リッスン・トゥ・ハー

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悪魔が語るユリネの記憶2

2007-04-30 | リッスン・トゥ・ハー
ちょっと前に言ったように僕等は幸せだったし、ユリネのことを考えない日はなかったし、これからもずっと二人で暮らしていくのだと、その気持ちはゆるぎなかった。確実に。

そんな時、悪魔はやってきた。
それが悪魔であると、今なら分かるけど、そのときは何も分からずただ、得体の知れない何かがやってきたとしか思わなかった。でも怖くはなかった。ユリネに出会ったときのほうが怖かったぐらいだ。ほら、今の君もそうだろう?
悪魔は僕に話しかけなかったし、僕は話ができるなんて思ってもみなかったし、ただ、いつもと違う部屋の空気を感じていて、とにかくなんというかどうしていいのか分からなかった。それが今の君と少し違うところだろうか。

欲望341~350(ベーコンエッグ伯爵夫人)

2007-04-30 | リッスン・トゥ・ハー
・ベッドから出ないで3日過ごす

・テキサス州で、カリカリに焼いたベーコンエッグを出すカフェに立ち寄る

・止まらない、と焦ってしまうほど急な坂道を駆け下りる

・階段をいくら昇っても、足が悲鳴をあげない

・こいつ、本物だ、と思われている

・格式ばった文章が書ける

・取引現場に踏み込んで、怒鳴る

・個人的な記念日をちゃんと覚えている

・妖精に遭う

・見学、と称してラブホテルに入る

「UFO目撃情報」50年分 仏が公開

2007-04-29 | リッスン・トゥ・ハー
その情報は危険すぎた。それに誰も気づいていない。ただのくだらない、本当か嘘かも曖昧な情報だと、たいていの人間は思っている。が、しかし、だ。その情報を公開することで、必ず何らかの動きがある、やつらの動きがある。そう確信している。私は知っている。その情報公開がもたらす意味を。おそらく地球上で一番良く知っているのではないかと思う。だから、なんとかしなければならない。たしかに私は無力だ。無力なりに、何かできるはずだ。私は考え、窓の方へ目をやる。遅かった。やつらは予想以上に容易周到だ。なるほど、まず私を。ふふ、光栄と思っておこう。空飛ぶ円盤がこちらにむかって、

(ぐしゃり)

煮大根に微笑を

2007-04-28 | リッスン・トゥ・ハー
鍋の底の方にある大根は十分出汁を吸っていてはちきれんばかり、綺麗な琥珀色をしていた。私はそれを、箸で半分に切って、それからもう半分に切って、一口で食べるにはまだ大きいぐらいだけど、一気に掴み口に放り込む。熱すぎて、ほわほわ言いながら、ゆっくり噛んで、染み出す出汁で、口の中をやけどしてしまいそうになりながら飲み込む。むしろ、むしろやけどしたほうがより美味しく感じるぐらいだ。危険を冒して煮大根を欲望と言う名の胃袋へ放り込む、怪しい快感が、私を駆け巡る頃、剛史は湯に沈んでいる。深々と沈んでいるのだ。

欲望331~340(スナイパースパイダー)

2007-04-28 | リッスン・トゥ・ハー
・生命線がものすごく短い割に長生き

・空想の住人になる

・屏風浦のあの娘に恋を教える

・胸元のボタンをひとつ外す

・艶かしいドレスを着こなす

・ガーターベルトにピストル

・守るより守られる

・命を狙われる程の身分

・命を狙うスナイパー

・外したボタンを止めてしまったクールダウン

ストックホルムで舞って猿

2007-04-26 | 掌編~短編
 すぐに教室は制圧された。あたしは、前から二番目廊下寄りに座っていて、めんどくせーことになったな、と比較的のん気に古典教師に長いナイフを突きつけている奴を見ていた。そういう危機的状況であるのに、恐怖って何?というぐらい恐怖は感じなかったし、それはクラス中のみんながそんな風だった。ただ、ナイフを突きつけられている古典教師だけが、何やら弱々しくつぶやいているだけだ。
 というのは、ナイフを突きつけている奴はパンティストッキングを被っていて、その顔が歪んでいて、冷静に見れば見るほど可笑しかったのだ。ナイフを突きつけ、脅せば脅すほど、その可笑しさは増していった。そういう奴は、全部で10人いた。そして、いずれもパンティストッキングを被っており、それぞれ個性的な表情を作り出していた。
 奴らは教室に入ってきたのは、3時間目一番人気のない古典の授業中で、古典教師が教科書を読んでいた時だった。まず、全く音を立てずに5人ほどが後ろの扉から教室に入り、それでも妙な顔の集団が突然入ってきたことに気づいたクラスが、じきに騒がしくなり、なんだどうした、と古典教師が顔をあげた瞬間、前の扉からさらに5人が入り、そのままナイフを教師に突きつけた。なんだきみたちは、と古典教師は叫んだけど、みんなわりと冷静にその様子を見ていた。やがて10人はそれぞれ、あらかじめ配置されていたように散らばり、あたしたちを囲んだ。誰も手にナイフを持っていた。
 リーダーらしき奴が教室の中央でしゃべりだす。

「いいですか、あなたたち、この教室はのっとりました、妙な行動はやめましょう、その方があなたたちのためです。我々は、我々の目的を達成できればそれで、おとなしく帰るつもりです。いいですか、決して妙なまねはしないこと。誓ってください」

 どうやら女らしかった。とそこで始めて気付いた。奴らは皆身体の線が分かりづらい服を着ていた。がしかし、おそらくみんな女なのだろう。女の声は被ったストッキングのためにひどく篭っていたが、教室中は静まり返っていたし、女の気持ちが、ちゃんとこもっていたから、そこに誠意すら感じたから、ちゃんとあたしたちに届いてきた。それでも、めんどくさい事になったという事実に変わりはなく、例えばやんちゃ者で派手なユウなど、おとなしく黙っているとは思えなかった。

「我々の目的はただひとつです。この教室を我々のものにする、そして、我々はこの教室から日々の活動を行う、ということです。」

 と言ったところで、誰かが何かを言おうとした。

「質問は後ほど受け付けますので、少々待っていてください。おとなしくしていれば危害を加えるつもりはありませんし、うまくいけば、この授業時間が終わるまでに解放することができるかもしれません。」

 要するに奴らは、あろうことかこの3-2の教室を自分たちのものにして、そして、そこで、生活し、野望を高めていきたい、ということだった。ほんと馬鹿げた話だ、馬鹿だ。ストッキング被ってる時点で馬鹿だということは分かるけど。
 馬鹿だということはすぐに分かったが、あたしたちは何もしなかった。奴らのナイフが怖かったのではなく、先生が人質のようなことになっているからでもなく(それに関してはむしろ、やっちゃってくださいとお願いしたいぐらいだし)、このパプニングを歓迎する節があって、授業しなくてもいいし、なんか、面白そうだし、ちょっとみてよ、みたいな事、思ってたんだと思う。少なくともあたしはそうだった。
 奴らは、自分たちの主張を言い終えると、ようやく、具体的な行動にでた。具体的といっても、あたしらに何かするということではなく、責任者を呼べ、といい、かなり遅れてやってきた(きっとストッキングを被った集団が教室を制圧したということを信じられなかったんだ悪い冗談はやめろと)教頭に対して、さっきと同じようなことを言ったのだ。
 教頭はあきらかに馬鹿にしていた。だって、ストッキングを被っている奴らがいくら迫力のあることを威圧的に言ったって、効果が薄いし、教室を私達のものにするって、で、具体的にどうすればいいのでしょう、みたいな事をごねごねいった後私だけで判断はできませんので、と引っ込んでいた。いつもの教頭で、全くあせったりせせず、あくまでもお遊びに付き合ってやるという態度は非常にむかついた。
 それからすぐやってきた校長も大体同じようなものだった。確実にこの教頭のその後がこの校長なんだろうな、と思えた。そう考えると、かなりうんざりした。
 それでも、校長は学校の最高責任者らしく、一応、悩んでいますよ、という態度で奴らを諭し始めた。

「いいですか、君たち、君たちは見たところまだ若い、間違いを犯す前に、こんなことはやめなさい、こんなことをやったところで、何もいいことはありませんよ、さあ、相談になら、乗ってあげようじゃないか、なんでも相談したらいいんだ、君たちはうちの生徒なのかい?違う?そんなことはどうでもいいね」

 どうでもいいよ糞が、とあたしたちは、少なくともあたしは叫びたかった。女に対してこっちは何も入ってこない、なんでだろう、こんなにも違うのは、面白くない。
 それでも校長はその調子で、きっと、自分の言葉によっているんだろう、どんどん感情をこめて、自分は全てを受け入れる全知全能の神なのだから、とでも言いそうな勢いで、パンスト軍団を説得しようとしている。
 無駄だよ、爺よ、そんな薄っぺらな言葉で、彼女らは、あたしらは、何も変わらない。見苦しいだけだよ校長室に引っ込んでろよぼけ。校長室の窓越しに暇を見つけては陸上部の短パン突き出た太ももなめるように見てるエロ爺が。

 パンスト軍団もやはりそう感じているらしい。先ほどからみんな、いらいらした様子で、刃物をいじっている。と突然、さらにしゃべり続けようとする校長の前に、たまりかねたリーダーがつかつかと歩み寄り、ナイフを目の前に突きつけた。

「あなたの話は、何も見えてこない。よって、全く受け入れるつもりはありませんし、私達の要求にどう答えるのか、それだけを答えてください。さもなくば、殺します」
 初めて具体的に危害を加えると、リーダーは言った。それで、校長は、ひっ、と情けない悲鳴を上げ、やはり同じ調子で「落ち着きなさい」とだけ言って、黙り込んだ。
 後ろに教頭がいて、ナイフを突きつけられた校長を心配そうに、でも、どこか楽しそうに見ていた。日頃の威張り散らしている奴が、やり込められて、どこか楽しそうだ。みんな歪んでいる気がした。

 世の中全部ちくしょ!

 歪んだ時間がぐんにゃりと流れた。

 あたしたちは、女の言葉を受け止めた。だんだんと女のことが大の親友のように思えてくる。信じよう。全てを信じよう。あなたの全てを受け入れて、あたしたちは生まれ変わるんだ。できる。不思議な感覚だった。もうどうでもいいや、そういうことが、あたしたちは日常に飽きていたんだ。なんとなく過ごしている日常に。誰かは、彼氏といちゃついているけれど、本当はそんなもの何も楽しくない。刺激を求めていたんだ。ああもう。
 ため息をついている暇はない。穿いていたパンティストッキングを脱いで、みんな一斉に被った。穿いてない子は持ってる子が分け与えた。あたしたちは、学校を乗っ取ることにしたんだ。踊るように踊るように教室を飛び出す、目指すは、職員室か、校長室か、そんなもんじゃない。もっとなんというかもっと、大きな、全てを手に入れるんだ。あたしたちなら、パンストでゆがんだ顔のあたしたちなら何でもできる気がした。できる。ユウの獣のような叫び声が渡り廊下を突き刺して、

欲望311~320(運について)

2007-04-20 | リッスン・トゥ・ハー
・一瞬の風になる

・街角に落ちている空き缶を、躊躇なく拾う

・そうやすやすと照れない

・困っている人がいたら声をかける

・困ったら人に声をかける

・奇跡的なぐらい均等にケーキを切る

・ここぞと言う時のジャンケンに勝つ

・宝くじで3億円当て、全額寄付する

・宣誓をする

・裸足のままでいく

欲望301~310(変身)

2007-04-16 | リッスン・トゥ・ハー
・粋に、てっちりなべでもつつこうじゃないか亀さん

・鰻と梅干を、腹を壊すまで食う

・時計と言う時計をすべて壊す

・からすに啄ばまれる

・からすがじゃれてくる

・町の住民がゾンビ化しても、最後まで生き残る方の登場人物

・銃を撃つ

・常識などかまうものか

・孵化して

・飛び立つ

ピアノガールと二番目の悪魔

2007-04-13 | リッスン・トゥ・ハー
冬がやってきて終り、春がやってきて終り、同じようにして夏、秋、が終り、もう一度春がやってきたとき、彼女のもとに二番目の悪魔がやってきた。
悪魔は最初の悪魔と違い、はっきりとした形を持っていた。それは人間と何も変わらない風で、それが悪魔だという事は、彼が主張しない限りわからないように思えた。それでも、悪魔だと分かったのは、彼の影がなかったからで、そしてやはり自分は悪魔であると主張したからだった。

人だって平気でだますし、頭も回れば身体も回るし、なんのやり方も全部知っている。

「そちらはたいへん見難い訳です」
そうそう、悪魔は片目だった。

お願い、わたしをだまして。

諦めたような、哀れむような、祝福するようなピアノの調べが聞こえる。

欲望290~300(コンクリート詰めで居酒屋生け簀へ)

2007-04-13 | リッスン・トゥ・ハー
・コンクリートなんてかち割ってしまう

・迷路で一度たりとも迷わずゴール

・コーラを一気に飲み干してもげっぷが出ない

・聖火ランナーになる

・競技場の聖火を点す役になる

・聖火をもてあそぶ

・聖火を消す

・予告ホームラン

・キャッチャーのサインに首を振る

・ホームスチール成功