議会雑感

国会のルールや決まりごとなど、議会人が備忘録を兼ねて記します。

平成29年度総予算審査実績(衆議院予算委)

2017-02-28 | 雑感
平成29年度総予算は、平成29年2月27日の衆議院本会議で採決・可決され、参議院に送付されました。

今回は、衆議院予算委員会における平成29年度総予算の審査実績を確認しておきたいと思います。

ちなみに、総予算審査の流れに関しては、「予算委員会における総予算審査の流れ」のエントリーをご覧いただけると幸いです。

『衆議院予算委員会 平成29年度総予算審査実績』

1月25日(水) 趣旨説明(平成28年度第3次補正予算と同時)

2月1日(水) 基本的質疑1(1巡目 全大臣、TV) 7時間
2月2日(木) 基本的質疑2(1巡目 全大臣、TV) 7時間
2月3日(金) 基本的質疑3(2巡目 全大臣)    7時間

2月6日(月) 一般的質疑1             7時間
2月7日(火) 集中審議1「公務員の再就職のあり方と行革等」(総理、TV) 7時間
2月8日(水) 派遣議決(地方公聴会)
          一般的質疑2             7時間
2月9日(木) 一般的質疑3             3時間

2月14日(火) 集中審議2「外交・通商政策等」(総理、TV) 7時間
          公聴会議決
2月15日(水) 地方公聴会(沖縄、愛知)
2月17日(金) 集中審議3「安倍内閣の基本姿勢・社会保障等」(総理、TV) 7時間

2月20日(月) 分科会議決
          一般的質疑4             7時間
2月21日(火) 公聴会
2月22日(水) 分科会
2月23日(木) 分科会
          一般的質疑5             4時間
2月24日(金) 集中審議4「安倍内閣の基本姿勢」(総理、TV) 3時間

2月27日(月) 締めくくり質疑(全大臣)       3時間30分
          討論、採決

衆議院予算委員会における平成29年度総予算の審査時間は、76時間30分でした。これから審査が始まる参議院での審査時間はどれくらいになるのでしょうか。

総予算成立のタイミング

2017-02-26 | 国会雑学
平成29年2月27日、16時からの衆議院本会議で平成29年度総予算は採決・可決され、参議院に送付される見込みです。

2月中に参議院で総予算の実質的な審査に入るのは、平成11年2月以来のことです。

自然成立の宿命を持つ参議院の審議に2月中に入ることは、3月中の総予算成立の確定を意味します。

というわけで、今回は総予算の成立が早かった例と遅かった例を紹介したいと思います。

過去、総予算の成立が早かったのは、平成11年度と平成12年度の3月17日です。

平成11年度は、衆議院の採決が2月19日で、自然成立期限が3月21日。
参議院での審議期間は24日間でした。

平成12年度は、衆議院の採決が2月29日で、自然成立期限が3月30日。
参議院での審議期間は17日間でした。

他方、総予算の成立が遅かったのは、昭和28年度で7月31日です。

このときは、第15回特別会に総予算が提出されていますが、衆議院の議決後に衆議院解散で不成立となったため、第16回特別会に改めて提出されました。

その後、衆議院での修正を経て、7月17日に参議院に送付され、7月31日に成立したのです。

これまでに総予算の7月成立は3回あり、上記の昭和28年度の他に、昭和23年度と昭和30年度の例があります。

それにしても、総予算が2月中に参議院に送付されるということは、それだけ与党の力が強い、逆に言えば野党の力が弱い、ということではないでしょうか。

参議院先議法案とは

2017-02-22 | 国会ルール
現在開会中の第193回国会の内閣提出(予定)法案は64件です。
うち参議院先議法案は5法案になるということが、先日、与野党間で合意しました。

参議院先議法案とは何か、またこれまでどの程度の割合で参議院先議となっているのかについて、改めて紹介したいと思います。

現在、衆議院で審議中の予算案は、憲法第60条の規定により衆議院から先に審議しなければなりませんが、法律案に関しては、衆議院から先に審議して参議院に送付しても、参議院から先に審議して衆議院に送付しても良いことになっています。

よって、参議院で先に審議する法案のことを、「参議院先議法案」と呼んでいます。

ただ、やはり衆議院から先に審議して参議院に送付される法案が圧倒的に多く、参議院先議法案は割合としてごく一部に留まっています。

なぜ、参議院先議法案があるのでしょうか。

それは、国会の会期末になると衆議院から参議院に送付される法律案が次々と出てくるのですが、常任委員会の定例日は決まっており、会期末が近付けば近付くほど、どうしても審議日程は窮屈になってきます。

よって、予算案審議が終わった後、参議院の委員会日程に比較的余裕がある4~5月頃に衆議院と日程をすみ分けながら参議院先議法案の審議を行っているのです。

第193回国会では、内閣提出(予定)64法案のうち、先議は5法案であり、先議率は7.8%です。

では、これまでの国会ではどうだったのか、について見てみます。
以前、平成以降で先議率が高かった常会を概観したことがありますが、今回は昭和を含めてみたいと思います。

[参議院先議率が高かった常会]
第10回国会(昭和25年) 27.6%
第7回国会(昭和24年) 24.5%
第136回国会(平成8年)23.2%
第46回国会(昭和38年) 21.8%


ちなみに、平成以降で参議院先議率が20%を超えた常会は、7国会あり、直近の例は平成16年の20.5%でした。

[第193回国会における参議院先議法案]
○総務委員会
地方公務員法及び地方自治法の一部を改正する法律案
〇厚生労働委員会
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案
○農林水産委員会
農林物資の規格化等に関する法律及び独立行政法人農林水産消費安全技術センター法の一部を改正する法律案
○経済産業委員会
化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の一部を改正する法律案
○国土交通委員会
不動産特定共同事業法の一部を改正する法律案

分科会とは

2017-02-21 | 国会ルール
○衆議院規則第97条

予算委員会及び決算行政監視委員会は、その審査の必要によりこれを数箇の分科会に分かつことができる。各分科会には主査を置き、その分科員がこれを互選する。

○参議院規則第75条

予算委員会及び決算委員会は、審査の便宜のため、これを数箇の分科会に分けることができる。(以下略)


平成29年度総予算審査において、衆議院予算委員会の分科会は、平成29年2月22日終日と23日午前に開会されます。

分科会は、予算及び決算の審査だけに認められる制度ですが、決算審査のための分科会は、衆議院では第129回国会まで設けられたことがなく、参議院では第7回国会を最後に設けられたことがありません。

予算委員会において分科会に分けて審査をするのは総予算についてであり、補正予算や暫定予算は分科会に分けないことを例としています。

ちなみに、参議院においては、総予算について委嘱審査制度が導入されてから、日程上の関係もあり、分科会は開かれていません。

衆議院予算委員会では8つの分科会に分けて審査がなされるのですが、昨年は1日の日程で終えましたので、朝8時に開会し、11時間から12時間コースで質疑が行われました。

衆議院の分科会は、普段、質疑に立つ機会の少ない与党若手議員の顔見世興行的な意味合いと、地元陳情の側面があるような気がしてなりません。

追記:案の定、プレミアムフライデー初日ということで、2月24日(金)の総予算採決は見送られました。ただ、27日(月)に締めくくり質疑を入れるとなると、結局、24日(金)に質問取りと答弁作成が入ることになりますので、国会職員と省庁職員にとって、プレミアムなフライデーにはならない、ということになります。。

中央公聴会とは

2017-02-20 | 国会ルール
○国会法第51条

委員会は、一般的関心及び目的を有する重要な案件について、公聴会を開き、真に利害関係を有する者又は学識経験者等から意見を聴くことができる。

総予算及び重要な歳入法案については、前項の公聴会を開かなければならない。但し、すでに公聴会を開いた案件と同一の内容のものについては、この限りではない。


現在、衆議院では平成29年度総予算案を審査中ですが、2月21日には中央公聴会が開かれます。

国会法は、予算案(総予算)について公聴会を開かなければならないと定めており、逆に言えば、審議日数に期限のない衆議院の場合、公聴会を開くことが出来れば、採決に向けた条件が整備されたとみなすことができます。

そこで、中央公聴会以降、採決までの審査日数の最近の傾向を見てみたいと思います。

○中央公聴会から採決までの審査日数

平成28年度総予算:3日間(分科会、集中、集中的締めくくり質疑)
平成27年度総予算:3日間(分科会、一般+集中、締めくくり質疑)
平成26年度総予算:3日間(分科会、集中、締めくくり質疑)
平成25年度総予算:3日間(分科会2日、集中+締めくくり質疑)

ここ数年は、上記の傾向ですが、せっかくの機会ですので日付入りで下記にお示しいたします。

・平成28年2月24日 公聴会
(1)25日分科会、(2)29日集中審議、(3)3月1日集中的締めくくり質疑

・平成27年3月9日 公聴会
(1)10日分科会、(2)12日一般+集中、(3)13日締めくくり質疑

・平成26年2月25日 公聴会
(1)26日分科会、(2)27日集中審議、(3)28日締めくくり質疑

・平成25年4月11日 公聴会
(1)12日分科会、(2)15日分科会、(3)16日集中+締めくくり質疑

ここ数年、中央公聴会から採決までの審査日数は3日ですし、平成29年度総予算の分科会は、2月22日終日と23日午前までの日程で既に議決されており、23日午後に集中審議でも入ってくると、24日採決の可能性も排除できないことになります。

その場合、野党側は充実審議を求める術を持っているのか、という観点に立つと、採決前の条件は外形的には揃っていますので、なかなか難しいかもしれません。

ただ、2月24日(金)は「プレミアムフライデー」とやらが開始の日です。そんな日に、夜まで本会議あるんでしょうか、それともないんでしょうか。。

議会雑感3年目に

2017-02-19 | ひとこと
議会雑感ブログは、気付けば3年目に入っていました。

ふとした思いつきで始めたブログですが、ご覧いただいている皆さまのおかげで、2年続けることができました。

本当にありがとうございます。

これまでの2年間は以下の2点を大事にしつつ、このブログを通じて、政治に関心を持っていただける方が1人でもいらっしゃれば、との思いで続けてきました。

○国会法等を引用しつつ、時々の話題を交えながら国会のルールを紹介すること
○匿名で政策の是非には触れない範囲にとどめること(現在、今後について検討中)

個別政策に関する記事は、検索すればすぐにたどり着けますが、国会にまつわるルール等については一般的でないため、なかなかまとめて目にすることができません。

よって、私自身の備忘録を兼ねて、思いつきで始めたのがこのブログでした。

本来であれば、国会法や議院規則を体系的に紹介するのが筋だとは思いますが、その時々の話題を交えたり、ちょっと気になることを絡めたりして、話題を提供する方がご覧いただきやすいのではないか、との思いで今の形になっています。

そんな中、時々開放するコメント欄に頂戴する多くの激励や質問が、私の励みになっていますし、気づきにもなっています。

議会雑感4年目を迎えられるかどうか、なかなか自信はありませんが、細々とでも続けていけるよう頑張ります。

また、立法府たる国会が、その権能と機能を如何なく発揮できるよう、微力ながら議会人のひとりとして矜持を持ち、これからも精一杯努力を続けていきたいと思います。
              
           

国会の怪時計-その5

2017-02-17 | 国会雑学
国会内の時計は、衆参両院に1台ずつある親時計が30秒ごとに送る信号に従って、子時計が時を刻んでいました。

親時計は国会議事堂が完成した昭和11年以来、分銅を動力源にした国産の振り子時計が使われてきましたが、時を経て今は変わっています。

ちなみに、振り子時計は地震等で止まる恐れもあり、昔は職員が配置され、地震等に備え、本館の振り子は南北に、別館にもあった振り子は東西に、揺れる方向を変えて危機管理していました。

今は親時計が定期的に正しい時刻を受信し、院内すべての時計の日時を微調整しており、人手で時計の針を戻したり、止めたりすることは不可能に近い状態です。

法案議了が時間切れにならないために、議場の時計を止めるなら、振り子の針を戻したり、止めたりするのではなく、今は完全に電源を切るしか方法はありません。

ちなみに、「国会の怪時計-その3」「国会の怪時計-その4」では、日銀の閉店時間とのせめぎ合いで国会の「時計が止まった」と思われる事例を紹介しましたが、この場合の問題点は、12月27日の日銀の営業時間の終わりである午後3時までに補正予算が成立して大蔵証券が発行され、国庫金の操作を行うことにあったはずです。

したがって、いくら参議院の時計を止めて補正予算が午後3時までに成立したことにしても、日銀の時計が止まっていなければ意味がないことになります。

もちろん、日銀の時計も止めていたものと思われますが、この場合、参議院の時計を止めることと、日銀の時計を止めることを比べた場合、「先決問題」は後者になり、日銀の時計さえ止まっていれば、参議院の時計まで止める必要がなかったといえるのではないでしょうか。

というわけで、そのうち「先決問題」について紹介したいと思います。

○国会の怪時計(その1~その5)


国会の怪時計-その1
国会の怪時計-その2
国会の怪時計-その3
国会の怪時計-その4

国会の怪時計-その4

2017-02-15 | 国会雑学
昭和40年12月28日 朝日新聞朝刊

「参院の怪時計」
針が牛歩・ストップ 補正予算の成立に協力


27日、今年度の第3次補正予算案を審議した参院本会議場の大時計が午後3時少し前に突然、狂い出して時の刻み方が遅くなった。そして同予算案は、「参院時間」の午後2時58分に可決―。とみるまに大時計の分針はぐんぐん歩みを速めて、間もなく「標準時間」に追いついた。

この日午後3時までに予算案が成立しないと、同日中の大蔵省証券の増額は見送られ、日銀にある政府の「預金通帳」は赤字になる心配があるし、国家公務員のベースアップやボーナスの追加分の28日支給もあぶないとあっての苦肉の策。

「時計が遅くなったり早くなったり。こんな便宜主義がまかり通るようでは・・・」という声も上がっている。
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この日正午すぎ、参議院議長は各党代表に、午後3時までに予算案を成立させないと、日銀が国庫支出金をこの日中に払出せないので、協力して欲しい、と要請、各党もこれを了承した。だが、予算委の審議が長引いたため、午後1時すぎには、廊下を行き来する公務員たちの間で3時に間に合うかどうか不安がる声も出始めた。

そんな空気の中で午後2時24分、本会議が開会した。委員長報告が10分、野党の反対討論が合計30分予定されている。3時には、とても間に合いそうにないがいったい、どうなるんだろう―。

予算委員長の報告が同35分に終わる。社会党議員が20分の予定の反対討論をはじめる。ところが、どうもおかしい。議場正面大時計の針がストップしているような感じなのだ。

議場の時計が2時47分をさしている時、記者たちが腕時計を見せ合って確かめた「標準時間」は2時51分だった。

社会党席がザワザワしはじめる。大矢正、柳岡秋夫両氏が腕時計を見てなにやらいっている。自民党席はニヤニヤ。公明党席では小平芳平氏が腕時計と「参院時間」を見比べている。

雛壇後部の参事席から管理部長がアタフタと議場外へ消えた。「国民不在の予算案に強く反対する」と結んで社会党議員が降壇したのが「参院時間」同52分。「標準時間」は57分。5分差だ。

こんどは公明党議員が反対討論に演壇にあがったが、マイクの前には立たず腕時計を見ながら事務総長となにかヒソヒソ。(事務総長からあとで聞いたところ「どの時計でやるのか」と聞いたので「議長のところの時計でやる」という会話をしたという)。

討論がはじまる。「標準時」3時ちょうど。参院時は2時53分。7分違う。

大時計の分針が1分進むのに何秒かかるかはかってみると120秒であった。討論は続く。56分のところで、しばらく針がストップした。

議場は野次ひとつ飛ばず、ニヤニヤ、ヒソヒソ。気味の悪い56分の長さ。やっと針が動いた。「参院時間」57分、公明党議員が降壇。いよいよ採決。起立、過半数で可決。

「参院時間」2時58分。「標準時間」3時6分40秒ぐらい。

予算が成立すると、首相ら雛壇の閣僚の多くは場外へ。議場の空気がぐっとゆるんだ。

商工委員長が登壇、委員会報告を始める。急に時計の針のテンポが変わった。1分が15秒ぐらいで動いている。3時1分~2分まではたった6秒。分針が3時9分をさした時の標準時間は13分で4分差。追いつけ、追いつけ、か。

法務委員長が報告に登壇したのは「参院時間」の3時12分、「標準時間」は3時14分と2分差に迫った。散会は「参院時間」3時16分。標準時間より1分しか遅れていなかった。

散会後、まず管理部長に会う。「ぼくは知らない。時計が止まったって、そんなことにはなってない。・・・でも、ほめられた話じゃないな」と、とぎれ、とぎれの話。

事務総長―「時計は止まりません。議運委の委員長に聞いてくれないかなあ」と困った顔。

議運委員長は全くの知らん顔。「時計が早くなったり、遅くなったりしたって―。わしはそんなことないと思っとる。とにかく予算は3時前にちゃんとあがったよ。社会、公明両党が反対討論の時間を短くしてくれたんで。間に合ったよ」。

国会とは、なんでもできるところなんだ―背すじの寒くなるような半時間だった。

国会の怪時計-その3

2017-02-14 | 国会雑学
国会の怪時計-その1」「国会の怪時計-その2」では、昭和22年12月9日の第1回国会会期末に国会の「時計が止まった」と思われる例について紹介しました。

その後、もう一度だけ国会で「時計が止まった」と思われる例がありますので紹介したいと思います。

時は、昭和40年12月27日。

補正予算案の審議が佳境を迎えていましたが、同日15時までに成立させなければならない状況でした。

約651億円にのぼる補正予算のうち、国家公務員給与のベースアップ分が約353億円。同日15時までに補正予算が成立しないと日銀からお金を出せなくなり、御用納めである12月28日支給も危なくなる、という理由です。

しかしながら、参議院予算委員会での審議に予想以上の時間を要したため、参議院本会議が開会したのは、14時23分。

予算委員長による委員長報告は所要10分、その後の反対討論には2名が立ち、うち1人は20分を要しましたから、それだけで既に15時直前。2人目が討論に入ったところで15時になるのは誰の目にも明らかでした。

そこで苦肉の策が登場したのです。

15時前から議場内の時計の針が動きをほぼ止め、牛歩を始めたのです。1分に120秒程度を使い、議場の時計では15時前に補正予算が成立したように仕立てたのです。

さらには、その後の議事に入ったと同時に、議場の時計は15秒で1分進むハイペースになり、それまでの遅れを一気に取り戻し、散会時刻とされる15時16分には1分差まで戻しました。

ただ、会議録には、開会時刻と散会時刻しか記録が残っておらず、予算案は当日最初の議事であったため、何時に成立したかは会議録上不明です。

補正予算成立直後から辻褄合わせのごとく、時計を早めたため、全体としては整合性が取れているように見えなくはないのですが、当日の議事からすると、予算委員長による委員長報告→反対討論2名→採決でしたから、補正予算成立は15時を過ぎていたことに相違ないはずです。

もっといえば、補正予算後の議事を見てみると、委員長報告3件で直ちに採決していますので、所要時間は10分強です。

となると、当日の会議録の散会時刻が15時16分であることから、逆算すると補正予算の成立は、15時6分~7分頃だったのではないでしょうか。

これを裏付けるように、昭和40年12月27日の翌日である昭和40年12月28日の新聞各紙には、下記の見出しが踊っています。

毎日新聞
「3時前に成立した補正予算 苦肉の策?時計が牛歩 公務員給与あやうくセーフ」

朝日新聞
「参院の怪時計 針が牛歩・ストップ 補正予算の成立に協力」

読売新聞
「火の車政府 大時計遅らせる 8分間ごまかした補正予算成立 日銀閉店へ苦肉の策 やっと公務員へ給料 関係者「知らぬ存ぜぬ」」

上記のうち、次回は朝日新聞の記事を紹介したいと思います。

国会の怪時計-その2

2017-02-11 | 国会雑学
国会の怪時計-その1」では、国会で「時計が止まった」かもしれない時の本会議や委員会のやり取りを紹介しましたが、そのやり取りとは、昭和22年12月9日、第1回国会会期末のことを指していました。

よって、今回は、その当日の衆参の会議録を時系列に追ってみることから、本当に「時計が止まった」のかどうかを見ていきたいと思います。

まず、簡単に流れを示します。

昭和22年12月9日で本事件に該当する会議体は、以下の4つです。

○衆議院本会議
○衆議院農林委員会
○参議院本会議
○参議院農林委員会

そして、会期内に通るか通らないか大問題になったのは、以下の4法律です。

○食料品配給公団法
○油糧配給公団法
○飼料配給公団法
○食糧管理法の一部を改正する法律

これらを踏まえた上で、当日の流れを概観します。

1. 衆議院本会議(休憩)

2. 衆議院農林委員会が4法案を採決・可決

3. 衆議院本会議(再開~散会)

4. 参議院農林委員会が4法案を採決・可決

5. 参議院本会議(再開~散会)

上記の流れだけ概観すると、手順は踏んでいるように見えなくはないのですが、会議録に残された時刻を見る限り、参議院本会議の散会時刻は、やはり午前0時を過ぎているだろうと思われるのです。

例えば、衆議院本会議の散会時刻である23時56分に参議院農林委員会が開会したかと思えば、その1分後である23時57分に参議院本会議が散会して4法案が可決・成立、となっているからです。

というわけで、上記の流れに会議録に残されている休憩・再開・散会時刻等を加えてみます。

22時20分: 衆議院本会議 休憩

22時37分: 衆議院農林委員会 開会

22時58分: 衆議院農林委員会が4法案を可決・散会

22時26分: 衆議院本会議 再開

23時56分: 衆議院本会議 4法案を可決し散会

23時56分: 参議院農林委員会 開会、4法案を可決(散会時刻は記録なし)

23時57分: 参議院本会議 4法案を可決成立し散会

以下に該当部分の会議録を抜粋していますが、やっぱりどう考えても、その時「時計は止まった」としか考えられません。

そもそも、農林委員会で可決したなら、農林委員長が本会議場に移動して、委員長報告をしない限り採決はできないからです。

1分の間に委員会を開会~可決、さらには本会議場で委員長報告~可決成立させることは無理筋な話ですが、困難な状況下において、議会の先人が知恵を振り絞った結果であり、記録だと思います。

[昭和22年12月9日 第1回国会会議録(抜粋)]

衆議院農林委員会

○衆議院農林委員長 

これより各案について採決いたします。食料品配給公団法案、油糧配給公団法案及び飼料配給公団法案の……(議場騒然聴取不能)……起立を願います……(「異議あり」と呼び、その他発言する者多く聴取不能)……多数よつて……(「異議あり」と呼びその他発言する者多く聴取不能)……起立を願います……多数……(「異議あり」と呼びその他発言する者多く聴取不能)……よつて……(「異議あり」「ばか」「わからぬぞ」と呼びその他発言する者多く聴取不能)……(「あなた方これが聴えるか」「これがわかるかい」「そんな速記はたいへんだ」と呼び、その他発言する者多く聴取不能)……(聴取不能)……。

[委員長何事か宣告して退席]

時に午後10時58分

衆議院本会議

○衆議院議長

起立多数。よつて4案とも委員長報告の通り決しました。(拍手)

[発言する者多く、議場騒然]

この際議事を進行いたしましても、時間内に終了する見込みがありませんから、これにて散会いたします。

午後11時56分散会

参議院農林委員会

午後11時56分開会

○参議院農林委員長

只今より開会いたします。食料品配給公団法案、油糧配給公団法案、飼料配給公団法案及び食糧管理法の一部を改正する法律案以上4案を議題に供します。

○北村一男君 

時間の関係もありますから質疑及び討論を省略して直ちに採決に入ることを希望いたします。

○参議院農林委員長

北村君の動議に御異議ありませんか。

○参議院農林委員長

御異議ないものと認めます。よつて直ちに採決に入ります。食糧品配給公団法案、油糧配給公団法案、飼料配給公団法案及び食糧管理法の一部を改正する法律案以上4案の衆議院送付案を一括して議題に供します。4案は衆議院送付案通りに可決することに賛成の諸君の御起立を願います。

○参議院農林委員長

総員起立と認めます。よつて4案は衆議院送付案通りに可決せられました。尚本院規則によりまして、多数意見者の御署名を願います。

○参議院農林委員長

本日はこれにて散会いたします。

参議院本会議

○参議院議長

この際日程に追加し、食料品配給公団法案、油糧配給公団法案、飼料配給公団法案、食糧管理法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)、以上4案を一括して議題とすることに御異議ございませんか。

(「異議なし」と呼ぶ者あり)

○参議院議長

御異議ないと認めます。先ず委員長の報告を求めます。農林委員長楠見義男君。

[楠見義男君登壇、拍手]

○参議院農林委員長 

只今議題となりました4つの法律案につきまして、農林委員会における審議の経過並びに結果を御報告申上げます。

これらの法案は、御承知のごとく食料品、油糧、飼料及び食糧についてそれぞれ従来の統制方式を廃し、新たに公的機関により、政府責任体制の確立への切換を目的といたしたものであります。委員会はあらゆる角度から又詳りに亘つて慎重審議をいたしたのでありまするが、その結果本件についてはいろいろの問題はございますけれども、現在の我が国の国情並びに食糧事情からいたしまして、その制定亦止むを得ざるものと認め、即ち討論を省略し、採決をいたしましたところ、各委員の全会一致の局意を以ちまして、本4法案は亦可決すべきものと認めた次第でございます。以上委員会における審議の経過並びに結果を御報告申上げます。

○参議院議長

別に御発言もなければ、これより……(「議長、議事進行について」と呼ぶ者あり)

○参議院議長

4案の採決をいたします。4案全部を問題に供します。4案に賛成の諸君の起立を請います。

[起立者多数]

○参議院議長

過半数と認めます。よつて4案は可決せられました。これにて散会いたします。(拍手)

午後11時57分散会

国会の怪時計-その1

2017-02-10 | 国会雑学
「国会の怪時計」シリーズは、コメント欄に頂戴したご質問に対する回答であって、今の国会の時計は正確無比です。
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会期の定めのある合議体で、その会期内に予定された案件の処理ができない場合に「時計を止める」ということが言われることもありますが、立法府たる国会で「時計を止める」ようなことをして、会期に間に合わせるという苦肉の策が講じられた例について紹介したいと思います。

古くは明治23年召集の第一議会の貴族院で予算案審議が大混乱し、午前0時になっても議決できないため、時計の針を0時少し前で遅らせた例があるようですが、日本国憲法下の国会になってからの「それらしき例」について、まずは残された会議録から見てみます。

[昭和54年3月15日 第87回国会 衆議院本会議]

○永年在職議員表彰の件・中村正雄君

いまなお私の頭に焼きついておりますことは、第1回国会の最終日であります昭和22年12月9日夜半の、参議院本会議における審議であります。

衆議院より送付される農林省関係の4つの法案を今国会中に成立させよという、総司令部の国会担当の一課長よりの厳命でございました。衆議院より送付されました時刻が夜半12時の数分前、委員会は質疑、討論を省略して可決後、本会議に上程されました。

松平参議院議長の「過半数と認めます。よって4法案は可決せられました。これにて散会いたします。」と宣言されました時刻は、私の時計ではすでに12月10日に入っていたと思いますが、本会議場の時計の針は11時57分を示しておりました。この11時57分という時計の針は、占領下の政治を象徴するように私の脳裏に深く刻み込まれております。

[昭和56年3月9日 第94回国会 参議院予算委員会]

○玉置和郎君 

ところで、運輸大臣、あなたは新幹線担当の大臣で、時間を大切にするということですが、時の流れを止めることはできますか。

○国務大臣(塩川正十郎君) 

私ではとっても時の流れは止められません。

○玉置和郎君 

科学技術庁長官、科学技術の枠をもっても時の流れを止めることができるかどうか。あなたなら止めることできるな。

○国務大臣(中川一郎君) 

私でも止めることができません。

○玉置和郎君

総理、この参議院で時の流れが止まったこと知っていますか。

○国務大臣(鈴木善幸君)

私は寡聞にして承知いたしておりませんが、鈴木内閣におきましても時の流れを止めることはできません。

○玉置和郎君 

昭和22年の12月の9日です。この参議院の第1国会、ここで食管法の改正のときに、時の占領軍の国会対策課長がウイリアムズというんで、それがやってきて、今日中に、衆議院から法案送ってきて、通さなかったら食糧援助してやらぬぞと恫喝されて大騒ぎになった。それで私はいろんな証言を今度求めましたが、そのとき時計を止めた人がいま課長補佐でここにおるんです。山賀辰夫さんという人です。それを指令した人がまだ生きておるんです。藤沢で恐らくきょうテレビを見ておると思う。そのときの親時計がこれなんです。(写真を示す)これが親時計。

いま参議院の時計はこの親時計で動いておるんです。昭和11年1月沖電気一号機というやつなんです。そうして、11時30分に待機命令が出て、11時50分に参議院のすべての時計が止まったんです。そうしてその法案を通したんです。すでにもう通ったときにはいわゆる会期のなかったときなんです。それどう思いますか。

○国務大臣(鈴木善幸君)

占領下における異常な事態であったわけでございまして、今日では全く想像もつかない事態であると、こう思います。

○玉置和郎君 

この中でそのようなことを知っておる人まだあると思いますが、中曽根大臣どうですか。

○国務大臣(中曽根康弘君) 

何の法案であったか記憶は明らかでありませんが、私たちが衆議院の議場で審議をしておりますときに、たしか時計が11時58分か9分ごろまで来たら針が止まってしまって、あれどうしたんだろうかと、5分か10分くらい確か止まっておった記憶がございます。後で聞いてみたら、何か作為が施されていたんではないかと、そういううわさでありました。


○国会の怪時計(その1~その5)


国会の怪時計-その1
国会の怪時計-その2
国会の怪時計-その3
国会の怪時計-その4
国会の怪時計-その5

常会における内閣提出法案の成立率

2017-02-07 | 国会雑学
平成28年、第190回国会の内閣提出法案は56件でした。うち成立は50件、成立率は89.3%でした。

今回は、常会での内閣提出法案の成立率について見てみたいと思います。

[常会における内閣提出法案の成立率]

1位=100%:平成7年(第132回国会)、平成8年(第136回国会)
3位=97.8%:平成9年(第140回国会)
4位=97.5%:平成15年(第156回国会)、平成26年(第186回国会)

なお、内閣提出法案の成立率が95%を超えた常会は、上記以外では下記の6回です。

昭和23年(第4回国会)、昭和24年(第7回国会)、昭和25年(第10回国会)
昭和28年(第19回国会)、昭和56年(第96回国会)、平成4年(第123回国会)

というわけで、これまでに内閣提出法案の成立率が95%を超えた常会は11回となります。

ちなみに、現在開会中の平成29年、第193回国会の内閣提出法案は64件の予定です。

予算案趣旨説明聴取のタイミング-その2

2017-02-06 | 憲法
○日本国憲法第60条

予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。

予算について、参議院に衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。


予算案聴取のタイミング-その1」では、原則として、予算案については衆参同日に趣旨説明を聴取するのが例となっていることを紹介しました。

ただ、興味深い例もありますので、その例をひとつだけ紹介しつつ、参議院の宿命と予算案審査への備えについて触れておきたいと思います。

興味深い例とは、平成2年度補正予算案の際に発生した例のことです。

これは、衆議院での審査が終わり、参議院に送付された後に、参議院本会議で財政演説を聴取し、参議院予算委員会で趣旨説明を聴取したという例です。この例に限れば、衆議院を通過後、参議院で予算案の審査に入ったといえるのかもしれません。

[衆院通過後に参院で財政演説が行われた例]

平成3年2月28日 第120回国会 衆議院本会議
平成3年3月1日 第120回国会 参議院本会議、参議院予算委員会

また、参議院では日本国憲法第60条の規定により、衆議院から予算案が送付され、参議院が受け取った後、30日で自然成立する宿命にあります。

よって、参議院では限られた期間の予算案審査をより良いものとするため、たとえば、質疑時間の片道方式が導入されていたり、委嘱審査制度が導入されていたりするのです。

さらに、予算案の趣旨説明は、原則として衆参同日に聴取しますので、衆議院の予算案審査期間を活用して、参議院予算委員会は、趣旨説明を聴取した予算案の審査に資するため、委員派遣を行っているのです。

参議院は、従来、開会中の委員派遣においては、予算、法律案等、議案の審査等のため派遣が必要とされる場合を除いては、災害調査のための派遣及び調査会が行う派遣に限って認められてきた、という原則があります。

近年、開会中に調査のための委員派遣を行う例が残念ながら見受けられますが、予算委員会については上記の理由から委員派遣を行って然るべき委員会なのです。

もっと言えば、予算案の趣旨説明を既に聴取しているわけですから、理事会もしくは理事懇談会で政府に資料要求をした上で、予算案審査のための委員派遣を行うのであれば、30日という限られた期間の中でより充実した審査ができることに繋がるのではないでしょうか。

予算案趣旨説明聴取のタイミング-その1

2017-02-03 | 国会ルール
○参議院委員会先例録68

予算の趣旨説明は、衆議院予算委員会に引き続き同日これを聴くのを例とする

予算の趣旨説明は、衆議院予算委員会に引き続き同日これを聴くのを例とするが、後日聴いた例もある。


平成29年2月1日、衆議院予算委員会では平成29年度予算案の審査が始まりましたが、2月1日の予算委員会では、開会と同時に質疑が始まりました。

つまり、平成29年度総予算案の趣旨説明は既に聴取していたことになります。

先日いただいたご質問の中に、予算案の趣旨説明聴取のタイミングが衆参で同日の場合と異なる場合がなぜがあるのか、とのご質問をいただきましたので、これに対する回答も交えながら、衆議院で予算案審査が終わっていないのに、参議院でも趣旨説明を聴取するのか、についてご紹介したいと思います。

常会が召集されると、最初に行われるのは施政方針演説、いわゆる政府4演説です。

この中には、財務大臣による財政演説が含まれています。予算案は常会の最初に審査されるものであり、予算については日本国憲法第60条に規定があるように、国の根幹をなすものです。

よって、先例等に記載はありませんが、予算案については提出と同時に予算委員会に付託され、国会法第56条の2のいわゆる「吊るし」がつきません。

これらのことから、予算案については衆議院の通過後ではなく、財務大臣による財政演説を聴取する本会議も、予算委員会での趣旨説明聴取も、原則、衆議院と参議院同日に行われることが例となっているのです。

しかしながら、近年、予算委員会における予算案の趣旨説明聴取が、衆参同日に行われない例が増えています。

これは、たとえば、衆議院では委員長職権で予算委員会がセットされた等、一方の院が不正常な状態であるとみなし、参議院で同日に聴取する環境にはないとの判断が働き、同日に行われなかったということです。

ただ、原則、衆参予算委員会で同日に予算案の趣旨説明を聴取するのが例となっている以上、施政方針演説に対する参議院の代表質問が終了するのを待って、参議院の代表質問終了後に衆議院予算委員会、参議院予算委員会を順次開会して、予算案の聴取を行うのが基本的な流れとなっているのです。