リッスン・トゥ・ハー

春子の日記はこちら

ふたつめは今宵の月が僕を誘っていること5

2006-12-04 | 東京半熟日記
(沖縄編14)

鍾乳洞をでると、すっかり夕暮れ、沖縄にもちゃんと夕暮れは訪れた。どこか不釣合いだけどとても重要なこと。

茶屋にて、ぶくぶく茶とやらをいただく。沖縄の伝統茶らしい。ほうじ茶のような味で、激しく泡立てられていて、その泡を食べるように飲むとの事。脂っこい沖縄料理を食べたあとにこれを飲むと、とてもすっきりする。めでたい席で淹れられたのだ、と茶屋のおばさんは話していた。
茶屋の軒先に坐って夕暮れの庭先を見る。白い猫と黒い猫が連れ立って逃げていく。ひとつにゃあと鳴く。それをきっかけにしたのか、生温い風が風鈴を鳴らす。ぶくぶく茶を啜る。あまいお菓子を齧る。あまいお菓子は歯の裏にこびりつく。すっかり夏の終りといった気分になる。そういえばさっきから小さくさんしんの音が聞こえてくる。その音色をなぞるように風鈴が鳴るものだから、ふらふらと眠たくなる。この畳の上に五体を伸ばして、寝転がりたい欲望にかられる。あれ、今、何月だっけ?

デイゴの木がある。とても堂々として存在感がある。遠慮せんと花、咲き乱れたらええねん。

順を追って、沖縄にも夜はやってくる。やはり不似合いだけどとても重要な事。
那覇、国際通りへ。みやげ物屋などが乱立している那覇の中心通り。やと思う。折角なんですから沖縄の料理を食べたいじゃないですか。みんながみんなそんな口調。魔法。入り口がとてもシンプルな居酒屋に入る。沖縄ではかなりメジャーらしい、とうふよう、という食べ物に衝撃を受ける。爪楊枝でちょこっとけずり取りながら、泡盛をちびちびとやる。グッとくるコードだこれオンリーでいきたい、これオンリーでいきたい。素っ裸でギターかきむしる。まるで2コードの黄金律だ。

店員の女の子のしゃべり口調がとても可愛らしい。注文を持ってきてくれるとき「こちら泡盛ですね~」「こちらゴーヤ―チャンブルーですね~」語尾を上げてくる。沖縄のアクセント、言い回し、なんかいいなあ。淡い乙女心と夜は更けてく。

ふたつめは今宵の月が僕を誘っていること4

2006-12-04 | 東京半熟日記
(沖縄編13)

ミクロレディは、賑やかな鍾乳洞内を、内臓を進む病原菌のようにうねうね進んでいきますと、ひときわ眩しいイルミネーションで飾られた鍾乳石があります。これでもかというぐらい重厚にイルミネートされている。その一帯の鍾乳石がすべて着飾っている。何か期間限定鍾乳洞のイルミネーションなんちゅら、という企画らしいのです。イルミネートされている中心街に、おきなわ玉泉洞と書かれた派手な文字。どうやら、記念撮影スペースらしいです。そうですか。
感じるのは主催者との果てしなく遠い距離感。
その間も電飾はむなしく光っている。

「そうしたら、飾ろうかね」
「そうですね、でも社長自ら飾ってくれるんですか?」
「わしが飾らないと、橘君では頼りない」
「きつい言葉だなあ、いい年して無理はよしてくださいよ」
「はっはっは、よし、みんないくぞー!」
 とたどり着きたる飾る場所。あらかじめ決めておいた、着飾るのに適当な場所。
 みんなそれぞれ電飾を飾り始めるのだが、社長はテンションが上がって、予定になかった電飾までやりだす。
「そら、こっちもだ、うふふうふう、こっちも綺麗、綺麗」
「しゃ、社長、ちょっとやりすぎでは」
「なにいっとるか、まだまだ綺麗、あたし綺麗」
「社長?」
「まあ、ええじゃないか、ええじゃないか」
「でも、いくらなんでも、せっかくの鍾乳洞が」
「今が、今が楽しければなんでもいいと思う、あたいいいと思う」
「社長?」
「なあ、今だけ、ちょっと子どもに戻ろうじゃないか、橘君、いや、シンジ」
「社長・・・・。いや、イサオ。そうだ、俺たちゃ、大切な何かを忘れてたようだ」
「そら、みんなどうした、手が止まってるぞ!」
 はーい。無邪気にありったけの電飾をつけ始める社員一同。

きっと誰も止められなかったんでしょうね。言い出してはいけない空気だったんでしょうね。だってふたりは仲良し。間に入り込む余地なし。まあ橘君だって最期はなんかやり遂げた感でいっぱいになったんでしょうね。社長だって良かれと思ってやったのでしょう。きっと、良かれと思って、観光客が楽しんでくれるだろうと思って、飾ったんだろうな。そう思うと可笑しいけど綺麗に思えてくるんです。

出口。この長い長いエスカレーターはあの惑星につながっているの?
ご入洞ありがとうございました。テープ音声が洞内にこだましている。