リッスン・トゥ・ハー

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レノンさん直筆歌詞競売へ

2010-04-30 | リッスン・トゥ・ハー
レノンさんが世に残したものはたくさんあるけれど、彼の直筆の歌詞なんてものはそうやすやすとなくて、誰かが地下室のワイン樽の中、奥の奥にそっとひそめているにすぎない。だからそれが世に出たときに与える影響はそんじょそこらの直筆歌詞と意味合いが違ってくる。レノンさんはご存知の通りもうこの世にはいない。だからもうこれから先直筆歌詞が生み出される可能性は0に近い。例えば彼の遺伝子としては少々残っているからそれがなにかのきっかけでレノンさん自身になったとしてもそれは背景から違ってくるのだから、厳密に同じ個体ではない。だったら、その直筆歌詞の価値というものがどれほど高いかわかってくるかわかるだろう。では、はじめます、2億ドルから。

クリスピー・クリーム・ドーナツ心斎橋店

2010-04-29 | リッスン・トゥ・ハー
「しゃーせー」と店員は目を見ずに自分の手元、ドーナツの粉砂糖のかかり具合をチェックしながら言う。それに若干腹を立てたが争いを好まぬ穏やかな私は微笑をたたえて「ドーナツをください」と言う。店員はそこで私の顔を見て、こいつは何をぬかしよるのんじゃボケ茄子が、との感情を込めて、「はあ」と応え、「どのドーナツでしょうか?」と付け加える。なるほど、個の店には驚くほどたくさんのドーナツがあり、それを選択して購入するというシステムになっているのだな、と私は気づき、「ではどのドーナツがうまいのですか」と聞いてみる。店員は巧妙にややこしい客に当たってしまったと言う感情を隠して言う「おすすめは当店オリジナルのあんこぬりたくりドーナツです」「ほうほう、あんこをぬりたくっているわけですか」「それはもう存分にぬりたくっていますよ、何しろカロリーにして一個1200カロリーどすんと腹に響きます」「そのカロリーとやらはなんですか、新しいドレッシングでしょうか、私は初めて聞きましたが」「カロリーを知らない?」「知りませんなあ」店員は面倒臭さ全開で「だったら知らなくていいんじゃね」と吐き捨てて「で、どれを?」「あんこぬりたくりを」「おひとつでよろしかったですか?」「289個」「冗談でしょってもう食ってる!」

火星から来た隕石

2010-04-29 | リッスン・トゥ・ハー
その隕石はでーんと御殿のまんなかに陣取っていて、訪れるもののご機嫌をうかがうための手段と成り下がった。昔は野望に燃えていて、地球というちっぽけな惑星など木っ端みじんにしてくれるわとイキガって降ってきたはいいが来る過程でどんどん体積が減っていくし、さいしょは東京ドームほどの大きさだった彼も地球に到達する頃にはアライグマ程度になっていたものだから、勢いだけでつっこんでもたかが知れている。少し穴があいて、揺れて、一部のわずかな人々はちょっと怖がったけれどほとんど大多数の人は何も感じなかったし。落ちるだけで後は何もできないし、研究する人々が持って帰っていじくり回されるうちに受け身の快楽に目覚める火星からの方から来た隕石。

極楽浄土、鮮やかな青

2010-04-27 | リッスン・トゥ・ハー
僧は言う。突き抜ける青だった。ちょうど太陽が真上にあって燦々と注いでいる。地面は砂であってさらさらと素足にこそばゆい。私は歩いていた。どこに向かおうとしているのか自分でもよくわからない。ただ、歩いていることが非常に心地よく、いつまでも歩いていたい、私はただ歩いているだけの人生だったとしても悔いはありません、とたしかに感じていた。浜風が吹いてきた。遠く異国の匂いがする。異国の柑橘類の匂いがふんわりと漂ってきている。海を越えて、様々なものが流れ着いている。嘆いたところでどうしようもない。時代が時代なのだ。極楽も乱れる。というより極楽こそ甘ったるい湯につかっているものどもがアロハシャツなんかを着流して、葉巻片手に水着の女に声をかける。もしくはその露出の多い女の側で酸いも甘いも軟弱な男女。紛れ込んでいるウミガメが産卵。卵はころころと私の足下に転がり、ぱっかとわれて中から飛び出すは煩悩。

アライグマが爪跡をつけたのはその柱がとても堅そうだったからではない

2010-04-27 | リッスン・トゥ・ハー
つまり堅いものを傷つけたいと言う本能みたいなもんですわ。自分の爪がこんなにも堅く鋭いのだということを世に示したい。示してどうなるというものではありませんが、とにかく示してそれから後はそのときに考えるとして、できるだけ大きな傷をぎゅんと。わいの爪もこんなにも立派になりましたよ、と故郷のおっかあに伝わればいいな。そんなとき眼の前に柱があったんです。一見すると古くさいいかにももろそうな柱で、わいは鼻で笑ってへへんて通り過ぎようとしたんですわ.次なる堅いものがワイを待っとるんやから、古い柱の一本にかまっとる暇はないんや。柱がギュンニャリと曲がってわいの方を見よった。いや、気のせいやなく実際にギュンニャリ音たてて曲がりよった。そんなわけないと思うかもしれません、無理もないわ、わいだって実際に見てなかったらこんなこと信じるわけおまへん。でも見てもうたんやからこれは仕方ない。ギュンニャリ曲がる、わいの方を見る。アライグマやい怖いのか、とこう言いましてん。柱無勢に馬鹿にされるアライグマやおまへん、その口封じ込めたるから覚悟しいやとわいはつめ立てて。