リッスン・トゥ・ハー

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hanazono

2009-08-31 | リッスン・トゥ・ハー
「春子はね、本当はTさんが好きなんだよ」と春子は言った。私はそうきたかと思いながら、とても驚いた風に目を見開く。どういうこと?と聞いてみる。「みんなは、OくんとかHくんとか男の子がすきなんでしょていうんだけど、ぜんぜん好きじゃなくて、春子が好きなのはTさんだけなの」Tさんは女の子なので、何か秘密めいている。だって、高校生の話題といえば、お洒落のこととか、好きなバンドのこととか、俳優のこととか、後は恋愛のことだから、その大きな割合を占める恋愛話が最も盛り上がるわけだし、だから当然暇さえあれば恋愛話をするのだし、そこでいかに注目を集めるような、驚くべき話題を提供できるかがひとつのポイントだった。張り合って過激な話題、それが事実であろうがなかろうが関係ないその場で盛りあがれば何でもありだった、をみんなが出し合った。次第にネタなど尽きてくる。そうなると必ず、まだタブーとされた同性愛へと流れていくのが通常だった。そのセオリーとも言うべき告白を私は半ば本気で信じて聞かなければならない。それが礼儀なのだ。本気でその思いを聞いて、本気で心配でもする、そして今後の様々な困難が待ち受けてあろう世の中を嘆き、あたしだけは何があっても友だちでいるからね、という締めくくりまでノンストップで切り抜けた。やれやれと二つ隣のクラスの春子と別れ、席に着いた私は、何か興奮していた。いやすべて分かっているこれは春子のリップサービスなんだ、と分かっているのにどうしてか、うずうずする心が、胸の奥が、ぞくぞく、風邪でもひいたのかしら、なんて思ったりしたが、どうにもおさまらない。もしやこの気持ちいやいやあたし何をいってんの、なんて何度も自問自答する。授業が始まる。数学の小林が教室に入ってくる、分厚い眼鏡をずり落ちそうなその眼鏡を拭いて授業を始めるいつもの風景。でもあたしは、何か違って見えた。心の奥で春子やら、Tさんがあやしく絡み合う姿、なんなのあたし開いてしまった、秘密のページ、そこに描いてあるのはうふふ。

ノエルはオアシスを抜けて

2009-08-29 | リッスン・トゥ・ハー
ウェブサイトでの発表を受けて、我が家は騒然となる。しかもリアムとの確執だと発表されている。というのも我が家には、根っからの、生まれたときからオアシスファンであるという父と、その父に大いに影響を受けてオアシスファンとなった妹がいて、父はノエル派、妹はリアム派であり、その衝突は避けられない。口笛を切ったのは、最近部長に昇格し中年として脂がのりはじめた父であった。「ノエルの身にもなってみろ、オマエ、ノエルがどんなに傷ついているか考えたことあるのか」もう正気とは思えない。リアム相手では決してないにも関わらず、妹に対してその怒鳴ったのだ。当然、最近彼氏と別れたばかり気が立っている妹も黙っているわけがない。「阿呆」まずそう言い捨てた。父親を阿呆呼ばわりして、さらにがなり立てる父に対して、「リアムが何をしたの?きっかけはノエルだかなんだかわからない血と肉の塊のしわざでしょ、違う?」「ノエルを血と肉の塊だと?おのれ、ここであったが100年目、もういかしておけねえ」父は時代劇愛好者でもある。「おのれ、もう謝っても遅いぞ、お月様はもうおのれの悪事、その目ん玉に焼き付けた」「阿呆」妹は次第に分裂する父を再びそう言い捨てた。「リアムは私のすべてだよ、リアムなしじゃ生きていけないんだよ、あたし、タダシなしじゃ生きていけないんだよ」タダシは別れた彼氏である。妹はそういうと泣き崩れる。「がっはっはっは、破れたり!リアムもタダシも破れたり!」まくしたてる父は滑稽である。母が間に入って、「まあまあ、オアシスはまだあるんだから、ノエルだってソロで活動するでしょうし」ふと我に返る父、「そうさね、現状はそんなにかわらんということで、メグミ、さあ涙を拭きなさい」「うん」と立ち上がりオーディオの方へ歩み寄る。イントロが流れ出します、では聞いてください、オアシスでストップ・クライング・ユア・ハート・アウト

田辺君のこと

2009-08-29 | リッスン・トゥ・ハー
田辺くんは冷たい。田辺くんの私に対する振る舞いが冷たいというのではなくて、体温がとても低い。それは触ってみれば誰もがはっとするほど、はっきりと低い。体質なんだろうか、そうだとしても低すぎる。だって、田辺くんを抱きしめれば猛暑でもひんやりとしていて、過ごしやすくなる。冷たすぎることはない。私がいくらぐいぐい強く抱きしめてもいくらいくら背中をさすっても温かくはならない。その田辺くん本人は、体調は大丈夫なのか心配するが、そうすると田辺くんはいくも遠慮がちな笑顔を見せる。僕なんかの心配をしてもらわなくてもいいですよ、と言わんばかりの笑顔。でも、うれしがっている。誰だって自分のことを木にかけてくれる人がいると言う事実は、それだけで勇気が出るし、うれしいものだ。田辺くんは本当に大丈夫なのか、結局はよくわからない。田辺くん本人が言うのだから、それを信じるしかない。もしかすると私の知らないところで苦しがったり、悲しんだりしているのかもしれない。だけど少なくとも、私の見ている前ではいつも穏やかで、くすぐったそうに笑ってくれた。田辺くんの家族はどう思っているのか、その冷たい皮膚でを心配して医者に見てもらうなどのしているのか、よくわからなかったが、田辺くんはそういうことを何も言わなかったし、誰もそのことを聞くことはなかった。暗黙の了解みたいに、田辺くんは体温の低い人間として当たり前にそこにいた。
 夏だった。田辺くんがいつになく、浮かない顔をしていた。何か落ち着かない、どうもそわそわしている。何かにおいたてられているように辺りを見回しては、立ち上がり、すわり、ペットボトルのお茶を飲み、皮製の田辺くんに良く似合っているかばんをあけ、しめ。田辺くんがそんなにもそわそわしているのを私ははじめてみた。声をかけると、別になんでもないよ、と答え、また同じような一連の行動を繰り返している。どう見ても不自然で、でもあまり何も語りたくはないのだろうと思い、黙って読みかけの小説に集中した。
 何ページか物語を進ませて、風が入ってきてカーテンを揺らした。ひどく冷たい風で、外から吹いて北にしては不自然だと思い私は顔を上げた。そこに田辺くんはいたわけだが、ひどく薄くなっていた。全体的に田辺君の色が抜けている。その後ろの壁に私はポスターを貼ってあったのだけれど、そのポスターの鮮やかな赤が田辺くんの色をよけいに薄く見えさせた。私は小説をとじて、田辺くんのことをまっすぐ見た。田辺くんは何にも言わずに、もうそれほどそわそわもせずに、私の目を見た。まっすぐにその目の黒はだんだん薄くなってしまった。透明になる。田辺くん、と私は呼んでみる。田辺くんはその言葉に反応することなく私の目をまっすぐに見て、ゆっくりと流れた涙の伝う先、褪せた色がもどっていく。はっきりとした田辺くんの色に、戻っていくのが分かった。涙の伝う一線だけ、田辺くんは存在していた。それから、ゆっくりと口元が笑って、その口がなんと言ったのかわからなかったけれど、瞬いて消えた。田辺くん、と私はもう一度呼んでみたが、何も答えてくれなかった。

もしも仮に

2009-08-28 | リッスン・トゥ・ハー
ミルクを飲もう、とあなたは言った。ホットミルクがいいわ、と私は言う。
「いいや、アイスじゃないとミルクの味がぼやけちまうよ」
いいや、あなたがそんな口調するわけがないと私はもう一度、やり直す。
ミルクを飲もう、ホットミルクがいいわ、
「いいやアイスやないとミルクの味がぼやけるがな」そうだ。
ぞんざいだけれど何となく味があるそんな口調だった。
先に進める。
「ホットじゃないとおなか壊しやすいでしょ、すぐ壊してしまうんだから」
「ちょうどええがな、最近便通の調子が悪てこまっとったぐらいやし」
「でも、それならホットだっていっしょだって、牛乳が身体の調子を整えてくれるからアイスじゃなくても大丈夫」
「ホットなんて軟弱なもんのめん」
「そんなこといって、猫舌だから嫌なんでしょ」
「は?あほか、お前」
あなたは信じられないと言う顔で、全く納得のできていないまま私を睨む。
「いや別にふたりともアイスで飲もうというわけやないで、そちらはホットでもココア入りでも飲んだらええ」
「私は」と肩のカナリアは飛立つ、「私はただユキヲくんの身体を心配して」
「ええねん、そんなんええねん、迷惑やねん、まじやめてくれる」
いや、いいやあなたはそんなこといわない。いわない。やり直し。
「そうなんや、ごめんそれやのに俺ひどいこというた、ごめん」
カナリアは部屋中を飛び回って泣き喚く、ここからだせここからだしやがれ。
「ううん」私は首をびゅんびゅん振って答える。「私もごめん、意地になってた、無理強いするのはよくない」
「わかったホットミルクにするわ、身体に優しそうやし」
「ありがと、身体には確実に優しいよ」
私は冷蔵庫からパック牛乳を取り出して、しかるべき分量をミルクパンに入れてガス栓をひねる。
カナリアが戸棚の上にある、くまのぬいぐるみにとまる。そとにだせそとにだしやがれこのやろう。
ミルクパンの中のミルクは沸騰する。ぐつぐつ。
キッチンの窓を開けると、カナリアはそこをめがけて飛んでくる。逃げ出そうとしているのか。私は逃がしてはならないと窓を急いで閉める。ガツンという音がする。カナリアは間一髪のところで外に逃げられない。わたしの手の中にある。
「ミルクまだ?」あなたはリビングのソファの上からこちらを見ずに尋ねる。
あなたは今、録画した映画に夢中なのだ。
「もう、できます、待ってて」
カナリアは頭を強く打ったようで、動かない。私はカナリアの首を持って力を入れ、止めを差してから火を止める。ミルクからは甘い匂いが立ち上っている。猫舌のあなたはきっと、長い間飲むとができないだろう。そして、だからホットは嫌なんだとかなんとか私に文句を言うのかもしれない。
でもいいでしょ、私が飲みたいんだから。
私はカナリアを燃えるゴミに入れていいのか、燃えないゴミに入れたらいいのか随分長い間迷ってから、燃えるゴミに入れてミルクをマグカップに注ぐ。とくとくとく。
ミルクの膜がめくりあがって、私をぞっとさせる。これはなんの物質なのか、とてもぞっとする。
できることならその膜は消してしまいたい。そんな特殊能力はないから、それを見てみぬふりをして私はお盆にマグカップを二つ乗せ、リビングに運ぶ。あなたは映画に夢中。
えっ、えいが?
あなたは映画なんて見るような人じゃない。
違う、これは間違いだ、私の理想がごっちゃになっている。やり直す。
あなたは人生ゲームをひとりでしていて、ちょうど今佳境、子どもも4人生まれているし、デザイナーになって年収は2億円、断然トップでゴール間近。あなたは次第に熱を帯びていく、最高記録が出るかもしれない、獲得金銭の最高記録が。その中に私はホットミルクを持って入ってくる。派手な音を立てて転ぶ。あなたが育てた短いマッチ棒みたいなコマ、どんがらがっしゃん。台無しになる。ホットミルクは薄い絨毯に飲み込まれた哀れな液体。カナリアが鳴いている。燃えるゴミの袋の中でカナリアが鳴いている。おぼえてろよおぼえてろよてめえ。
私はあわてて雑巾をキッチンからとってきて、絨毯を丁寧に拭くの。
そしたらあなたは笑ってくれるかしら。

hanabi

2009-08-25 | リッスン・トゥ・ハー
大方通り雨だろうとたかをくくっていたけれど、待てど暮らせどやむ気配すらなくて、雨宿りをしていたジーンズショップの店員も、時々外を気にしてはため息をついている。今日は花火大会で、たぶん恋人だか友だちだかとそれを見に行く予定があって、仕事なんかやってる場合か、とはやる気持ちを必死で抑えているのだろう。雨がさらに強くなる。ジーンズショップには客がおらず、それほど広くない店内に、やはりそれほど多くない品数で、私は何か雨宿りするだけだと悪いかなあと思いつつ、ちょうど雨の様子を見に来た店員さんと目があって、いらしゃいませ、とつぶやいたから、まあ、それじゃ雨宿りのついでに商品でも見せてもらいましょうかと店内に入った。店員はひとりだけで、暇をもてあそばせていたようで、あくびかみ殺して服を折りたたんでいた。もうすぐ止むはずだ、止んだらすぐに、ありがとうございました、とか言っておうちに帰ろう。だけど雨は強くなるばかり。さて、これ以上待っていても仕方ないかもしれない、と思い始めた頃、店員が私に突然話しかけてきた。今日花火大会は見に行きますか。いいえ、行きません。正直に答えたけれど、ちょっと見栄でも張っていくんですよなんていっておけばよかったかなあ。店員はそうですか、といったきり何にも言わなくなった。服を折りたたんでそれほど乱れていなかったけれど何か息が詰まりそうだったから逃げるように。雨の音で何も聞こえない、私の名前を呼ばれたような気がして、だけど、そんなわけないか、あの店員さんは今日はじめて会ったのだし、別に名乗ったわけでもないし、と思い直してもう、店内も十分回ったし見るものもないので、雨を見ていた。強い雨は一本の線のようで、アスファルトに当たって、はじける線が立てる音はとても大きかった。気づくと店員がすぐ横にいて、雨、止みませんね、と独り言のように言った。私は、そうですね、と答えて思いついて、花火行くんですか、と尋ねた。店員は私の方を見ずに、いや、いきません、といった。雨の音にかき消されそうな声だった。雨がつよくなったんだ。

ふろ

2009-08-24 | リッスン・トゥ・ハー
その温泉はいかにも古めかしく、なにか必要以上に歴史を感じさせた。脱衣所で服を脱ぐ、私のほかには誰もいなくて、自然、非常にリラックスしたムードが流れている。平日の昼間だからまあそう多くは客もいまい、なんて思っていたのだけれど、全くいないとは思わなかった。これはラッキー。と私は半ばはしゃいで、うほほ、なんて小躍りで浴室の扉を開いた。とたんに、外からのせみの声、この浴室まで響いてくる。天井付近の壁に大きな窓があってそれがオープンしている。外からの音はどんどん届く。それもまた風流やね、などと思いながら私はまず礼儀として身体を洗います。入念に、夏の日差しを受け私から湧き出てくる汗を流す。湯が5つほどある。20畳ほどの大浴場、日差しがさらさら注いでいる露天風呂、サウナとセットとして水湯、ジェットバス、おどろおどろしい色と匂いの薬油。これらが今は私のために湯気を立てている。ふつふつ、こっちの湯はきもちええぞ、と。まず大浴場をいただきましょう。てくてくと歩いて湯に足を入れ、ひりっとする。ひるまずにことんと足を落とし、徐々に身体を沈める、帰っていくように、元の場所へ帰っていくように沈める。ぐぐぐと身体の芯が温まっていく。表面は、いや中身だって灼熱の太陽にがんがん照らされていたから、十分温まっているはずなのに。あらためて、温泉の湯に包まれると、直前まで凍えていたような気分になる。そして温まっていくのにしたがって昇ってくるうめき声を今日は遠慮なく吐き出す。私は風呂がそれほど好きではないので長い間浸かっていることができない。満たされるのも早い。立ち上がり、すでに湯に疲れてしまっている。少々休んだほうがいい。焦らなくていい、時間はまだある、ここは長野の風呂。

用水路に鳩100羽の死骸

2009-08-23 | リッスン・トゥ・ハー
隊長は何も言わなかった。何も言わずに突っ込んでいった。俺の生き様をお前ら見とけよ、と無言のうちに伝えた、と史実は伝えているが実際は、ただ、テンションが上がってふらふらと突っ込んでいってしまった、なんか楽しくなりそう、という漠然とした感覚に身を任せて、ただ本能に正直だったにすぎない。後世の人々が好意的に解釈し、それを正義の勇気ある行動とした。それを見習って続いて部隊は活発に動いた。というわけでもなく、隊長の本能を、感じ取り感化されたその肉体のままに行動したわけだ。活発に突っ込み続ける。それが全く無意味であろうとも、何ら効果をもたらさないことであろうとも、関係がない。本能は偉大である。結果的に100羽余りが用水路に死骸としてある。勇敢な獅子、として長く永遠に奉られているが実際は、阿呆の集団である。

立ちくらみの与謝野氏

2009-08-23 | リッスン・トゥ・ハー
へえ、ここかい、ここが有名な立ちくらみ峠かい、なんでい、何の変哲もねえじゃねえか、おもしろくもなんともねえ。全くこれで有名だってんだからまいっちゃったね。与謝野氏は饒舌に誰にしゃべるともなくしゃべっている。淡々と与謝野氏の周りには誰もいないのにかまわずしゃべるしゃべる。しゃべることが存在する意義なんだと言わんばかりに。峠のその非常に細い道で与謝野氏の声はこだましている。無駄に張りのある良い声であった。与謝野氏はそのかすかな反響をいたく気に入り、何か歌でも歌いたくなってきた。丘を超えゆこうよ口笛吹きつつ、なんて歌い始めた。与謝野氏は思ったことは迷わず実行するたぐいまれな実行力の持ち主であった。気づけば熱唱している。のどもつぶれんばかりの熱唱で、酸素が足りなくなってくる。周りのものも同じ気持ちだったらしく赤い顔をして声張り上げている。声を裂けそうな声をもっとあつめてくれ。ちくしょう、やけにくらくらすらぁ。

産直店のみそ、クマが食う

2009-08-22 | リッスン・トゥ・ハー
飽きていたのだ、ハチミツの甘ったるさに。鮭のただ塩辛い生臭さに。飢えていた。違う味、違う味、と夜な夜な歩き回った。地下鉄の駅、公園の隅、そんなとこにあるはずもないのに。仕方なく持ってきた鮭をかじる。いつもの味だ。これしかないのか俺にはこれしかないのか、なんて人生だ。クマは嘆いた。嘆いてみて、そうすれば何か奇跡が起こるかもしれないと考えて嘆いてみた。まるで何も起こらない、神は我を見捨てたもう、クマは叫んだ。その叫び声が天を貫いた。ずどんと稲光が返ってきた。少し送れて雨が降ってきた。とても強い雨脚でクマはあやうく窒息死してしまいそうになった。クマがここにいては危険だと判断し、ちょうど建物があったのでそこに跳びこんだ。いつもならクマがきたぞ、なんて叫び声がして人間は一目散にすたこらさっさ。なのに今日は人間の声も逃げていく音も聞こえない。クマはいつもと勝手が違うので少々面食らったまま奥に進んだ。店はみそやで様々な味のみそが所狭しと並べてあった。クマはその黒光りする、茶色い物体に心を奪われた。それは一見地味で妙な匂いがしているが、ひとたび舐めたなら、まあたいへんこんな美味しいものがこの世にあったんですね、と思わずつぶやいてしまうほどであった。クマはうなづいた。見つけたこれは魔法の食べ物だ、そうに違いない。クマは通うことにした。週3で通うことにした。

パパラッチの車ける

2009-08-20 | リッスン・トゥ・ハー
パパラッチの車は蹴ってもいいことになってるもん、と言い放った。当然でしょ?と言う目。でもパパラッチは何か有名人に対してスクープを狙っているわけで、別に天海さんの何かを狙ってるわけじゃない。だから、蹴ってはいけないと思うけど、それを口にしたら天海さんは悲しむかな。だいたいどうしてあの車がパパラッチの車だと判断したのかよくわからない。パパラッチの人は何かわめいている、私たちはぐんぐん進む、夜の街を。止まるものか、止まってやるものか。

命かけて、EXILEをやっていきます!

2009-08-18 | リッスン・トゥ・ハー
メンバーに残るためには様々な条件を満たさなければならない。例えば、髪型は規定の髪型から1cmでもずれれば即脱退。型があって、それのいずれかに当てはめて髪型を整えなければならない。その自由のなさは非常に窮屈で、しかも、主要メンバーと同じ髪型にすることは、きついいじめの対象になる。俺より後輩のくせしてなんやねん。と放課後に体育館裏に呼び出される。ちょっとお前つきあえやこら、と首根っこもって引きずっていかれる。とても暗い場所、暗くてじめじめして何か気持ちの悪い場所に連れて行かれる。そこに待っているのは同じような髪型をした別の先輩。そして、熱唱される。延々と熱唱しながらダンシングされる。いつまでたっても終わらない。そろそろ夕食の時間だから、と言い出そうものなら、激怒の上、さらにダンスは激しくなる。ダンスはかなり体力を消耗する、体育館裏でダンスをしても誰も誉めてくれない。仕方ない。じめじめした場所で誰もいないのだから。微妙なラインでかぶらないように髪型を決めて、それを崩さぬように細心の注意を払う。ガチガチに固めないとすぐに崩れる。ダンスは非常に激しい。ときとして死を感じるほどの激しさだ。油断したら、一瞬でも油断すればそのときはもうこの世にいないかもしれない。それもこれもプロフェッショナルだからこそ可能なのだ。例えば食事は順番に作らなければならない。それまで作ったことのないものも例外なく、何かしら作らなければならない。ただしこれは意外と簡単だ。なぜなら、ミートパイをあたためるだけでも立派な、作った、と言えるから、その辺はアメリカ方式で。アメリカのワイフは、それを堂々と手作りと言うのだから。まあ深く考えなくても作れるのだ。なんならピザでも頼んであたためればいい。いや、タバスコでもふりかけたらもうそれだけで十分OK。まあ食事はそういうことだからそれほど問題ないのだけれど、そういう掟が1000を超えてあるから、尊敬すべきは残っている彼らの根性である。さあ君もEXILEへ、カモン!

女優業はもう飽きた

2009-08-18 | リッスン・トゥ・ハー
天海さんは女優みたいだ。実際女優なのかどうかわからない。もしかしたら女優なのかもしれない。だって、天海さんはとてもきれいだから。整った顔立ちをしていて、主役クラスでテレビドラマに出演していたとしても不思議ではない。私はテレビはほぼ見ないから、天海さんがテレビに出ている人なのかどうかわからない。少なくとも、私たちが一緒に飲んでいるときに、誰かに声をかけられたことはない。オンオフをはっきり使い分けることができる女優なのか。ああ、もう飽きた、とつぶやいた。何に飽きたのか、私との話に?人生に?恋人に?それか女優業に?

火使わぬ部屋用打ち上げ花火

2009-08-17 | リッスン・トゥ・ハー
職人は涙した。なぜなら科学者が火を使わないと言い切ったから。花火に火を使わないなんて、ぼたもちにもち米を使わないようなもんだ。火の文字がその名前に入っているということはそれが前提になるわけで、それを使わないことには一歩も進めませんがな、てなもんや。涙したわけであるが、職人は悲しいわけではなかった。知っているのだ、もう、自分のスタイルは時代遅れのおんぼろだから、時代遅れのおんぼろやから。火を使わない新しいスタイルの花火、未来にいるような気がした。気のせいだ。職人はいったん涙を見せて、すぐに立ち上がり、その詳しい説明を、科学者に求めた。科学者はそれきなさったといわんばかりに笑みをたたえて、しゃべりはじめた。部屋用なんです、これが売り、各家庭の各部屋でどんどん打ち上げればいいさ、どんどん。そうすれば俺はもうかってけつかる。とてももうかってけつかる。儲かってけつかるけど、確かに、職人の涙を見るとこころがほんの少し痛む。ちくりとさすような切なし痛み。

ロシアの立場無視

2009-08-15 | リッスン・トゥ・ハー
ロシアの立つ瀬がない。まるでない。ロシアが変に言い訳するものだからみんなの機嫌を損ねたのだ。ロシアはなおも言い訳を続けている。それが逆効果であると、気づいていないようだ。言えば言うほどロシアの立場は悪くなる。悪くなるどころか、その言い訳のために窮地に追いやられるほどだ。ロシアだっていい所はあるし、それはみんな知っている。ロシアがいわば縁の下の力持ちとして陰で支えている部分がどれだけ大きいか知っている。感謝している、ロシアいつもありがとうと心ではそう思っている。だからロシアが言い訳し出したときにはなんとなく、いやな感じがして、それはいやわかっているよ、そういう全部わかったうえでやってることだから、と言った所で関係ない。お前がどう思っているのかなんてこの際関係ないから、もう少し周りを見た方がいいよロシア。ロシアに伝えず行き先はユニバーサルスタジオジャパンに決まる。

生きたまま放置

2009-08-15 | リッスン・トゥ・ハー
ミジンコを机の上に放置してから3日が経つ。ミジンコは息絶えるどころかますます元気に机の上を泳いでいる。泳ぎながら机の上にある無数の微生物を口の中に含み、生きている。本来水の中で生活している生き物であるし、空気中で生活ができるはずがないのだ。しかし実際生活している。突然変異と言うやつかもしれない。ミジンコは口をぱくぱくとした、もうすぐ週末で、それを楽しみに生きている中年の笑顔だった。ミジンコも立ち上がる。