リッスン・トゥ・ハー

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天海さんの涙にドキッとした

2009-06-30 | リッスン・トゥ・ハー
天海さんは私よりも5つぐらい年上の女性で、私たちは時々、年に1、2回ぐらいは一緒に飲むことにしている。天海さんがどんな仕事をしていて、家族構成がどうなのか、夫や子どもがいるのかなどは全く知らない。見た感じはいなさそうだけど、天海さんだってもう30代後半だし、いてもおかしくない。私たちはお互い全くと言っていいほど知らないし、また知ろうともしない。干渉しないのが暗黙の了解だった。私たちの話題といえば、音楽のこと、新しく見つけたケーキ屋のこと、今も深海で戦っている大王烏賊とクジラのこと、宇宙の果てのこと、とりとめなくづらづらと、水割りを飲みながら、いつまでもいつまでも私たちは話をした。日が変わり、オーダーストップとなったころ、私たちは毎回違う居酒屋で話をした、天海さんが、もうこんな時間か、と立ち上がり私も続いて立ち上がり、ちゃんと6:4に分けて支払いをして、じゃあ、とわかれた。その日は、オーダーストップになっても天海さんに全く立ち上がる気配がなく、私はどうしたものかしら、と戸惑い始めた。と言うのは、いつもだったら別にいくら遅くなってもいいのだけれど、というかむしろもっと話したいのに天海さんがあっけなく終わりにするからもう、というほどなのに、明日は朝から仕事があって、できるだけ早く帰りたいのに、天海さんはいつもより無口で、でも、ぐいぐいと水割りを飲んでいる。耳にピアスをした若い店員がそろそろ閉店ですんで、と私たちに声をかけた時だった。天海さんの瞳から涙が落ちたのだ。

最高齢のホッキョクグマ死す

2009-06-29 | リッスン・トゥ・ハー
北斗の戦士がひとり、消えた。それは、南斗の側にとって朗報であるはずだが、なぜか静けさを保ったまま街は朝になろうとしていた。死因は餅の食い過ぎであった。食い過ぎて喉に詰まらせてしまったのだ。ホッキョクグマは餅のうまさを生前、以下のように語っている。「まるで太陽さ、あのほのかにぬくもりを持った耳たぶのような食感のものがあるなんて、俺はこれを好物として主張し続けている」以来、ホッキョクグマたちは、戦士の命日に、彼が死んだの方角をむいて餅をかじる。

しそINペプシ

2009-06-28 | リッスン・トゥ・ハー
今回はしそであります!と男のテンションうなぎ上り。しそをすりつぶして炭酸水に混ぜ込んだら意外とうまいじゃないか、となったわけで、あらら、と言いながら、ながらも確かにしそはうまいわけです。まずしその青臭さが鼻に昇ってきてむん、と吐き気を催すのだけれど、それはしその香りに慣れていない人がそうなわけで、がんとがんと脳天に突き刺さる感じ。しそベイベ、しそベイベはつん、青臭いしその香りが突き刺さったそのあとは、あーええと、下がちりちりしびれる感じ。苦みちゅうのがあとからきて、炭酸水に含まれた多くの糖分がほんわあと包んでくれるから、べりーぐっ。まことにべりーぐっ。男はこちらの意志などおかまいなしさ。

バラバラにされた金塊

2009-06-28 | リッスン・トゥ・ハー
バラバラになっていたのに、その輝きはまだまだ王様。私はうっとりとしてそれを見る。すると、金塊はにょっきと手を伸ばし、私の頬をなでてきた。その優しい手の感触はそよ風のよう、眠ってしまいそうな気持ちの良さ。バラバラになってはじめて手に入れた優しさなのね、と私は思った。自分の体を失ったはじめてわかることがある。私は金塊から目をそらし、窓の外並んでいるビルディングを見た。どんどんと伸びている。当分の間は止まりそうになかった。

隣室の音、我慢できなかった

2009-06-25 | リッスン・トゥ・ハー
聞いているんだろうくそ野郎が、と聞こえた。耳をすましていたわけではない、寝転がってうとうとしているとふいに隣室から音が聞こえてきて、最初は気にならなかったが、それがずっと続いているのでさすがに腹が立ってきて、そういえば次第に大きくなってるような気もするし、少し注意していれば内容もわかるぐらいの大きさだったから聞いていたのだ。すると突然である。まず心臓がどくんと波打つ、僕はもともと度胸の或る人間ではない。度胸があれば今こうして、人のかわりに無理矢理、那覇にクレーム対応になんかきやしない。期待されているわけでもない、那覇は決して嫌いではないが、わざわざクレームを受けにくるほど好きでもない。どちらかといえばどうでもい。それで今日、さんざん罵られてやれやれようやく終わったとホテルに帰ってきたところだった。本当なら、コンビニエンスストアで買ったカップ酒でもあおって、つまみ片手にスポーツニュースを見ている所だった。関係ない、と僕はつぶやく、僕が聞いていることを隣室の相手が知っているわけがないのだ。知らん振りをしても無駄だくそ野郎が、とまた聞こえた。糞やろう、糞やろう、まったく下らんくそ野郎が、と聞こえた。糞やろう、糞やろう、その声は昼間に僕を罵った声に似ていた。いや、その声そのものだった。あの銀縁メガネの7:3分けが隣室までやってきて不当なクレームをほざいているのか、僕は不快になった。昼間はただひたすら頭を下げていた。たいていのクレームはそれで収まる。そうなれば占めたものだった。が今日は頭を下げれば下げるほどひどくなった。癇に障るのだろうか、僕は足蹴にされた、ひどく足蹴にされた。糞やろう、糞やろう、カップ酒がこぼれた。ばらばらとつまみはカーペットの上に落下していく。隣人がわめく。OK、さようなら人類。

精鋭の革命防衛隊投入

2009-06-25 | リッスン・トゥ・ハー
より選りのものたちだ。間違いない。まず風貌からしてひと味違う。俺は、あるいはあたしは修羅場乗り越えてここにいるんだから、という気概が感じられる、その表情、その匂い、その目、様々なところから感じられる。そして何より、サランラップを腹に巻いている。一人残らず巻いている。防御力からいえば、何のプラスにもならないほどの薄さで、おそらく銃で撃たれれば致命傷になりかねないがしかし、革命防衛隊はひとりのこらず腹にサランラップを巻いただけのスタイル。それが一体何を意味しているのかはわからない、よく強いものが見せる寡黙さで、黙ったまま、タバコをのみながら命令を待っている。あるいは革命が始まったら自動的に決められた通り動くのだろう。何か聞こうものなら、じゃあお前はサランラップの強度を知っているのか?と問われ、いや、あんまり考えたことないからわかりません、とか応えたら、それ見たことかと殴られそうな雰囲気がある。そして私は革命の勃発の合図、いつだそうかいつだそうかセブンイレブンで立ち読みしながら、考えている。

宇宙港

2009-06-23 | リッスン・トゥ・ハー
時々思うんだ、この地球が終わりを向かえる日が例えば明日来るとしたら、私は一体何をして誰と一緒に今日を過ごすのか。漠然とした、あり得ない話だけれど。いや、何百年後は必ずそういうことが起こると科学者は予想している。それはほとんど確実にそうなのだろう、が今、明日突然にして終わりを向かえるということはない。おそらくゆっくり私がともに破滅の道をあゆむということではなく、まず人類がとうの昔に絶滅してから地球はそれを見届けて、終わりへ向かうのだと思う。でも、本当に明日終わりを向かえるとしたら、想像力を働かせて考えてみる。宇宙港の地下にある喫茶店はおいしいワッフルを出すと評判で、空港を利用しないものもそれを目当てにやってくると言う。私は明日、太陽系外へ跳ぶのだけれど、その前にうわさのワッフルを食している。確かに噂通り、食べ応えがある。なのに、後に残らないすっきり感がたまらない。地球の終わりのことを考えていた自分がなんとなく恥ずかしい。空港の喧噪はやまない。

サ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト

2009-06-21 | 若者的図鑑
この皺を見よ!歴史が刻んだロックの皺を。
こんなに鮮明に深い皺、たるんだあごや腕や腹、薄くなりかけている髪、を記録していいのカシラと思う。
ロックンロールとはほど遠い、肉体の衰えを存分に残して、なおそれでも、転がり続ける石、皺を隠すように軽快に踊るミックジャガーをはじめ、熟練の間と積み重ねた技術で、組み立てるこのライブは、何度見ても、新鮮で、抜群にかっこいい。

見所はたくさんありまして、ドラマーのふう、やれやれ、と言う序盤の表情。

次第に乗ってくるコーラスの女性のこぼれ落ちそうなほど揺れる胸。

ミックジャガーの動き。キースの時々近づいてきたメンバーの肩にてを乗せてちょっと休憩、みたいにするしぐさ。

ゲストミュージシャンの豪華さと、それぞれが決してローリングストーンズに引けを取らないアーチストとしての魅力。

数えればきりがありませんが。ぜひ映画館で大画面で観てほしい。
音響をがんがんで観たい。映画です。

爆弾女ブログ

2009-06-21 | リッスン・トゥ・ハー
確かに爆弾ダあ、こいつは爆弾ダア、とカラスは鳴く。ダア、ダア、ダア。ブログを書いてダアダアダアと鳴く。女が木に登ってくる、登って街を見下ろす、と煙が立ち上っていて、無数の煙が立ち上っていて、とてもきれいだ。カラスはまだ鳴いている。鳴き続けている、家族が帰ってくる、家族は夕食を食べる、マクドナルドで買ってきたマックシェイクをずうずうとすう。すると、喉に詰まってしまうが気にしない、上の兄は息が詰まって死ぬ。女はそれを見て涙ぐむ、ダアダアダア、は耳鳴りのように響いている。街をつつみこんでしまいそうなほど。

骨太09

2009-06-20 | リッスン・トゥ・ハー
あれが噂の男らしい。行き交う人々が男のほうをちらりちらりさっきから。別に変わったことはない、どこにでもいそうな男、歳の頃は25、6の今が楽しければ何でもいい的な発想から少し成長して、将来俺何ができるんだろう地球にとって、とか勘違いしがちな年頃。男は微動だにせずに街のクレープ屋さんの側に立っている。立って誰かを待っているのか、何かを観察でもしているのか、よくわからないけれど、人々が男のことに気づいていて、完全に人盛りとまではいかないけれど、不自然な人の流れ、クレープ屋さんに寄るでもなく、離れるでもなく。でも男がどうしてそんなに人々から注目されるのかわからない。と言う私にクレープを噛んだ高畑は教えてくれた、男は見た目じゃない、男はだって骨太。

buthuzou

2009-06-20 | リッスン・トゥ・ハー
私には聞こえる、さっきの仏像が私の方を見て、待ってて、とささやいた。さっきだけでない。私は、仏像に近づくと必ず何か聞こえる。内容はその時その時でいろいろ違っていて、さっきのように呼びかけるものとか、意味の分からないものとか、きのうのテレビ番組のこと、私が学校でトモダチと話す内容に近い。きわめて。仏像界にも学校があって、私と同じようなことを話していて、私にはそれが聞こえるだけ。仏像の声が聞こえるなんて変な子だと思われそうだから、誰にも言わないけれど。週末は仏像を求めてあちらへこちらへ、仏像にはいろんなタイプがあって、それぞれ話すことが違うから、レアもの探しにあちらへこちらへ。

雌のトキに特別住民票を交付

2009-06-18 | リッスン・トゥ・ハー
私は喜んでいる、心から正真正銘喜んでいる。しかし喜んでいない人も世の中には存在する。その存在をぞんざいに扱ったことが諸悪の根源だ。私はそう思う。そもそもトキに住民票は必要ない。トキ全くうれしくない。なんなら、勝手に住民にされて迷惑なぐらいだ。確かに手厚く保護されているし、天敵から注意深く守られているだってトキ、貴重な鳥、いったん絶滅して復活した伝説の鳥、勘違いしてもおかしくないほど、気を使ってくれる。しかし、だからといって住民票はいらないんだ。人間でもないし、架空のキャラクターでもないし。私にはその声が聞こえる。トキは泣いている。いいかげんほっといてくれ、と泣いている。私にはどうすることもできないけれど、その声をちゃんと聞いてあげるよトキ。

黒部和牛が逃走

2009-06-16 | リッスン・トゥ・ハー
本当に必要としてくれる人のもとに向かうのだ、頭の中に届いた声はそうつぶやいた。こういう声は時々届く。前回は半年ほど舞え、食事をするとよくない、とつぶやき、それに従って食事を抜いたら、たまたま毒が盛られていて、周りの牛は次々に死んでいった。生き残った僕は奇跡と言われた。そのため高い値が付き、宇都宮の都会に送られてきたのだ。あとは解体され、人間の井の中に収まるにすぎない、と思っていた。死ぬのは仕方がない、そういう運命だ。僕はもとから自分の運命を知っていてその敷かれたレールの上の走っているにすぎない。時々聞こえる声はいつも正しく、僕を良い方向に導いてくれた。だから今回もきっと正しいはずだし、僕は従って走った。チャンスは一度しかなかった。輸送車が信号で止まる、そのタイミングを見計らって僕がいる位置から少し上、空いた隙間に飛び上がり、その狭い隙間に自分の体をねじ込む。少々痛かったがかまうものか、僕は正しいことをしているのだ。そう、ここから逃走し、新世界の神となる。

鳩の乱、鎮圧

2009-06-15 | リッスン・トゥ・ハー
公園の鳩が一斉に鳴きやむ、と同時に一カ所に集まり行進をはじめる。一定のリズムで足や手はきっちり伸ばして、規則正しく。これが鳩かと思えるほど、それはまるで訓練された軍隊のように一糸乱れぬ行進だった。鳩たちがどこにむかっているのか、人々は固唾をのんで見守った。その行進の長さは10キロにものぼり、首都圏の交通網を分断させるに至った。いくら警察によって鳩を誘導しようとも、暴力で無理矢理軌道を換えようとも、鳩は揺るがなかった。次から次への歩いてくる。それは東京を流れる川であった。鳩がたどり着いた場所は、国会議事堂、そこで鳩は自分たちの境遇について何か訴えようとしていたのだろう。境遇の改善を求めて行進をしていたのだろう。鳩は毅然とした態度で国会議事堂を占拠していった。人々は、議員も含めて、見守るしかないでしょうね。首都圏の機能が麻痺しはじめ、鳩が満足するのを待つしかないのかと思えたときに突如として鎮圧された。決めては豆鉄砲だった。しぶとさを見せていた鳩の、豆鉄砲で撃たれた時の顔といったら。そうして鳩の乱はあっけなく鎮圧された。

200万本のユリ

2009-06-14 | リッスン・トゥ・ハー
百合子は15歳、京都市内の中学校に通っている。ちょっとおっちょこちょいだとかお兄さんは言うけれど、案外しっかり者よと本人は思っている。好きな食べ物はミルフィーユ、ほわっほわのでもサクサクしてる近所の洋菓子店で一押しのイチゴのミルフィーユ。これさえあれば百合子、向こう10年は生きていけるわ、とトモダチには豪語したものの、実際その状況になったなら、3日が限界だろうと気づいている。なんというかキャラクター設定というのを意識しなければこの時代は生きていけないわけで、百合子は権威に実に忠実なのだ。嫌いな食べ物はにんじん。にんじんなんて見るのも嫌、あの独特の甘みがのどにつかえたときに鼻の奥に抜けてくる匂いがたまらなく嫌い。にんじんなんてこの世ならなくなってしまえばいいのに、と思っているが、お母さんの百合子は百合子がにんじん嫌いなのを知っていてわざとにんじんをよく食事に使う。なんとか克服させようと躍起になっている。百合子のクラスの百合子先生はまだ20代前半の、大学を卒業したてのお姉さん、ちょっとだけ頼りないけれど、とっても優しくてみんなから人気がある。特に男子からは絶大な人気。そこそこ美人だし、ちょっと頼りない所が逆に魅力になっていてキュート。百合子も誰にも言わないけれど百合子先生みたいになりたいなあ、と漠然と思っている。百合子の一番のトモダチの百合子もきっと、憧れているんだろうと思う。だけどそれを口に出して言えないんだ。だって、女子の番長、といわれている3年の百合子が、なぜか百合子先生を嫌っているから。百合子に目をつけられたものならこの中学で生きていけない、そんな事情があるわけ。中学生もなかなか大変だ。でも何かつきまとう違和感、日常にあふれる違和感、これいったいどうしてだろうと京都市内中の、いや日本中の百合子はそっとため息をつく。