議会雑感

国会のルールや決まりごとなど、議会人が備忘録を兼ねて記します。

議決の態様

2017-01-30 | 国会ルール
「議決」という言葉は、一般的に国会、議院、委員会等が審査案件、調査案件又は手続案件について行う最終的な意思決定の意味で用いられます。

また、日本国憲法第2条「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」というように、案件を成立させる意思決定のことも、単に議決と呼ぶことがあります。

そこで、今回は本会議における議決について概観したいと思います。議院の会議(本会議)において、議案のうち、法律案、予算、決議案、規則案についての議決は、その可否を決することにより行います。

[本会議における議決]

可決 : 原案のとおり成立させる議決
修正議決 : 原案の一部に修正を加えた上で成立させる議決
否決 : 原案の全部について不承認とする議決


つまり、議案の審査を行う中で施行期日を変更するとか、見直し規定を入れたりとか議案の一部を修正した場合は、修正議決ということになります。

よって、可決と修正議決は、全くの別物です。

たとえば、衆議院(先議の院)では原案どおり可決した議案が、参議院(後議の院)で修正議決された場合、議決した議案が衆参で別の物になりますので、修正を加えた参議院(後議の院)から衆議院(先議の院)に議案を回付する必要が生じるのです。

そこで、前回更新のVODに目を転じてみます。平成28年11月29日、衆議院本会議では、「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律案」が議事日程のひとつとなりました。

衆議院厚生労働委員長が委員長報告を行い、討論を挟み採決となりました。映像を確認すると、以下のようになっています。

[平成28年11月29日 衆議院本会議]

○厚生労働委員長

(前略)次いで、原案及び修正案について討論採決を行った結果、修正案及び修正部分を除く原案はいずれも賛成多数をもって可決され、本案は修正議決すべきものと議決した次第であります。以上、ご報告申し上げます。
           
          平成28年11月29日衆議院本会議 衆議院インターネット審議中継よりキャプチャ
○衆議院議長

(前略)これにて討論は終局いたしました。採決いたします。本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。
           
          平成28年11月29日衆議院本会議 衆議院インターネット審議中継よりキャプチャ

しっかりと映像と音が残っているのですが、発行された会議録の該当部分は以下のとおり、正しい表現に置き換えられています。

○衆議院議長

(前略)これにて討論は終局いたしました。(退場する者あり)採決いたします。本案の委員長の報告は修正であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。[賛成者起立]起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり修正議決いたしました。


本件に関しては、当日からずっと気になっていて、ここに書くべきかどうかも2か月ほど悩んだのですが、立法府の矜持としてどうなのか、という思いが消えず自戒の念を込めて書くことにしました。

よって、他意はありません。委員長報告を眼前で聞いているわけですから、原案どおり可決なのか、修正議決なのかについては、自身の責任でもあると思うのです。

ちなみに、先議の院において議案が修正議決された場合、後議の院においては先議の院から修正送付された議案が原案となります。今回の場合、衆議院から参議院に修正送付された議案が原案として審議され、原案どおり可決しました。

衆参のちょっとした違い(VODの公開期間)

2017-01-26 | 国会雑学
久々に「衆参のちょっとした違い」シリーズです。

衆参ともにインターネット審議中継を導入していますが、今回は、これに伴うVODの公開期間の違いについて紹介したいと思います。

VOD=ビデオ・オン・デマンド (Video On Demand)とは、視聴者が見たい時に映像を視聴することができるサービスのことを指し、こと衆参のインターネット審議中継においては、オンタイムのみならず、後で本会議や委員会等をいつでも見ることができるようになっています。

本会議や委員会等を後でいつでも見ることができる期間、つまりVODの公開期間に衆参で大きな違いがあるのです。

衆議院(平成23年1月) : VODシステムにおいては、国会審議映像をデータベースに保存し、継続して公開する。本方針は、第174回国会(平成22年1月18日)の審議映像から適用する。

参議院(平成21年7月) : 公開期間を「直近1国会」から1国会と1年間(審議日単位ではなく会期単位で公開することとし、衆議院と同様、会期の終了日から1年を経過する前まで公開する)

衆議院は運用方針を見直して現行の運用としたのが平成23年1月、参議院は平成21年7月となっていることから、「衆議院と同様~」のくだりが合わなくなっているものと考えられます。

というわけで、衆議院は平成22年1月18日以降の本会議、委員会等はいつでも見ることができるのです。例えば、以下の写真は平成22年5月28日、衆議院総務委員会で衆議院Webページからのものですが、今でも普通に視聴することができます。
           
           平成22年5月28日衆議院総務委員会(衆議院インターネット審議中継よりキャプチャ)

他方、参議院では平成28年1月4日以降の本会議、委員会等の映像しか見ることはできません(平成29年1月26日現在)。よって、下記の映像も参議院Webページ上から既に削除されています。

    

[衆参のちょっとした違いシリーズ]

衆参のちょっとした違い(本会議場の議席数とその配置)」 平成27年4月4日
衆参のちょっとした違い(本会議の出欠)」 平成27年4月5日
衆参のちょっとした違い(記名投票とは-その2)」 平成27年4月15日
衆参のちょっとした違い(総理入り委員会質疑の風景)」 平成27年6月17日
衆参のちょっとした違い(本会議-その1)」 平成27年8月16日
衆参のちょっとした違い(本会議-その2)」 平成27年8月17日
衆参のちょっとした違い(本会議-その3)」 平成27年8月18日
衆参のちょっとした違い(先例冊子等の呼称)」 平成28年2月28日
衆参のちょっとした違い(常任委員会の名称)」 平成28年3月14日
衆参のちょっとした違い(常任委員会の所管)」 平成28年3月16日
衆参のちょっとした違い(議院運営委員会-その1)」 平成28年4月10日
衆参のちょっとした違い(議院運営委員会-その2)」 平成28年4月11日
衆参のちょっとした違い(傍聴規則-その1)」 平成28年4月28日
衆参のちょっとした違い(傍聴規則-その2)」 平成28年4月30日
衆参のちょっとした違い-国会事務局の定員」 平成28年6月24日
衆参のちょっとした違い(閉会中審査・継続審査-その1)」 平成28年6月26日
衆参のちょっとした違い(閉会中審査・継続審査-その2)」 平成28年6月28日

記名投票と記名要求

2017-01-25 | 国会ルール
○衆議院規則第152条

議長が必要と認めたとき、又は出席議員の5分の1以上の要求があつたときは、記名投票で表決を採る。

○参議院規則第138条

議長は、必要と認めたときは、記名投票によつて、表決を採ることができる。出席議員の5分の1以上の要求があるときは、議長は、記名投票により、表決を採らなければならない。

本会議での表決の方法は、起立によって行うのを原則としていますが、参議院は押しボタン式投票方法が導入されており、これを通常の表決方法としています。        
            
ただ、より厳格な表決方法として、記名投票があります。

これは、議長が必要と認めたとき、又は出席議員の5分の1以上の要求があったときに行われます。

記名投票の場合は、議員の氏名を記した白色及び青色の木札を用い、議員は国会職員の氏名点呼「例:国会太郎君~」に応じて、賛成議員は白色票を、反対議員は青色票を持参して登壇し、別の国会職員に木札(投票)を渡します。
            白票(複製)
            青票(複製)

なお、記名投票が行われている間は、表決に参加している現在議員を確定するため、議長は議場を閉鎖します。投票が終わったときは、議長は投票を国会職員に計算させる旨を宣告した後、議場の開鎖を命じます。

参議院の場合は、一般的に押しボタン式投票であり、各議員の表決結果は参議院Webページからご覧いただけますが、衆議院の場合は、起立採決がほとんどであり、各議員の表決結果を明確に知ることは困難です。

記名投票の場合、各議員が木札を握りしめて登壇し、登壇の上、白色票か青色票を差し出して投票するため、賛否が明確になることから、国の総予算採決時や与野党対決の注目法案採決時には用いられることが多くなっています。

で、ここから頂いたご質問と回答です。

[質問]

→本会議で記名投票を要求する際には5分の1以上の議員の要求が必要で、特に最近度々目にしますが、あの要求は、本会議中に5分の1以上の議員が所属している会派の議運理事が壇上に上がって要求すれば、その場ですぐ認められるものなのでしょうか。それとも議運理事会の場で事前に通告してあるのでしょうか。

[回答]

→衆規152条、参規138条により、5分の1以上の要求があれば、記名投票にしなければなりません。したがって、議運理事会などで事前に言及がなくても、要求があれば、必ず記名投票になります。ただし、実際には、議運理事会で事前に言及されることがほとんどです。

国会の議席(第193回国会)

2017-01-24 | 国会雑学
○衆議院規則第14条、参議院規則第14条

議員の議席は、毎会期の始めに議長がこれを定める。但し、必要があるときは、これを変更することができる。
議席には、号数及び氏名標を附する。


第193回国会は、平成29年1月20日に召集され、最初の議事は、衆参ともに「議席の指定」でした。

議席については、衆議院では議席、参議院では議席と呼んでいるだけでなく、議席数と議席配置ルールも衆参で異なっていますので、改めて下記に紹介したいと思います。

[議席数]

衆議院 : 480の議席(座席)があり、そのすべてに議席番号が付されていますが、そのうち5については議員に割り当てられていません。
参議院 : 460の議席(座席)がありますが、うち議席番号を付したもの、242となっています。

[会派別の議席配置]

衆議院 : 議長席に向かって左側から大会派順
参議院 : 最大会派が議席の中央部分に位置し、次に大きい会派が順次その左右を占める


これら議席表(議席図)は、一般的に公開されていませんが、隠し立てするような類のものではありません。

個人的には公開すべきだと思いますし、2年近く続けているこのブログで、恒常的にアクセス数が多いのは、議席をアップしたエントリーなのです。どの議員がどの辺りに座っているのか、という情報が多くの方に求められている証左ではないかと思うのです。

よって、第193回国会召集日の議席指定にあわせて、最新の衆参の議席表(議席図)を掲載します。衆参の議席配置とそのルールの違い、さらには最大会派の議席の多さがご覧いただけると思います。
                      
                  衆議院議員議席表(平成29年1月20日現在)

                      
                  参議院議員議席図(平成29年1月20日現在)

余談ですが、議席表(議席図)について、衆議院ではイントラネットの「本会議情報」に、参議院ではイントラネットの「電子掲示板」に掲載されていますが、衆議院は議席番号を選ばないと議員名が表示されないため、ちょっと見辛いかもしれません。

(参考)
衆参のちょっとした違い(本会議場の議席数とその配置)」 平成27年4月4日
議席の指定と議席図」 平成28年1月4日
国会の議席(第195回特別会)」 平成29年11月3日

第193回国会開会

2017-01-23 | ひとこと
平成29年1月20日、第193回国会は召集されました。150日間の常会のスタートです。

私はといえば、ここのところ調子が全く上がらず、ブログの更新も滞りがちでしたが、そろそろ気合いを入れて頑張らねば、という気持ちになってきました。

昨年末に開放したコメント欄に頂いたご質問にお答えするためにも、更新の頻度を少しずつ上げていきたいと思います。

ちなみに、このgooブログは2~3ヶ月に一度ぐらいの割合で「アクセス解析お試しサービス」が数日間できるようになっていますが、その時に分かるのは、どんな用語で検索されたとか、どの時間帯にアクセスが多かったとか、そういうことが分かるようになっています。
      
            

残念なのは、どこからのアクセスが多いのか、ということは全く分からないということです。

で、ここ数日のアクセスが最も多いのが、議席図(議席表)の解説をしたページなのです。
これは、先日頂いたご質問への回答にもなりますので、改めてエントリーを起こして、再掲になる部分も含めてアップしたいと思います。

臨時会の延長-番外編

2017-01-18 | 国会雑学
○国会法第12条

国会の会期は、両議院一致の議決で、これを延長することができる。会期の延長は、常会にあつては1回、特別会及び臨時会にあつては2回を超えてはならない。

平成29年1月20日に召集されるのは、通常国会(常会)ですが、昨年9月26日から12月17日まで開会されていたのは、臨時国会(臨時会)でした。

その臨時会は、国会法第12条の規定により、2回まで会期の延長ができることとなっており、先般の臨時会では、延長+再延長という形で2回の延長を行いました。

そこで、これまでの臨時会で2回延長した例について、常会が始まる前に振り返っておきたいと思います。

[臨時会で2回会期を延長した例]

昭和37年:第42臨時会
昭和50年:第76臨時会
昭和63年:第113臨時会
平成19年:第168臨時会


というわけで、臨時会で2回会期を延長した例は過去4例しかなく、平成に入ってからは平成19年の1例のみでした。

平成19年といえば、参議院の与野党逆転や総理の突如の辞任・交代など、多くの出来事があった年でした。

(参考)「臨時会の延長-その2」 会期延長の手続き

[追記]
嬉しいことがありました。前々回の更新で、コメントをいただいた方にぜひお声かけください、と書いていましたところ、ありがたいことに、お声かけいただきました!色んな意味で、嬉しかったです。また、ちゃんとお話をうかがいたいです。

常会の召集と年単位の開会日数

2017-01-16 | 国会ルール
○国会法第2条

常会は、毎年1月中に召集するのを常例とする。


平成29年1月20日、第193回国会が召集されます。

平成3年9月11日に国会法が改正され、平成4年の常会から1月召集となっていますが、1月召集になって以降、最も早い召集は、平成28年1月4日の召集だったことは言うまでもありません。

なお、常会の召集を1月中としたことに、参議院改革の側面があったことを付しておきたいと思います。参考までに、当時の会議録を抜粋します。

[平成3年9月11日 参議院本会議]

○参議院議院運営委員長

「常会の1月召集は、かねてより、参議院改革における懸案の一つとして、参議院における審議期間を十分に確保し、審議の充実を図るとの観点からその検討が重ねられてまいったもので、今般、衆議院の協力が得られ、その実現の運びとなったものであります。」


今回は、年単位で国会の開会日数が多かった年を紹介したいと思います。

[平成4年以降、年単位で開会日数が多かった年]

第1位:平成23年(289日間)
第2位:平成19年(279日間)
第3位:平成5年(278日間)


ちなみに、開会日数が最も少なかったのは、平成8年の180日間です。昨年、平成28年は、というと、臨時会で延長がなければ219日間でしたが、延長(14日)再延長(3日)で結果として236日間でした。

「議会雑感」開設700日

2017-01-11 | ひとこと
新しい年を迎えて、早くも10日が経過しました。
この間、「議会雑感」開設700日を迎えました。本年もどうぞ宜しくお願い致します。

                  平成29年1月11日現在、ブログ開設から703日

また、昨年末、約7か月ぶりに開放したコメント欄に、激励や質問のコメントを頂戴しました。誠にありがとうございます。

それぞれ貴重なご意見やご質問であり、私自身、気付きになったり、改めて勉強したり、ということが多くありました。

さらに、私が予想もしない場面で、このブログの内容を活用していただいたことも分かり、望外の喜びとするところです。鹿児島からお便りを頂戴した○○様、本当にありがとうございます。

ご質問については、このブログを通じて回答していきたいと思いますので、しばらく時間がかかるかもしれませんが、気長にお付き合いいただけると嬉しいです。
                   
最後に、昨日の午前中にコメントをいただいた「○会中堅○○」さんには、筆者の見当がついているのだと思います。

国会で私を見かけましたら、ぜひお声かけ下さい。私も存じ上げている方で、お世話になっている方なのではないかと勝手に推測している次第です。目から鱗が落ちる思いでした。お話をうかがってみたいのです。