議会雑感

国会のルールや決まりごとなど、議会人が備忘録を兼ねて記します。

及び法案と法律表記順

2023-06-12 | 国会雑学
改めて「束ね法案」シリーズを書く前に、「及び法案」についてちょっとした雑学を紹介したいと思います。

筆者が「束ね法案」と定義しているのは、本則において三以上の法律を改正等しようとする法律案のことであって、ハネ改正等は含みません。

では、二の法律を改正等しようとする場合はどうでしょうか。二の法律を改正等しようとする法律案は、それぞれの法律名が明示されていますので、形式上は束ねであっても筆者は「束ね法案」に分類していません。

なお、税法等において、束ねざるを得ない法律案が存在するため、筆者は「束ね法案」のすべてを否定しているわけではありません。

安易な束ね法案を筆者が問題視するのは、主に以下の理由からです。

〇国会審議の形骸化を招来すること
〇国会議員の表決権を侵害すること
〇どの法律がどのように改正されるか等が国民に分かりづらくなること
〇適切な情報公開とならないこと


さらには、昭和38年の閣議決定「内閣提出法律案の整理について」において法律案を束ねて国会に提出する場合の唯一の例示が「付託される常任委員会が同一であること」とされながら、ごく最近成立した法律の中に、3府省(3常任委員会)にまたがる閣法が存在したために、連合審査会を複数回開会することによって、所管大臣にようやく質疑ができたという事象が発生してしまいました。

そこで、筆者がいう「及び法案」とは何かということですが、二の法律改正のことで、「〇〇法及び△△法の一部を改正する法律案」のような形態の法律案を指します。

ここで、二の法律における「〇〇法及び△△法」の順番は、どちらが先でどちらが後になるという点について考えたいと思います。

改正のタイミングにおいて、「〇〇法及び△△法の一部改正案」であることもあれば、「△△法及び〇〇法の一部改正案」であることがあります。

現在開会している第211回国会(常会)において、ちょうどその例がありますので、具体的にお示ししたいと思います。

「中小企業信用保険法及び株式会社商工組合中央金庫法の一部を改正する法律案」(閣法番号第55号)ですが、前回改正は、平成27年(2015)年の第189回国会(常会)です。

その際は、「株式会社商工組合中央金庫法及び中小企業信用保険法の一部を改正する法律案」でした。

前回改正時と今回、同じ法律の改正案でありながら、法律の順序が逆転しています。ほかに、この順番がときどき逆転する閣法の例として、「電波法及び放送法の一部を改正する法律案」、「放送法及び電波法の一部を改正する法律案」などがあります。

では、なぜ平成27(2015)年改正と令和5(2023)年改正で法律の順序が逆なのでしょうか。

二の法律を改正する場合、法律番号順にするのが一般的ですが、中心的な改正内容がある場合には、その法律を先にするとされているからです。

今次常会(第211回国会)に提出されている「中小企業信用保険法及び株式会社商工組合中央金庫法の一部を改正する法律案」のそれぞれの法律番号は、以下のとおりです。

〇中小企業信用保険法(昭和25年法律第264号)
〇株式会社商工組合中央金庫法(平成19年法律第74号)


前者の法律番号が古いということになりますが、前回は商工中金法の法律名が先でしたので、メインの改正内容が商工中金法にあったことになります。

具体的には、それまで商工中金は完全民営化される方針でしたが、リーマン・ショックや東日本大震災等により、期限を定めずに完全民営化を先送りするなどの大きな方針転換を含む法改正を含んでいました。

よって、前回改正時は商工中金法が先でしたが、今次改正は同程度の改正内容と判断されたため、その場合は法律番号順とする慣習に従ったものです。

ただし、明記されたルールとして存在しているわけではなさそうです。慣習法としてやっていると考えられますが、条例の場合は下記のようなこととされていますので、法律もそうなんでしょうね、ということぐらいです(この点は後で付記するかもしれません)。

「二つ以上の条例を改正する場合の改正対象条例の配置は、公布(条例番号)の順に(公布の時期が早いものから第1条に)するのが一般であるが、中心的な改正対象条例がある場合には、その条例を第1条とすることが多い。」
石毛正純『法制執務詳解新版Ⅲ』(ぎょうせい、令和2年)4頁。


(参考)
束ね法案と一括審議-その1」平成27年5月16日
束ね法案と一括審議-その2」平成27年5月17日
束ね法案と一括審議-その3」平成27年5月25日
束ね法案と一括審議-その4」平成27年7月17日
束ね法案と審議時間」平成27年7月18日
第190回国会における束ね法案-その1」平成28年2月7日
束ね法案と一括審議-番外編」平成30年1月19日