議会雑感

国会のルールや決まりごとなど、議会人が備忘録を兼ねて記します。

国会の会期(会期と通年国会にならない理由)

2018-12-11 | 国会ルール
〇国会法第10条 

常会の会期は、150日間とする。但し、会期中に議員の任期が満限に達する場合には、その満限の日をもつて、会期は終了するものとする。

常会の会期は、なぜ150日間となっているのか、そして、なぜ通年国会とならないのか、について紹介したいと思います。

帝国議会は3か月でしたから、それよりも長い会期となっています。その理由は、帝国議会の衆議院国会法案委員会の会議録に残されています。

余談ですが、国会法案委員会は、基本的に逐条審査で行われており、国会法の制定過程やなぜその文言が使われたのかなど、興味深い議論が数多く交わされています。

昭和21年12月19日 第91回帝国議会 衆議院国会法案委員会

衆議院書記官長(現在の事務総長相当)の逐条説明

「常会の会期は150日間、現在の3か月に比べると、2か月の延長となり、審議の充実を期することができる。政府側の臨時法制調査会では4か月とする案が出ていたが、法規委員会で5か月が適当であるということになった。なお、常会の会期を定める必要があるかどうかという点については相当議論があったが、憲法の中に「会期中」という文字を使用してある点、並びに憲法で臨時会を認めた点等を考え合わせ、かつ議員の便宜という点からも会期を認める方が便宜ではないかとなり、この制度をとることとした。」

                    
     昭和21年12月19日 第91回帝国議会 衆議院国会法案委員会

帝国議会を開設するにあたっては、イギリスを始めとする諸外国の制度に倣い、会期制を導入しました。

その理由の中には、通年において国会(議会)が開いていると大臣等が常に国会に呼ばれ、行政効率が著しく悪くなるとの考え方もあったとされています。

実際、国会法を制定するにあたり、衆議院は常置委員会を設置して閉会中も議会における行政監視機能を維持したいとの考えがあったようですが、内閣側やGHQの反対により実現しませんでした。

また、新制度移行時は現在のような複雑多岐に渡る内閣提出法律案は想定していなかったと考えられ、会期制や会期日数についての捉え方も現在とは相違があると思われます。

当時の状況に鑑みると、5か月あれば相応の審議ができると考えられていたのではないでしょうか。

当時は年間でも現在ほど議会の活動日数は多くなかったようですし、書記官長の逐条説明もそのような趣旨を述べているためです。

現在は、会期制が日程闘争の原因と捉え、通年国会制の議論が取り上げられていますが、与野党双方から見て、メリットとデメリットが存在します。

(1)会期終了と同時に廃案にできることのメリット(野党側)
(2)通年制では常に国会で質疑が行われることのデメリット(政府・与党側)
(3)会期の概念があることで逆に法案を審議終了に持ち込める・採決できる

さらに継続審査(閉会中審査)もできることから、結局は現状を変えることができないし、しないのだと考えられます。

もっと言えば、憲法に「会期中」という用語が使用されていること、臨時会の規定があることから、憲法の議論も必要になります。

上記を勘案すれば、通年国会にすればすべて解決、という単純な議論にはならないのではないでしょうか。

包括委任規定と政省令委任事項-その2

2018-12-07 | 憲法
〇日本国憲法第73条第6号

内閣は、ほかの一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

法律を実施し又は施行するため必要な細目的事項を定める、いわゆる実施命令については、憲法第73条第6号、内閣府設置法第7条第2項、国家行政組織法第12条第1項に基づき、個別の法律による特別の委任がなくても制定することができるとされていますが、実際には多くの法律において実施命令の根拠規定が設けられています。

たとえば、

信託業法第89条「この法律に定めるもののほか、この法律の規定による書類の記載事項又は提出の手続その他この法律を実施するため必要な事項は、財務省令で定める。」

といったように、実施命令に委任する事項については、書類の記載事項とか提出の手続きとかを明示したうえで、〇〇省令に委ねるとするのが、行政府の矜持として、これまでは比較的保持されてきました。

しかしながら、近年は、「この法律に定めるもののほか、この法律を実施するために必要な事項は○○省令で定める」といったように、一体全体、何を政省令で定めるのか、まったく分からない「包括委任規定」が増えていました。

特に、今年の第196回国会では包括委任規定を含む内閣提出法律案が突出して多かったのです。

これは、政省令委任事項が多い、とかそういった次元の問題ではありません。

法律による行政の原理の意義を埋没させ、立法府をさらに形骸化しかねない重大な問題を包含しているからです。

前回、そして上記で引用した信託業法第89条のように政省令に委任する事項として、手続きとか、書類の記載事項と明示してあればまだしも、何も書いていないとなると、何を政省令に委任することになるか、国会で質す、もしくは政省令が出てくるまで何も分からないことになります。

次回、その辺の問題点については改めて紹介しますが、今回は、平成30年第196回国会で包括委任規定を含む内閣提出法律案について、下記にお示しします。

[第196回国会内閣提出法律案に包括委任規定が含まれていた件数/65件中7件]

〇統計法及び独立行政法人統計センター法改正後の統計法第56条の2
この法律に定めるもののほか、この法律の実施のために必要な事項は、命令で定める。

〇都市農地の貸借の円滑化に関する法律第16条
この法律に定めるもののほか、この法律の実施のために必要な事項は、農林水産省令で定める。

〇所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法第47条
この法律に定めるもののほか、この法律の実施のために必要な事項は、国土交通省令又は主務省令で定める。

〇船舶の再資源化解体の適正な実施に関する法律第42条
この法律に定めるもののほか、この法律の実施のために必要な事項は、国土交通省令又は主務省令で定める。

〇電気通信事業法及び国立研究開発法人情報通信研究機構法の一部を改正する法律による改正後の電気通信事業法第176条の2
この法律に定めるもののほか、この法律を実施するため必要な事項は、総務省令で定める。

〇海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律第27条
この法律に定めるもののほか、この法律の実施に関し必要な事項は、命令で定める。

〇働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働安全衛生法第115条の2
この法律に定めるもののほか、この法律の規定の実施に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

平成30年の第196回国会における内閣提出法律案は65件でした。うち、7件に包括委任規定が含まれていたことになります。

近年、包括委任規定を含む内閣提出法律案が増加傾向にあったとはいえ、ここまで一気に増えたことに関しては、立法府に身を置く議会人として大きな危惧を抱かずにはいられません。

特に、働き方改革関連法においては、既に本ブログで何度も取り上げている「束ね法案」でもあり、包括委任規定も含んでいたことになります。

次回は、包括委任規定の何が問題なのか、について具体的に紹介したいと思います。

(参考)
国会=唯一の立法機関」平成30年5月31日
包括委任規定と政省令委任事項-その1」平成30年11月29日
束ね法案と一括審議-その1」平成27年5月16日
束ね法案と一括審議-その2」平成27年5月17日
束ね法案と一括審議-その3」平成27年5月25日
束ね法案と一括審議-その4」平成27年7月17日
束ね法案と審議時間」平成27年7月18日
第190回国会における束ね法案-その1」平成28年2月7日
束ね法案と一括審議-番外編」平成30年1月19日