議会雑感

国会のルールや決まりごとなど、議会人が備忘録を兼ねて記します。

衆議院議長談話(今国会を振り返っての所感)

2018-07-31 | 雑感
平成30年7月31日、衆議院議長は、先日閉会した第196回国会を振り返っての所感を発表されました。

本来でしたら、全文をここで紹介すべきと思いますが、一部のみの紹介とさせていただきます。ただ、多くの方にご覧いただきたいと思いますので、是非、衆議院Webページをご覧ください。

以下、衆議院議長所感の一部引用です。

衆議院議長談話(今国会を振り返っての所感)一部抜粋 平成30年7月31日

先般の通常国会は、1月22日にはじまり、7月22日まで、延長を含めて182日間の会期となりました。

1.この国会において、

(1)議院内閣制における立法府と行政府の間の基本的な信任関係に関わる問題や、
(2)国政に対する国民の信頼に関わる問題が、

数多く明らかになりました。これらは、いずれも、民主的な行政監視、国民の負託を受けた行政執行といった点から、民主主義の根幹を揺るがす問題であり、行政府・立法府は、共に深刻に自省し、改善を図らねばなりません。

2.まず前者について言えば、憲法上、国会は、「国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関」(憲法41条)として、「法律による行政」の根拠である法律を制定するとともに、行政執行全般を監視する責務と権限を有しています。

これらの権限を適切に行使し、国民の負託に応えるためには、行政から正しい情報が適時適切に提供されることが大前提となっていることは論を俟ちません。これは、議院内閣制下の立法・行政の基本的な信任関係とも言うべき事項であります。

しかるに、
(1)財務省の森友問題をめぐる決裁文書の改ざん問題や、
(2)厚生労働省による裁量労働制に関する不適切なデータの提示、
(3)防衛省の陸上自衛隊の海外派遣部隊の日報に関するずさんな文書管理など

の一連の事件はすべて、法律の制定や行政監視における立法府の判断を誤らせるおそれがあるものであり、立法府・行政府相互の緊張関係の上に成り立っている議院内閣制の基本的な前提を揺るがすものであると考えねばなりません。


引用は、ここまでです。

衆議院議長は、「法律による行政」について言及されています。

第196回国会は、筆者にとって、「法律による行政の原理」から重大な疑義がある点について、新たな問題を発見した国会でもありました。「束ね法案」シリーズに続いて、機会を見て書きたいと思います。

(参考)
国会=唯一の立法機関」平成30年5月31日
日本国憲法における三権分立」平成27年5月3日
束ね法案と一括審議-その1」平成27年5月16日
束ね法案と一括審議-その2」平成27年5月17日
束ね法案と一括審議-その3」平成27年5月25日
束ね法案と一括審議-その4」平成27年7月17日
束ね法案と審議時間」平成27年7月18日
第190回国会における束ね法案-その1」平成28年2月7日
束ね法案と一括審議-番外編」平成30年1月19日

議会雑感3年半に

2018-07-29 | ひとこと
議会雑感ブログを始めて、約3年半が経過しました。

国会ルール等の紹介を通じて、少しでも政治に関心を持っていただくことができればとの思い、そして、私自身の備忘録も兼ねて更新頻度は区々でしたが、細々とでも続けてくることができました。

この間、多くの方にご覧いただきましたこと、本当に感謝しております。
誠にありがとうございます。

平成30年7月22日に閉会した第196回国会は、議会人として様々な思いを抱えて過ごした常会となりました。

まだしばらく、こんな思いをすることが続くのかもしれません。

たとえどんな状況になろうとも、立法府に身を置く議会人として、誇りと矜持をもって活動してまいりますので、引き続き宜しくお願い致します。
           

なお、議会雑感ブログは、以下の2点を大事にしつつ、このブログを通じて、政治に関心を持っていただける方が1人でもいらっしゃれば、との思いで続けてきました。

○国会法等を引用しつつ、時々の話題を交えながら国会のルールを紹介すること
○匿名で政策の是非には触れない範囲にとどめること

ただ、紹介したいことを明確に紹介するために、いずれかのタイミングで匿名から実名ブログにする可能性があることをお知らせ致します。

[追記]
いつもご覧いただいている皆さまのご意見・ご感想を頂戴致したく、約1年ぶりにコメント欄を開放することにします。

といっても、これまでと同じく、コメント欄に投稿いただいても私が拝読するのみで、公開しないことが前提です。ただ、コメント欄にいただくご意見が励みとなっています。多くのご意見・ご感想を賜れば幸いです。

一事不再議の原則と同一議案の提出例

2018-07-27 | 国会ルール
○国会法第56条の4

各議院は、他の議院から送付又は提出された議案と同一の議案を審議することができない。


国会法第56条の4はこれまでも紹介したとおり、一事不再議の原則を規定しています。

では、実際どのような場合が考えられるのでしょうか。

そして、なぜこの原則が存在するのでしょうか。

たとえば、衆議院で審査中の議案(法律案)があるとします。

これと全く同一の議案を参議院で発議すると、衆議院から当該議案が万が一送付された場合、一事不再議の原則に抵触することになります。

衆議院から当該議案が送付された場合、参議院提出の議案の審査ができなくなるため、衆参で同一文言の議案の提出を避けてきたのが、議会の先人の知恵です。

ちなみに、参議院においてこの規定が適用されるのは、衆議院から議案が送付された後であり、衆議院段階で当該議案が議決されるまでの間に参議院で同一の議案を提出し、議案を審議しても法規には違反しません。

ただ、先ほど指摘したとおり、同一文言の議案を衆参両院で発議し、衆議院から当該議案が参議院に送付された場合、一事不再議の原則に抵触しますので、このような議案の提出というのは避けられてきましたし、ほとんど例がないのは当然のことなのです。

では、実際のところ過去の例はどうなのでしょうか。

以下のとおりですが、議案名は伏せています。

昭和56年5月 第94回国会
平成14年12月 第155臨時会
平成30年6月 第196回国会

(参考)
一事不再議の原則」平成28年7月4日
一事不再議の原則と衆議院の優越」平成30年7月25日

一事不再議の原則と衆議院の優越

2018-07-25 | 憲法
〇日本国憲法第59条2項

衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる。(以下略)

○国会法第56条の4

各議院は、他の議院から送付又は提出された議案と同一の議案を審議することができない。


約2年前、「一事不再議の原則」について紹介しました。

一事不再議とは、既に議決された問題と同一の問題につき、同一会期中は再びこれを審議し、または議決することはできないという原則のことをいいます。

再議を許せば、議院の審議活動を不効率に陥らせるほか、前の議院の議決は後に覆されかねない暫定的性格となってしまうからです。よって、一時不再議は、会議体としての議院が行う審議に通じる一般原則なのです。

ただ、一事不再議と衆議院の優越には難しい解釈が存在します。

どういうことなのか、具体的に事例を考えてみたいと思います。

たとえば、参議院先議の法律案が参議院で否決されたとします。

参議院で否決されたことを受け、衆議院で同一会期内に同一の法案を提出して審議、採決を行った場合、たとえ同一法案であったとしても、一事不再議は適用されないとの解釈です。

では、この場合、なぜ一事不再議が適用されないのでしょうか。

この場合、この法案が参議院に送付されても当然に否決されますが、憲法は衆議院の優越を規定しています。

つまり、たとえ参議院で否決されたとしても、憲法第59条の規定に基づき再議決等の方法により、衆議院で法律案を成立させることが可能だからです。

よって、この場合、一事不再議は適用されない、との解釈になるのですが、実際には想定されにくい事例だと思います。

(参考)
一事不再議の原則」平成28年7月4日

会期不継続の原則(の例外)-その4

2018-07-24 | 国会ルール
3年ほど前、国会法を引用して、会期不継続の原則とその例外とは何かについて紹介しました。

継続審査(閉会中審査)の手続きは、衆議院と参議院で異なっています。

衆議院では、議院運営委員会で吊るされたままでも継続にすることができますが、参議院では委員会付託したもののみ継続することができます。

平成30年7月22日に閉会した第196回国会で参議院では、「水道法の一部を改正する法律案(閣法第48号)(衆議院送付)」が、内閣提出法律案で継続審査となりました。

反対会派もある中でしたが本法案は厚生労働委員会に付託され、厚生労働委員会と本会議で採決され、多数をもって参議院で継続審査となりました。

本法案は、衆議院は通過しているものの、参議院でその会期内に審議が終わらなかったという状態です。

参議院に送付された法案が参議院で継続審査になった場合、次国会、参議院で審議のうえ、衆議院に送付する必要があります。そして、衆議院でも本会議の採決が必要となります。

というわけで、このような場合、衆議院の厚生労働委員会で質疑終局にとどめて、敢えて参議院に送付しないで衆議院で継続にする、という選択肢が往々にして考えられるだけに、今回、個人的には色々不可解です。

第196回国会における参議院先議法案「医療法及び医師法の一部を改正する法律案(閣法第60号)」の審査を後回しにしてまで、衆議院で水道法改正案の審査をしているので、余計にそう思ってしまうのかもしれません。

参議院先議法案の意味合いから考えれば、当初会期内におさめるべく衆議院で審議されて然るべきですし、会期延長になったとしても、別の閣法審議より優先されるべきだと個人的には考えるからです。

で、ここからは余談です。

参議院先議法案が、参議院で審議のうえ、衆議院で継続となった場合も同様ですが、この場合成立した法案は、今までに15法案しかありません。

(参考)
会期不継続の原則-その1」平成27年5月12日
会期不継続の原則(の例外)-その2」平成27年5月13日
会期不継続の原則(の例外)-その3」平成27年8月11日
衆参のちょっとした違い(閉会中審査・継続審査-その1)」平成28年6月26日
衆参のちょっとした違い(閉会中審査・継続審査-その2)」平成28年6月28日

内閣不信任決議案の考え方

2018-07-23 | 国会雑学
前回、「内閣不信任決議案とは(再掲)」で日本国憲法第69条の規定を引用して、内閣不信任決議案について紹介しましたが、今回は、その扱いについて学説上の紹介をします。

内閣不信任決議案が出た場合の考え方です。

内閣の存在は、国政にとって1日も欠くことのできないものです。

その内閣を内閣総理大臣の指名を通じてつくるのが国会の責任ですから、その内閣の存立に関わる問題である内閣不信任決議案が提出された場合は、一刻も早く解決しない限り、国政の停滞を避けることができないとされています。

すなわち、内閣が提出した法律案等を審議する国会で、その内閣に対して不信任決議案が提出された場合は、全ての内閣提出法律案も国会で審議できない状態になる、との解釈です。

第196回国会の延長国会最終盤である、平成30年7月20日(金)9時51分、衆議院に内閣不信任決議案が提出されました。

延長国会の最終日は、7月22日でしたが日曜だったことから、実質的な最終日は金曜日の7月20日ということになります。

よって、7月20日は会期末手続きのための委員会等が衆参両院でセットされていましたが、内閣不信任決議案の提出に伴い、これの処理が終わるまで全ての手続きが中断することになりました。

内閣不信任決議案は、別の院であっても委員会審査を中断せざるを得ないような重いものですが、今は与野党の議席差があり過ぎるからか、緊張感に欠ける場面が散見されました。

内閣不信任決議案とは(再掲)

2018-07-22 | 憲法
○日本国憲法第69条

内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

○衆議院規則第28条の3

議員が内閣の信任又は不信任に関する動議若しくは決議案を発議するときは、その案を具え理由を附し、50人以上の賛成者と連署して、これを議長に提出しなければならない。

内閣に対する不信任決議権は、衆議院のみに認められた権能です。

国会制度の下、衆議院において、4度不信任決議案を可決しています。

なお、これまでに衆議院での不信任決議案提出は58件で、可決されたのは、4回です。

1回目:昭和23年12月23日 第4回国会
2回目:昭和28年3月14日 第15特別会
3回目:昭和55年5月16日 第91回国会
4回目:平成5年6月18日 第126回国会

前者2回は吉田内閣(第2次、第4次)、3回目は大平内閣、3回目は宮沢内閣に対するものです。

1回目は少数与党であったため、2回目と3回目は、内閣総理大臣の支持基盤が弱く、与党内に大量の棄権者を出したたため、4回目は、与党の大量の議員が賛成に回ったため可決されました。

内閣不信任決議案を発議するには、案を具え理由を附して、50人以上の賛成者と連署して、議長に提出します。

一方、内閣信任決議案が提出されたこともあります。これは、内閣不信任決議案に対するもので、発議手続きは、内閣不信任決議案と同様です。

最近の例として、参議院で福田内閣総理大臣問責決議案が可決された翌日、衆議院において内閣信任決議案が可決されています。

衆議院において内閣不信任決議案を可決した場合、日本国憲法第69条の規定により、内閣は、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければなりません。

上記で紹介した不信任決議可決4回とも、衆議院は解散されています。