議会雑感

国会のルールや決まりごとなど、議会人が備忘録を兼ねて記します。

閉会と一時更新休止

2015-09-30 | 雑感
気が付けば、9月も末日を迎えました。
今年も残すところ、あと3か月。年度でも上半期が終わることになります。

さて、この「議会雑感」ブログは、国会法や議院規則、先例といった国会ルールの側面から、政治を少しでも身近に感じていただければ、との思いで、どうにかこうにか8か月近く継続して続けることができました。

本当にありがとうございます。

これまで、アクセス数について触れたことはありませんでしたが、嬉しいことに、ご覧いただいている方は徐々に増えています。

アクセス数が最も多かったのは、安保法案採決をめぐり、与野党の攻防が激化した9月17~19日の3日間でした。多くの方の関心が非常に高い法案であった証左だと感じています。

また、普段は、IP数とPV数しか分かりませんが、その時は偶然にもキーワード検索で何が多かったのか分かる状況でしたので、立法府に身を置く者として大変勉強になりましたし、次の更新に活かしたいと思います。

ただ、本当に長かった245日間の常会が終わり、秋の臨時会が召集されるのかどうかも含めて、今は未定です。

そこで(?)、少しだけ更新を休止し、その間、色々と勉強し直したいと考えています。

拙いブログですが、このブログを通じて政治に関心を持っていただける方が、一人でもいらっしゃるなら、また再開しようと思っています!
            

慎重審議(未完結編)

2015-09-27 | 雑感
平成27年9月27日が会期末の第189回国会。

継続審査(閉会中審査)手続きがとられた法案の中に、衆議院審議段階からずっと注目していた「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」があります。

これは、行政権が6つの法案を束ねて立法権である国会に提出した、いわゆる「束ね法案」ですが、衆議院段階では、非常に丁寧な審議が行われたものと捉えており、これまで、慎重審議のひとつの形態だとして、注目し、その審議方法と経緯を3回取り上げてきました。

慎重審議」 平成27年7月4日
慎重審議(続報)」 平成27年7月11日
慎重審議(衆院完結編)」 平成27年8月14日

詳しくは、上記の3エントリーをご覧いただければ幸いですが、束ね法案である刑訴法案に対して、テーマを4つに分類し、4つのテーマごとに、対政府質疑→参考人質疑→対政府質疑を丁寧に繰り返したのです。

過去に、逐条審議が行われたことはありますが、これとは異なる形の慎重審議だと捉えていました。

先日、成立した安保法案でもそうですが、どれだけ多くの法案が束ねられていようとも、テーマごとに参考人質疑を分けて行ったり、対政府質疑を行ったりすることはないからです。

よって、立法権である国会が、束ね法案を提出してきた行政権に対し、慎重審議を行った例として、個人的に注視していました。

さらに、衆議院における審議期間は、安保法案を上回るものでした。

衆議院における安保法案は、5月26日審議入り、7月16日参議院に送付。刑訴法案は、5月19日審議入り、8月7日参議院に送付となっており、審議期間は安保法案より長かったのです。

刑訴法案に関しては、結論から申し上げると、お盆期間明け初の参議院本会議で審議入りしましたが、参議院法務委員会では実質審議入りすることができず、よって継続審査の手続きがとられたのです。

再考の府、参議院でどのような形の充実審議が行われるのか注目していましたので、法案に対する個人的な思いはさておき、ちょっと残念でした。

理由に関しては、何かの機会に説明したいと思います。

事実上の閉会

2015-09-25 | 雑感
平成27年9月25日は、衆議院、参議院で事実上の会期末を迎えました。

戦後最長の95日間の延長国会は、9月27日までとなっていますが、27日が日曜日だからです。

突っ込みどころとしては、シルバーウィークの関係で、平日は、24日(木)25日(金)だけでしたから、会期延長幅として、最後の10日間は審議しないのなら、どうだったのかなぁ、という点です。

それはさておき、会期末にかかる様々な処理が、衆参の各委員会、特別委員会、本会議でなされました。
           
これまでに紹介した、継続審査(閉会中審査)手続きや請願の処理が行われました。

会期不継続の原則-その1
会期不継続の原則(の例外)-その2
会期不継続の原則(の例外)-その3

継続審査(閉会中審査)の手続きは、衆議院と参議院で異なっており、衆議院では、議院運営委員会で吊るされたままでも継続にすることができますが、参議院では委員会付託したもののみ継続することができます。

よって、参議院では、委員会に付託されている内閣・法務・厚生労働 3委員会の8法案について、継続審査となりました。

請願権とは-その1
請願権とは-その2

一方、請願権は、日本国憲法第16条に規定された国民の権利のひとつですが、国会への請願は、会期末にまとめてその扱いが決められるのが慣例となっているのが現状です。

以前も指摘しましたが、請願審査の在り方については、国会として議論が必要だと考えています。

色々あって、とても長かった第189回国会は事実上、閉会となりました。
というわけで、人事異動の季節ですね。

議事妨害-その2

2015-09-24 | 国会ルール
○参議院先例録335

記名投票の投票時間を制限した例

記名投票により採決する場合に、必要があると認めたときは、議長は、投票に入るに先立ち、又は投票執行中に投票時間を制限することがある。その例は次のとおりである。

(1)投票に入るに先立ち投票時間を制限した例

(省略)

(2)投票執行中に投票時間を制限した例

第16回国会 昭和28年8月3日の会議において、「労働委員会において審査中の電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律案について労働委員長をして次会の本会議劈頭に中間報告をさせ、報告時間を1時間以内とすることの動議」の表決を記名投票により執行中、議長は、「只今行われておりまする投票につきましては、自後5分間に制限いたします。速やかに投票を願います。・・制限時間に達しました。これにて投票は終了したものと認めます。投票箱閉鎖。」と告げ、まだ投票を終わらない者で演壇に登っていた者に対し降壇を命ずるとともに衛視にその執行を命じた。

第24回国会 昭和31年5月29日の会議において、「本日はこれにて延会することの動議」の表決を記名投票により執行中、議長は、「ただいま行われております投票については、自後5分間に制限いたします。すみやかに御投票を願います。・・制限時間に達しました。投票箱閉鎖。」と告げた。

その他同例がある。


議事妨害-その1」では、数の及ばない少数会派が、合法的に採決に抵抗する手段の幾つかを紹介しました。今回は、安保法案採決での牛歩の事例を引きながら、先例を紹介したいと思います。

今回の安保法案をめぐり、参議院本会議で、議員一人が牛歩を5回、行いました。

(1回目:内閣総理大臣問責決議案採決、2回目:特別委員長問責決議案に対する発言時間制限動議の採決、3回目:特別委員長問責決議案採決、4回目:安保法案に対する討論時間制限動議の採決、5回目:安保法案採決=すべて記名投票

採決を少しでも遅らせたい、その一心での行動だったと思いますが、ほかに牛歩に同調した議員はいませんでした。

議長は先例に基づき、投票執行中に投票時間を制限しましたが、その制限時間は、2分間と1分間でした。

議員一人が5回牛歩を行ったうち、議長が投票時間を制限したのは4回。最初の2回は、自後2分とし、次の2回は、自後1分。最後の1回については、投票を促すのみに留まっています。

会期終了日が眼前であれば、法案を廃案にするために牛歩戦術も有効ですが、今回は会期末まで1週間以上ありましたから、色んな意味で難しかったと思います。

議事妨害-その1

2015-09-23 | 国会雑学
数の及ばない少数会派が、合法的に採決に抵抗する手段としては、主として次のようなものがあります。

当該法案を廃案に追い込めるかもしれない、多数会派から譲歩を見込めるかもしれない、との思いで行われることがほとんどです。ただ、いずれにしても、賛否両論あるのは事実です。

○先決事件である決議案等の提出による手法

・総理や閣僚に対する問責決議案内閣不信任案の提出

・議長の不信任決議案、常任委員長の解任決議案の提出
 →常任委員長は本会議で選任されるため、委員会限りで罷免できないため

  
 [参考]
特別委員長の場合は、特別委員会で選任されているため、特別委員会の権限で不信任を取り扱います。

よって、本会議において特別委員長に対しては問責決議案となりますが、今回が12回目の提出でした。ちなみに、本会議で特別委員長の問責決議案が可決されたことはありません。先日紹介したとおり、特別委員会で不信任動議が可決されたことは、過去1度だけあります。

なお、仮に、本会議で特別委員長の問責決議が可決されても、直ちに解任されることはありません。

○手続きや処理に通常より時間をかける手法

記名投票の要求
 →処理に一定の時間がかけられることによる議事進行遅延行為

・フィリバスター
 →長時間の討論等を行うことによる議事進行遅延行為

・牛歩=牛歩戦術
 →投票までの間、立ち止まったり足踏みしたりしながら、ゆっくり前進し、時間稼ぎをする戦術


 [参考]
帝国議会時代において、議事妨害の主流は、質疑者がその議題につき延々と長時間の発言を行い、審議の遅延を図る長時間演説であり、本会議で議員が次々に交代して長時間演説を行いました。

アメリカでも議事妨害が少数党の有効な戦術として行われており、審議の遅延を図るフィリバスターと呼ばれていますが、その主流は長時間演説です。アメリカでは、1人で24時間18分の発言を続けた記録も残っています。

最近の国会での議事妨害は、審議拒否や先決問題の提出、長時間演説という形がとられます。しかし、国会法第61条の規定により、議事妨害は無制限に行えません。

また、各議院規則には、質疑終局や討論終局の動議の提出についても規定されているため、現在、長時間演説により議事妨害を行うことは難しいといえます。

今回の安保法案において、与党は、問責決議案等の趣旨説明、討論、その他の発言時間を10分等に制限する動議をことごとく提出し、可決させ、野党の発言時間を制限したからです。

対する野党も最後まで徹底抗戦し、動議で制限された倍近い時間を演説した議員がいました。言論の府、ですしね。

牛歩については、平成4年 PKO法案の参議院本会議採決で、一部野党が牛歩戦術を実行し、採決が終わるまで4泊5日の徹夜国会となりました。牛歩については、次回、先例を引用する形で今回の事例を紹介したいと思います。

委員会の開会通知

2015-09-22 | 国会ルール
○参議院委員会先例録45

委員会の開会の通知は、参議院公報をもって行う

委員会の開会の日時、会議室及び会議に付する案件は、あらかじめ参議院公報に掲載するのを例とするが、早急に開会する必要があったため、口頭により通知した次のような例もある。(以下、一例省略)

第13回国会地方行政委員会(昭和27年7月30日)において、警察法の一部を改正する法律案の審査に当たり、同日は会期の終了日であって深更まで会議が続けられ午後11時13分休憩に入ったが、会期が1日間延長されたので、委員長は、口頭により、審査の都合上翌日午前零時5分から委員会を開会する旨を全委員に通知し、委員会を開いた。

なお、後刻これを参議院公報に掲載した。


安保法案を審議する参議院特別委員会は、当初、9月16日午後に委員派遣(地方公聴会)を行い、同日18時から与野党の合意なきまま、委員長職権で特別委員会の開会予定でした。

しかし、野党の抵抗等もあり、9月16日の特別委員会は、結果として23時をまわってから取りやめとなりました。

よって、委員長は、9月17日零時5分理事会、零時10分委員会開会を決めました。

が、結局、これも開会に至らないまま、3時半過ぎまでこう着状態が続き、翌朝に仕切り直しとなりました。

今回は、委員長職権とはいえ、セットしていた委員会を野党の抵抗等により、深夜まで開けなかったため、日付を変えて委員会をセットし直したのです。

しかしながら、委員会開会の通知を参議院公報に掲載する暇はありませんので、口頭により通知したものと考えられます。また、(後刻)、参議院公報に掲載しています。

よって、本件に関する委員会開会通知に瑕疵はない、ということになります。

ただ、今回は、先例にあるように会期の終了日その日!とか、衆議院が解散されたその日!とかではなく、会期の終了日まで、10日間もありましたから、そこまでやるのかねぇ、というのが個人的な感想です。

きっと、60日ルールが影響していたんでしょうね。

委員派遣(地方公聴会)と派遣委員の報告

2015-09-21 | 国会ルール
○参議院委員会先例録280

派遣委員は、調査の結果について報告する

派遣委員は、その調査の結果について、口頭又は文書をもって委員会に報告する。なお、常任委員会において閉会中に調査のため派遣された委員が、次の国会において報告した例がある。

先例により、委員派遣を行ったときは、委員会において、派遣委員が派遣の結果について口頭報告を行うこととされています。

さらには、昭和60年代の参議院議院運営委員会理事会にて、委員派遣の結果を受け、政府に対して質疑を行い、委員派遣の成果を国政に反映させ、立法等に資することが申し合わされています。

安保法案を審議する参議院特別委員会は、9月16日午後、横浜で委員派遣(地方公聴会)を行いました。

当初は、横浜から国会に戻り、同日18時から特別委員会を与野党の合意なきまま開会する予定でしたので、その場合は、数時間で派遣委員報告を作成せねばなりませんでした。

結果として、野党の抵抗により、委員派遣(地方公聴会)と委員会の同日開会という事態は避けられたものの、採決が強行されるまでに、委員派遣(地方公聴会)の結果が報告されることはありませんでした。

本来、安保法案採決までの間に、特別委員会を開会して、(1)派遣委員の報告を聴取すること、(2)公聴会と併せて委員派遣の成果を質疑に活かすことが必要でした。

しかしながら、翌17日に採決が強行されてしまったことにより、派遣委員の報告聴取はおろか、公聴会と委員派遣(地方公聴会)後は、質疑のひとつも行われていないのです。

どうやら、9月17日の参議院特別委員会の会議録末尾に、委員派遣(地方公聴会)の現地における会議の記録を全文掲載するようですが、衆議院は、派遣委員の報告を2班の代表者それぞれから聴取したうえで、現地における会議の記録を全文掲載しています。
                 
                 平成27年7月8日 衆議院特別委員会議録(抜粋)
参考までに、衆議院の特別委員会においては、平成27年7月6日に2班に分けて、沖縄県と埼玉県に委員派遣(地方公聴会)を行い、委員派遣(地方公聴会)の報告聴取は、平成27年7月8日の衆議院特別委員会において行われました。

さらに、衆議院は、公聴会と委員派遣(地方公聴会)後に、これらの結果を活かした質疑を行っているのです。

委員派遣(地方公聴会)の報告を聴取せず、公聴会と委員派遣(地方公聴会)後に質疑のひとつも行わず、採決後、事後的に現地の記録だけを掲載することで済ませようとする参議院は、果たして、良識の府といえるのでしょうか。

問責決議案とは

2015-09-20 | 国会ルール
参議院においては、内閣総理大臣問責決議案が提出されることがあります。

今回の安保法案をめぐる与野党攻防においても、内閣総理大臣問責決議案が、参議院に提出されました。

衆議院の内閣不信任決議案と何が異なるのか、というと、問責決議案が可決された場合でも法的拘束力を伴わないことです。

内閣不信任決議案が可決されたときは、日本国憲法第69条が規定するとおり、10日以内の衆議院解散か、内閣総辞職をしなければなりません。

問責決議案も、「政府に対しその政治責任を問う」ことを内容としますが、結局、法的な意味を有せず、政治的意味しか有しないのですが、事実上の影響力は大きいといえます。

内閣総理大臣問責決議案は、平成20年6月11日、ねじれ国会の下、福田内閣総理大臣に対し、初めて可決されました。

なお、その翌日、衆議院で福田内閣総理大臣の内閣信任決議案が可決されています。内閣信任決議案の可決事例は、3例しかありませんので、そのうちの1例です。

内閣総理大臣に対する問責決議案の可決事例は、平成21年7月14日 麻生内閣総理大臣、平成24年8月29日 野田内閣総理大臣、平成25年6月26日 安倍内閣総理大臣に対し、それぞれ可決しています。

すべてねじれ国会の下での可決です。

衆議院の内閣不信任決議案は、内閣そのものに対して出されますが、参議院の問責決議案は、内閣総理大臣であったり、閣僚であったり、個人に対して提出されます。

よって、今回の安保法案をめぐる最終攻防で参議院に出された問責決議案は、内閣総理大臣、防衛大臣、特別委員長の3人に対するものでした。

なお、ほかに参議院議長と参議院議院運営委員長に対する不信任決議案と解任決議案が提出されましたが、ねじれ国会ではありませんので、これらの決議案はすべて否決されました。

平成27年9月19日、2時18分

2015-09-19 | ひとこと
平成27年9月19日、2時18分。

今後の我が国の在り方を大きく転換することになるであろう安保法案が、参議院本会議で可決、成立しました。

我が国は、大きな転換点を迎えたことになります。

今、この瞬間、立法府に身を置く議会人のひとりとして、日本国憲法における三権分立を考えたとき、様々な思いが去来してなりません。

ただ、このブログは、今のところ匿名であり、個別の政策の是非に触れないこととしています。

参議院特別委員会や本会議で起こった安保法案採決をめぐる様々な動きについて、国会法や議院規則、先例等から紹介することが、政治に少しでも関心を持っていただける一助になるのであれば、との思いで書き続けます。
            
             安保法案成立の瞬間。拍手の与党席と「憲法違反」コールの野党席

安保法案をめぐる与野党の攻防

2015-09-18 | 雑感
今週は、戦後最大の95日間の延長を行った国会最終盤において、与野党の激しい攻防が展開されています。

今後の我が国の在り方を大きく転換することになるであろう安保法案がその中心ですが、9月17日に参議院特別委員会で与党が採決を強行し、主戦場は参議院本会議にうつっています。

気の向くままに、昨日夕刻以降の動きについて書いてみたいと思います。

今、国会で何が起こっているのか。

一刻も早く数の力で採決し、法案を成立させたい与党と、数は及ばないけれども、法案成立を何とか阻止したい野党のせめぎ合いです。

昨日、9月17日、参議院特別委員会で安保法案を可決したとされるのが、16時過ぎのことです。
ちなみに、現時点での採決部分の会議録は「……(発言する者多く、議場騒然、聴取不能)」です。

こんな状態ですが、特別委員会の可決を受けて、与党は法案を一刻も早く成立させるために、参議院本会議を議院運営委員長の職権でセットしました。

なお、本来、参議院本会議は、これまで紹介したとおり、定例日については、参議院先例録220によって月・水・金とされており、定時については、参議院規則第81条によって、午前10時とされています。

しかし、安保法案の本会議採決を急ぐ与党は、与野党の合意なきまま、定例日外、定時外の9月17日(木)20時10分に本会議をセットしたのです。

しかしながら、今の国会の会期末は、9月27日であり、会期までまだ10日間残っているのです。

よって、安保法案成立を何としても阻止したい野党は、数の力でかなわなくとも、国会ルールに従って、取り得る手段を講じています。

つまり、参議院本会議の議題が安保法案の採決に至る前に、様々な決議案等を提出することによって、安保法案の採決に入ることを阻止しているのです。

それは、法案の採決に優先する、総理や大臣に対する問責決議案の提出であり、衆議院における内閣不信任決議案の提出を意味します。

参議院における問責決議案や委員長解任決議案の処理には、まず、提出されてから議案を印刷する必要があります。

よって、議案の印刷に要する時間、次に実際の本会議で議案の趣旨説明・討論に時間を要するため、決議案等1本あたりの処理には3時間程度かかることとなります。

何としても安保法案成立を阻止したい野党は、決議案を連発することで、法案の採決に至るのを少しでも遅らせているのです。

対する与党は、議案の趣旨説明や討論に延々と時間をかけられたくないため、趣旨説明や討論時間を制限する動議を提出して、これを数の力で可決し、決議案等の趣旨説明や討論の時間を短くしようとしています。

一方の野党は、参議院での採決は通常押しボタン式投票ですが、出席議員5分の1以上をもって記名投票を要求することで、投票に時間をかけて抵抗しているのです。

国会法や議院規則、先例等に則って、与野党とも取り得る手段を講じながら、安保法案をめぐる与野党攻防は、最終局面を迎えているといえます。

委員会の動議(委員長不信任の動議)

2015-09-17 | 国会ルール
○参議院委員会先例録127

動議は、委員会において、口頭により提出するのを例とする

動議は、委員会において、口頭により提出するのを例とする。ただし、委員長不信任の動議は、文書により1人以上の賛成者とともに連署して提出するのを例とする。


委員会での動議は、先例に基づき、口頭で提出しますが、委員長不信任の動議は、文書で1議員以上の賛成議員と連署で提出するのが例となっています。

委員会開会前に委員長の不信任案が提出されれば、理事会で協議の上、議事の流れが確認されます。

一方、委員会の途中で委員長不信任動議が提出された場合は、委員長が動議が提出された旨を述べた後、委員会を暫時休憩として理事会を開会して、議事の流れを確認するか、委員長が委託する理事に席を譲って、そのまま動議の議事を主宰させるか、のいずれかです。

いずれにせよ、動議の議事は、委託を受けた理事が主宰します。

過去、特別委員長の不信任動議は6回議題とされましたが、平成6年1月12日の政治改革に関する特別委員会委員長の不信任動議は、唯一可決された事例です。

直近の特別委員長不信任動議提出は、平成24年 第180回国会 社会保障と税の一体改革に関する特別委員会委員長不信任動議ですが、多数をもって否決されています。

なお、委員長不信任動議が否決されれば、動議の議事を主宰した理事が委員長の復席を宣言し、その後の議事は委員長が主宰します。

○参議院委員会先例録26

委員長の信任に関する議事については、委員長の委託を受けた理事が委員長の職務を行う

委員長の不信任動議に関する議事については、委員長の委託を受けた理事が委員長の職務を行うのを例とする。

○参議院委員会先例録129

先決動議は、直ちに議題とする

休憩の動議、散会の動議、秘密会とするの動議、質疑終局の動議、討論終局の動議党議事進行上先決を要する動議は、先決問題とし、直ちに議題とする。なお、委員長不信任の動議は、先決動議として取り扱うのを例とする


委員派遣(地方公聴会)と委員会の同日開会

2015-09-16 | 国会ルール
○参議院規則第38条

委員長は、委員会の開会の日時を定める。(以下略)

○参議院委員会先例録37

委員会の開会の日時は、委員長がこれを定める

委員会の開会の日時は、委員長がこれを定める。この場合において、委員長は理事と協議するのを例とする。


9月16日、13時から2時間半の予定で、参議院特別委員会の委員派遣(地方公聴会)が横浜で開催されます。委員派遣(地方公聴会)が終わった後、18時から2時間の予定で安保法案審議のため、参議院特別委員会が開会される予定です。

前段の委員派遣(地方公聴会)は、与野党合意のうえで開催されますが、後段の18時からの特別委員会開会は、与野党で合意に至らず、特別委員長の「職権」で開会を決定しています。

つまり、理事会(理事懇談会)において与野党理事間で協議が調わないまま、18時からの特別委員会が開会されることを意味します。なお、通常は、賛否が異なる議案についても、与野党理事間で合意したうえで、委員長が開会の日時を定めています。

そもそも、公聴会委員派遣(地方公聴会)は、国会法第51条国会法第103条において、重要な案件について学識経験者等から意見を聴き、調査のために委員を派遣する、としています。

国会法が定める公聴会や委員派遣(地方公聴会)は、その後の委員会審議を充実させるために行うものです。

よって、今回のように9月15日に公聴会、9月16日に委員派遣(地方公聴会)を連日開会し、しかも、委員派遣(地方公聴会)の当日夜、与野党の合意が得られないまま委員長職権で特別委員会を開会するのは、公聴会と委員派遣(地方公聴会)を開催する趣旨に照らせば、強引な委員会運営であると指摘されても仕方ない側面があると考えます。

平成に入って以降、参議院において委員派遣(地方公聴会)と同日に委員会を開会した例を、私は2例しか知りません。

平成11年8月5日 第145回国会
「参議院地方行政・警察委員会」住民基本台帳法の一部を改正する法律案
平成25年12月4日 第185回臨時会
「国家安全保障に関する特別委員会」特定秘密の保護に関する法律案

[9/17追記]

9月16日18時に委員長職権でセットされた特別委員会は、理事会開会自体が30分遅れ、その後は野党の激しい抵抗もあり、理事会の休憩と再開を断続的に繰り返し、16日中の開会には至りませんでした。

日付が変わった9月17日の0時5分に理事会、0時10分の特別委員会開会が委員長職権によって、改めてセットされましたが、再度、休憩と再開を断続的に繰り返し、4時前に約4時間後の8時50分理事会再開まで異例の休憩となりました。

よって、今回は、同日に委員派遣(地方公聴会)と委員会開会という事態には至りませんでした。

公聴会(続編)

2015-09-15 | 国会ルール
○国会法第51条

委員会は、一般的関心及び目的を有する重要な案件について、公聴会を開き、真に利害関係を有する者又は学識経験者等から意見を聴くことができる。

総予算及び重要な歳入法案については、前項の公聴会を開かなければならない。但し、すでに公聴会を開いた案件と同一の内容のものについては、この限りでない。

○参議院委員会先例録219

委員会において公聴会を開くことを決定したときは、公聴会開会承認要求書を議長に提出する

○参議院委員会先例録222

公聴会は、おおむね10日前に公示するのを例とする


9月15日午後、安保法案を審議する参議院特別委員会で公聴会が開会されます。ニュース等では、中央公聴会と呼ばれています。

既に何度も紹介しているとおり、公聴会とは、常任委員会や特別委員会が一般的関心及び目的を有する重要な議案について、利害関係者や学識経験者等を公述人として呼び、意見を聴き、質疑を行うものです。

公聴会は、先例により、当該委員会で議決後に、議長の承認を経て開催が決定し、官報公示後、開会までの期間は概ね10日と規定されていますが、実際のところ、5日前後となっている場合が多くなっています。

なお、開会までの期間は、議長承認の翌日から起算します。

で、今回の安保法案を審議するための参議院特別委員会における公述人は、6人です。

うち、与党推薦公述人は2人、野党推薦公述人は4人です。

6人の公述人が、それぞれ15分ずつ意見陳述を行い、その後、特別委員会を構成する11会派が15分ずつ質疑を行います。

余談ですが、今回の公述人公募にあたっては、過去に例がないほど、相当数の方が申出をされたとのことです。それだけ、関心の高いテーマである、ということなのでしょう。

片道方式(質疑割当時間)

2015-09-14 | 国会雑学
本日、9月14日、安保法案を審議するため、参議院特別委員会は、9時から7時間コースで総理・TV中継入り審議が行われています。

これまでの安保法案の審議と違う点が一点あります。何が違うか、というと、質疑時間のカウントが普段の質疑と異なっているのです。

通常、○○議員の質疑時間20分という場合は、質問時間と答弁時間の両方を含みます。よって、政府側の答弁が冗長になると、○○議員は質問時間を冗長な答弁によって奪われた、という解釈も成り立ちます。

本日の特別委員会では、○○議員の質疑時間20分とすると、○○議員の発言時間だけカウントされて、答弁時間は含まれていません。

よって、○○議員が長く発言すると瞬く間に持ち時間を消費してしまいますが、端的に答弁を引き出す質問をした場合は、政府側の答弁がどれだけ冗長になろうとも、○○議員の質問時間は答弁によっては奪われない、という形になっています。

この方式は、参議院予算委員会独特の「片道方式」と呼ばれているものです。

かつて、「衆参予算委員会・質疑時間の違い」というエントリーで、参議院予算委員会独自の質疑方式=「片道方式」について紹介しましたが、答弁時間を含まない考え方で、参議院予算委員会のみで用いられています。

これは、昭和20年代の参議院予算委員会理事会で、質疑時間の割り当ては、答弁時間を含まない「片道方式」とすることが申し合わせにより、決定されたことによります。

なお、参議院予算委員会の公聴会や集中審議については、質問と答弁時間を含む往復方式で行うことも併せて申し合わせがなされています。

これが、現在まで参議院の伝統として引き継がれているのですが、参議院予算委員会以外で、「片道方式」が用いられた例がまったくないのか、といえば、数例、確認することができます。

昭和26年 第12回臨時会「参議院平和条約及び日米安全保障条約特別委員会」
昭和28年 第16回特別会「参議院労働委員会」
昭和29年 第19回国会 「参議院外務・内閣・大蔵連合委員会」


いずれにしても、「片道方式」は、参議院予算委員会以外で、となると、昭和前半の審議でしか採用されていません。

「片道方式」の質疑は、質疑見込み時間帯が大抵の場合、その通りに進行しないため、なかなか時間が読めませんねぇ。

[再掲]60日ルール、衆議院の再議決

2015-09-11 | 憲法
○日本国憲法第59条4項

参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて60日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。


今回は、一度だけ受け付けたコメントにて頂戴したご質問の回答にしたいと思います。

ここ数日のニュースにて、衆議院側の政府与党が「60日ルール」の適用、つまり「衆議院での再議決」を考え始めた旨の報道が増えてきました。

ここで、改めて「60日ルール」、「みなし否決」、「衆議院の再議決」について触れておきたいと思います。

これまでのエントリーの中で、60日ルールや衆議院の再議決については、事あるごとに紹介してきましたので、詳細は下記のエントリーをご覧いただけると幸いです。

○60日ルール、みなし否決、衆議院の再議決

国会の延長-その4」平成27年6月24日
みなし否決の方法」平成27年7月21日
みなし否決と再議決」平成27年8月19日


戦後最長95日間の大幅な国会延長を決めた際、今回の会期延長幅は、安保法案のいわゆる「みなし否決」までもを見据えた形で決めた側面があることは否定できない、と指摘しました。

日本国憲法第59条の規定に基づき、9月14日以降、衆議院は、安保法案について、60日ルールを使うことが可能です。

ただ、60日ルールを使い、みなし否決を行使するということは、参議院の議論を無視し、参議院の存在意義そのものを否定することに繋がりかねませんから、行うべきでないというのが、議会人たる私のスタンスです。

参議院は、参議院としての意思を示すべきと考えます。