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特別委員会に関する豆知識

○参議院委員会先例録3

特別委員会は、議院の議決により設置する

特別委員会は、議院において特に必要があると認めた案件又は常任委員会の所管に属しない特定の案件を審査又は調査するため、議院の議決により設置する。

○参議院委員会先例録5

特別委員会は、付託された案件が議院の会議において議決されたときに消滅するが、会期中に審査又は調査が終わらなかった場合は、会期の終了と同時に消滅する。(以下略)

特別委員会は、会期の冒頭に設置する場合と、会期の途中に設置する場合とがあります。

今回は、特別委員会の設置期間(というより時間)が最も短い部類に入る特別委員会を紹介したいと思います。

平成2年の第119回臨時会と平成3年の第120回国会では、「賀詞案起草に関する特別委員会」を設置しました。

両国会での特別委員会は、当日の本会議で、まず特別委員会を設置して休憩しました。

本会議休憩後、特別委員会が開会され、賀詞案を決定します。その後、本会議を再開して賀詞案を採決によって可決して、設置と同日に特別委員会は消滅したのです。

1時間程度の特別委員会でした。
これは、賀詞案を決定するための特別委員会でしたから、本会議で議決=特別委員会の消滅となったのです。

平成2年11月7日 第119回臨時会 参議院本会議

○議長
日程第一 即位の礼につき慶賀の意を表する件
天皇陛下におかせられましては、来る11月12日に即位の礼を行わせられます。まことに慶賀の至りにたえません。

つきましては、本院といたしましては、慶賀の意を表するため、院議をもって賀詞を奉呈することとし、ここに即位の礼につき天皇陛下に奉呈する賀詞案起草のため、委員25名から成る賀詞案起草に関する特別委員会を設置いたしたいと存じます。院議をもって賀詞を奉呈すること並びに本特別委員会を設置することに賛成の諸君の起立を求めます。
 〔賛成者起立〕

○議長
過半数と認めます。
よって、院議をもって賀詞を奉呈することとし、賀詞案起草に関する特別委員会を設置することに決しました。本院規則第30条により、議長は、議席に配付いたしました氏名表のとおり特別委員を指名いたします。

○議長
賀詞案の起草のため、午前10時30分まで休憩いたします。

   午前10時3分休憩
(特別委員会は、10時6分開会、10時10分散会)
   午前11時16分開議

○議長
休憩前に引き続き、会議を開きます。これより賀詞案起草に関する特別委員長の報告を求めます。賀詞案起草に関する特別委員長。(中略)

○議長
過半数と認めます。
よって、賀詞案は可決されました。賀詞の奉呈方は、議長において取り計らいます。これにて休憩いたします。
   午前11時19分休憩

平成3年2月13日 第120回国会 参議院本会議

○議長
日程第一 立太子の礼につき慶賀の意を表する件
天皇陛下におかせられましては、来る2月23日に立太子の礼を行わせられます。まことに慶賀の至りにたえません。
つきましては、本院といたしましては、慶賀の意を表するため、天皇陛下並びに皇太子殿下に院議をもって賀詞を奉呈することとし、ここに立太子の礼につき天皇陛下並びに皇太子殿下に奉呈する賀詞案起草のため、委員25五名から成る賀詞案起草に関する特別委員会を設置いたしたいと存じます。天皇陛下並びに皇太子殿下に院議をもって賀詞を奉呈すること並びに本特別委員会を設置することに賛成の諸君の起立を求めます。
 〔賛成者起立〕

○議長
過半数と認めます。
よって、天皇陛下並びに皇太子殿下に院議をもって賀詞を奉呈することとし、賀詞案起草に関する特別委員会を設置することに決しました。本院規則第30条により、議長は、議席に配付いたしました氏名表のとおり特別委員を指名いたします。

○議長
賀詞案の起草のため、午後0時30分まで休憩いたします。
   午後0時3分休憩
(特別委員会は、午後0時5分開会、0時10分散会)
   午後0時31分開議

○議長
休憩前に引き続き、会議を開きます。
これより賀詞案起草に関する特別委員長の報告を求めます。賀詞案起草に関する特別委員長。(中略)

○議長
過半数と認めます。よって、賀詞案は可決されました。賀詞の奉呈方は、議長において取り計らいます。(以下略)
   午後0時38分散会
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衆議院の優越(条約)

○日本国憲法第60条

予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。

2 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

○日本国憲法第61条

条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。


予算案や条約は衆議院の優越が認められていますので、参議院先議で審議を行うことは避けてきました。

ただ、平成以降の条約の先議率を見てみますと、40%を超えている年があります。

平成7年(第132回国会)44.4%
平成12年(第147回国会)45.5%
平成15年(第156回国会)44.4%
平成17年(第162回国会)44.4%
平成18年(第164回国会)42.9%

実に5回もありました。

個人的には、平成29年(第193回国会)では、条約が20本(新規19本、継続1本)あったため、参議院先議の条約もあるかとも思ったのですが、衆議院の優越を尊重して、参議院先議となった条約はありませんでした。

参議院で条約を先に採決しても、衆議院では30日を経過しても自然成立はしないためです。

ただし、臨時会では、最近の例でいえば平成28年(第192臨時会)に参議院先議の条約があります。

いつか参議院本会議の議事日程の編成ルールについて紹介したいと思っていますが、普通の議案(法律案)であれば、委員会での採決順に議事日程が編成されますが、予算案や条約に関しては、参議院として30日自然成立ルールの宿命を背負っていますので、採決順は普通の議案(法律案)を飛び越して先になります。

少しでも先に採決し、参議院としての早めに意思を示すことで自然成立のおそれを減らすためとも言えるでしょう。

何かあって、議事が中断しないとも限りませんので、このような議事日程の編成ルールになっていることは、理に叶っていると思います。
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衆参のちょっとした違い(起草)

衆議院公報に「〇〇法律案起草の件」と記載される「起草」は、委員会提出法律案のことを指しています。

一方、参議院の場合、委員会提出法律案の起草について公報には「〇〇法律案に関する件」と記載されています。

国会法規上、「起草」についての条文は、3か所にしか存在しません。

参議院規則では第241条に懲罰での戒告または陳謝を起草、衆議院規則でも同条で懲罰での陳謝の文案を起草、国立国会図書館法の第15条に議案起草の奉仕を提供、の3か所です。

よって、委員会提出法律案における「起草」という用語は国会関連法規にはなく、厳密な定義もありませんが、衆議院では第1回特別会から使用されています。

参議院で「起草」が公報に掲載されたのは、下記3例(2委員会)しかありません。

昭和48年7月13日 第71特別会 災害対策特別委員会
「災害弔慰金の支給及び災害援護資金の貸付けに関する法律案の起草に関する件」
昭和55年4月8日 第91回国会 社会労働委員会
「建築物における衛生的環境の確保に関する法律の一部を改正する法律案の起草に関する件」
昭和56年5月12日 第94回国会 社会労働委員会
「社会保険労務士法の一部を改正する法律案の起草に関する件」

参議院では上記の3例だけ「起草」という用語が参議院公報に掲載されましたが、その理由は謎です・・。
委員会提出法律案の場合、上記3例を除き、参議院公報は「〇〇法律案に関する件」ですしね。

委員会が法律案を提出することについて、参議院では昭和30年の第21回国会までは規定されていなかったことがひとつの要因なのかもしれません。

[衆参のちょっとした違いシリーズ]

衆参のちょっとした違い(本会議場の議席数とその配置)」 平成27年4月4日
衆参のちょっとした違い(本会議の出欠)」 平成27年4月5日
衆参のちょっとした違い(記名投票とは-その2)」 平成27年4月15日
衆参のちょっとした違い(総理入り委員会質疑の風景)」 平成27年6月17日
衆参のちょっとした違い(本会議-その1)」 平成27年8月16日
衆参のちょっとした違い(本会議-その2)」 平成27年8月17日
衆参のちょっとした違い(本会議-その3)」 平成27年8月18日
衆参のちょっとした違い(先例冊子等の呼称)」 平成28年2月28日
衆参のちょっとした違い(常任委員会の名称)」 平成28年3月14日
衆参のちょっとした違い(常任委員会の所管)」 平成28年3月16日
衆参のちょっとした違い(議院運営委員会-その1)」 平成28年4月10日
衆参のちょっとした違い(議院運営委員会-その2)」 平成28年4月11日
衆参のちょっとした違い(傍聴規則-その1)」 平成28年4月28日
衆参のちょっとした違い(傍聴規則-その2)」 平成28年4月30日
衆参のちょっとした違い-国会事務局の定員」 平成28年6月24日
衆参のちょっとした違い(閉会中審査・継続審査-その1)」 平成28年6月26日
衆参のちょっとした違い(閉会中審査・継続審査-その2)」 平成28年6月28日
衆参のちょっとした違い(VODの公開期間)」 平成29年1月26日
衆参のちょっとした違い(特別委員会の設置-その1)」 平成29年7月12日
衆参のちょっとした違い(特別委員会の設置-その2)」 平成29年7月13日
衆参のちょっとした違い(特別委員会の設置-その3)」 平成29年7月14日
衆参のちょっとした違い(本会議場)」 平成30年8月13日
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第198回国会における内閣提出法案(過去2番目の少なさ)

政府は、1月23日の衆議院議院運営委員会理事会において、今国会に新規に58法案を提出する方針を伝えました。なお、参議院議院運営委員会理事会には1月24日に伝えられます。

内閣提出法案が、新規で58法案という法案数は、記録が残っている中で過去2番目に少ない数です。
なお、過去最少は、3年前の第190回国会です。

最近の常会(通常国会)における内閣提出法案数は、以下のとおりです。

平成30年(第196回国会) 65法案
平成29年(第193回国会) 66法案
平成28年(第190回国会) 56法案
平成27年(第189回国会) 75法案
平成26年(第186回国会) 81法案
平成25年(第183回国会) 75法案
平成24年(第180回国会) 83法案
平成23年(第177回国会) 90法案


上記国会において延長の有無はそれぞれですが、いずれにせよ、3年前の(第190回国会)と今年(第198回国会)の新規提出本数は、群を抜いて少ないことが見てとれます。

ちなみに、昨年「会期不継続の原則(の例外)-その2」で紹介しましたが、前国会である第197回国会からの継続法案が1法案ありますので、今国会における審査対象となると、新規提出法案と継続法案を足したものとなります。

よって、新規58+継続1=59法案が、今国会の審査対象です。

なお、新規+継続法案で見た場合の過去最少記録は、これまでは第一次中曽根内閣時の63法案です。

新規58+継続5=63法案でした。

今回は、新規提出法案数は過去2番目の少なさに加え、新規+継続法案で見た場合は過去最少記録を塗り替えたことになります。

立法府に身を置く議会人という立場から見ると、内閣提出法案数が少なすぎるのではないでしょうか。

またこれら内閣提出法案に、このブログ等で筆者が何度も指摘してきたような幾つかの問題点が包含されているようであれば、なお懸念が増します。

余談ですが、新規提出法案数や継続法案の数が正式な記録として残っているのが、昭和45年以降ですので、それ以前の正式な記録は分かりません。
 
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新年を迎えて

平成31年、新しい年を迎えました。

今年5月、平成から新しい元号に改まることで、ひとつの時代が終わり、ひとつの時代が始まることになりますが、今年は私にとっても大きな節目の年です。

書きたいことはたくさんあるにも関わらず、「議会雑感」ブログが更新できていない状態が続いており、もどかしい思いでいっぱいです。

ブログを始めてからの約4年間で、書き溜めたものが一定程度あることが救いです。

議会雑感ブログは、以下の2点を大事にしつつ、このブログを通じて、政治に関心を持っていただける方が1人でもいらっしゃれば、との思いで細々と続けてきました。

○国会法等を引用しつつ、時々の話題を交えながら国会のルールを紹介すること
○匿名で政策の是非には触れない範囲にとどめること

ただ、紹介したいことを明確に紹介するために、匿名についてどうすべきか、今、悩んでいます。

私は、このブログを始めたことによって、ここには書かなくても多くのことを調べたり、知見を持った方々に話をうかがったりと議会人として、たくさんの気づきと成長に恵まれました。

また、このブログに書いたことによって、より問題意識を深めることに繋がり、立法府の矜持を示せた案件もありました。

この間、多くの皆様にお支えいただいて、議会人として成長させていただきました。
誠にありがとうございました。

しばらく更新もままならない状態が続くかと思いますが、本年も何卒宜しくお願い申し上げます。

精一杯頑張ります。
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国会の会期(会期と通年国会にならない理由)

〇国会法第10条 

常会の会期は、150日間とする。但し、会期中に議員の任期が満限に達する場合には、その満限の日をもつて、会期は終了するものとする。

常会の会期は、なぜ150日間となっているのか、そして、なぜ通年国会とならないのか、について紹介したいと思います。

帝国議会は3か月でしたから、それよりも長い会期となっています。その理由は、帝国議会の衆議院国会法案委員会の会議録に残されています。

余談ですが、国会法案委員会は、基本的に逐条審査で行われており、国会法の制定過程やなぜその文言が使われたのかなど、興味深い議論が数多く交わされています。

昭和21年12月19日 第91回帝国議会 衆議院国会法案委員会

衆議院書記官長(現在の事務総長相当)の逐条説明

「常会の会期は150日間、現在の3か月に比べると、2か月の延長となり、審議の充実を期することができる。政府側の臨時法制調査会では4か月とする案が出ていたが、法規委員会で5か月が適当であるということになった。なお、常会の会期を定める必要があるかどうかという点については相当議論があったが、憲法の中に「会期中」という文字を使用してある点、並びに憲法で臨時会を認めた点等を考え合わせ、かつ議員の便宜という点からも会期を認める方が便宜ではないかとなり、この制度をとることとした。」

                    
     昭和21年12月19日 第91回帝国議会 衆議院国会法案委員会

帝国議会を開設するにあたっては、イギリスを始めとする諸外国の制度に倣い、会期制を導入しました。

その理由の中には、通年において国会(議会)が開いていると大臣等が常に国会に呼ばれ、行政効率が著しく悪くなるとの考え方もあったとされています。

実際、国会法を制定するにあたり、衆議院は常置委員会を設置して閉会中も議会における行政監視機能を維持したいとの考えがあったようですが、内閣側やGHQの反対により実現しませんでした。

また、新制度移行時は現在のような複雑多岐に渡る内閣提出法律案は想定していなかったと考えられ、会期制や会期日数についての捉え方も現在とは相違があると思われます。

当時の状況に鑑みると、5か月あれば相応の審議ができると考えられていたのではないでしょうか。

当時は年間でも現在ほど議会の活動日数は多くなかったようですし、書記官長の逐条説明もそのような趣旨を述べているためです。

現在は、会期制が日程闘争の原因と捉え、通年国会制の議論が取り上げられていますが、与野党双方から見て、メリットとデメリットが存在します。

(1)会期終了と同時に廃案にできることのメリット(野党側)
(2)通年制では常に国会で質疑が行われることのデメリット(政府・与党側)
(3)会期の概念があることで逆に法案を審議終了に持ち込める・採決できる

さらに継続審査(閉会中審査)もできることから、結局は現状を変えることができないし、しないのだと考えられます。

もっと言えば、憲法に「会期中」という用語が使用されていること、臨時会の規定があることから、憲法の議論も必要になります。

上記を勘案すれば、通年国会にすればすべて解決、という単純な議論にはならないのではないでしょうか。
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包括委任規定と政省令委任事項-その2

〇日本国憲法第73条第6号

内閣は、ほかの一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

法律を実施し又は施行するため必要な細目的事項を定める、いわゆる実施命令については、憲法第73条第6号、内閣府設置法第7条第2項、国家行政組織法第12条第1項に基づき、個別の法律による特別の委任がなくても制定することができるとされていますが、実際には多くの法律において実施命令の根拠規定が設けられています。

たとえば、

信託業法第89条「この法律に定めるもののほか、この法律の規定による書類の記載事項又は提出の手続その他この法律を実施するため必要な事項は、財務省令で定める。」

といったように、実施命令に委任する事項については、書類の記載事項とか提出の手続きとかを明示したうえで、〇〇省令に委ねるとするのが、行政府の矜持として、これまでは比較的保持されてきました。

しかしながら、近年は、「この法律に定めるもののほか、この法律を実施するために必要な事項は○○省令で定める」といったように、一体全体、何を政省令で定めるのか、まったく分からない「包括委任規定」が増えていました。

特に、今年の第196回国会では包括委任規定を含む内閣提出法律案が突出して多かったのです。

これは、政省令委任事項が多い、とかそういった次元の問題ではありません。

法律による行政の原理の意義を埋没させ、立法府をさらに形骸化しかねない重大な問題を包含しているからです。

前回、そして上記で引用した信託業法第89条のように政省令に委任する事項として、手続きとか、書類の記載事項と明示してあればまだしも、何も書いていないとなると、何を政省令に委任することになるか、国会で質す、もしくは政省令が出てくるまで何も分からないことになります。

次回、その辺の問題点については改めて紹介しますが、今回は、平成30年第196回国会で包括委任規定を含む内閣提出法律案について、下記にお示しします。

[第196回国会内閣提出法律案に包括委任規定が含まれていた件数/65件中7件]

〇統計法及び独立行政法人統計センター法改正後の統計法第56条の2
この法律に定めるもののほか、この法律の実施のために必要な事項は、命令で定める。

〇都市農地の貸借の円滑化に関する法律第16条
この法律に定めるもののほか、この法律の実施のために必要な事項は、農林水産省令で定める。

〇所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法第47条
この法律に定めるもののほか、この法律の実施のために必要な事項は、国土交通省令又は主務省令で定める。

〇船舶の再資源化解体の適正な実施に関する法律第42条
この法律に定めるもののほか、この法律の実施のために必要な事項は、国土交通省令又は主務省令で定める。

〇電気通信事業法及び国立研究開発法人情報通信研究機構法の一部を改正する法律による改正後の電気通信事業法第176条の2
この法律に定めるもののほか、この法律を実施するため必要な事項は、総務省令で定める。

〇海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律第27条
この法律に定めるもののほか、この法律の実施に関し必要な事項は、命令で定める。

〇働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働安全衛生法第115条の2
この法律に定めるもののほか、この法律の規定の実施に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

平成30年の第196回国会における内閣提出法律案は65件でした。うち、7件に包括委任規定が含まれていたことになります。

近年、包括委任規定を含む内閣提出法律案が増加傾向にあったとはいえ、ここまで一気に増えたことに関しては、立法府に身を置く議会人として大きな危惧を抱かずにはいられません。

特に、働き方改革関連法においては、既に本ブログで何度も取り上げている「束ね法案」でもあり、包括委任規定も含んでいたことになります。

次回は、包括委任規定の何が問題なのか、について具体的に紹介したいと思います。

(参考)
国会=唯一の立法機関」平成30年5月31日
包括委任規定と政省令委任事項-その1」平成30年11月29日
束ね法案と一括審議-その1」平成27年5月16日
束ね法案と一括審議-その2」平成27年5月17日
束ね法案と一括審議-その3」平成27年5月25日
束ね法案と一括審議-その4」平成27年7月17日
束ね法案と審議時間」平成27年7月18日
第190回国会における束ね法案-その1」平成28年2月7日
束ね法案と一括審議-番外編」平成30年1月19日
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包括委任規定と政省令委任事項-その1

○日本国憲法第41条(国会の地位・立法権)

国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。

国会=唯一の立法機関」で紹介しましたが、憲法第41条は、国会が立法権を独占すること、国会による立法以外の立法は、原則として認められないということ、国会の立法権は完結的なものであって、他の機関がこれに関与することはない、ということを定めています。

よって、行政権による立法は、法律を執行するための命令(執行命令)と法律の具体的委任に基づく命令(委任命令)に限られています。

○執行命令(実施命令):法律の規定を執行するために必要な細則を定める命令
○委任命令:法律が立法権を行政機関に委任したことにより定められる命令

最近、法案の条文に「政省令委任事項が多い」等の議論が繰り返されていますが、これは今に始まったことではありません。

従前より、立法府側からの指摘事項として多くあり、筆者自身、何年も幾度も警鐘を鳴らし続けてきました。

例えば、法律に規定した内容があまりに少なく、ほとんどの事項を政省令に委任した結果、法律に規定した内容を越えることとなり、結果として法改正が必要になったという嘘みたいな本当の話もあるくらいです。

それでは、政省令に委任する条文の書きぶりについて、具体例を交えて紹介します。

〇信託業法第89条

「この法律に定めるもののほか、この法律の規定による免許、登録、認可、承認及び指定に関する申請の手続、書類の提出の手続、記載事項及び保存期間その他この法律を実施するため必要な事項は、内閣府令で定める。」

〇労働安全衛生法第115条の2

「この法律に定めるもののほか、この法律の規定の実施に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。」

前者は、内閣府令で定めるべき事項を細かく規定しています。

ここまで詳細に規定するものは近年ではまれですが、それでも、例えば今年の常会で成立した国際観光旅客税法第23条は、

「この法律に定めるもののほか、この法律の規定による書類の記載事項又は提出の手続その他この法律を実施するため必要な事項は、財務省令で定める。」

としており、書類の記載事項や提出の手続が具体的に明示されています。

このように、執行命令(実施命令)の定立には個別法による授権は必要ないとされていても、実際にはどのような事項を執行命令(実施命令)で定めることとするのかを具体的に明示した規定が法律には設けられてきました。

このことは、法律による行政の原理の趣旨に鑑みても適当ですし、ある意味では、我が国の法律の圧倒的多数を内閣提出法律案が占める中でも維持されてきた行政府の矜持でもあると思っています。

ところが、近年、さきに述べたような書類の記載事項といった具体的な事項には一切触れることなく、

「この法律に定めるもののほか、この法律を実施するために必要な事項は○○省令で定める」

などとする包括委任規定を置く法律案が増加しているところであり、この傾向には立法府に身を置く議会人の一人としては非常に危惧を抱いています。法律による行政の原理から、こうした傾向には疑義があると言わざるを得ません。

次回以降、包括委任規定を置く法律案が今年の常会でどの程度提出されていたのか、そして包括委任規定を置く法律案にどのような問題点があるのか、について紹介したいと思います。
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委員の異動

〇参議院委員会先例録12

同一議員の委員の変更は、1日1回限りとする

同一議員の委員の変更は、1日1回限りとする。この場合において、第一種、第二種及び国会法第42条第3項の規定により兼務する第一種の常任委員並びに特別委員の変更については、それぞれ別個に取り扱う。

委員の変更については、委員長から委員会に報告するのを例とする。


国会の会議録(ちなみに、衆議院は委員会議録、参議院は委員会議録です)の冒頭に、「委員の異動」として、「辞任」と「補欠選任」が並んでいる箇所をご覧になることがあるかと思います。

今回は、委員の異動、いわゆる委員の差し替えについて、一般に公開されている参議院委員会先例録を元に紹介したいと思います。

例えば、ある程度の規模の会派であれば一年に一度とか会期の前に、所属議員の委員会配置を変更することがあります。

それぞれの議員は、これら配置に基いて、次の配置換えまで軸足を置いて活動する委員会が定まることになります。

ただ、例えば別の委員会で得意分野を活かして質疑に立つときなどは、配置された委員会から異動する必要があります。

その際、委員の異動(いわゆる差し替え)を行う必要があるのですが、そこはルールが定められています。

委員の異動は、1日1回限りと定められていますので、例えば前日に質疑に立つ別の委員会に異動しておく、翌日、質疑が終わったら元の委員会に戻す、というような異動方法が考えられます。

もちろん、質疑当日に別の委員会に異動した場合は、当日は元の委員に戻ることはできません。

また、どうしてもその日は都合が悪くて・・という場合も「差し替え」という形で委員の異動が行われるケースも存在します。

よって、このような形で会派内で委員の異動が繰り返されると、「辞任」と「補欠選任」が入り乱れることにもなるのです。

なお、参議院の場合は常任第一種と第二種という考え方があり、これは区別して考える例になっています。

このテーマから派生する内容で委員会のルールを色々と紹介できそうなのですが、機会を見て書きたいと思います。
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決議案の取り扱い

〇国会法第56条の2

議案が発議又は提出されたときは、議長は、これを適当の委員会に付託し、その審査を経て会議に付する。但し、特に緊急を要するものは、発議者又は提出者の要求に基き、議院の議決で委員会の審査を省略することができる。

過日、約1年ぶりに開放したコメント欄に多くのご意見・ご感想を頂戴しました。
本当にありがとうございました。

すべてが貴重なご意見ですが、なかでも筆者の心に刺さったひとつを一部加工の上、ご紹介します。

[頂戴したコメント]

ブログにていつも勉強させていただいております。

通りすがりながら、先の常会における参議院での決議案の取り扱いについては結構な問題をはらんでいるように思う次第です。

というのは、要件を満たして提出された常任委員長解任決議案を、野党第1会派が提出会派に加わっていないからとして委員会審査省略を否決した挙句、委員会に付託しないという判断がなされたことです。

院の役員の信任という院の自律性にとって非常に重要である初出の決議案を審査しないというのは、院にとって非常に厳しい判断であり、あるいは自殺行為とも思われるところです。

国会法第56条にあるとおり、議案が発議されたときは議長はこれを適当な委員会に付託しなければならないとされており、委員会審査省略要求が否決されたならば、当該決議案はただちに適当な委員会に付託されるべきところ、それがなされなかったのは、議長による不作為であると思わざるを得ません。

唯一の立法機関たる国会が、自らの定めたルールを守ることができないのは致命的であると思います。我が国議会制度は存亡の危機に立っているのではないでしょうか。

議会人たる管理人様には、何卒我が国のこれまでの先人たちの知恵と妥協との結晶たる法規先例を重んじた運営を、きっちりと指導していただきたく、陰ながら応援申し上げます。


ここまでが頂戴したコメントです。
本当にありがとうございます。

本件については、国会ルールとあわせてどのように紹介すべきか悩んでいるうちに、次の臨時会が迫ってきてしまいました。

最近の議会運営を概観すると、政略的諸配慮を優先し、法規先例をないがしろにする傾向がないとはいえません。

たとえば、先例を変更しようとするのであれば、その根拠を明確にし、議事運営をすることが、与野党問わず多くの会派が納得できる運営となるのではないでしょうか。

そんな立法府であって欲しいし、そんな立法府でなければならない。
これが議会人たる筆者の信念ですが、しばらくは程遠い運営が続くのではないでしょうか。忸怩たる思いです。
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