議会雑感

国会のルールや決まりごとなど、議会人が備忘録を兼ねて記します。

条約の締結手続き

2021-02-18 | 国会雑学
〇条約の承認権(日本国憲法第61条、第73条)

条約の締結権は、内閣にありますが、条約は国家間の合意であるとともに、国内法的効力を持つものが多く、時として国民を拘束する命令や権利・義務に関する法規範を内容とすることがあります。

よって、内閣の意思だけでは問題との観点から、国会との共同責任として条約を成立させることが適当とされ、国会の承認を経なければならないこととされています。


では、その国会承認である条約の締結手続きはどうなっているのでしょうか。まず、条約には、「二国間」と「多国間」の条約があります。

「二国間」:条約交渉を経て、それまでの交渉を踏まえて署名
「多国間」:条約の趣旨や内容について基本的な賛意の表明として採択後に各国が署名して国会に提出

国会では両院の承認を行い、締結に至るという流れです。その締結の方法は4種類あります。

1.批准(憲法第7条第8号、天皇陛下による認証)
2.受諾・承認(天皇陛下の認証必要なし)
3.加入(多国間条約で他の外国間で既に署名済み又は発行済み)
4.公文の交換(二国間条約)

締結後はどうするか、ですが、下記を経て効力が発生することになります。

「二国間」:批准書の交換、外交上の公文の交換、相互通告
「多国間」:批准書、受託書、承認書か加入書の寄託

なお、締結の方法の選択は条約の定めによります。

条約は予算案と同様、衆議院の優越が認められています。ちょっと亜流な紹介の仕方ですが、よろしければ約2年前のエントリー「衆議院の優越(条約)」をご覧ください。

ただ、だからといって、条約の提出を内閣自ら定めた期限を超えて遅れるにも関わらず、その報告を片方の院に対して失念するようなことがあってはならないと思います。

独立機関の委員会出席-その2

2021-02-17 | 国会ルール
〇国会法第72条

委員会は、議長を経由して会計検査院長及び検査官の出席説明を求めることができる。最高裁判所長官又はその指定する代理者は、その要求により、委員会の承認を得て委員会に出席説明することができる。

〇国会法第105条

各議院又は各議院の委員会は、審査又は調査のため必要があるときは、会計検査院に対し、特定の事項について会計検査を行い、その結果を報告するよう求めることができる。

前回は、司法権たる裁判所が委員会に出席する場合の国会法の書きぶりが、国務大臣や会計検査院のそれとは大きく異なることを紹介しました。

〇国71(抜粋)委員会は、国務大臣の出席を求めることができる。
〇国72前段(抜粋)委員会は、会計検査院長の出席を求めることができる。
〇国72後段(抜粋)最高裁長官又は代理者は、その要求により、委員会の承認を得て委員会に出席説明することができる


そこで、今回は会計検査院の項目が独立しているのはなぜか、に着目してその理由を紹介したいと思います。

まず、会計検査院の位置付けについて確認します。

〇会計検査院法第1条:会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する。

会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する一方、会計検査院法第30条において、検査官が国会に出席して説明できることも定めています。

国務大臣等と異なる条文で会計検査院長等の委員会への出席説明を置いた理由は、ひとえに会計検査院が内閣から独立する地位に置かれているためです。

国の財政を処理する権限は行政権たる内閣に属しますが、これを国民の代表機関である国会の統制の下に置かなければならない、という原則は財政民主主義を反映したもので、その財政民主主義の一つとして会計検査院の存在があるのです。     
なお、平成9年の国会法改正により、国会から会計検査院に対して特定事項の検査を要請することが可能となっており、これについては約3年半前のエントリー「会計検査院に対する検査要請」をご覧いただければと思います。

さらに、もう一点。会計検査院検査官については、国会同意人事の所信聴取対象者となっています。

内閣から国会に提示される人事案の中でも、日本銀行総裁や公取委員長など、特に重要な幾つかの人事案についてのみ衆参両院の議院運営委員会で所信を聴取し、質疑することとなっており、会計検査院検査官はこの対象なのです。詳細は、約5年前のエントリー「国会同意人事-その2」をご覧いただければと思います。

独立機関の委員会出席-その1

2021-02-16 | 国会ルール
〇国会法第72条

委員会は、議長を経由して会計検査院長及び検査官の出席説明を求めることができる。
最高裁判所長官又はその指定する代理者は、その要求により、委員会の承認を得て委員会に出席説明することができる。


今回は三権分立の観点から、たとえ話を交えつつ、国会のルールを紹介したいと思います。

とある委員会で参考人質疑にあたり、どなたをお呼びするか話題になりました。ある分野の権威で、与野党ともに〇〇氏の話をうかがいたいとなりました。そこで、最新の役職を確認したところ、大学教授兼最高裁判所判事であることが判明しました。

最高裁は言うまでもなく司法権に属します。三権分立の観点から、国会の委員会にお呼びすることはできるのでしょうか。はて、まったく委員会に呼べないのかといえば、そうではありません。

たとえば、裁判所所管事項についての予算や定員に関しては、その説明を裁判所が行う必要があります。実際、現在開会中の国会には、「裁判所職員定員法の一部を改正する法律案」(閣15号)が2月2日、国会に提出されています。

よって、司法権に関する事項であっても立法の対象となるために、国会法は、最高裁判所に対して委員会に出席説明することができることとしているのです。

ただ、国務大臣や会計検査院長とその書きぶりは全く異なります。

〇国71(抜粋)委員会は、国務大臣の出席を求めることができる。
〇国72前段(抜粋)委員会は、会計検査院長の出席を求めることができる。
〇国72後段(抜粋)最高裁長官又は代理者は、その要求により、委員会の承認を得て委員会に出席説明することができる

国務大臣や会計検査院長は、国会の側に出席を求める権限がある形になっている一方、司法権たる最高裁に関しては国会の側に出席を求める権限がある形をとっていません。

つまり、最高裁に関しては国会の側に出席説明を求める権限はなく、委員会が出席説明の要求を行ったとしても、それによって最高裁側に法的な出席説明の義務が生じるわけではないということなのです。

司法権の独立を、国会法が配慮している証左ではないでしょうか。

臨時会の会期

2021-02-15 | 国会雑学
〇国会法第12条

国会の会期は、両議院一致の議決で、これを延長することができる。会期の延長は、常会にあつては一回、特別会及び臨時会にあつては二回を超えてはならない。

令和3年(2021)年2月15日現在、開会中の国会は第204回国会(常会)です。

直前は、第203回国会(臨時会)であり、その会期末はコロナ禍においてただの一度も延長されることなく、当初予定された41日間で令和2(2020)年12月5日に閉会しました。

今回は、これまでの国会の歴史の中で、臨時会で長期だった国会がいつ、どの程度の期間だったのかを紹介します。国会法第12条の規定には、臨時会は2回まで延長できることとされており、長期だった臨時会における延長回数についても併せて紹介します。

[長期だった臨時会]

昭和63年 第113回国会 163日間(延長2回)
平成5年 第128回国会 135日間(延長1回)
平成19年 第168回国会 128日間(延長2回)

国会法第10条で常会の会期を150日間と定めており、それを超える日数の臨時会は、昭和63年の例1回しかありません。

では逆に、短期だった臨時会はというと、会期1日間になりますが、過去に3回あります。

[短期だった臨時会]

昭和61年 第105回国会 1日間
平成8年 第137回国会 1日間
平成29年 第194回国会 1日間

コロナ禍においては、昨年の臨時会、少なくとも1回は延長すべきだったのではないかというのが筆者の見解です。国会は開会中でなければ立法措置等を行う機能を有しないためです。

委員会への国務大臣の出席

2021-02-12 | 国会ルール
〇国会法第71条

委員会は、議長を経由して内閣総理大臣その他の国務大臣並びに内閣官房副長官、副大臣及び大臣政務官並びに政府特別補佐人の出席を求めることができる。

〇参議院委員会先例録246

内閣総理大臣その他の国務大臣並びに内閣官房副長官、副大臣及び大臣政務官並びに政府特別補佐人の出席要求は、成規の手続を省略して、委員長から直接これを行うのを例とするが、成規の手続により、議長を経由してこれを行った次のような例もある。

各委員会に出席する国務大臣については、それぞれの委員会の所管を踏まえ、各委員会で協議され、決定されています。

なお、各委員会での協議とは、実際には理事会でのそれを指します。

委員会への国務大臣の出席については、国会法第71条で「委員会は、議長を経由して内閣総理大臣その他の国務大臣(中略)の出席を求めることができる」と規定されていますが、実際は、参議院委員会先例録246にあるとおり、「出席要求は、成規の手続を省略して、委員長から直接これを行うのを例とする」運用がとられています。

では、委員会に出席する国務大臣を変更する場合はどうするのでしょうか。これまでは、〇〇委員会に出席していた国務大臣が、△△委員会に出席することになる場合のことです。

これについては、まず、〇〇委員会理事会で協議し、調えば、変更先の△△委員会理事会で協議して、その手続は終了します。

つまり、出席大臣の委員会の変更については、当該委員会が自律的に決めることなのです。

最近の傾向として、これまで例のなかった参考人質疑が議院運営委員会で行われたり、緊急事態宣言の国会報告の場として議院運営委員会が使われたり、と何でもかんでも議院運営委員会で裁けばよい、との風潮があるような気がしてなりません。

仮に、出席大臣の件にしても、当該委員会の理事会で協議が調わなかったため、やむを得ず、議運理事会で方向性を確認したい、ということであればまだしも、当該理事会でそもそも何ら協議も行われていない段階で、議運理事会で委員会の出席大臣変更の方向性を確認しようとすることは筋違いです。

各委員会の所管事項と所管大臣は「表裏一体」の関係にあるかもしれませんが、それを言うなら、規則に定める各委員会の所管事項を協議すべきではないでしょうか。