壁際椿事の「あるくみるきく」

東京都内在住の50代男性。宜しくお願いします。

『絶望の国の幸福な若者たち』(古市憲寿著)

2012年04月26日 | よむ

『絶望の国の幸福な若者たち』(古市憲寿著)を読みました。20代の大学院生による、若者論です。

一読、若者論というより、日本の若者の分析を通して、日本という国と社会を語る内容でした。

結論は、次の通り。これから二極化(書中では一級市民、二級市民と表記されていました)はますます進むだろう。国家の危機を唱える論者は多い。しかし、彼らの言う危機とは何だろう。 国家の財政破綻? 外国による侵攻?(世代間対立による内戦?)そのどれが起こってもいい。どのような時代も、たくましく日本国民は生きてきた(ほかのどの地に住む地球市民もそうですね)。仮に、日本という国が滅んでも、かつて日本と呼ばれた地に暮らす人が幸せであるならば、それでいいじゃないか。

(世代間対立による内戦?)は同書に書かれておらず、私の創作です。若者論なので、あえて盛り込みました。

以下は、印象的なフレーズが多かったので、いくつか引用します。カギカッコが引用、マルカッコは補足です。

●(地域コミュニティを切り崩して、中央に服従する「国民」を作り出すことは近代国民国家としての日本の悲願だった。それを象徴しているのが原子力発電所を受け入れさせることだった。とした上で)「それは自発的でさえない、自動的な服従のシステムの完成である。」

これは、開沼博さんという研究者の本からの引用。自発的と自動的が対照的。自動的、つまり地元民の主体的な関与ナシということです。どうも、3・11以降、こういうフレーズが引っ掛かって仕方ないです。

●もう一つ。「東日本大震災の後、起こったのはニホンブームである。(サッカーの)ワールドカップがずっと続いているみたいだ。」

ワールドカップで日本代表を応援するのも、東北へボランティアに行くのも、今の若者には「必死に」というより、「楽しみながら」というニュアンスがある、と言いたいわけです。メキシコ五輪を前にして自殺したマラソン選手、円谷幸吉さんのような深刻な思いはない、ということです。でも著者は、「だから今の若者はなってない」というのでなく、「軽いノリはいいことだ」という現状肯定の立場です。

●「国民の平等を謳いながらも、あらゆる近代社会は二級市民を必要としてきた。たとえば日本を含めた近代国家は、二級市民という役割をずっと「女性」に負わせてきた。(中略)だけど男女同権が叫ばれたり、労働力不足が顕在化する中で、ヨーロッパでは(中略)安価な労働力として「移民」を積極的に用いるようになった。
しかし移民労働力の受け入れを拒否し続けてきた日本では、「女性」に加えて「若者」を二級市民として扱うようになった。」

フリーター、派遣労働、契約社員などのことを指しています。

●「若者の貧困問題が、本当に問題になる時は、(家族福祉に頼れなくなる)10年後、20年後である。若者が若者でなくなった時なのだ。」

家族福祉というのは、まだ元気な50代、60代の親に頼る、家庭内の扶助システムのこと。いずれ親は70代、80代になります。

●(若者問題は、大きく二つ。経済と承認の問題だ、とした上で)「多くの若者にとって未来の問題である経済的な貧困と違って、承認に関わる問題は比較的「わかりやすい」形で姿を表す。未来の貧しさよりも、いま現在の寂しさのほうが多くの人にとって切実な問題だからだ。」

アルバイトをしていれば、とりあえず「今」の経済問題は何とかなりますね。それよりも、承認問題が大事。最たるものが、恋人がいるか、友人がいるか、という問題です。「リア充」なんて新語も登場しました。

以下は、引用を離れ、雑記です。

◆そういえば、子どもが幼稚園で覚えてくる歌の歌詞が、「友だちはいいもんだ♪」といったものが多い。やけに「友だち」を強調しているんです。ぼく(42歳)の幼稚園の頃は、童謡ばかりで、そんな歌は覚えなかった気がします。この辺りも、幼稚園児が長じてから、若者の意識に影響しているのでしょうか?

◆著者は、「一億総若者化時代」とも言います。少年から青年になるときイニシエーション(通過儀礼)がある。青年から大人になるときも、何かある。それがある時(バブル経済時代?)消失し、ずっと若者である人が増えている、というのです。時間が経てば、「一億総若者化」していくということです。確かに、そんな気がします。

◆先日のブログで書きましたが、今回初めて記事を見る人がいると思うので、タイトルのねじレについて、説明します。

絶望の国>住人は不幸
幸福の国>住人は幸福

普通は、こういう図式ですよね。それがねじれている。これは、次のようなロジックゆえです。

絶望の国>夢を持てない>現状満足>幸福を(無理にでも)感じようとする
幸福の国>夢を持てる>いい未来が見えるので、現状に不満>不幸を感じる

以前、五味太郎さんの本で、「丈夫な頭とかしこい体」というフレーズに出合いました。逆じゃないかと思ったんですね。しかし、これでいいと思った。

丈夫な頭>簡単に答えの出ない、困難な問題をも粘り強く考える力
かしこい体>心の状態、疲労などに素直に反応する体。頑張らない。

そういう意味です。

以上、長くなりました。失礼します。



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1 コメント

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Unknown (珍事)
2012-04-26 17:38:23
著者の古市さんは、ピースボートを通して見た若者論もか書かれています。

ぼくは昨年の初夏、ピースボート主催の石巻ボランティアに1週間、参加しました。それでメーリングリストに加わっているのですが、夏の高校野球、石巻工業高校の応援にバスを出す、というメールが回ってきました。

ボランティアで炊き出しする、ヘドロ掻きする。そこまでは理解できるけど、高校野球の応援に行くというのは、ちょっと理解を超えました。この辺も、若者論の研究材料になるかもしれません。
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