議会雑感

国会のルールや決まりごとなど、議会人が備忘録を兼ねて記します。

第204回国会における束ね法案

2021-06-01 | 雑感
第204回国会の内閣提出法律案は、最終的に63本でした。

うち、本則で3本以上の法律案を束ねた内閣提出法案は、実に26本にも上ります。

技術的に束ねざるを得ない改正法案があるのは事実ですし、束ね法案が一概によろしくない、というわけではありません。

ただ、複数の法律を改正等しようとするときにこれらを束ねて一本の法律案として国会に提出する「束ね法案」は、法律案を束ねることによって国会審議の形骸化を招来するとともに、国会議員の表決権を侵害しかねないものです。

また、どの法律がどのように改正されるのか等が国民に分かりづらくなり、適切な情報公開とはならないおそれもあります。

これらは、このブログにおいても何度も指摘してきたことです。

今次常会は、とにかく束ね法案の割合が高いと言わざるを得ません。今次常会の閣法の本数を絞るために、束ね法案を多用したのではないかと考えざるを得ない状況でもあります。

束ね法案の立案作業においては、複数の法律案の立案作業を同時並行で行わなければならず、改正内容も幅広く、合議等を必要とする組織体が多岐にわたることも少なくありません。

このため、束ね法案の立案作業は、一般に、束ねる法律案の本数が多ければ多いほど、従事する職員に負荷がかかることになり、また、日程の余裕が失われることになると考えます。

事実、今次常会では、特に束ね法案において条文誤りや参考資料の誤りが続発したのです。この点については、別途書きたいと思います。

今次常会の束ね法案について、とにかく束ねた本数が多いという意味で、デジタル改革関連法案を紹介します。

参議院で予算案3案を審査中の3月に、衆議院で早々に審議入りしましたが、新規制定法4本と束ね法案1本(この中に59本)を一括審議するという、丁寧とはほど遠い形で審議が行われてしまいました。

内容もさることながら、束ね法案と一括審議で済ませてしまう審議の在り方については、議会人として思うところが多々ありますし、これだけの本数を束ね、なおかつ所管が寄せ集めの担当であれば、参考資料の誤りが多発するのは避け難い側面があったのではないでしょうか。

なお、今回のデジタル改革関連5法案の法案名は下記のとおりです。

[デジタル改革関連5法案]

〇デジタル社会形成基本法案(新規制定法)
〇デジタル庁設置法案(新規制定法)
〇デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案(59本の束ね法案)
〇公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案(新規制定法)
〇預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律案(新規制定法)


59本の束ね法案だった「デジタル社会の形成を図るための~法律」に含まれる法律は下記の通りです。

1.住民基本台帳法
2.社会福祉法及び介護福祉法
3.看護師等の人材確保の促進に関する法律
4.精神保健福祉士法
5.地方公共団体の特定の事務の郵便局における取扱いに関する法律
6.健康増進法
7.電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律
8.個人情報の保護に関する法律
9.行政手続における特定の個人を識別するための電話の利用等に関する法律
10.地方公共団体情報システム機構法
11.公認心理師法
12.民法
13.抵当証券法
14.死産の届出に関する規程
15.地方自治法
16.農業協同組合法
17.農業保険法
18.戸籍法
19.公認会計士法
20.損害保険料率算出団体に関する法律
21.建設業法
22.土地改良法
23.船主相互保険組合法
24.建築士法
25.商品先物取引法
26.鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律
27.漁船損害等補償法
28.宅地建物取引業法
29.公共工事の前払金保証事業に関する法律
30.中小漁業融資保証法
31.土地区画整理法
32.内航海運組合法
33.国民年金法
34.確定給付企業年金法
35.農業信用保証保険法
36.建物の区分所有等に関する法律
37.不動産の鑑定評価に関する法律
38.不動産取引の円滑化のための地価公示法及び不動産の鑑定評価に関する法律の一部を改正する法律附則第六条第一項の規定によりなおその効力を有するものとされた同法第四条の規定による改正前の不動産の鑑定評価に関する法律
39.漁業災害補償法
40.通関業法
41.社会保険労務士法
42.都市再開発法
43.大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法
44.農住組合法
45.借地借家法
46.不動産特定共同事業法
47.政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に関する法律
48.密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律
49.資産の流動化に関する法律
50.建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律
51.マンションの管理の適正化の推進に関する法律
52.高齢者の居住の安定確保に関する法律
53.マンションの建替え等の円滑化に関する法律
54.刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
55.犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律
56.株式会社地域経済活性化支援機構法
57.大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法
58.公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律
59.行政不服審査法

(参考)
束ね法案と一括審議-その1」平成27年5月16日
束ね法案と一括審議-その2」平成27年5月17日
束ね法案と一括審議-その3」平成27年5月25日
束ね法案と一括審議-その4」平成27年7月17日
束ね法案と審議時間」平成27年7月18日
第190回国会における束ね法案-その1」平成28年2月7日
束ね法案と一括審議-番外編」平成30年1月19日

議会雑感のこれから

2019-07-10 | 雑感
いつも「議会雑感」ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

2015年2月に開設した本ブログは、以下の2点を大事にしつつ、このブログを通じて、政治に関心を持っていただける方が1人でもいらっしゃれば、との思いで4年以上にわたって細々と続けてきました。

○国会法等を引用しつつ、時々の話題を交えながら国会のルールを紹介すること
○匿名で政策の是非には触れない範囲にとどめること

ただ、今年に入ってから紹介したいことを明確に紹介するために、匿名についてどうすべきか、ずっと悩んできました。

一方で、これまで数回だけ開放したコメント欄には、このブログが匿名であるがゆえに頂戴したご意見やご質問を幾つもいただきました。

匿名、かつ政策の是非に触れないからこそ純粋に国会ルール等の紹介をご覧いただけた側面もあることから、本当に悩みました。

しかしながら、匿名であるがゆえに書きたくても書けなかった、紹介したくともできなかった、法規・先例があります。

私は、立法府に身を置く議会人は、議会の先人の知恵で積み上げられてきた法規・先例を大事に議会運営に携わるべきであると考えます。もちろん、法規と違って、先例は時代によって変わっていく側面もあるでしょうし、墨守するものでもないと思います。

しかし、先例は法的拘束力はないものの、これまでの議事運営の積み重ねであり、議会の先人の知恵の結果であり、十分尊重すべきものであると思います。最近は、どちらかといえば政略的配慮を優先し、先例をないがしろにする傾向があるのではないでしょうか。

民主主義だから過半数を得れば何でもできるとしてしまう新自由主義的発想での議会運営は、その都度態度を決めればいいとするルールなき議会運営につながるおそれもはらんでいると思っています。

この数年間、法規・先例を半ば無視したような議事運営もあったことは否定できないと思います。

私なりに努力して議運理事会や会議録等にも残してきましたが、議会の歴史の中で、そのような例を二度と繰り返さないためにも、これらの事例も紹介しておきたいと思うに至りました。

よって、匿名では限界があることから、悩みに悩んだ結果、実名に切り替えたいと思います。

私は、このブログを始めたことによって、ここには書かなくても多くのことを調べたり、知見を持った方々に話をうかがったりと議会人として、たくさんの気づきと成長に恵まれました。

また、このブログに書いたことによって、より問題意識を深めることに繋がり、立法府の矜持を示せた案件もありました。

具体的には、「束ね法案」や「包括委任規定」です。

今、検索サイトで「束ね法案」を検索いただくと、私が提出した質問主意書やこのブログのエントリーが出てきます。このブログに書いたものを基に質問主意書という形で提出し、結果として、第二次現政権になって束ね法案の割合が急増していることが明らかになり、指摘の翌年から束ね法案の件数は減少しました。

私は、立法府に身を置く議会人の一人として、立法府が立法府たる機能を健全に発揮できる環境をつくりたいと切に願っています。

この間、本当に多くの皆様にお支えいただいて、議会人として成長させていただきました。

匿名ブログは一旦ここで終わりますが、これからも国会ルール等の紹介を通じて、政治に関心を持っていただける方が1人でもいらっしゃれば、との思いで今後もこのブログを続けていくことができればと考えています。

これまでの間、誠にありがとうございました。

決議案の取り扱い

2018-09-30 | 雑感
〇国会法第56条の2

議案が発議又は提出されたときは、議長は、これを適当の委員会に付託し、その審査を経て会議に付する。但し、特に緊急を要するものは、発議者又は提出者の要求に基き、議院の議決で委員会の審査を省略することができる。

過日、約1年ぶりに開放したコメント欄に多くのご意見・ご感想を頂戴しました。
本当にありがとうございました。

すべてが貴重なご意見ですが、なかでも筆者の心に刺さったひとつを一部加工の上、ご紹介します。

[頂戴したコメント]

ブログにていつも勉強させていただいております。

通りすがりながら、先の常会における参議院での決議案の取り扱いについては結構な問題をはらんでいるように思う次第です。

というのは、要件を満たして提出された常任委員長解任決議案を、野党第1会派が提出会派に加わっていないからとして委員会審査省略を否決した挙句、委員会に付託しないという判断がなされたことです。

院の役員の信任という院の自律性にとって非常に重要である初出の決議案を審査しないというのは、院にとって非常に厳しい判断であり、あるいは自殺行為とも思われるところです。

国会法第56条にあるとおり、議案が発議されたときは議長はこれを適当な委員会に付託しなければならないとされており、委員会審査省略要求が否決されたならば、当該決議案はただちに適当な委員会に付託されるべきところ、それがなされなかったのは、議長による不作為であると思わざるを得ません。

唯一の立法機関たる国会が、自らの定めたルールを守ることができないのは致命的であると思います。我が国議会制度は存亡の危機に立っているのではないでしょうか。

議会人たる管理人様には、何卒我が国のこれまでの先人たちの知恵と妥協との結晶たる法規先例を重んじた運営を、きっちりと指導していただきたく、陰ながら応援申し上げます。


ここまでが頂戴したコメントです。
本当にありがとうございます。

本件については、国会ルールとあわせてどのように紹介すべきか悩んでいるうちに、次の臨時会が迫ってきてしまいました。

最近の議会運営を概観すると、政略的諸配慮を優先し、法規先例をないがしろにする傾向がないとはいえません。

たとえば、先例を変更しようとするのであれば、その根拠を明確にし、議事運営をすることが、与野党問わず多くの会派が納得できる運営となるのではないでしょうか。

そんな立法府であって欲しいし、そんな立法府でなければならない。
これが議会人たる筆者の信念ですが、しばらくは程遠い運営が続くのではないでしょうか。忸怩たる思いです。

18歳の夏

2018-08-08 | 雑感
18歳の夏、何をしていたのだろうかと、ここ1ヶ月、よく思い出す。

生まれて初めて実家を離れての一人暮らし。
ただ、それは社会人ではなく、学生として。

地方で育った私にとっては、それでも不安だらけだったこと、一方で、知的好奇心にも溢れていたこと、様々な思いがないまぜになっていた18歳の夏。

他方、高校を卒業してすぐ社会に出て、それが初めて実家を離れる機会であれば、不安はきっと、もっと、大きいだろう。

今年4月、希望や期待に胸膨らませて社会に出たであろう18歳の新社会人のことを思うとき、様々な思いが去来する。

実家の家族は、新たな歩みを始めた18歳を「頑張れ」と見送ったことだろう。

18歳の新社会人がどんな思いを抱え、どんな状況だったのか、思いを馳せる機会が増えている。

小さいコミュニティであればあるほど、世間から隔絶された空間であればあるほど、視野は狭くなり、保身に走りがちだが、真実はひとつ。

真実に、光を当てて欲しいと切に願う。

衆議院議長談話(今国会を振り返っての所感)

2018-07-31 | 雑感
平成30年7月31日、衆議院議長は、先日閉会した第196回国会を振り返っての所感を発表されました。

本来でしたら、全文をここで紹介すべきと思いますが、一部のみの紹介とさせていただきます。ただ、多くの方にご覧いただきたいと思いますので、是非、衆議院Webページをご覧ください。

以下、衆議院議長所感の一部引用です。

衆議院議長談話(今国会を振り返っての所感)一部抜粋 平成30年7月31日

先般の通常国会は、1月22日にはじまり、7月22日まで、延長を含めて182日間の会期となりました。

1.この国会において、

(1)議院内閣制における立法府と行政府の間の基本的な信任関係に関わる問題や、
(2)国政に対する国民の信頼に関わる問題が、

数多く明らかになりました。これらは、いずれも、民主的な行政監視、国民の負託を受けた行政執行といった点から、民主主義の根幹を揺るがす問題であり、行政府・立法府は、共に深刻に自省し、改善を図らねばなりません。

2.まず前者について言えば、憲法上、国会は、「国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関」(憲法41条)として、「法律による行政」の根拠である法律を制定するとともに、行政執行全般を監視する責務と権限を有しています。

これらの権限を適切に行使し、国民の負託に応えるためには、行政から正しい情報が適時適切に提供されることが大前提となっていることは論を俟ちません。これは、議院内閣制下の立法・行政の基本的な信任関係とも言うべき事項であります。

しかるに、
(1)財務省の森友問題をめぐる決裁文書の改ざん問題や、
(2)厚生労働省による裁量労働制に関する不適切なデータの提示、
(3)防衛省の陸上自衛隊の海外派遣部隊の日報に関するずさんな文書管理など

の一連の事件はすべて、法律の制定や行政監視における立法府の判断を誤らせるおそれがあるものであり、立法府・行政府相互の緊張関係の上に成り立っている議院内閣制の基本的な前提を揺るがすものであると考えねばなりません。


引用は、ここまでです。

衆議院議長は、「法律による行政」について言及されています。

第196回国会は、筆者にとって、「法律による行政の原理」から重大な疑義がある点について、新たな問題を発見した国会でもありました。「束ね法案」シリーズに続いて、機会を見て書きたいと思います。

(参考)
国会=唯一の立法機関」平成30年5月31日
日本国憲法における三権分立」平成27年5月3日
束ね法案と一括審議-その1」平成27年5月16日
束ね法案と一括審議-その2」平成27年5月17日
束ね法案と一括審議-その3」平成27年5月25日
束ね法案と一括審議-その4」平成27年7月17日
束ね法案と審議時間」平成27年7月18日
第190回国会における束ね法案-その1」平成28年2月7日
束ね法案と一括審議-番外編」平成30年1月19日

束ね法案と一括審議-番外編

2018-01-19 | 雑感
立法府に身を置く議会人の一人として、平成24年12月以降、その割合が増える傾向にあった、いわゆる「束ね法案」について久々に書いてみたいと思います。

平成30年1月18日の衆参両院の議院運営委員会理事会にて、行政権たる内閣から1月22日召集の第196回国会への「内閣提出予定法律案等件名・要旨調」が提示されました。

これは、国会召集前に立法権たる国会に行政権たる内閣から提示されるものです。

         

内閣提出法律案は提出予定64法律案、10条約ですが、ほかに「提出予定」以外の検討中のものとして、4法律案、1条約が示されています。       
          

昨年9月の衆議院解散によって廃案となった「労働基準法の一部を改正する法律案」は、平成27年に国会に提出された法律案で、高度プロフェッショナル制度の創設や企画業務型裁量労働制の拡大を含む内容でした。

法律案名に「等」が入っていることから、本則3本以上を含む束ね法案で、(1)労働基準法、(2)労働安全衛生法、(3)労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の3法律案が含まれていました。

当該法律案は、平成27年に内閣が国会に提出して以降、昨年の衆議院解散によって廃案となるまで2年以上審議入りできない状態が続きましたが、1月22日召集の第196回国会では、法律案名を「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」として国会に提出される予定です。

          

厚生労働大臣が労働政策審議会に諮問した法律案要綱においても「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」となっており、これによれば提出予定の本法律案には以下の8法律案が含まれる見込みとなっています。

(1)労働基準法
(2)労働安全衛生法
(3)労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
(4)雇用対策法
(5)労働者派遣法
(6)パート労働法
(7)労働契約法
(8)じん肺法

上記のいわゆる働き方改革関連法案においては、昨年廃案となった労基法等一部改正案に含まれていた高度プロフェッショナル制度の創設や企画業務型裁量労働制の拡大が含まれており、長時間労働を助長する懸念があります。

他方、働き方改革実行計画において示された時間外労働の上限規制は、長時間労働の是正を目的とするものであり、今回の働き方改革関連法案に含まれることになりますが、高度プロフェッショナル制度創設や企画業務型裁量労働制の拡大とは政策の方向性が全く異なります。

これらが束ねられて1本の法律案として立法権たる国会に提出される見込みとなりました。

しばらく筆を止めていましたが、気力が湧けば「束ね法案と一括審議」シリーズを久々に書いていきたいと思います。でも、気力が湧かない気もします・・。

(参考)
束ね法案と一括審議-その1」平成27年5月16日
束ね法案と一括審議-その2」平成27年5月17日
束ね法案と一括審議-その3」平成27年5月25日
束ね法案と一括審議-その4」平成27年7月17日
束ね法案と審議時間」平成27年7月18日
第190回国会における束ね法案-その1」平成28年2月7日

「議会雑感」3回目の御用納め

2017-12-28 | 雑感
「議会雑感」をご覧いただいている皆さま、いつもありがとうございます。

今日1日は、私の原点は何だろう、このブログを始めたきっかけは何だろう、と心静かに振り返る日にしたいと思います。

このブログを通じて政治に少しでも興味や関心を持っていただいた方が1人でもいらっしゃれば嬉しいですし、そんなことも考えながら、新たな年に向けて様々な考えを巡らせたいとも思います。

立法府に身を置く議会人として、今年の国会は6月に閉会した常会がすべてだったような気がしています。今年は、国会が開会した日数も最も少ない方に数えられてしまう1年であり、立法府としての在り方が問われる状況が続いているような気がしてなりません。

ただ、新たな年は新たな思いで迎え、原点と感謝の気持ちを忘れず、前を向いて歩いていきたいと思います。

この1年もこれまで同様、本当に大勢の方にお世話になり、心から感謝しています。
誠にありがとうございました。

冒頭解散と総理発言

2017-09-22 | 雑感
衆議院の解散とは、衆議院議員の任期である4年満了前に、衆議院議員全員について、議員の身分を失わせることです。

衆議院議場で解散詔書が朗読され、議場から退出するとき、すでに「前」衆議院議員なのです。

では、解散の本来の目的とは何でしょうか。

現在における重要な政治課題への行政権である内閣の取り組みについて、国民の信を問い、国民の意思を衆議院の構成に反映させることにあるのではないでしょうか。

憲法第53条の規定に基づき、野党4党から臨時会の召集要求が3か月前に出されている中、しかも、第193回国会閉会翌日の平成29年6月19日、行政権の長である内閣総理大臣は、記者会見でこう発言されています。

○平成29年6月19日 内閣総理大臣記者会見

「何か指摘があればその都度、真摯に説明責任を果たしていく。
先週も調査結果の発表後に予算委員会の集中審議に出席いたしましたが、4年前の原点にもう一度立ち返り、建設的な議論を行い、結果を出していく。そうした政治が実現するよう政権与党としての責任を果たしてまいります。

国民の皆様から信頼が得られるよう、冷静に、一つ一つ丁寧に説明する努力を積み重ねていかなければならない。その決意をこの国会の閉会に当たって新たにしております。」


憲法の規定に基づき、その召集が義務付けられている臨時会に3か月経って応じたと思ったら、黙して語らず冒頭解散。

衆議院解散の決定権は、行政権である内閣にあります。

立法権たる国会に対し、二重の側面で一言も発言なく衆議院解散とは、「国会軽視ここに極まれり」ではないでしょうか。

(参考)
臨時会の召集-その1」 平成27年11月27日
国会の召集-その1」 平成27年12月22日
公示と告示の違い」 平成28年4月12日
衆議院の解散と参議院の緊急集会-その1」 平成28年5月25日



束ね法案と一括審議(再掲)

2017-09-10 | 雑感
今月下旬にも召集される第194臨時会では、労働基準法等の一部を改正する法律案が最大の与野党対決法案になるのではないでしょうか。

今回のエントリーで詳細は割愛しますが、同法案は行政権である内閣から立法権たる国会に対して、これまで何度も取り上げてきた「束ね法案」の形式で提出されるのではないか、との報道がなされています。

今回は、2年以上前のエントリーを改めて紹介させていただきます。

「束ね法案と一括審議-その1」平成27年5月16日

今回は、普段は滅多に書かないようにしている個人的な思いを、あくまで立法府に身を置く議会人の立場で、少し書いてみたいと思います。

よって、今回は、議院規則でも国会法の紹介でもありません。ただ、このブログの今のルールである、個別の政策の是非については触れないこととします。

昨日、我が国の在り方を大きく転換することになるであろう法案(安保関連法案)が、内閣から国会に提出されました。このニュースは、詳細の内容はともかく、多くの方がご覧になったことと思います。

提出された法案は、計2本で、その内訳は、1本が改正法案、もう1本が新法です。

ただ、改正法案の方は、10本の既存の法律の改正案を1本にまとめている、いわゆる束ね法案となっています。

政府・与党の立場から見れば、10本の重い法改正を1本の法案に束ねることで、審議の迅速化を図ることが可能です。

少し具体的に説明します。

今回の法案を個別に提出した場合、1本1本が議論を呼ぶ改正内容を含んでいますので、法案審議のプロセスを10回繰り返さねばなりませんが、これらを1本に束ねることで、趣旨説明~質疑~討論・採決・附帯決議の流れを1回で終わらせることが可能となります。

さらに、今回は、もう1本の新法と併せて一括審議(2本の法案をまとめて審議)する予定ですので、立法府における審議の流れは、ひらたく表現すれば、1本の法案審議の流れと同じで済むのです。

他方、慎重審議を求める野党の立場から見れば、大別して2つの問題があります。

1つは、上記の政府・与党の立場と真逆の問題です。

今回の提出法案は2本ですが、うち1本は束ね法案であり、さらにいえば、新法のもう1本と併せて一括審議となることが見込まれています。本来であれば、所管委員会は複数に跨るものがまとめて審議されてしまうだけでなく、上述のとおり、法案審議のプロセスは、ひらたく表現すれば、1本の法案審議と変わらないため、充実審議を求め続けても、限界があると思われます。

慎重審議を求める野党の立場からすれば、我が国の在り方を大きく転換することになるであろう法案を、限られた審議時間で、しかもいわゆる後半国会になってから提出された法案の審議を一国会で終えてしまうことに、慎重であるはずです。

となると、先日紹介した「会期不継続の原則の例外」に基づき、継続審議を求めることも考えられますが、与党側が審議を途中で打ち切る手法も国会ルールの中にあるのです(このルールに関しては機会を見て、別途紹介したいと思います)。

もう1つは、法案を束ねたことによる賛否の判断の困難さです。

野党の中でもそれぞれの立場があると思われます。仮に、束ねられた10法案のうち、数本なら賛成できるかもしれない、もしくは修正を加えれば賛成に回れるかもしれない、という内容が含まれているとします。

個別に法案が提出され、これらが一括審議の扱いになっていれば、採決は個別となりますので、それぞれの法案に対する態度を表明することが可能です。

しかし、今回は、10本の改正法案が1本に束ねられて国会に提出されました。

束ねられた10法案のうち、1本でも絶対に看過できない内容が含まれていれば、賛成することは出来ないものと考えられます。なぜならば、束ね法案の場合、どれだけの数の法案の改正が含まれていようとも、外形上は1本の法律案であるため、採決は1回のみとなるからです。

慎重審議を求める野党の立場から見ると、束ね法案に含まれた、それぞれの法案に対する個別の意思表示の機会が封じられているのも同然です。

先日紹介した日本国憲法における三権分立の観点に立てば、国会(立法権)は、内閣(行政権)の下請け機関ではないはずです。

ただ、今回は一刻も早い法案成立を望む内閣(行政権)の意向を色濃く反映した国会(立法権)への法案提出の側面は、どの立場に立とうとも、否定しきれなのではないかと考えられます。

私は立法府に身を置く議会人のひとりとして、かねてから、束ね法案や一括審議に見る問題意識を有していますが、なぜ問題なのかという点について、次回、具体事例を交えながら書いてみたいと思います。

束ね法案と一括審議-その2
束ね法案と一括審議-その3
束ね法案と一括審議-その4
束ね法案と審議時間
第190回国会における束ね法案-その1

平成29年度総予算審査実績(衆議院予算委)

2017-02-28 | 雑感
平成29年度総予算は、平成29年2月27日の衆議院本会議で採決・可決され、参議院に送付されました。

今回は、衆議院予算委員会における平成29年度総予算の審査実績を確認しておきたいと思います。

ちなみに、総予算審査の流れに関しては、「予算委員会における総予算審査の流れ」のエントリーをご覧いただけると幸いです。

『衆議院予算委員会 平成29年度総予算審査実績』

1月25日(水) 趣旨説明(平成28年度第3次補正予算と同時)

2月1日(水) 基本的質疑1(1巡目 全大臣、TV) 7時間
2月2日(木) 基本的質疑2(1巡目 全大臣、TV) 7時間
2月3日(金) 基本的質疑3(2巡目 全大臣)    7時間

2月6日(月) 一般的質疑1             7時間
2月7日(火) 集中審議1「公務員の再就職のあり方と行革等」(総理、TV) 7時間
2月8日(水) 派遣議決(地方公聴会)
          一般的質疑2             7時間
2月9日(木) 一般的質疑3             3時間

2月14日(火) 集中審議2「外交・通商政策等」(総理、TV) 7時間
          公聴会議決
2月15日(水) 地方公聴会(沖縄、愛知)
2月17日(金) 集中審議3「安倍内閣の基本姿勢・社会保障等」(総理、TV) 7時間

2月20日(月) 分科会議決
          一般的質疑4             7時間
2月21日(火) 公聴会
2月22日(水) 分科会
2月23日(木) 分科会
          一般的質疑5             4時間
2月24日(金) 集中審議4「安倍内閣の基本姿勢」(総理、TV) 3時間

2月27日(月) 締めくくり質疑(全大臣)       3時間30分
          討論、採決

衆議院予算委員会における平成29年度総予算の審査時間は、76時間30分でした。これから審査が始まる参議院での審査時間はどれくらいになるのでしょうか。

「議会雑感」2回目の御用納め

2016-12-28 | 雑感
「議会雑感」をご覧いただいている皆さま、いつもありがとうございます。

最近、更新が滞っており反省しています。執筆途中のエントリーは幾つかあるのですが、色々なことを考え始めるとアップするのを躊躇してしまい、結局、更新できない・・という状態が続いています。

ただ、書きたいこと、お伝えしたいことはたくさんあります。

国会運営や国会のルール等を紹介することで、政治に少しでも興味や関心を持っていただくことができれば嬉しいですし、筆者自身の励みにもなるからです。

新たな年は、もう少し更新できるよう努めたいと思いますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。

また、これまで続けてきた、個別の政策の是非には触れないこと、匿名であること、という従来からのスタンスについては、もうしばらく続けるか、それとも別のアプローチにするか、少し考えてみたいと思います。

この1年もこれまで同様、本当に大勢の方にお世話になり、心から感謝しています。
誠にありがとうございました!
            
[追記]
いつもご覧いただいている皆さまのご意見・ご感想を頂戴致したく、約7か月ぶりにコメント欄を開放することにします。

といっても、これまでと同じく、コメント欄に投稿いただいても筆者が拝読するのみで、公開しないことが前提です。ただ、コメント欄にいただくご意見が励みとなっています。

余談ですが、本名で激励のコメントを寄せていただいている方も何人かいらっしゃいます。こちらが名乗っていないだけに恐縮しきりです。ありがとうございます。

参議院における調査会-その7

2016-10-17 | 雑感
「参議院における調査会」シリーズは、今回で一旦終了です。

今回は、調査会制度創設時に設置された調査会と、最近設置されたばかりの調査会を概観します。
(下記調査会名の罫線は筆者によります)

○昭和61年7月22日:国会法改正後、参議院初の3調査会

外交・総合安全保障に関する調査会
国民生活に関する調査会
産業・資源エネルギーに関する調査会

○平成28年9月26日:参議院通常選挙を経て新たに3調査会設置(現在)

国際経済・外交に関する調査会
国民生活・経済に関する調査会
資源エネルギーに関する調査会

○参考:平成28年7月25日まで設置されていた3調査会

国の統治機構に関する調査会
国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会
国際経済・外交に関する調査会

今開かれている国会で設置された3調査会は、ある意味、原点回帰といって良いのかもしれません。

大別すると、外交・内政・エネルギー問題という側面で、参議院で最初に設置された3調査会と同じだからです。

今回の調査会設置にあたっては、誰がアイデアを出したのか、筆者に知る由はありませんが、過去の歴史を知る人が参議院内にはいる、ということの証左ではないでしょうか。

参議院における調査会について、これまで7回にわたって概観してきましたが、衆議院との異質性を求め、参議院の独自性と存在感発揮を求めるなか、任期6年であることに着目した長期的かつ総合的な調査を行うための調査会構想は、議会の先人の知恵であったと思います。

ただ、昨今、参議院における調査会の位置付けが明確ではないような気がしてなりません。

国会ごとに消滅を繰り返す特別委員会の常設化や調査会制度創設からの時間の経過などがそうさせているのかもしれません。

参議院における調査会は、その構想と設置に至る経緯に鑑みて、本来もっと機能すべき存在なのではないでしょうか。

参議院における調査会-その1 国会法と参議院規則における調査会の位置づけ
参議院における調査会-その2 調査会の設置時期
参議院における調査会-その3 調査会長の選任方法・時期
参議院における調査会-その4」 調査会設置時の国会法改正のポイント
参議院における調査会-その5」 参議院改革論と調査会設置に至る経過
参議院における調査会-その6」 調査会設置にかかる衆議院の立場

衆参のちょっとした違い-国会事務局の定員

2016-06-24 | 雑感
第189回国会、平成27年4月17日の委員会や本会議で、衆議院、参議院事務局職員定員の件が諮られ、それぞれ定員が変更されました。

この際、衆議院では議院運営委員会のみで決定し、参議院は議院運営委員会で諮った後、本会議でも諮られました。

衆議院と参議院の本当にちょっとした違いですが、個人的に気になるのは、参議院本会議の本件に関する以下のくだりです。

[平成27年4月17日 参議院本会議]

○参院議長
この際、参議院事務局職員定員規程の一部改正に関する件についてお諮りいたします。議長は、本件につきまして議院運営委員会に諮りましたところ、議席に配付いたしました参議院事務局職員定員規程の一部を改正する規程案のとおりとする旨の決定がございました。

これでは、参議院会議録を読んでも内容がさっぱり分かりません。もちろん、前段の議院運営委員会の会議録を読めば分かりますが、「議席に配布いたしましたとおり」という文言を会議録に残すのはどうかな、というのが従来からの疑問点ではあります。

で、平成27年4月17日に決定された現行の衆参の国会事務局職員定数は、衆議院事務局:1,615人、参議院事務局:1,212人です。

衆議院のWebページを見ると、「職員数は、約1,650人です。」となっており、これまた個人的に気になる点です。

人事異動を行うにあたっては、異動に馴染まない部署を除した人員で行う必要があるとは承知していますが、色々難しいですね。

国会事務局-その2

2016-05-23 | 雑感
「議会制民主主義」をつくり上げるために、議会の先人がどのように奔走したのか、書籍を通じて改めてその歴史を辿る中で、多くの気づきや発見に恵まれています。

と同時に、衆議院、参議院ともに国会事務局の果たす役割の大きさについて過去の歴史から認識を深めているところですが、「国会事務局-その1」とは異なり、議会の先人の足跡を辿ってみたいと思います。

今回は、昭和32年11月の参議院事務総長就任挨拶の一端を引用することで、「強い中立」と「弱い中立」について紹介します。

[参議院事務総長就任挨拶(昭和32年11月1日)]

(前略)

由来議院事務の仕事は縁の下の力もちだと言われております。芝居の奈落で舞台を廻す仕事になぞらえた先輩もおります。まことにその通りであります。

桧舞台で主役を演ずるべき職分ではないのであります。私どもは良くこれを理解して参議院が十全の機能を果たし得るよう、また全国民を代表する議員が十分の活動をなし得るよう誠実に脇役の仕事を励むべきであります。

(中略)

また事務局は中立公正でなければならないといわれております。これはまことにその通りであります。いやしくも一党一派に偏するが如きことは断じて戒めねばなりません。ただ私は柔弱なる中立、弱い中立を排し、毅然たる中立、強い中立を旨とするものであります。

何をもって弱い中立といい、何をもって強い中立というか、甲乙両党の鼻息をうかがい、各々主張するところをはかって、常にその中間を辿ろうとするのは弱い中立であります。

こういうことで行動しても一貫した筋が通らず、また同じ事柄に対処する処置が時によって二、三になります。これは取るべき態度ではありません。

常に憲法、国会法、規則等の規定する処に従い、その精神に則って行動するのが真の中立であり強い中立であると信じます。もちろん私どもとしましては政治の動向に注意を怠るべきではなく、十分配慮が必要ではありますが、大筋の考え方としては右に述べた如くでありたいと思います。

願わくは皆さんの御賛同を得て事務局を挙げて、真の中立公正を堅持したいと思います。

平成28年5月16日衆予算委での出来事

2016-05-18 | 雑感
本ブログを継続的にご覧いただいている方にとって、筆者が立法府に身を置く議会人として、どれだけ誇りを持っているのか、また行政権(行政府)と立法権(立法府)の関係など、「日本国憲法における三権分立」をはじめとし、何度も言及してきたことはご存知の方が多いと思います。

平成28年5月17日、参議院本会議で熊本地震に対応するための平成28年度補正予算は全会一致で可決・成立しました。

これに先立ち、衆議院、参議院の予算委員会で内閣総理大臣以下、全閣僚出席の下、一日ずつの審議が行われました。

まず、衆議院の審議からチェックしようと思い、衆議院インターネット審議中継(ビデオライブラリ)を見ていて、愕然としました。

平成28年5月16日衆議院予算委員会での出来事です。もちろん、5月18日現在、会議録は発行されていませんので、筆者が審議中継を見て、文字起こししたものですので、正確ではないかもしれません。気になる方は、下記時間帯のビデオライブラリをご覧ください。

○平成28年5月16日衆議院予算委員会(2時間16分34秒~2時間16分44秒)

内閣総理大臣
「委員は、議会の運営ということについて少し勉強していただいた方が良いと思います。議会についてはですね、私は立法府、立法府の長であります。

              
立法府に身を置く議会人としては、様々な意味で、甚大なショックを受けています。