『原発ゼロ世界へ―ぜんぶなくす―』(小出裕章著、エイシアブックス)を読みました。
著者の小出氏は、京都大学で原子力を研究する学者ですが、一貫して反原発の姿勢を貫く異色の学者です。反原発の姿勢ゆえ出世の機会を与えられず、60歳を過ぎても「助教」という立場です。
同書の特徴は、以下のとおり。(1)とても平易に書かれている。だから中学生でも理解できると思います。(2)腑に落ちる、分かりやすい「序」がある。(3)原子力発電だけでなく、福島の事故、歴史、経済、政治など、広く核開発について網羅されている。
章立ては、1章/福島、2章/チェルノブイリ、3章/日本、4章/世界で、全体で100項にまとめられています。平易な表現や構成からは、著者だけでなく、編集者の知恵や工夫が見て取れます。
さて、書きたいことは、山ほどあるのですが、以下1点のみ。
その昔、原子力は「夢のエネルギー」とされました。小出氏もそれを信じ、東北大の工学部、原子核工学科に進み、原子核物理学の研究者の道を歩み始めます。同書241ページには「それを信じて、愚かにも原子力に人生を懸けた人間がいる。私のように。」と書かれている。
いえ、決して愚かな選択でも、無駄な人生でもありませんよ。確かに、原子核物理学者を選ばなければ、ほかの分野の学者や実業界での活躍という道もあったかもしれません。
しかし、坑道で一酸化炭素の危険をいち早く知らせるカナリアのように、人類に警鐘を鳴らし続けてきた。それだけで素晴らしい仕事です。勇気ある、立派な人生だと思います。ただ私たちが、カナリアの鳴き声を聞かなかった(聞こえない振りをしていた)だけ。愚かだったのは、私たちのほうです。
同書は平易で、中学生から読めると思います。ぜひ、一読をお勧めします。
なお、小出氏はじめ、京都大の原子力の先生方を主人公にしたドキュメンタリー番組があります。ネット上に流通しているので、適宜キーワードを入れて検索し、ぜひご覧になってください。
「なぜ警告を続けるのか〜京大原子炉実験所・”異端”の研究者たち〜」(2008年10月19日放映、大阪毎日放送)約50分