気がして私は、急いでどんぐりを飲み込んだ。

NASA×NASA

2008-11-14 | リッスン・トゥ・ハー
いいえいいえ、何もしなくていいんです。
ただ眠っているだけで、3ヶ月間眠るだけで180万出します。
逆におきてもらうと困るぐらいです。
寝ている状態なら何をやってもらってもかまいません。
本を読む、語学を学ぶ、映画を見る、よりどりみどり。
言い換えれば、夢を見ているだけで、その夢に対して我々が180万を与えましょう、というわけです。

どうですか?いい条件でしょう。あなたのような方にピッタリだと思いますよ。
ぐうたらしていればいいんです。繰り返しますがなにもしなくていいんです。
はい。そうそうです。
起きてはいけません。体の変化を調べるわけですから。勝手に起きてもらっては困りますよ。それはある程度衝動的におきてしまわないように拘束はさせてもらいます。なあに、ほんの気持ち程度の軽い拘束ですよ。痛くも痒くもないでしょう。
ゴリラで実験しましたが、びくともしませんでしたから完璧です。
それから、もちろん調べさせてもらうわけですから、体の隅々まで把握できるようにセンサーを取り付けさせていただきますよ。動きは制御させてもらいます。

参加したならば、後戻りは出来ません。今更やっぱりやめたなどにいわれてはこちらも大きな損失をこうむるわけで、キャンセルは出来ないしくみになっています。
泣き叫ぼうが、血潮が噴出そうが、拘束を外すわけにはいきません。
死して尚、拘束は3ヶ月続きます。

まあまあそんな深刻に考えないで、なあに簡単ですよ。
ちょっと眠っていればいいですよ。ほんの3ヶ月間です。

どうです、魅力的でしょう?

ラジオCM(トヨタ・ヴィッツ編)

2008-11-13 | リッスン・トゥ・ハー
実況「第三コーナー曲がって直線に入った先頭にぐぐーんとあがってきたのはやはりヴィッツほかを引き離して独走状態、向かうところ敵なしかヴィッツ、今、一着で、ゴール。かなり遅れてスケスケパンタロンが2着で今ゴール。ああっと!?審議ランプがつきました!ええと、何か審議されるようです。放送席からはダントツに見えましたが・・・、ただいま結果が出ました、な、なんと!ヴィッツは馬ではない!?競馬実況歴20年の私をはじめ、会場のみな騙されました、あのスムーズな走り、躍動感、生きているような息遣い、あっぱれヴィッツに惜しみない拍手が送られています。」

ロシアのルーレット/図鑑

2008-11-12 | 若者的図鑑


無責任きわまりのない詩に、翻弄されることが心地よく、その心地よさといったら、本来の自分に戻るための、忘れていた感覚を蘇らせたときの、衝撃。
殺すぞ、なんて教育上つかってはいけません、絶対そんな言葉使う子はろくな大人になりませんよ。いいんです。
好き放題やっていたなぜなら、ただ僕らは若かったし、何をやっても許される時期だったから。本当はそんなことやりたくなかったんだでも、こんな風にすればみんなが喜んでくれるから、そう僕は考えて、その自分の愚かかもしれない発想に縛られていたんだ。悪いかい。

なんとなくうつむいていたニックは顔をあげ、グレープフルーツジュースを飲み干した。

カレーの歌/チーム・ロック

2008-11-11 | 若者的図鑑


これは、とてもちいさな窓のそばで僕らは凍える笑顔のままで/カレーの香りは君と同じでちいさくてやさしくて忘れてしまいそうとピアノのたいへん弱弱しい調べに乗せて歌われる、やっぱり冬に窓際で聞くとじいんと響きます、たとえいなくなってもずっと覚えているから、と言うけれど、そんなものすぐに忘れてしまうものですから、弱弱しい微笑みを見せないで、あははと笑うか、びえーんと泣いた方がいいじゃないですか、はっきりしてて、ほらすぐに立ち直りそうな気がするし、楽しく生きていきたいじゃない、ほらあたしそういうの嫌いだし、でもね、大切のは、楽しく生きることだけじゃない気がするなあ、ぼんやりと、何にも考えないで過ごす土曜日なんて素晴らしいと思うけど、ちいさく聞こえてたらしっくりくるだろうな、うた。