議会雑感

国会のルールや決まりごとなど、議会人が備忘録を兼ねて記します。

政府特別補佐人とは

2015-05-30 | 国会ルール
○国会法第69条

内閣は、国会において内閣総理大臣その他の国務大臣を補佐するため、両議院の議長の承認を得て、人事院総裁、内閣法制局長官、公正取引委員会委員長、原子力規制委員会委員長及び公害等調整委員会委員長を政府特別補佐人として議院の会議又は委員会に出席させることができる。


国会審議の活性化及び政治主導の政策決定システムの確立に関する法律(平成11年法律第116号)により、国会法の一部が改正され、政府委員制度が廃止されたこと、政府参考人制度ができたことを前回のブログで紹介しました。

議院の会議(本会議)又は委員会における政府への質疑に対しては、政策決定の権限と責任を有する大臣等の政治家が答弁することが原則となったのですが、政府から独立性の高い機関については、内閣総理大臣その他の国務大臣を補佐するために、両議院の議長の承認を得て、政府特別補佐人として、議院の会議等に出席し、発言できる規定が改正後も設けられたのです。

ちなみに、上記のうち、原子力規制委員会委員長については、原子力規制委員会設置法(平成24年法律第47号)附則第7条によって追加されたものです。

では、実際にどの程度、政府特別補佐人が議院の会議(本会議)で発言を行っているのかを調べてみました。

調べてみようかな・・と思ったきっかけは、最近の参議院本会議で、政府特別補佐人が答弁する場面があり、珍しいなぁ、と思ったからです。

○政府特別補佐人の本会議答弁状況

平成14年4月9日  ・本会議 公正取引委員会委員長
平成14年4月22日 参・本会議 公正取引委員会委員長
平成15年3月14日 参・本会議 内閣法制局長官
平成18年12月6日 参・本会議 内閣法制局長官
平成19年3月9日  参・本会議 内閣法制局長官
平成19年5月23日 参・本会議 内閣法制局長官
平成19年10月5日 参・本会議 内閣法制局長官
平成21年5月13日 参・本会議 公正取引委員会委員長
平成24年6月1日  ・本会議 人事院総裁
平成26年3月28日 参・本会議 原子力規制委員会委員長
平成27年5月22日 参・本会議 公正取引委員会委員長

時系列に並べてみると、なかなか興味深い傾向が見て取れます。これまで両議院の本会議で政府特別補佐人が答弁しているのは、11回ですが、うち9回が参議院での答弁だからです。
  
 5月22日の参議院本会議(緊張するでしょうね・・公取委員長の本会議登壇は6年ぶりでした)           

政府参考人とは

2015-05-29 | 国会ルール
○衆議院規則第45条の3

委員会は、前条の規定にかかわらず、行政に関する細目的又は技術的事項について審査又は調査を行う場合において、必要があると認めるときは、政府参考人の出頭を求め、その説明を聴く。

○参議院規則第42条の3

委員会は、前条の規定にかかわらず、行政に関する細目的又は技術的事項について審査又は調査を行う場合において、必要があると認めるときは、政府参考人の出席を求め、その説明を聴く。
委員会が政府参考人の出席を求めるには、当該公務所を通じて行う。


ここのところ、取り上げることが多い下記の法律ですが、今回も登場です。

国会審議の活性化及び政治主導の政策決定システムの確立に関する法律(平成11年法律第116号)は、中央省庁の再編・改革と時を同じくしながら、以下のことを規定しました。

1. 国家基本政策委員会の設置
2. 政府委員制度の廃止
3. 政務次官の増員と副大臣・大臣政務官への移行
4. 政府特別補佐人(※)の本会議・委員会への出席

1.国家基本政策委員会については、既に紹介しましたので、今回は、2.政府委員制度の廃止について紹介したいと思います。

明治憲法下では、政府委員に選任された官吏に対し、議院に出席し、発言する権限が与えられていました。一方で、日本国憲法は、政府側にあって議院に出席し、発言できる者を「内閣総理大臣その他の国務大臣」と規定し、政府委員の文言は削除されています。

しかし、国会法制定時には、政府委員の規定が残されていたため、政府委員制度は法的には新国会に引き継がれたといえます。

ちなみに、政府委員制度の下では、各行政機関本府省の局長級以上の職員、局次長級職員等の官職にある者等が任命されていましたが、委員会等において、大臣に代わって政府委員の答弁が常態化していました。さらには、課長級の職員も説明員として発言が許されていたのです。

よって、上記の国会審議活性化法等により、委員会における政府への質疑に対しては、政策決定の権限及び責任を有する大臣等の政治家が答弁することを原則としたのです。

ただし、行政の細目的な事項や技術的な事項については、委員会が政府参考人の出席を求め、説明を行わせることができるという規定が、衆参両院の議院規則に新設されました(上記)。

これによって、従前より限定的ではあるものの、政府職員の委員会での答弁は、結局、残ることとなったのです。

両院議院規則は、同じ内容を規定していますが、衆議院では政府参考人の「出頭」、参議院では「出席」となっています。質疑を伴う国会会議録を検索してみると、結局、政府参考人は毎回出席していますね・・。

そんなこんなで、「政府参考人の出頭・出席要求に関する件」が、委員会前の理事会協議事項となり、委員会運営関係者は委員会前日、政府参考人が誰になるのか確定するまで帰宅できない、という事態が発生してしまうのです。

政府委員制度が廃止された趣旨と政府参考人制度が新設された当初の趣旨と現状の運用が、違うような気がしてならないのは、きっと私だけではないはずです。

※政府特別補佐人については、次回紹介したいと思います。

重要広範議案とは

2015-05-26 | 国会ルール
○日本国憲法第63条

内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

前回のブログで触れた、重要広範議案について紹介したいと思います。

重要広範議案とは、委員会に付託するに先立ち、本会議において趣旨説明及び質疑を行う重要な議案であって、各会派の合意により、内閣総理大臣が本会議において答弁すべきものとして指定された議案です。

国会審議の活性化及び政治主導の政策決定システムの確立に関する法律(平成11年法律第116号)による制度改正の一環として、第146回国会から重要広範議案という考え方が導入されました。

これにより、内閣総理大臣が出席する議案の趣旨説明・質疑は、議院運営委員会理事会が特に重要かつ広範な内容を有すると認めるもの(重要広範議案)に限られることとなりました。

ただ、日本国憲法第63条は、議院から要求があれば内閣総理大臣も国務大臣も出席しなければならないと規定しています。ですから、平成11年の制度改正によって、重要広範議案という考え方を導入した時点で、議員の個別の答弁要求を一律に調整・抑制したといえます。

事実、それ以前は、ほとんどすべての趣旨説明・質疑に、議員の答弁要求により、内閣総理大臣が本会議に例外なく出席していたからです。

重要広範議案という考え方を導入したのは、先日紹介した党首討論が時を同じくして導入されたため、党首討論の定期的な開催が想定されたこととの兼ね合いから、内閣総理大臣の本会議への出席を制限する重要広範議案という調整が図られたのです。

しかし、党首討論はほとんど開かれておらず、審議の活性化とは逆方向に作用した側面は否定できません。

ともあれ、現在、重要広範議案という考え方があり、本会議で内閣総理大臣の出席を求める重要広範議案は、委員会でも総理の出席を求めることが慣例になっています。

ただ、参議院の場合、衆議院とは異なり、国会開会冒頭で重要広範議案を決めても、廃案等、送付されない場合もあるため、国会冒頭で全ての重要広範議案を定めず、国会の審議状況を勘案して決めています。

〇平成29年3月13日追記
第193回国会における重要広範議案を紹介→「第193回国会における重要広範議案


束ね法案と一括審議-その3

2015-05-25 | 雑感
重い腰を上げて、ようやく「束ね法案と一括審議-その3」です。

私の思いは、ほぼ「束ね法案と一括審議-その1」に収斂されていますので、もういいかなぁ、とも思ったのですが、書くと宣言していましたので、少しだけ書きたいと思います。

結論から申し上げると、私の問題意識は、極論すれば、今の時代を共に生きる人にとっては関係ないものなのかもしれません。

束ね法案は、後世の方が、その時の国会(立法権)で、どのような法案が審議されたのか、という記録を振り返った時に、詳細までを調べない限り、法案名から何が審議され、どのような法案が含まれていたのか、辿り着けない恐れを包含しています。

幾つもの法律案が束ね法案として、内閣(行政権)から国会(立法権)に提出されてしまうと、提出法案は外形上、もちろん1本です。

さらに、「束ね法案と一括審議-その2」で紹介したとおり、「○○法等の一部を改正する法律案」としてしか採決されず、「○○法等」の「等」にどのような法案が含まれているのか、法案名から推測することは不可能です。

もちろん、当該法案に深く関わる当事者やその関係者であれば、「○○法等」の「等」にどのような法案が含まれているかは分かることでしょう。

しかしながら、後世の方が、会議録を振り返った際、法案名で検索しただけでは、すぐに詳細に辿り着くことはできません。

逆に、「○○法の一部を改正する法律案」と「××法の一部を改正する法律案」と別々に国会に提出された法案を、まとめて一括審議する方が、後世の方が辿り着きやすいのではないかと思うぐらいです。

ここで、具体例を見てみたいと思います。今の国会で重要広範議案(※)として審議中の法案に関連します。

いわゆる電力システム改革法案です。

第一弾改正:電気事業法の一部を改正する法律案

第二弾改正:電気事業法の一部を改正する法律案

第三弾改正:電気事業法の一部を改正するの法律案


これだけ見ると、全て同じ法律案に見えますが、含まれるものは全く違っているのです。
下記で細かく見てみたいと思います。

第一弾改正:単体の法改正ですので、含まれるのは電気事業法1本のみです。

第二弾改正:電気事業法の一部改正と商品先物取引法の一部改正の2本です。

第三弾改正:現在審議中で、下記のとおりです。関連法はもちろん除いています。

・電気事業法の一部改正
・ガス事業法の一部改正
・熱供給事業法の一部改正
・経済産業省設置法の一部改正
・電気事業会社の株式会社日本政策投資銀行からの借入金の担保に関する法律の廃止
・沖縄振興特別措置法の一部改正
・電気事業法等の一部を改正する法律の一部改正

例えば、ガス事業法に至っては、これまで電力システム改革第一弾、第二弾で行ってきた電気事業法改正に匹敵する改正を、今回のガス事業法改正1回でまとめて行うなど、単体の法案として審議するに値する改正内容であると指摘して過言ではありません。

これだけの内容が審議されるにも関わらず、外形上の法案は束ねて国会に提出されたことにより、「電気事業法等の一部を改正する等の法律案」、ただ1本なのです。

後世の方がこの法案名から、果たして、電気もガスも熱も省庁設置に関する法改正も審議されたということが推測できるのでしょうか。

立法府に身を置く議会人のひとりとして、束ね法案に対して問題意識を持つ理由のひとつがここにあります。

※今回のブログで触れた、重要広範議案については別途紹介します。

特別委員会とは(我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会)

2015-05-22 | 国会ルール
○国会法第45条

各議院は、その院において特に必要があると認めた案件又は常任委員会の所管に属しない特定の案件を審査するため、特別委員会を設けることができる。

特別委員は、議院において選任し、その委員会に付託された案件がその院で議決されるまで、その任にあるものとする。

特別委員長は、委員会に置いてその委員がこれを互選する。

3月、簡単に紹介した特別委員会について、今回は改めて触れてみたいと思います。

先日の衆議院本会議で、特別委員会の設置が賛成多数で議決され、本日、特別委員長が委員会で互選されました。

その名も「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」です。

名称に関するコメントは控えますが、特別委員会には定例日がありません。

つまり、一定の手続きさえ踏んで、条件が揃いさえすれば、毎日でも委員会を開会することができるのです。

審議時間を積み重ねることによって、採決までの外形上の要件をはやく整えたいとする側の立場に立てば、毎日でも委員会を開会することのできる特別委員会の設置は必須だったと言えます。

○国会法第46条

常任委員及び特別委員は、各会派の所属議員数の比率により、これを各会派に割り当て選任する。(以下略)

今回設置された「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」は、委員45人で構成される特別委員会となりました。

委員の割り当ては、国会法第46条の規定に基づき、下記のとおりとなりました。

自民党 28、公明党 4、民主党 7、維新の党 4、日本共産党 2

[2015/7/25追記]

参議院の同特別委員会は、7月24日の参議院本会議で設置の議決が行われ、その後開かれた同特別委員会で、委員長と理事の互選が行われました。委員の割り当ては、下記のとおりです。

詳細は、2015/7/23「特別委員会とは(続々編)」をご覧いただけると幸いです。

自民党 20、公明党 4、民主党 11、維新の党 2、日本共産党 2、元気 1、次世代 1、無所属クラブ 1、社民党 1、生活 1、改革 1

国家基本政策委員会(党首討論)

2015-05-20 | 国会雑学
本日の国会は、今国会初となる党首討論が行われました。

党首討論が日本の国会で導入されたのは、平成12年の第147回常会からです。

国会審議の活性化及び政治主導の政策決定システムの確立に関する法律(平成11年法律第116号)による国会法の一部改正に基づき、衆参両議院に国家基本政策委員会が設置されました。

国家基本政策委員会の両院合同審査会において、定期的に、内閣総理大臣と野党党首との討議(党首討論)を行うこととなったのです。

党首討論は、内閣の基本政策と各党の基本政策及び時々の重要課題について、内閣総理大臣及び野党党首が、直接対面方式により、相互に議論を展開する形で行われます。

開会時間は、1回につき45分間とされています。合同審査会ですので、衆参交互に会長を務めることとなっており、本日は衆議院側で行われました。

また、今回は、民主党・維新の党・日本共産党の党首が内閣総理大臣と討論を行いましたが、全ての野党党首が参加していないのは、衆議院または参議院において所属議員10人以上を有する野党会派の党首であることが参加基準となっているためです。

では、これまでの国会の中で、党首討論を行うために国家基本政策委員会が最も開会されたのは、いつでしょうか。

国家基本政策委員会が設置された第147回常会では6回開会されています。時の首相は、小渕恵三、森喜朗の両首相でした。

二番目は、平成13年の第151回常会と平成15年の第156回常会の5回です。時の首相は、森喜朗、小泉純一郎の両首相でした。

しかしながら、最近は開会回数も減ってしまい、昨年の第186回常会では1回のみです。

この常会でも、5月20日、今日が初回でした。最低でも1か月に1回は開会するとのことだったと記憶していますが、今国会も1回だけなんでしょうか・・。

束ね法案と一括審議-その2

2015-05-17 | 雑感
束ね法案と一括審議について、個人的に有している問題意識を、立法府に身を置く議会人としての立場で、これから少し具体的に書いてみたいと思います。

今回はその前に、束ね法案と一括審議について、説明させていただきます。

○束ね法案とは

※このブログでは、一括審議との区別を明確にするため、幾つもの法案をひとつの法案にまとめて提出されたものを一括法案ではなく、束ね法案としています。

法案名:△△法の一部を改正する法律案

→法律名の直後に「等」が入っている場合、複数の法案が含まれています。

○一括審議とは

法案名:△△法の一部を改正する法律案、××法の一部を改正する法律案

→国会に提出された別々の法律案であっても、何らかの共通点を見出して、審議を同一の手続きで進めることをいいます。


ちなみに、前回のブログで説明した、先日、内閣(行政権)から国会(立法権)に提出された、我が国の在り方を大きく転換することになるであろう法案は、束ね法案にも一括審議にも該当します。

束ね法案という観点から見ると、既存10本の法改正が束ねられ、1本の改正案として国会に提出されています。

一括審議という観点から見ると、先日国会に提出されたのは、束ねられた改正法1本と、新法1本ですが、これらを共通の目的として、2法案を一括して審議するのです。

実際に審議される実質法案数としては、10本の改正案+1本の新法=11法案ですが、内閣(行政権)から国会(立法権)に提出されたのは2法案。しかも、この2法案もまとめて審議される見込みですから、立法府である国会での審議は、1法案のプロセスですむことになります。

さて、ここからいよいよ具体事例・・なのですが、長くなるのと文章力がないのとで、次回にします。

(参考)
束ね法案と一括審議-その1
束ね法案と一括審議-その3
束ね法案と一括審議-その4
束ね法案と審議時間

束ね法案と一括審議-その1

2015-05-16 | 雑感
今回は、普段は滅多に書かないようにしている個人的な思いを、あくまで立法府に身を置く議会人の立場で、少し書いてみたいと思います。

よって、今回は、議院規則でも国会法の紹介でもありません。ただ、このブログの今のルールである、個別の政策の是非については触れないこととします。

昨日、我が国の在り方を大きく転換することになるであろう法案(安保関連法案)が、内閣から国会に提出されました。このニュースは、詳細の内容はともかく、多くの方がご覧になったことと思います。

提出された法案は、計2本で、その内訳は、1本が改正法案、もう1本が新法です。

ただ、改正法案の方は、10本の既存の法律の改正案を1本にまとめている、いわゆる束ね法案となっています。

政府・与党の立場から見れば、10本の重い法改正を1本の法案に束ねることで、審議の迅速化を図ることが可能です。

少し具体的に説明します。

今回の法案を個別に提出した場合、1本1本が議論を呼ぶ改正内容を含んでいますので、法案審議のプロセスを10回繰り返さねばなりませんが、これらを1本に束ねることで、趣旨説明~質疑~討論・採決・附帯決議の流れを1回で終わらせることが可能となります。

さらに、今回は、もう1本の新法と併せて一括審議(2本の法案をまとめて審議)する予定ですので、立法府における審議の流れは、ひらたく表現すれば、1本の法案審議の流れと同じで済むのです。

他方、慎重審議を求める野党の立場から見れば、大別して2つの問題があります。

1つは、上記の政府・与党の立場と真逆の問題です。

今回の提出法案は2本ですが、うち1本は束ね法案であり、さらにいえば、新法のもう1本と併せて一括審議となることが見込まれています。本来であれば、所管委員会は複数に跨るものがまとめて審議されてしまうだけでなく、上述のとおり、法案審議のプロセスは、ひらたく表現すれば、1本の法案審議と変わらないため、充実審議を求め続けても、限界があると思われます。

慎重審議を求める野党の立場からすれば、我が国の在り方を大きく転換することになるであろう法案を、限られた審議時間で、しかもいわゆる後半国会になってから提出された法案の審議を一国会で終えてしまうことに、慎重であるはずです。

となると、先日紹介した「会期不継続の原則の例外」に基づき、継続審議を求めることも考えられますが、与党側が審議を途中で打ち切る手法も国会ルールの中にあるのです(このルールに関しては機会を見て、別途紹介したいと思います)。

もう1つは、法案を束ねたことによる賛否の判断の困難さです。

野党の中でもそれぞれの立場があると思われます。仮に、束ねられた10法案のうち、数本なら賛成できるかもしれない、もしくは修正を加えれば賛成に回れるかもしれない、という内容が含まれているとします。

個別に法案が提出され、これらが一括審議の扱いになっていれば、採決は個別となりますので、それぞれの法案に対する態度を表明することが可能です。

しかし、今回は、10本の改正法案が1本に束ねられて国会に提出されました。

束ねられた10法案のうち、1本でも絶対に看過できない内容が含まれていれば、賛成することは出来ないものと考えられます。なぜならば、束ね法案の場合、どれだけの数の法案の改正が含まれていようとも、外形上は1本の法律案であるため、採決は1回のみとなるからです。

慎重審議を求める野党の立場から見ると、束ね法案に含まれた、それぞれの法案に対する個別の意思表示の機会が封じられているのも同然です。

先日紹介した日本国憲法における三権分立の観点に立てば、国会(立法権)は、内閣(行政権)の下請け機関ではないはずです。

ただ、今回は一刻も早い法案成立を望む内閣(行政権)の意向を色濃く反映した国会(立法権)への法案提出の側面は、どの立場に立とうとも、否定しきれなのではないかと考えられます。

私は立法府に身を置く議会人のひとりとして、かねてから、束ね法案や一括審議に見る問題意識を有していますが、なぜ問題なのかという点について、次回、具体事例を交えながら書いてみたいと思います。

(参考)
束ね法案と一括審議-その2」平成27年5月17日
束ね法案と一括審議-その3」平成27年5月25日
束ね法案と一括審議-その4」平成27年7月17日
束ね法案と審議時間」平成27年7月18日
第190回国会における束ね法案-その1」平成28年2月7日
束ね法案と一括審議-番外編」平成30年1月19日

会期不継続の原則(の例外)-その2

2015-05-13 | 国会ルール
○国会法第47条第2項

常任委員会及び特別委員会は、各議院の議決で特に付託された案件(懲罰事犯の件を含む。)については、閉会中もなお、これを審査することができる。

○国会法第68条

会期中に議決に至らなかった案件は、後会に継続しない。但し、第47条第2項の規定により閉会中審査した議案及び懲罰事犯の件は、後会に継続する。

今回は、前回に引き続き、会期不継続の原則について紹介したいと思います。

上記の国会法は、会期不継続の原則の例外を定めたものです。

会期不継続の原則の例外とされる閉会中に継続して案件を審査、調査することを閉会中審査、または継続審査といいます。

この場合、後会に継続されるのはあくまでも議案であって、議決ではないということがポイントになります。

具体的な例として、衆議院で議決され、参議院に送付された段階で継続審査となった場合を考えてみます。

参議院で継続審査となり、後会で参議院で議決されると、再び衆議院に送付され、後会の会期中に衆議院で議決されることが必要だからです。衆議院では会期をまたぐことになるためですが、後会で先議となった参議院、送付された衆議院の両院での議決が必要なのです。

ただ、この会期不継続の原則の例外も、衆議院の解散による閉会中や参議院通常選挙が行われる閉会中においては、継続審査を行わないことが先例となっています。

ほかに、予算の衆議院先議については、このブログで何度も紹介していますが、これを参議院で継続審査にしてしまった場合、後会では参議院先議となってしまい、憲法の規定に反することになるため、参議院は予算については、継続審査ができないことがやはり先例となっています。

というわけで、会期不継続の原則とその例外でした。

会期不継続の原則-その1

2015-05-12 | 国会ルール
○国会法第68条

会期中に議決に至らなかった案件は、後会に継続しない。(以下略)


日本国憲法は、第52条から第54条で国会に会期制度を採用していると解されています。また、国会法により、国会の活動は会期中に限られるのを原則としています。

これは、国会の活動する期間を定め、その期間を一つの単位として活動することで、一つの会期における国会の独立性を認め、会期と会期との間に意思の継続性がないということを意味します。

よって、会期中に議決に至らなかった案件は、後会に継続しないのです。
これが、いわゆる会期不継続の原則です。

会期不継続の原則により、会期中に衆参両院で議決されなかった案件は、先議院で議決され送付されたものであっても廃案となります。

例えば、昨年の総選挙の際、衆議院から参議院に送付されながら、参議院で議決されなかった案件は、審議未了・廃案となりました。余談ですが、当該法案は、今通常国会で国会に再提出され、現在審議が行われています。

会期不継続の原則を念頭に、対決法案の場合、野党は審議に入るのを先に延ばし、充実審議を求めることで、会期中の審議未了・廃案となることを目指すことにもつながるのです。

ちなみに、日本国憲法は、第52条から第54条に会期制を前提にした規定はありますが、会期不継続の原則については触れていません。これは、国会の定めるところに任されており、国会法が規定しています。

次回は、会期中に議決に至らなかった手続きを後の会期にどのように引き継ぐのか、つまり、会期不継続の原則の例外について書いてみたいと思います。

決算の審査

2015-05-11 | 憲法
○日本国憲法第90条

国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。(以下略)


日本国憲法第90条に基づき、毎会計年度の決算は、内閣から衆議院、参議院の両院に同時に提出され、それぞれの院で審査が行われます。

本格的な連休明けである今日の国会は、衆参を通じて、参議院決算委員会のみ開会されました。昨日の今日で、あまり気乗りしないのですが、ここで更新を止めてしまうとブログ終了!になりそうな気がしますので、決算審査について、少しでも書いてみます・・。

決算は、予算と異なり法規範性は有しませんが、決算審査の意義は、国会で議決された国の予算の執行実績を審査することにより、その結果を後年度の予算編成や政策遂行に反映させることにあります。

つまり、国の活動、国の予算を事後的に監督することで、国の予算が適法に目的どおり使用されたか、行政が適正に行われたかどうかを監視する重要な意味を持つのが決算審査なのです。

予算の審査と決定的に異なる点、提出と議決について紹介したいと思います。

決算は予算と同じく国会に提出されますが、両院に同時に別個に提出され、両院が独立、別個に同一の決算を審議することとなっています。したがって、各議院が決算について議決しても、それは国会の議決ではなく、各議院の独立した別個の議決に過ぎないのです。

よって、両院で別個に議決される結果、衆議院と参議院で議決の内容が異なるということも発生しています。

他に特徴的な点としては、会期内に議決に至らない場合の扱いが挙げられます。

決算は、その会期中に議決されない場合においても、再び次の国会に提出されることはありません。衆議院が解散された場合も同様です。

通常の議案は、会期不継続の原則(※)により、消滅しますが、決算の場合は、引き続き審議することとされています。

ちなみに、衆議院では、委員40人からなる決算行政監視委員会を、参議院では、委員30人からなる決算委員会が常任委員会として設置されています。なお、参議院の場合は、行政監視を別の委員会で行うこととしており、行政監視委員会が設置されています。

今日開会された参議院決算委員会では、決算の審査に省庁別審査という形がとられており、7回程度行われます。

今国会は、今日の決算委員会で省庁別審査5回目が終わりました。

参考までに、今国会における、これまでの省庁別審査の省庁組み合わせは下記のとおりです。組み合わせや省庁別審査の順番は、毎年変動があるので興味深いところです。

省庁別1回目
復興庁及び総務省関係

省庁別2回目
農林水産省及び環境省関係

省庁別3回目
国会、会計検査院、財務省、金融庁、厚生労働省、株式会社日本政策金融公庫及び株式会社国際協力銀行関係

省庁別4回目
外務省、防衛省及び独立行政法人国際協力機構有償資金協力部門関係

省庁別5回目
皇室費、内閣、内閣府本府、国土交通省、警察庁、消費者庁及び沖縄振興開発金融公庫関係 ←イマココ

一回の審査にかける時間は5時間の場合が殆どですが、こうやって並べてみると、省庁別と言いながら、組み合わせの数が多いので、5時間では足りないのかもしれませんね・・。

※次回は、このブログで触れた会期不継続の原則について説明します。

議会雑感4か月目に

2015-05-10 | ひとこと
またまた更新をサボってしまいました・・。

ただ、この間、思いつきで始めた本ブログですが、おかげさまで3か月を迎えることができました。
今は匿名ブログですが、それでも飽きっぽい私が3か月も続けられたことは、ご覧頂いている方がいらっしゃるからこそです。

というわけで、次は4か月を目指してひっそりと頑張ります。

が、ここのところ五月病ではありませんが、いまいちやる気が起きずに困っています。
1か月後、無事に4か月を迎えることができました!と報告できるようにしたいのですが、どうなることやら・・。
                  

憲法審査会

2015-05-07 | 憲法
○国会法第102条の6

日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について後半かつ総合的に調査を行い、憲法改正原案、日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等を審査するため、各議院に憲法審査会を設ける。

連休明けの今日、衆議院では憲法審査会が開かれましたので、憲法審査会について紹介したいと思います。

憲法審査会とは、日本国憲法や関連法制を調査し、憲法改正原案を審査する機関です。

憲法審査会が設置されたのは、第167回国会の召集日である平成19年(2007年)8月7日です。

また、委員数(衆議院50人・参議院45人)や表決など、運営に関する憲法審査会規程が定められたのは、衆議院では平成21年6月11日、参議院では平成23年5月18日です。

国会が憲法改正を発議するためには、両院の憲法審査会が憲法改正原案を過半数で可決し、さらに日本国憲法第96条の規定により、各議院の総議員の3分の2以上の賛成が必要とされています。

国会法第102条の6は、以下の調査と審査について言及していますので、簡単に触れたいと思います。

「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制」
「憲法改正原案」
「日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案」

「日本国憲法に密接に関連する基本法制」の範囲については、いわゆる憲法附属法が考えられます。ただし、具体的にどのような法律が該当するかは一義的には明確ではありません。

「憲法改正原案」とは、国会が議決し、発議して国民投票の対象となる憲法改正案の原案です。法律でいえば、法律案に相当する議案です。

「日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案」は、憲法改正発議、憲法改正国民投票について定めるものをいいます。具体的には国会法の該当部分及び日本国憲法の改正手続に関する法律、または憲法改正に係る国民投票執行法も含まれると解されます。

議会人のひとりとして、議論の行方を注視しています。

国会の権能

2015-05-06 | 憲法
国会は、日本国憲法第41条の規定のとおり、国の唯一の立法機関ですが、その権能は立法だけではありません。

今回は、国会の権能について、日本国憲法に規定があるものを羅列したいと思います。

○憲法改正の発議権(第96条1項)

憲法改正については、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が発議し、国民に提案して、その承認を得なければなりません。憲法改正の最終的決定権者は、主権を有する国民ですが、改正の発議は国会によってなされます。憲法改正発議については、衆議院の優越は認められていません。

○法律案の議決権(第59条)

○予算の議決権(第60条)

○条約の承認権(第61条、第73条)

条約の締結権は、内閣にありますが、条約は国家間の合意であるとともに、国内法的効力を持つものが多く、時として国民を拘束する命令や権利・義務に関する法規範を内容とすることがあります。よって、内閣の意思だけでは問題との観点から、国会との共同責任として条約を成立させることが適当とされ、国会の承認を経なければならないこととされています。

○内閣総理大臣の指名権(第67条)

○皇室財産授受の議決権(第8条)

○財政に関する議決権(第83条)

憲法は、国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいてこれを行使しなければならない旨を定めています。財政国会議決主義の基本原則を宣言したものですが、国会の議決とは、具体的には法律を予算を指すものと解されています。

○予備費支出の承諾権(第87条2項)

○決算の審査権(第90条)

国の収入支出の決算は、全て毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければなりません。提出は衆参別々になされ、衆参別々に、支出がその予算の目的に従って、適法かつ適切に行われたかについて審査がなされます。

○裁判官弾劾裁判所の設置権(第64条)

他に、諸法により国会には様々な権能が認められていますが、これらについては機会を見ながら紹介したいと思います。

新しい手帳

2015-05-05 | ひとこと
先日のブログで、久々に手に取った学生時代の手帳のことを書きました。

最近は、特定の時期以外、日程等の管理は携帯端末等で済ませていたのですが、学生時代の手帳を見返したことがきっかけで、久々に紙のスケジュール手帳を持とう、という気持ちになりました。

というわけで、4月始まりの手帳を買い求めました。

デジタル化の流れはどこにでも存在していますが、アナログにはアナログの良さがあります。もちろん、変えるべきは変えれば良いと思いますが、何でもかんでもデジタル化すれば良い、というものではないことを、拙いそれではありますが、これまでの経験上、私は知っています。

上手く表現することができず、もどかしいのですが、政治も同じような側面がある気がしてなりません。

今日は久々に散歩しました。季節は春のはずが、夏のようですね・・。